【本編完結】ロックバンドにハマったという一人暮らしの息子を訪ねたら「おしゃけしゅきぃ~っ」と寝言を呟く酒カス美女とベッドで眠っていた。 作:SUN'S
俺のお嫁さんはかわいい。
伊地知店長の的確な指示を受けつつ「STARRY」の掃除や準備、バンドの演奏に合わせて持ち込みされる機材の移動を進める。
こういう重たいものは伊地知店長やPAさんには絶対に持たせることはできない。むしろ持たせたりしたら罪悪感と嫌悪感で押し潰される、俺が。そんなことを考えていると伊地知店長が「羽佐間、これお前のか?」と結婚式場のパンフレットを見せてきた。
ああ、俺のですね。
「そ、そうか、へーっ、ふーん」
そう素直に答えると何故か伊地知店長は嬉しそうに笑ってパンフレットを返してくれた。いったい、どうしたのだろうかと訝しげに彼女を見つめ……るのはやめて、普通に働く。
俺のオンリーワンはきくりさんだ。
いくら伊地知店長がめちゃくちゃ美人だからって見つめたりするのはセクハラと変わらないし。むしろ伊地知店長が嫌がっているかもしれない。
母さんも「女の子の嫌がることはしちゃいけませんよ」とか言ってたし、割り切っておけばなんの問題もなく接することができる。
「久しぶり、お兄さん」
ん。ああ、山田か。
俺はいつものごとく勝手に「STARRY」へ入ってきた山田を伊地知店長のところに持っていき、彼女の隣でお弁当を静かに食べさせる。
ジーーーッと伊地知店長に見つめられている山田は可哀想だが、定期的に俺のお弁当を狙ってやって来ているせいだろうか。……それにしても山田は美味しそうに食べてくれる。
まあ、悪い気はしないな。そんなことを考えながらテーブルを運んでいると伊地知店長が「おい、羽佐間」と言って呼ぶ声が聴こえてきた。
なにか用事っすか?とすぐに聞き返して後ろに振り返るとサランラップに包まれた不格好ながらも大きいおにぎりが飛んできた。
えっ、なにこれ?
「…やる」
「マジすか。それじゃあ、いただきます!」
んーっ、これはすごい。
ほんのり甘みを感じるのは砂糖と塩を間違えて入れたんだろうか。ところどころ生焼けの刻まれたウインナー、後追いで足された塩のしょっぱさ、独特な味わいのおにぎりを頬張る。
ふと山田を見ると俺の持参したお味噌汁入りの水筒を平然と飲んでいた。いちおう、俺は男なんだけど。そういうの気にしないのか?
ほんと遠慮しねえやつだな。
「お兄さん、ごちそうさま。今度はエビフライとかからあげとかコッテリしたやつが入ってるお弁当をもらえるとうれしい」
なあ、山田よお……確かにお前に食べさせるのは楽しいけど。さすがに食費やお弁当の対価をもらえねえと俺も疲れるんだが?
「えっ、やだ、えっち」
なんでだよ。
「おい、そいつ未成年だぞ」
いや、俺も二十歳っすよ?そう言ったら伊地知店長が「ウソだろ、八歳差なのか!?」と驚愕していた。いったい、どうしたのだろうか。
〈おにぎり〉
伊地知星歌の手料理。
ところどころ生焼けの刻まれたウインナー、甘みとしょっぱさの際立つ白米、なぜか付け足されたワカメのふりかけの酸味のなんとも言えないおにぎりである。全部、ミツルが美味しく頂きました。