悟里と甚爾以外の全員が驚愕したが、呪術師である、悟と夏油が動くのは早かった。悟が逃がさないために蒼の引き寄せ、夏油が呪霊で追撃する。そして甚爾は呪霊に呑まれ時間が生まれる。悟里は片膝を着く。
「悟里!!」
「悟里ちゃん!!」
二人が駆け寄るが、それを手で制止する。大きく息を吸い込んで、痛む傷に手を当てながら
「…大丈夫、支障は無いよ。元々受けるつもりだったから、急所は勿論、内蔵も避けている。受ける為に呪力を解いていたのは痛かったけど、まぁその後は折り込み済みだったから追加ダメージは無い。服に安全ピン刺した感じ。大丈夫」
その言葉を聞いて夏油が問い詰めるより先に悟が悟里を掴み叫ぶ。
「元々受けるつもりだったって……!お前は…!!」
「私の判断は…間違って…無いんだよ兄様。私の眼は知ってるでしょ?」
「見えたのか……!俺が刺される可能性が」
その言葉を聞き掴む手が緩まる。その手を払うように解く悟里。
「それより、理子ちゃんを優先。アイツの相手任しても良い?消耗してて辛いだろうけど」
悟里は汗をかきながらも、にこりと笑って悟に言う。悟は頭を掻きながら言いたいことを飲み込み
「分かった。傑!天内達を連れて先に天元様の所に行ってくれ」
「……油断するなよ」
夏油は悟を案じて言う。悟も軽口で返す。
「誰に言ってんだよ」
四人を見送ったタイミングで甚爾が呪霊の内側から斬り裂いて出てくる。
「とりあえず、タダじゃおかないからな……!」
怒気を滲ませ、悟は天与の暴君と対峙する。それは妹に庇われた自分自身への不甲斐なさと妹を刺した甚爾への怒りを確かに燃やしながら。
所変わって四人は先を進んでいる。悟里も一緒に走っているが、止血していないため、出血が続き、断続的な痛みが襲い来る。
(こういう時に反転が使えたら……!)
顔を顰めながらに進む。エレベーターに乗り一段落をつきながら、エレベーターの天井を見上げる。そんな様子を見て黒井が声をかける。
「大丈夫ですか?悟里様辛そうですが」
「へ?う、うん。大丈夫ですよ。そりゃ、一応刺されてるんで、全然大丈夫とは言えませんけど、痛くて少し出血してるだけなんで」
「無理しちゃダメだよ悟里ちゃん。タダでさえ、刺されてるんだから」
「そうだよ!現に、血が出てるし……」
心配する夏油と天内。そんな二人を見ながらも、悟里の思考は
(とりあえず、エレベーターで降りて、黒井さんと残る。そう時間が経たない内に伏黒甚爾は追いついてくる。なら、私がやる事は…既に決まっている)
悟里は覚悟を決めていた。いずれ来る悲劇をぶち壊すと。それが、五条悟里が呪術師をする理由に他ならない。
高専最下層 薨星宮 参道
エレベーターが止まり扉が開かれる。四人がエレベーターを降り、夏油と天内が先に進む。
「理子様」
黒井が天内を呼び止める。黒井は頭を下げて最後の礼をしていた。
「私はここまでです。理子様…どうか…」
声は震え、涙が零れている。そんな黒井を天内は抱きしめる。
「黒井!大好きだよ!ずっと…!!これからもずっと!!」
黒井も抱きしめて
「私も…!!大好きです…!」
最後の別れを告げていた。悟里はその間に
「夏油先輩、もしも答えがしないだった場合はどんな状況であれ、YESと答えてください」
「?それはいいが、何かあるのかい?」
「いえ、やっぱり、少ししんどいでここで黒井さんと離脱しようかと」
「分かった、ここまでありがとう、悟里ちゃん。無理はしないように」
「はい、理子ちゃんをよろしくです」
そして夏油と天内を見送り、急いで黒井に話をする。
