あゆみのおしばい   作:ひらがななかい

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しーん9。覚えてる?

 あれは今から3年前。新名夏(にいななつ)という元アイドルの女優が主人公(ヒロイン)を演じるMHKの連続テレビ小説、いわゆる“朝ドラ”にヒロインの幼少期の役で出演する演者を決めるオーディションでのことだった。

 

 

 

 「七海空央です。よろしくお願いします」

 

 

 

 私・・・いや、“空央”は女優になりたくてなったわけではなくて、幼稚園の年長に上がったときに両親から“小さいうちに色々なことを経験したほうがいい”と言われて児童劇団に入ったから女優になった。家族以外の人の前だと緊張して上手く言葉が話せなくなるくらいの極度な人見知りのせいで周りのみんなと馴染めないでいた空央も、そんな自分を変えて友達をたくさん作れるようになりたかったから、両親の言葉を信じることにした。

 

 「うそ・・・空央テレビに出れるの?」

 

 それから数か月後、劇団のレッスンを経てお芝居の基本を学んだ空央は初めて挑んだMHKの教育番組のオーディションで、いきなり“さなぎちゃん”から進化した“モンシロチョウのメイちゃん”の妹として登場する青虫がモデルの新キャラクターに抜擢された。ちなみに空央が演じることになったキャラクターの名前は“あおむしのあおちゃん”で、もちろんオーディションの結果で名前が決まった。

 

 「私は鳴乃皐月。“お姉さん”としてあんたのことは私がきっちりしごいてあげるから」

 「・・・しごく?(って、なんだろ?)」

 

 こうして “あおむしのあおちゃん”になった空央は、“モンシロチョウのメイちゃん”の皐月さんと一緒にその番組に出ることになった。

 

 「だから自分のことは“空央”じゃなく“私”って呼ぶ!もう、昨日言ったばっかじゃないそれ・・・」

 「うぅ・・・ごめんなさい」

 「・・・とにかく、その一人称は今ならまだ“カワイイ”で済むけど、このまま大人になったら“ふざけてんの?”って思われて嫌われるわよ・・・だから今のうちに直しなさいよね。それ?」

 「・・・うん」

 「・・・あと・・・私はもう怒ってないからこれ以上泣かない。空央も女優になるんでしょ?」

 

 皐月さんのことはスタジオのカメラの前でメイちゃんを演じているときのとても可愛らしくて優しい“お姉ちゃん”と、カメラが回っていないときの鬼のように厳しい“お姉さん”とのギャップで最初は怖かったけれど、そうやって容赦なく叱ってくれた皐月さんから“心構え”を叩き込まれたおかげで“カメラの前に立っている”自覚を持てたからこそ演じることの楽しさを知ることが出来たし、両親以外でここまで空央と向き合ってくれる人は今までいなかったから、本当に撮影は楽しかった。

 

 「これからは空央が“ワンダーランド”のみんなを引っ張っていくんだから、“お姉さん”として堂々と自信を持って頑張っていきなさい」

 

 空央が春に“あおちゃん”になって半年後、メイちゃんは“おとなのちょうちょ”になってワンダーランドから外の世界へ旅に出た・・・という設定で皐月さんが番組を“卒業”することになって、空央は皐月さんから託される形で“2代目さなぎちゃん”になった。もちろん“お姉さん”からたくさん“しごかれた”空央にとってはこれぐらいのプレッシャーはどうってことなかったし、スタジオで学んだ経験のおかげで人見知りを半分くらいまで克服できた空央は学校でも普通に友達ができるようになって、毎日が楽しくて仕方がなかった。

 

 『撮影所・・・この街に撮影所ができるんだ・・・!』

 

 そしてこのころから空央は女優のお仕事が好きになって、皐月さんに同じ“女優”としての憧れを抱くようになった。大河ドラマに出たことで蝶のように“天才子役”として芸能界を舞い上がっていく皐月さんを見て、いつかは自分も“お姉さんのようになりたい”と目標にするようになった。

 

 「七海空央です。よろしくお願いします」

 

 そんな空央に千載一遇のチャンスが訪れたのは、教育番組で“ちょうちょ”を卒業して学校にいる時間が増え出してすぐのとき。同じMHKでやっている朝ドラのオーディションを受けて見ないかとオファーが舞い込んできた。オファーの内容は主人公の幼少期の役。出番は序盤だけなのは子供心でもすぐわかっていたけれど、それでも主人公(ヒロイン)になれるから断る理由なんてなかった。

