【本編完結】ロックバンドにハマったという一人暮らしの息子を訪ねたら「おしゃけしゅきぃ~っ」と寝言を呟く酒カス美女とベッドで眠っていた。 作:SUN'S
どうしよう、お金がない。
そんなことを考えながらあたしは欲望に呆気なく屈して財布に残っていた僅かなお金を使って買っちゃった温かい紅茶を握り締める。
かなり久しぶりに大きい仕事を貰えたと喜んで準備もせず遠出したから。あたしはほとんど未開の土地みたいなところにいるのだ。
はっきりと言おう。
めっちゃくちゃ心細いし、私の目の前を行き交う人は「家出か?」とか「まだ、ちっちゃちいのに」なんて言っている。これでもあたしは成人してるんですけど!?
まったく失礼すぎるよ。
「なんだ。家出か?」
「……違いますよ」
「そりゃあ良かった」
「…………」
えっ、なにこれ?
いきなり話し掛けてきたかと黙って隣に座ってきたんだけど。あたしのこと、そういう感じの女の子だと勘違いしてるのかなあ。
「なあ、おでん食べる?」
「えっ。も、もらいます」
「じゃあ、これね」
「……うまっ」
はむはむっと大根を頬張り、はんぺんや巾着なんかも食べていく。まだ初夏なのに。なんでこう、なんでこう、野外で食べるおでんは中毒的なまでに美味しいんだろうか。
ふと隣を見ると男の人は楽しそうにあたしの食べているところを観察していた。もしかして、ただのいい人なのかと考えて、またすぐに裏があるのでは?と彼に疑いの目を向ける。
「…美味しかったです」
「なかなかに良い食べっぷりだったぞ。ああ、あと彼処のおでんやでバイトしてるから暇になったらいつでも入ってこいよ」
「えっ」
彼はそう言うとあたしの持っていた紙皿を持っていってじった。どうしよう、マジで善意のお裾分けだったんだけど。
えぇ、あたしの勘違いじゃん。うわっ、なにがそういう感じの女の子だよ。あたしのほうがあほじゃん、ちょーあほじゃん!!
………謝りにいこ。
「いらっしゃって、ミツルぅ!」
「んーっ、なんですかぁ!」
「がきんちょ、来たぞーっ!」
えっ、えっ、どういうこと?と困惑しながら彼と店長さんらしき人の会話についていけず、おろおろとしていると「はいこれ、ちゃんと被れよ?」とヘルメットを渡された。
「とりあえず、家の場所は?」
「……下北沢…」
「ん。そうか」
彼は大型二輪車に跨がりながら、ぽんぽんっと後部座席を叩いた。まさか後ろに乗れと言うのかと警戒……しなくてもいいんだった。
なんだか大きい背中だ。いや、あたしが小柄なのもあるけど。がっしりとした背中なのは間違いない。今どき、ここまでしてくれなりする優しい人は少ないんじゃないだろうか?
「そういや、名前は?」
「ぽいずん♡やみです」
「ウ~ン。ハイカラだな」
いや、これ芸名ですが?
〈ぽいずん♡やみ〉
フリーライター。
お仕事のために遠出してお金もなくなって帰れなくなっていたところを羽佐間ミツルに助けられた自称14歳の女の子。ちなみにやさぐれ三人衆と違って、それなりに警戒心は強い。