「黒井さん時間が無いので、端的に話します。そして…私を信じて門をくぐって下さい」
そう言うと、悟里は術式を用いて、赤黒いゲートの様なものを作り出す。
「え、どういうことでしょうか?」
「さっき、私を刺した男、伏黒甚爾がもうすぐ追いつくと思われます」
「そんな!悟様は!?」
「多分、そういうことでしょう」
結果が分かっていながら挑ませたのは悟里にとっても心苦しいし、妹としてなにか叫びそうだが、それを無視して話を続ける。
「それ故に、この門を潜って離脱して欲しいんです。私の眼は少し特殊で未来に起きうる可能性を見ることが可能なのです。あの男相手に、人を守りながら何て私は戦え…っ…!」
次の瞬間、黒井が撃ち殺される可能性を見る。それを阻止すべく、黒井を守るように押し倒す形で庇う。
「っ、クソ!」
衝撃が右肩に走る。呪力で強化された体に弾丸は通ら無かったが、衝撃は通る。
「悟里様!?」
「大丈夫、少し痛かっただけです。女の子の体を穴だらけにするつもり?」
「んぁ?別にそんなつもりはねぇよ。けど、生かす理由も苦しませる理由もねぇだろ?だから一思いに頭にぶち込もうとしただけだ」
甚爾が姿を表す。片手には拳銃を持ち立っていた。
「つまり、こういう事です!ほら逃げてください!」
悟里は立ち上がり、有無を言わさず黒井を突き飛ばし、黒井を門にくぐらせる。黒井が『門』をくぐると。黒井の姿は消え、門も姿を消す。それを呪力感知で察知する。その直後に術式を使い、自身の体に重力を纏わせ自身を加速させ甚爾に肉薄する。
「うお!?」
「術式・順転 『朱』!」
不意打ちに近い一撃を当てる。壁に大きなクレーターが出来上がり、更に甚爾は押し込まれていた。
「全然効いて無いんでしょ?」
「いや、そうでもねぇ。思いの外効いたぞ?」
クレーターから出てきた甚爾は腕を回しながらに言う。多少は効いたのか、頭を少し切っただけなのか出血が見られた。でも、本当に擦り傷程度の傷だ。
「とりあえず聞くけど、兄様は?」
「兄様?ああ、アイツのことか」
悟をどうしたかと聞かれて、思い出したように甚爾はニヤリと笑いながらに言う
「五条悟は俺が殺した」
「そっか」
知っていた。と悟里は内心思う。そして…殺しきれてないことも。生きているから、必要以上に怒る必要も無い。だが、それでも我慢が出来なかった。沸き立つ激情が赦さなかった。
「じゃあ、消えて!」
最大限の呪力を込めて朱を再び放つ。だが、天与の暴君の速度はそれの命中を許さない。そのまま近づき、天の逆鉾を振るう。しかし、悟里に届くこと無く、金属同士がぶつかる音が響き渡る。
「へぇ、お前、呪具の扱いにも精通してるのか」
「まぁ、ね。非力な方だし、呪具にも頼るさ」
悟里も刀の呪具で天の逆鉾の刃を防いでいたのだ。そしてそのまま飛び退き距離を置く。だが、すぐさま甚爾が距離を詰め、責め立てる。それを必死に凌ぐ。そして距離が近い状況になると
「あ?」
重力をかけて鈍らせ、朱をぶつける。近距離戦だからこそできる戦い。距離が詰まれば、弾き飛ばすの繰り返し。甚爾にダメージを与えてはいるが、鈍りはしない。拮抗してるように見えるが、それは思いの外脆く崩れる。
「っぐ!?」
「少し、反応が鈍ったんじゃないのか?」
甚爾の拳が深々と腹部に刺さる。意識が一瞬飛ぶ。その瞬間を甚爾は見逃さず、回し蹴りで蹴り飛ばす。悟里は何度もバウンドしながら通路を進む。それに甚爾は追いつき蹴りあげる。
「がっ!?」
そして空中に浮いた悟里に対して、武器庫の呪霊から赤い三節棍を取り出す。それを見た悟里は
(あ、あれは……特級呪具 游雲!?)
