あゆみのおしばい   作:ひらがななかい

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しーん14。活動再開

 「スタジオ大黒天の黒山墨字だ。お前ら今日はよろしく頼む」

 

 7歳の秋、わたしはとあるビルの会議室のようなところで行われたオーディションで、初めて黒山さんと会った。それはかつてわたしがいた児童劇団の先生が“オーディションを受けてみない?”とわたしに持ちかけてきた、黒山さんが初めて作る長編映画のオーディションだった。

 

 「言っておくが映画の内容だとか、今日ここに来たお前らが仮に選ばれるとしてどのような役を演じてもらうことになるかは、このオーディションに合格した奴だけに教える・・・もちろん、“お友達”にチクったりしたら合格もなしだ」

 

 ただ、どんな映画になるかとか、演じてもらう役はどういう役柄なのかは一切教えてもらえない状態でわたし、いや、オーディションに選ばれた同い年くらいのみんなはこのオーディションを受けることになった。

 

 「じゃあまずは1人ずつ自己紹介から・・・と行きたいところだが、そんなもんは送られた履歴書を見れば事足りる・・・・・・つーわけでお前ら、今からここに来る人のことを“自分の親”だと思ってリアクションしてみろ」

 

 でもわたしは、あのオーディションにちっとも不安を感じていなかった。

 

 “大丈夫・・・わたしは行ける・・・だってここにいるみんなの中で、わたしが一番“憧れ”てるから・・・”

 

 だってこの人の作る映画に出られるとしたら、きっと憧れている“ふたり”と一緒にお芝居ができる。そう信じていたから。

 

 「もう入っていいぞ」

 

 オーディションを受けているわたしたちを前に、黒山さんはいきなり審査を始めるのと同時に部屋の入り口のほうへ顔を向けて声をかけた。

 

 “・・・うそ・・・”

 

 監督の黒山さんからの指示で部屋の扉が開くと、その奥から颯爽とした足取りで“夜凪さん(推し)”がわたしたちの前に歩いてきた。夜凪さん自身は特に何も考えることなくただ通っている学校の制服を着て普通に歩いていただけのはずなのに、その姿でさえ羅刹女のときとはまた違った感じで華やかで美しくて綺麗で・・・そしてちょっとだけ恐かった。

 

 「言っとくが夜凪は大河ドラマの撮影で忙しい合間を縫って“どうしても会ってみたい”と今日こうして来てやってんだ・・・・・・だから半端なことはせずに全力で“子ども”を演れよ。お前ら」

 

 

 

 わたしも含めてみんなが目の前にある現実を受け止めきれない中で、夜凪さんが主演の映画への出演をかけたオーディションは始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 5月3日_

 

 ピピピッ_ピピピッ_ピッ、ゴトッ_

 

 「あ、やべ・・・」

 

 枕元に置いてある目覚まし時計のアラームを、寝起き過ぎて1ミリぐらいしか開いてない視界の中でアラームの音だけを頼りに手を伸ばして止めたら、その拍子で時計がベッドの奥の棚から落ちて、その音で軽く驚いて目が覚める。

 

 「って、はや」

 

 床に落ちた目覚ましを拾って時間を見てみると、目覚ましの画面は5:45を指していて思わず独り言がこぼれる。学校がある日は6時半、休みの日でも遅くても7時半には起きていて普段から早起きを心掛けているわたしでも、こんなに早くアラームをセットして起きることは、多分ない。

 

 「(アラームの時間を間違えた?いや・・・)」

 

 寝起きでまだちっとも温まっていない頭の中を動かして、どうしてこんな早い時間にアラームをセットしたのかを考えてみる。

 

 

 

 「ところであゆみちゃん?ゴールデンウィークの予定は空いてる?」

 

 

 

 「・・・そっか。今日だ」

 

 時計と睨めっこをしながら考えを巡らせることおよそ10秒、わたしはようやくその理由を思い出す。こんな早い時間にアラームで起こされるのは、わたしが“普通の子”に戻ってからは1度もなかった。ほんとのことを言っちゃうと両手で数えられちゃうぐらいしかないんだけど、こんなに朝早く起きて“撮影現場(どこか)”に行くのは・・・寝起きだとつい忘れちゃうくらいには久しぶりのこと。

 

 

 

 「じゃ、5月3日と4日にあゆみちゃんを“ブッキング”しておくから本番までに“台本(これ)”の中身を覚えといてね」

 