 

 「うん。いいじゃん」

 「・・・ありがとうございます」

 

 軽い自己紹介と質疑応答を終えて、一番肝心の台詞の読み合わせ。カメラの前に立ってキャラクターを演じる時間が楽しくて仕方がなかった空央は、ほとんど緊張することなくリラックスしたまま順調に読み合わせを終えた。台詞の読み合わせを終えると、総合演出の人が“いいじゃん”と言って褒めてくれた。空央なりに手応えもあったし、心の底から“勝った”と思った。

 

 「有島あゆみです・・・よろしくお願いします」

 

 

 だけど次の番に割り当てられていた同い年の人の読み合わせを()た瞬間・・・・・・それが“間違い”だったことに空央は気付かされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 “_演技審査終わったよ_”

 

 昼の12時。審査を終えたわたしは高級ホテルみたいにおしゃれで落ち着いた雰囲気に包まれる事務所の1階にあるロビーの隅っこあたりに立って、お母さんに演技審査が終わったことをLIMEで伝える。

 

 “・・・ほんとはソファーとかに座って休みたいけど・・・こういうときって事務所の人とかがずっと見てるって聞いたことあるし・・・”

 

 お迎えが来るのを待ちながらロビーを見渡すと、見ただけで座り心地が良さそうなソファーがちょいちょい視界に入って、演技審査が終わってクタクタなわたしを“吸い込もう”としてくる。だけれどこういうオーディションは審査が終わった後も事務所の人とかが抜き打ちで応募者のことを“見張っている”っていうのを、わたしは風の噂みたいなので聞いたことがある。

 

 「(・・・座りたい・・・でも・・・ん~)」

 

 きっと本当は“遠足は家に帰るまでが遠足”みたいな感じで、家に帰るまでは気を抜くなって意味合いだからそんなに気にする必要なんてないとは思うけど、やっぱりこういうオーディションに参加するのが久しぶりだからか、変に緊張する。

 

 ヴゥ_

 

 “_オッケー。あと10分ぐらいで着く_”

 

 マナーモードにしていたスマホが鳴って画面を開くと、LIMEにはお母さんから返信。あと10分か・・・

 

 “よし。外に出よう”

 

 迎えに来るお母さんの“10分くらい”というメッセージを信じて、わたしはロビーに置かれた高級ソファーの誘惑から逃げるために正面玄関のほうに足を進める。

 

 

 

 

 

 

 「俺が持っているカメラの存在を“どのように”意識して演技するかはお前らの判断に任せる」

 

 演技審査が始まる直前に、黒山さんが()たち応募者に向けて言った一言。その言葉に、みんなは黒山さんのカメラが“自分を撮っている”ことを意識して演技を始めた。でもそれじゃあ勝てないことは、トップバッターの空央ちゃんが魅せた圧倒的な演技で分かり切っていた。

 

 「よろしくお願いします」

 

 だから()は、みんなとは違う視点でカメラを意識した。誰かを演じるときに必ずやっていたカメラと周りを“意識”する“俯瞰”の手順を省略して、黒山さんのカメラを襲い掛かる殺人鬼の視線に見立てながら芝居をした・・・という、“ふたりの羅刹女”の背中を追い続けていた()にとってはそこまで難しくはない自己流のテクニック。

 

 「お前・・・こんな演り方どうやって覚えた?」

 

 上手く演れたとか、どんなふうに自分の演技が黒山さんたちに視えていたのかなんて“俯瞰”を省いていたから分からないし、演じているときの記憶はほとんど残ってない。だけど()が演り終えた後の黒山さんの表情が、笑ってるわけじゃないけれど何だか喜んでいるように視えたから、()は自分が“ちゃんと演れていた”ということを理解した。

 

 

 

 「・・・“憧れている人たち”のことを真似ていたら、出来るようになってました」

 

 

 

 

 

 

 「有島あゆみちゃん・・・・・・だよね?

