【本編完結】ロックバンドにハマったという一人暮らしの息子を訪ねたら「おしゃけしゅきぃ~っ」と寝言を呟く酒カス美女とベッドで眠っていた。 作:SUN'S
私は伊地知虹夏、ドラマーです。
ドラムの練習したり。アルバイトしたり。お姉ちゃんの恋路を応援したり。とても充実した生活をしているつもりだけど。
やっぱり、一番の問題はお姉ちゃんだ。今年で28歳、彼氏は片手で数えられるくらいしか出来たことないけど。すぐに怖くて別れるせいで未だに乙女だ。いや、それは別にどうでもいいか。
しかし、今回は違う。
確かに28歳の行き遅れ寸前のお姉ちゃんが大学生、それも20歳になったばかりのイケメンなお兄さんと付き合うのは難しい。
もはや無謀と言って差し支えない。……なんかお姉ちゃんが睨んできてるけど。ぜんぶ、事実だからね?と笑顔を返す、ぷいっと顔を反らされた。
「おかえり、伊地知さん」
「うん、ただいま。ミツルくん!」
私の呼び方にピクッと反応するお姉ちゃん。そういう反応するなら、さっさと付き合っちゃえば。と私はお姉ちゃんに向かってまた笑う。
ウ~ン、なんか悪女っぽい?そんなことを考えながらミツルくんのお弁当を勝手に取りだし、とても美味しそうに食べているリョウの隣に座る。
「ねえ、リョウ」
「ん。なに?」
「私のお姉ちゃんって『恋のABC』の『A』にすら行けてないんだけど。どうしたらいいと思う?このまま行き遅れるのは流石に辛いんだよね」
「フッ。虹夏、それは無理だよ。すでにお兄さんの料理は私のモノ、必然的にお兄さんと結婚して養ってもらうのは私になる」
なにを隠そう。
リョウもミツルくんを狙っている。
なんでも彼の実家は酒屋の名家であり、こうやってアルバイトしているのも売り込み先や見聞を広めるためだそうだ。まあ、分かりやすく言えば玉の輿できるってこと。
そりゃあお金持ちなのはすごいけど。
そればっかり注目して彼の人間性を無視するのは良くないし。その事はリョウもしっかりと分かっているんだろうけど。
どうも玉の輿狙いは本気っぽいのだ。
「お兄さん、からあげ美味しいよ」
「そりゃあな。俺の(きくりさんへの)愛情がたっぷりと籠ってるんだ」
「そんな、愛情だなんて…♥」
「………ミツルくん、まじ?」
「おう、当然だろ?」
どうしよう。お姉ちゃん、すごい落ち込んじゃってるし。リョウはリョウで「なんか照れる」とかほざいてるし。ああ、もう、ほんとにどうすればいいの!?と考えているとお客さんの来店を伝えるベルの音が聴こえた。
「せんぱぁい、あなたのきくりお姉さんが遊びにきたやぉ~っ!」
「ゲッ、今かよ」
「んむぅ…どしたのぉ?」
いつものごとくお姉ちゃんにダル絡みしているきくりさんに呆れながらミツルくんに「この人はお姉ちゃんの後輩で」と紹介しようとしたその時だった。
「なにしてんすか?きくりさん」
「あぁ~っ、みっくんだぁ~っ」
そう言ってきくりさんはミツルくんにギュウゥーーーッと抱き着いた。ミツルくんもそれほど気にしている様子もなく、ふつうに抱き締めている。
「羽佐間、こいつと知り合いなのか?」
「え?まあ、そうですね」
ミツルくんは少し不機嫌そうに問い掛けるお姉ちゃんに平然と答える。チラチラと私を見てくるリョウと一緒にお店の隅っこに向かう。
こういうのは我関せずだ。
「きくり、とりあえず離れろ」
「んえぇ……なんでですかあ?」
「羽佐間の邪魔になるだろッ」
ちょっとだけきくりさんがムッとする。そりゃあそうだよね。いきなり、邪魔になるって言われたら怒っちゃうよね。
「あの伊地知店長、俺は別に問題ないですよ?っていうか自分の奥さんを邪魔者扱いするやつはいないと思うんで平気です」
「「「「………おくさん?」」」」
「はぁ~い!私、廣井きくりは半年前にみっくんと結婚しちゃってまぁす!えへっえへっ、そういえば先輩に言ってなかったや」
「………アヒュッ…ウゥッ…ア…」
「お姉ちゃん!?お姉ちゃん!?」
私はぱたりと倒れたお姉ちゃんに声を掛ける。うぅ、ようやくお姉ちゃんに春が来たと思ったのに、まさか既婚者だったなんて……。
〈STARRY臨時休業〉
悲しい事件。
伊地知星歌は自分の好きな人が後輩の旦那というショッキングすぎる体験をしてしまった。その影響で少しの間だけ「STARRY」はお休みになった。ちなみに羽佐間ミツルは全く状況を理解していない。