五条悟の妹は悲劇を変えたい   作:皐月の王

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転運―壱

星漿体事件から一年が経過する。うだるような暑さに溜息を漏らしながら、鍛錬をする悟里。現状している鍛錬とは体術である。そしてその相手は

 

「っ!やるね、悟里ちゃん!」

 

「どうも!夏油先輩!」

 

特級呪術師で1つ上の学年の先輩である夏油傑である。1年前の星漿体の一件から何かと一緒に鍛錬をしたり、任務後にご飯を食べに行ったりとしている。兄である悟はその度にちょっかいをかけては、悟里と喧嘩したり、傑に苦笑いされていた。悟としては親友と妹が仲が良いというのは何とも言い難く面白くない話ではある。

 

「はぁ…ふぅ。お疲れ様です夏油先輩」

 

「うん、お疲れ様。定期的にこうして互角な相手とできる体術の鍛錬は気分がいいよ。悟は中々不貞腐れて乗ってくれないけどね」

 

夏油は笑いながらに話す。夏油は悟とも鍛錬をするが、悟里がいる時には、悟里と喧嘩という名の鍛錬をした後にすることが多く、妹との一件で不貞腐れたり面倒なことになってそっちの対応がする事が多い。

 

「いいんですよ。だいたい向こうがダル絡みしてくるんで」

 

水を飲みながら一息着く悟里は内心、焦燥感に駆られていた。星漿体事件から一年経ったのだ。無意識下で反転術式がして自分を治したと言う考察があったのにも関わらず、この1年間で反転術式を会得することはかなってない。それと共に領域展開の会得に向かって鍛錬を行っているが上手く行かない。

 

(このままじゃ、閉じない領域どころか、領域展開すら出来ない……!閉じずに、逃げ道を作ると言う縛りだけじゃないのは……分かるけど。それも、領域展開ができるという前提の話だし!)

 

拳を握りしめ晴れた夏空を睨みつける。進めないもどかしさ、置いてかれ、いずれ来るだろう戦いへの焦燥感。会得できるモノ全てを学生時代に会得し、原作時間までに鍛え上げたいと考えてはいるがそうは上手くいかない。

 

「焦っているのかい?悟里ちゃん」

 

「え?」

 

首を夏油の方に向ける。夏油も汗を拭いながらに悟里に話していた。

 

「そんな気がしたから聞いただけなんだけど?今の体術の鍛錬もどこか焦っている気がしてね」

 

「えーまぁ、焦ってますね」

 

悟里は観念したように両手を上げて降参のポーズをとり話す。

 

「反転術式を任意で使えない、領域展開もまだ使えない。反転術式に関しては、1年前に私が無意識下でしたかもしれない。だけど、会得ができない。兄様ができているのに……」

 

夏油は最強となった悟の実験を思い出していた。ペンと消しゴムを投げつけたあの日の。日陰に座りながらに夏油は

 

「そうか、実は私も焦っているんだ」

 

「え?」

 

そんな弱音みたいな言葉が夏油の口から出た。

 

「悟が最強になったろ?自己補完の範疇で術式を常に展開できるようになった。俺達最強と言っていたが、今の私はそうは思えないんだ。そういう意味では、私も反転術式や領域展開と言うものを習得したいと思う」

 

それを聞いた悟里は少し考え、話す。

 

「いや、呪霊操術の強みは……圧倒的な手数の多さだと思います」

 

「手数の多さ……そりゃそうかもしれないが…」

 

「考えても見てください。呪術師の戦いって初見の相手をどう攻略するかの話じゃないですか?呪霊操術はその初見殺しを多く押し付ける事もできるし、数の有利も作りやすい。そして、呪霊越しですけど、様々な術式が使える……。これは、私や兄様にも出来ない。そして、夏油先輩自体が、体術、呪具も扱える。呪霊に囲まれながら、先輩を相手にするなんて考えたら……兄様を相手にするより嫌ですよ。私の術式なんて平たくいえば重力ですよ?これ以上どう解釈を広げればいいんですか」

 

悟里が言うと、夏油は考える。

 

(呪霊操術の強みは手数の多さ…それは私も把握している。取り込んだ呪霊との連携はもちろん、最後の彼女の言葉……解釈を広げる……。まだ、呪霊操術には私の知らない可能性がある?解釈ができる?)

 

可能性が見えた夏油の視界には曇りがかった景色が晴れやかに見えた。

 

(本当に悟里ちゃんと関わるといい刺激になる。全く、こんな可愛らしい妹を虐めるなんて、好きな子に悪戯する小学生か?悟の奴、可愛らしいところもあるな……ん?)