 

 ソファーが置かれているロビーから正面玄関の扉が目と鼻の先まで近づいたところまで足を進めると、後ろからわたしの名前を呼ぶ女の人・・・いや女の子の声が聴こえた。声が聴こえた瞬間、わたしの名前を呼んだ人が誰なのかは“ちょっとした鳥肌”で分かった。

 

 「・・・・・・あおちゃん?

 

 振り返ると、わたしの思った通りあおちゃんが立っていた。

 

 「・・・“あおちゃん”」

 「あ、あぁごめんなさいっ!いきなり下の名前で呼んでしまいました・・・さすがに初対面で“あおちゃん”呼びされるのはウザいですよね・・・七海さん」

 

 声を掛けてきたのがあおちゃんなのは分かっていたけど、相手が相手で軽くパニックになってたわたしはあおちゃんのことをそのまま“下の名前”で呼んでしまった。全く、馴れ馴れしいにもほどがあるぞ。

 

 「ううん、私は別にそういうの全然気にしないから大丈夫だよ」

 「そう・・・ですか」

 

 案の定、いきなり“あおちゃん”って呼ばれたあおちゃんから困った表情を浮かべられたけど、なんやかんやでわたしの“無礼”を涼しい顔で許してくれた。

 

 「そういえばだけど、あゆみちゃんっていまいくつ?」

 「あぁ、7月で12になります。小6です」

 「そっか・・・てことは私と一緒だ」

 「そうなんですか!?わたしとは全然違って大人っぽいですね・・・」

 「(そんなに大人っぽいかな空央って・・・)そうかな?・・・これでも私は6月生まれの正真正銘の小学6年だよ。だから逆にタメ口で話してくれるほうがこっちも気を遣わないで話せるから助かる・・・嫌だったら無理しなくていいんだけどね」

 「・・・うん。わかった」

 

 ていうか、正面からこうやってあおちゃんから見つめられると可愛さがどタイプすぎて目のやり場に困る・・・もちろん、わたしの知ってる“あおむし”だったあおちゃんも小っちゃくてキュートですっごく可愛かったけど・・・あおむしが約5年の月日を経て“夜凪さん系”の美少女に進化するのは反則がすぎますよ神様・・・

 

 「・・・どうしたのあゆみちゃん?

 「・・・えっ?」

 「さっきからずっと私の顔をまじまじと見てるから」

 

 なんてあおちゃんの可愛さに油断していたら、わたしはそんなあおちゃんの顔をずっと一点集中で視ていたことに我に返って気付く。とりあえず、自分が盛大にやらかしたことはわかった。

 

 「ひょっとして顔に何か付いてる?」

 「ううん、何か、やっぱりあおちゃんって可愛いなって・・・(・・・あっ)」

 

 咄嗟に挽回しようと焦ったわたしは、ものの見事に“自爆”を繰り返す。

 

 「ごめん・・・いや、ごめんなんておかしいか・・・・・・あぁもうさっきから何言ってんだろわたし・・・」

 

 そして巡るは裏目裏目の悪循環。さっきからどうしたわたし?演技審査が終わって緊張の糸が切れておかしくなってるのかな・・・うん、そうに違いない。だってそれぐらいパワーを使い切った感があるし。断じて生で見るあおちゃんが推せるレベルで“可愛すぎる”からなんてことはない。うん、多分・・・きっと・・・

 

 「ふっ」

 

 なんて感じで勝手に取り乱したわたしをクールな表情で黙って見守っていたあおちゃんが、堪えきれずと言わんばかりに控えめに笑った。

 

 「・・・あゆみちゃんって面白いんだね」

 「お、面白いとは?」

 「ごめん言葉が足りなかった。何というか・・・一緒に話してると楽しそうって感じ」

 「・・・何だかよくわかんないけどありがとうございます」

 

 明らかに“ウザい”って思われてドン引かれても仕方がない流れだったのに、あおちゃんは優しく見守るような視線を向けながら“一緒にいると楽しそう”の一言で済ませてくれた。その表情はまるで、同じクラスにいる友達と一緒にいるときみたいな穏やかな表情(かお)

 

 

 

 「こんな状況で仲良くなんてやってられないですよ」

 

 

 

 そんなあおちゃんの表情を見ていたら、今度はついさっきまでやっていた演技審査で私に向けたような“羅刹女”にも似た、満面だけど不気味な笑みが急に頭の中に浮かび上がった。どうしてここで急に思い出したのか、というよりなんでわたしは“忘れていた”のかはわからないけど、何の前触れもなしにわたしはあおちゃんから視線を向けられたことを思い出した。

 

 「あのさ・・・あゆみちゃんにどうしても聞いておきたいことがあるんだけどいいかな?」

 「えっ?うん。もちろん」

 

 演技審査で向けられた“笑み”を思い出したわたしのことなんてつゆ知らずのあおちゃんは、審査のときのどこか怖い表情とは打って変わった“”が感じられない表情で聞いてきた。今一つ状況を理解できないでいるわたしは、二つ返事でそれを受け入れる。

 

 「私のこと、覚えてる?