 

 

 そう、今日は5月3日。ついこのあいだ観に行った愛琉くんの主演映画の試写会で百城さんに会うまで“推し活が生き甲斐なだけの普通の女の子”のまま大人になっていくはずだったわたしが、推しに背中を押されてもう一度だけ“推しと同じ世界で頑張ってみる”と心に誓ってチャンスを掴んだわたしが、再び女優(やくしゃ)になる日。

 

 「今日から、わたしは・・・」

 

 2024年5月3日。今日が“女優・有島あゆみ”・・・いや、わたしの“セカンドバースデー”だ・・・・・・なんて言っちゃうとかなり大袈裟だけど、今日からわたしは本格的に“活動再開”だ。

 

 「よしっ」

 

 そうと決まれば今日から始まる約3年ぶりの撮影に向けて気分を高めてベッドから立ち上がって、勉強机の上に置いている知世さんから手渡された台本を手に取りページを開き、声出しを兼ねて自分の演じる役の台詞を復唱

 

 「・・・れ」

 「もう起きてるあゆみ?」

 「うわぁっ!?・・・ってお母さんか」

 「起きてるなら早く部屋から出なさい。朝ご飯できてるよ?」

 「待って今から台本読んで“声出し”するところだから」

 「そんなのスタジオに行く途中でも出来るでしょ。さ、7時には迎えが来るんだから早くここから出る」

 「“1分”で終わるから」

 

 しようとしたタイミングで、起きる時間になっても部屋から出てこないわたしを起こしに来たお母さんが部屋の中に入ってきた。せっかくスイッチが入ったところで邪魔をされたから、ちょっとだけ機嫌の虫が悪くなる。

 

 「駄目よ。どうせあゆみは一度読んだら入り込んじゃうから」

 「ホントに“1分”で終わらせるから」

 「そう言って本当に1分で終わった試しが無かった気がするけど?」

 「あれはまだわたしが8歳とかのときでしょ?言っとくけど芸能界で1番になるって決めたわたしは子役だったときとは違うんだから」

 

 のと同時に、何だかこういう感じのやり取りをただ単純にお芝居が楽しかったときにお母さんとやってた気がして、ちょっとだけ懐かしいって感じがする。“懐かしい”っていう感覚が分かるほど、まだ生きてはいないけど。

 

 「それよりいまやってるニュースでCMの後に夜凪さんの特集やるらしいよ?」

 「へっ!?」

 

 なんてことはさておきで、台詞の復唱は“テレビで夜凪さんのニュースをやる”というお母さんからの魔の一言で中断になって、わたしは一目散にテレビがある1階のリビングに向かう。

 

 「あれ?夜凪さんのニュースは?」

 「やらないよ」

 「えっ!?だってやるって言ってたじゃん!?」

 「この程度の“トラップ”に引っかかるようじゃ、芸能界で1番を獲るのはまだまだ先になりそうね?」

 「なっ・・・まぁ別に、イイ感じの“発声練習”にはなったから、逆にラッキーだけど」

 「ほんとあなたは小さいときから変なところでポジティブね

 

 そしたらCMの後にやると言っていた夜凪さんのニュースは早く朝ごはんを食べさせたいお母さんからの“トラップ”だったから、まんまと騙されたわたしを嘲笑うみたいにリビングのテレビに映っているエンタメコーナーは1秒たりとも夜凪さんの話題を流すことなく終わってしまった。その代わりに喉の中はまあまあ温まったから、今回は騙したお母さんのことは許すけど。

 

 「いただきます・・・」

 

 テレビからニュースを流したままリビングから離れて朝ごはんが置かれているテーブルに戻って、ちょっとだけ取り乱してた気を取り直してお母さんの作ったトマトサラダとグラノーラを一足先に食べる。

 

 「たしかお父さんって明日まで帰ってこないんだっけ?」

 「そうよ。ついでに言っとくとあくまで“早ければ”って話」

 「そっか」

 「珍しいじゃない。あゆみが道行の心配をするなんて?」

 「ううん、ただ聞いてみただけ(働きすぎって意味では心配してるけど・・・)」

 

 ちなみにお父さんは昨日から仕事場として借りている出版社からほど近いマンションの部屋に籠って現在進行形で連載している漫画を描いているから不在で、早くても明日までは帰ってこない。

 