咄嗟に腕に呪力を最大限込めて防御の姿勢をとる。だが、游雲は術式効果が付与されていない純粋な力の塊。それ故にその威力は使用者の膂力に大きく左右される。そして…甚爾の膂力から振るわれるその一撃は、容易く防御を砕き、悟里を地面に叩きつける。
「悟里ちゃん!」
「悟里!」
そして…その場所は二人が居る。薨星宮 本殿を見下ろす場所にたどり着いていた。
(やばい、意識が朦朧とする……。ここは、あっ、二人がいる。気張らないと……)
右腕に激痛が走る。腕を見ると腫れ上がっており、折れているというのが分かり、動かすのは困難と判断する。左腕も右腕ほどじゃないが、痛みと痺れがある。衝撃で口の中が鉄の味に染まる。
「大丈夫かい!?何が……!」
「わ、たしより…理……子ちゃん…を…守れ……!」
心配する夏油の制服を左手で掴み悟里は言う。夏油はそれだけで、悟里が意図してる意味が分かり、虹龍を出し、甚爾を迎撃する。
「悟里ちゃん!どうしてアイツがここに!?それに」
「黒井は!?黒井はどうなったの!?」
「ゲオッ!ゴホ!」
口の血を吐き出しながらに言う。
「兄様は……殺された……。黒井さんは間一髪で、私が門で逃がした。……で、夏油先輩答えは?」
ゆっくりと立ち上がりながら聞く。夏油はこの状況で聞くのかと戸惑うが、悟里の様子を見て頷き
「…YESだ」
「了解……!」
それを聞くのと同時に、術式を使い再び門を作り出す。それに驚く夏油と天内に説明する。
「これが、兄様が言っていた……門です。本来は少し準備が…かか…るんですが、縛りで行ける場所を1ヶ所に絞り、なおかつ呪力を普段の倍消費しているんで早く作れました。場所は黒井さんと同じ場所です……。さぁ、早く!門はそう長く持ちません」
「まて、悟里ちゃん。君はどうするつもりだ?」
夏油が悟里の方を見て言う。悟里はバツが悪そうに甚爾の方を見る。虹龍をいなしてこちらに来るのは時間が無い。
「門は製作者が潜ると消え……」
「そこを聞きたいんじゃない!君はどうするのかを聞いているんだ!!」
ビクッと体が反応する。そして悟里は言う。
「残ります。だから、理子ちゃんを連れて、門をくぐって下さい」
「なっ!それなら私も残る!一人で戦うより勝算が!それに親友を殺られて私だって腹が……!!」
本気の怒りだった。夏油が悟の為に怒っているのも、悟里の為に残ろうとしているのも悟里には分かった。だが、"五条悟里はここを譲れない"
「じゃあ、誰が、理子ちゃんと黒井さんを守れるんですか……!私は……こんな状態の私が、二人を守るよりも、夏油先輩の方が適して、安心して任せられるから、言っているんです……!それに、勘違いしないでください」
悟里は振り返り、笑顔で言う。
「死ぬつもりは、毛頭無いんで。まだ、惚れた人に告白もしてませんしね」
そして。夏油と天内の体を威力をかなり弱めた朱で門に押し込む。
「悟里ちゃん!」
「悟里!」
「それじゃあ、また、高専で会いましょう。先輩、理子ちゃん」
それを聞き、夏油と天内は門に飲み込まれる。そして夏油の虹龍は夏油が門に触れると同時に戻り、夏油が最後に見たのは、迫り来る甚爾と呪具を左手に持ち迎え撃とうとする悟里の姿だった。
戦闘の決着は着いた。
「一応、同化は阻止したという点で金払ってくれねぇかなぁ」
甚爾は呟いていた。暗殺の依頼を受けていたが、星漿体を寸前で逃がしてしまった。だが、同化は防いだのだから払って欲しいと呟く。そして、視界に入った血溜まりに倒れる少女が視界に入り
「……たく、してやられたなぁ。これじゃあ、ターゲットの暗殺はまた面倒になった。大した奴だよお前は」
そう甚爾が呟く。行方知れずとなった星漿体を探し出すのは至難の業となる。それを成したのは眼下の少女だ。
「一応殺すつもりで攻撃をしたが、お前も大概しぶとかったからなぁ。もしも生きていたら……そんときはお前の勝ちだ。まぁ、生きていたらの話だけどな」
そう言い残すと甚爾はその場を後にする。自身の血の海に力無く仰向けに倒れ伏した白髪の少女の口元は……笑っていた。
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