 

ふと無意識に夏油は悟里の頭を撫でていた。それに気づいた時には遅かった。

 

「あ、あの……さ、流石に恥ずかしいんですが……」

 

顔を赤く染めながら俯く悟里を見て一瞬固まるが、すぐ様元に戻り

 

「あっ、いや!ご、ごめんよ悟里ちゃん!」

 

珍しくも慌てて手をどける。悟里は

 

「あっ、いえ、少し嬉しかったので…・言うのが……遅くなりました……」

 

(っ!)

 

上目遣いに言う悟里の顔に思わず天を仰ぎそうになる。そんな時、後ろから耳元で

 

「おい、人の妹に何してんだよ?」

 

「っ!悟!」

 

悟里の兄、悟が立っていた。笑顔と憤怒のオーラを出しながらその場に立っていた。

 

「話をしてもいいかい?」

 

「ダメ」

 

「情状酌量は?」

 

「ある訳ないだろ?とりあえず…悟里の頭を撫でた件、辱めた件、そして諸々覚悟しろよ親友!!」

 

私怨とシスコンを拗らせた最強の片割れがサングラスを外して構える。悟里は悟里で顔を赤くしながら叫ぶ

 

「辱めたって言うのやめてよ!!!」

 

夏油は勘弁したのか、なにか試したいのか、悟里の前に出て悟と構える。

 

「仕方ない……!悟の相手するしかないな。色々ヒントは得たし試したいことが出来た。悟里ちゃん本当にごめんよ!」

 

そして勃発するのは後に語られるかもしれない、五条シスコン事件と言う特級同士の喧嘩として高専の記録に残される。校舎の一区画が消し飛び、最後は互いの顔面に交差する形で黒閃の相打ちで喧嘩が終幕を迎えたのはここだけの話である。そして……

 

 

「それで、仕事せずに原因療法と宣って、あれこれ研究して、夏油先輩となんの話をしているんですか?特級呪術師・九十九由基。呪術師は年中人手不足なんですから、少しは働いてくれないと困るんですけど」

 

「誰かと思えば、五条家の姫君じゃないか。なにか癇に触ったかな?」

 

特級呪術師 九十九と悟里、そして夏油が自販機のある部屋で話をしていた。厳密には話をしていた九十九と夏油に割って入る形で話に入る。

 

「悟里ちゃん?」

 

いつもと雰囲気の違う悟里に少し驚く夏油。悟里は少し不機嫌を隠そうとせずに九十九に話す。

 

「原因療法と言いますけど、呪霊じゃなくて、悪人とかで置き換えてくださいよ。人が人である以上…欲がある、他者より上に行きたいよく見せたい、より良い生活がしたい、その極地が犯罪者です。非呪術師が認識出来るか出来ないかだけの問題です。現実、なにか事件があって警官が死んだ時に"立派だなぁ""可哀想だなぁ"程度しか私達も思わないでしょ?」

 

「確かに、テレビの向こう側とかならそう思うね」

 

「呪術師と呪霊の関係も、非呪術師でいえば、警察と犯罪者。どうしても、原因療法よりも対処療法が求められ、対処しないと行けない。それはそれとして、原因療法ばっかりで対症療法を怠ると呪術師が足りなくなるんで」

 

そう言われた九十九は両手を上げて

 

「あー分かった、分かった!皆まで言うな!私が動かなくても、君が動けばその人の危機は分かるだろう?その眼があれば」

 

「あいにくと私の眼はそこまで便利じゃないので」

 

そこで二人の会話が終わる。短く終わる二人の会話。

 

「じゃあね、本当は五条……兄の方にも挨拶をしたかったけど、間が悪かったみたいだね。これから特級4人仲良くしよう」

 

「悟には私から言っておきます」

 

そして、九十九が思い出したように、ふと悟里の顔と夏油の顔を交互に見た後にふっと笑い言う。

 

「君の好きなタイプ……なるほどそういうことだったんだね。まぁ、頑張りたまえ」

 

そう言い残し九十九は去っていく。悟里は首を傾げて、夏油は笑顔で"余計な事を言うな"と念を送っていた。

 

「それでは、私も今から任務があるので。お土産は甘いものでもいいですか?」

 

悟里が夏油に告げて言う。

 

「ああ、気をつけてね。悟里ちゃん。悟も食べるだろうし甘いものをお願いするよ」

 

「了解です!」

 

そう言い、悟里が走っていく。そんな背中を見ながら、思い立ったように

 

「悟里ちゃん!任務が終わったら、何処か食べに行こうか。何時もお世話になっているからね、私が奢るよ」

 

「本当ですか!?ありがとうございます!夏油先輩!それじゃあ!行ってきます!」

 

満面の笑みで去っていく後輩を見送り、夏油を天井を見上げ

 

「また、悟と喧嘩しないとかもしれないな」

 

と言葉を零す。悟里の耳にその言葉が届くこと無く任務に赴く。任務自体は直ぐに終わる。そして、そのまま救援に走る。

 

九十九が来た翌日の任務が二級案件のはずの任務が一級の案件に変わり犠牲者が出る日なのだから。




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