 「あ、そうだ。今日は夏に向けて追い込みをかける案件の会議とか色々やることが立て込んでるから、夕飯は作っておくけど帰ったら1人で勝手に食べといて。きっとあゆみが帰っても私自分の部屋で仕事してると思うわ」

 「お母さんも大変だね・・・」

 「あゆみも人のこと言えないでしょ」

 

 さらにお母さんもお母さんで頼まれた仕事は一気に片付けるタイプだから、休むときはガッツリ休むけど仕事が立て込んでるときは土日祝日なんて関係なく仕事場と化してる自分の部屋に籠って、時には夜通しで案件をこなしていることもある。

 

 「女優になって今日から久しぶりの撮影で、しかも良い事務所にも入ったんだから」

 

 そしてわたしもわたしで今日から久しぶりに女優業(しごと)で、実夕や周りのみんなみたいに連休を使っておじいちゃんやおばあちゃんの住んでいる実家に行ったり、家族でどこか遠くへ旅行に行ったりしている中で、いつも以上に早起きして7時に迎えに来る車でスタジオへと向かう。

 

 「うん。そうだね」

 

 そんな超売れっ子な漫画家のお父さんと自営業(フリー)のデザイナーのお母さんと今日から再び役者になる元子役のわたしからなる共働きならぬ“全働き”な有島家の日常は、GWとか土日休みとかは基本的に関係ない。

 

 「・・・ねぇあゆみ?」

 「ん?なに?」

 

 サラダとグラノーラを半分づつ食べ終えたあたりで、キッチンにいたお母さんがちょうど真正面のイスに座って意味あり気な感じでわたしのことを呼ぶ。

 

 「改めて女優さんになった感想は?」

 「感想・・・」

 

 

 

 

 

 

 「では、改めましてあゆみちゃんの契約内容についてご説明させて頂きますが_」

 

 単刀直入に言うと、わたしは知世さんが社長を務めている芸能事務所・大人帝国で1年間の契約を結んで、晴れて芸能事務所所属の女優になった。だけどこの契約の中身を説明するとかなり複雑で、あおちゃんとアリサさんを交えたオンライン会議の後でお父さんとお母さん、そして黒山さんも同行する形で再びその説明を受けたけれど、何と言うか小学6年生にはまだまだ難解な話だった。

 

 「なるほど・・・要は“レンタル彼女”みたいなやつか」

 「全然違いますね」

 「スミマセン、後で私が責任持って主人(こいつ)をシバいておきますので今の発言は忘れてください」

 「はい、承知しました」

 「てかあゆみ(おまえ)のご両親、どっちもキャラ濃くね?」

 「あはは・・・(とりあえず帰りたい・・・)」

 

 説明の途中でお父さんが“レンタル彼女”って誤解を招く発言をして変な空気になったことは置いておくとして、わたしが理解できた範囲で交わしたマネジメント契約の中身を説明すると、わたしはあくまで知世さんの事務所である大人帝国に“レンタル”で所属している状況で、まずはこの事務所で知世さんから直接マネジメントされる形で1年間に渡って役者としての経験を積み、いま交わしている1年契約が切れたタイミングでわたしを“投資”する意味合いで大人帝国にレンタルした大元の芸能事務所・・・もとい、夜凪さんのいる事務所でもあるアクタージュに移籍するかいまいる事務所、すなわち大人帝国に残って引き続き本当の意味での専属契約を結ぶかを選択できる、というもの。ちなみにわたしと同じようにスターズに“レンタル”されたあおちゃんの契約内容も、わたしが結んだ契約と全く同じものらしい。

 

 「難しい話になっちゃってごめんなさいだけど、1年後にどっちを選ぶかは自分次第になるってことだけでも、あゆみちゃんには覚えてもらってほしい」

 

 結局、この契約自体が超レアケースで知世さんも説明するのに言葉を選んでるのがこっちにも伝わってくるくらい苦労してたから、まだ“子ども”なわたしはなおさら飲み込むのに時間がかかった。というかまだ完全には飲み込み切れていないけど、ひとまず自分はどっちの事務所に居たいかというのを1年後までに自分の意思(ちから)で決める権利がわたしに委ねられたのはわかった。なんか、よく考えたらめちゃくちゃ責任重大じゃない?これ。大丈夫かな、わたし?

 

 「ところであゆみちゃん?ゴールデンウィークの予定は空いてる?」

 「はい。今のところは」

 

 という感じで契約云々の話が終わると、“大人3人”を402の会議室に待機させて再び応接室で2人きりにした知世さんはわたしに一冊の台本を渡して、一本の仕事を入れてくれた。

 

 「これがあゆみちゃんの記念すべき復帰作になるんだけど、ちょっとハードル高いかな?」

 「・・・これって」

 「実はこのドラマのプロデューサーの人が天知くんの紹介で昨日のオーディションの映像を見せてもらったらしいんだけど、その映像を見てあゆみちゃんの演技に興味を持ったんだって」

 「えっ!?あの映像って東城さんとかアリサさんのところだけに送られてたんじゃないんですか!?」

 「ごめんねあゆみちゃん。これには色々と事情があるのよ」

 「色々・・・(聞きたいけど闇がありそうだから今はやめとこ・・・)」

 

 それは6月に放送される予定の不定期で放送しているスペシャルドラマの台本だった。もちろん“世にも奇妙な”怖い話やSFチックな話や泣ける話をオムニバスでお届けするこの物語は、映画とかドラマを普段から観まくってるわたしどころか、放送された次の日には学校中がその話題で持ち切りになるくらい有名なスペシャルドラマだ。その中でも夜凪さんと百城さんと明神さんと王賀美さんの4人が一同に揃ってそれぞれ主演を務めた“伝説の放送回”は、永久保存で我が家の録画リストに残り続けている。当然わたしは、お墓まで遺し続けるつもりだ。

 

 「もちろん無理にとは言わないよ。ただ出ないにしても、現場の見学ぐらいはさせてもらうことになるけど。どうかな?」

 

 なんてことはさておきで、わたしの復帰作になる1発目のお仕事は、いきなりとんでもなく大きな仕事だった。もちろんこんな“無名の元子役”に主演なんてまだ夢のまた夢だけど、なんと私に与えられた役は物語の中でも“キーパーソン”となるかなり重要な役どころだった。

 

 「わたしに出て欲しいって言ってくれる人がいるんだったら、出ます」

 

 正直、久しぶりに芝居をするには知世さんの言う通り普通にハードルの高い仕事だった。それでも、あおちゃんみたいな綺麗さからは程遠い不格好なわたしの芝居を“使いたい”と思ってくれる人がいるんだったら、断る理由なんてなかった。

 

 「じゃ、5月3日と4日にあゆみちゃんを“ブッキング”しておくから本番までに“台本(これ)”の中身を覚えといてね」

 「はいっ、東城さん」

 「あと、私のことはこれからは下の名前で呼んでいいからね。あゆみちゃん」

 「わかりましたっ、知世さん」

 「(なんだこの可愛い生き物は・・・)」

 

 こうしてわたしは、“向こう側の世界”に戻ってきていきなり、まあまあ大きな仕事を任されることになった。それからは約5年ぶりに宣材写真を撮ったり、演技のレッスンを知世さんから直々に教わったりしながら芝居漬けの一日を久しぶりに体験して、あおちゃんと一緒に最終オーディションに合格してから今日まで超絶怒涛って感じの勢いで毎日が過ぎていった。

 

 

 

 

 

 

 「改めて女優さんになった感想は?」

 「感想・・・・・・そんなのまだよくわかんないよ」

 

 テーブル越しに正面のイス座ってじっとわたしを見つめるお母さんから言われた一言。何秒間か役者になった感想を頭の中で考えたけど、何だか撮影日の朝になっても今一つ自分がまた芸能界に戻った実感が湧かないから、何も思い浮かばない。オーディションの合格が決まったときは、嬉しすぎてあおちゃんと一緒にあれだけ泣いたのに。

 

 「でも・・・いつも学校行く日よりも早く起きてお母さんの作ってる朝ごはんを食べるのって、謎の優越感ある」

 「ふふっ、どういう意味よそれ?」

 「何だろ?旅行に行く前のワクワクみたいな?」

 

 だけど自分が今日から役者になる実感が湧かない代わりに、今から4時間後にはリハーサルが始まって、5時間後から本番が始まるって考えると、映画の試写会に行く前とは比べ物にならないくらいの“ワクワク”を感じている。

 

 “・・・ひょっとしてこの“ワクワク”が、実感してるってことなのかな?・・・

 

 「ひょっとしてこの“ワクワク”が、実感してるってことなのかな?

 

 この感覚が何なのかを考えてたら、心の声がそのまま出てた。

 

 「さあ?どうだろうね?」

 「どうって、わたしが分かってないんだから分かるわけないじゃん」

 

 するとお母さんは、ややわざとらしく首をかしげて逆にわたしに聞いてきた。もちろんわたしが分かってないんだから、そんなのどうって言われても困るのが正直な話。だけどいまのわたしは、不思議とちっとも緊張なんかしていない。

 

 

 

 「お待たせしました。エントリーナンバー1番から10番の応募者の方はこちらへお進みください」

 

 

 

 オーディション会場の待合室で自分の番を待っているときは、目を閉じて深呼吸を挟まないと頭が真っ白になりそうなくらい緊張してたのに。いつものわたしは、どっちかというと緊張だとかプレッシャーには弱いタイプなのに。

 

 「・・・ねぇ、もしかしてわたしって緊張感なさすぎかな?」

 

 別に急に不安になったとかじゃないけれど、思い立ってふとお母さんに聞いてみた。

 

 「知らん」

 「ちょっ、“知らん”はさすがにヒドくない??」

 

 返ってきたのは、他人事にも程がある一言。いや、これから撮影に行く自分の娘に向かって、こんな“どーでもいい”みたいなあからさまに他人事なこと言う母親なんてこの世界にいるのかな普通?

 

 「ていうか、“ワクワク”するぐらい楽しみだったら、緊張なんてしてなくったって良いと思うんだけどね」

 

 と、突き付けられた一言(ジョーク)を真に受けていたわたしに、お母さんは優しく笑いながら本当に言いたかったアドバイスを伝える。

 

 「そんなの、カメラが回っちゃえば関係ないんだから・・・・・・って、あなたの推しの千世子ちゃんだったら言いそうじゃない?」

 「わたしの中にいる“百城さん(天使)”のイメージを壊さないでって言いたいところだけどなんか絶妙に言いそうなラインをついてるせいで微妙にツッコめないのが腹立つ・・・

 

 ナチュラルな流れで絶妙に百城さんが言ってそうな言い回しでアドバイスを言われたことはともかく、確かにお母さんの言っている通り、緊張しているとかしていないとかカメラが回ってないときのことは実はそれほど重要じゃなくて、大事なのはカメラの前に立って違う誰かを演じている瞬間。その瞬間でちゃんと違う人を演じ切れたら緊張なんて関係ないのがお芝居で、監督さんがカメラの前に立つ役者さんにOKを出したところでシーンは決まる。これが、わたしがまた戻ってきた“一度だけ逃げた”世界。

 

 

 

 「わたしに“役”をください・・・!」

 

 

 

 だけど・・・もうわたしは“この世界”から逃げないって、決めた。

 

 

 

 「けど・・・いまの言葉でスイッチ入ったかも

 「・・・そう」

 

 実感って言うとまた少し違ってくるけれど、皮肉にもお母さんからの冗談交じりなアドバイスのおかげで、“ワクワク”した気持ちが“やってやるぞ”って気持ちに変わっていくのを身体の中でわたしは感じる。

 

 「思ったんだけど、あゆみって意外と単純よね?」

 「それどういう意味お母さん?」

 「良い意味よ」

 「ほんとに?」

 「ホント」

 「・・・絶対何か“ウラ”あるでしょ?」

 「さ、スイッチが入ったなら早く食べて支度する」

 「分かりやすく話逸らしたよこの人

 

 あんまり認めたくないけど、これもまたお母さんの言ってる通り、意外とわたしは“単細胞(たんじゅん)”なタイプなのかもしれない。いや、認めたくないのは変わらないし人から言われたらムスってなるけど。

 

 「・・・・・・お母さん

 「ん?」

 

 

 

 “お母さんはさ、わたしがまた女優さんになることに反対はしないの?

 

 

 

 「・・・アドバイスありがと」

 「いえいえ、どういたしまして」

 

 唐突に頭の中で超がつくぐらいに大事な1つの疑問がパッと浮かんだけれど、何となくいま聞いたら本番が“ダメダメ”になる気が直感で感じたから、わたしは素直にアドバイスをくれたお母さんに感謝して、朝ごはんの残りを食べ終えて身支度をした。




新しい朝が来た



もしリクエストがあれば、“伝説の放送回”を番外編という形で書こうかなと思っています。
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