 

 つり目な緑がかった瞳と大人びた落ち着いた表情で真っ直ぐにわたしの目を見つめて、少しだけ首をかしげる仕草をしながら優しい声色であおちゃんは問いかける。

 

 “・・・きゅん

 

 「・・・覚えてる?って、どういうこと?」

 

 “いや“きゅん”って何だよ”

 

 と、クールで大人びた美少女な見た目に反した可愛い仕草に思わず心が“限界”に片足を突っ込みかけたけど、何とか二度目は耐えて平常心でわたしは言葉を返す。もちろんついさっきまで話したことも会ったことすらもないから、覚えてるも何もない。

 

 「実はさ・・・私とあゆみちゃんがこうやって同じオーディション会場で会うのって、“初めまして”じゃないんだよね」

 「・・・・・・え?

 

 はずなんだけど、あおちゃん曰く“わたしたち”は一度同じオーディションを受けていたらしい。

 

 「ちょっと待って!・・・いま思い出すから・・・」

 「えっと、別に無理して思い出さなくてもいいんだけど・・・」

 

 わたしは子役をしていたときのことを思い出そうと必死に頭の中にある記憶を掘り下げてみる・・・わたしがこれまでオーディションを受けたのはそんなに多いわけじゃないし、黒山さんの“あの映画”以外で一番印象に残っているのは、3年くらい前に受けた朝ドラのオーディション・・・確かあれ、自分の中でも結構受かる自信あったんだけど落ちっちゃったんだよなぁ・・・後はー・・・・・・あぁダメだ、あおちゃんが全く出てこない・・・

 

 「・・・・・・ごめん。全然思い出せない」

 「うん。20秒黙りこくりながら考えて出てこないんじゃ覚えてないよね」

 

 こうして掘り下げること、あおちゃん曰くだいたい20秒。何にも思い出せなかったわたしは素直にギブアップした。

 

 「ほんとにごめんなさい。わたしってオーディションとかだと結構緊張しちゃうほうだから、多分だけど自分のことでいっぱいいっぱいだったんだと思う・・・・・・どうやっても言い訳になっちゃうけど」

 

 ギブアップするのと同時に1ミリもあおちゃんと会ったことを思い出せなかった罪悪感が襲ってきたわたしは、堪らず頭を下げて謝る。

 

 「ううん、全然気にしなくて大丈夫。だって結構前のことだし、直接話したわけでもないから・・・あゆみちゃんが覚えてないのは当然だよ」

 

 結構な本気で謝ったわたしを、あおちゃんはまた優しそうな表情を浮かべながら、落ち着いた口ぶりで1ミリも思い出せなかったことを許してくれた。確かに、お互いに会って話したわけでもなくて“たまたま同じオーディションを受けていただけ”なら、覚えていないのも無理ない・・・それでも全く思い出せなかったことは、結構ショックだけれど。

 

 「・・・ごめんね。急に呼んでいきなり変なこと聞いちゃって」

 「いやいや大丈夫大丈夫!あおちゃんは何にも悪くないから・・・悪いのは全く思い出せなかったこのわたしだから」

 

 そんなわたしをさっきから見つめる表情(かお)には、演技審査で周りの応募者(みんな)を容赦なく“ライバル”と言い捨てたゾクッとする怖さは全くない。

 

 

 

 “・・・もしかしてあおちゃんって大人になった“(なぎさ)”みたいに本当は二重人格だったりするのかな・・・?・・・いやいやまさかそんな・・・

 

 

 

 「・・・あ」

 「でも・・・またこうやってあゆみちゃんに会えて私は嬉しい

 「・・・そっ、か」

 

 演技審査のときといま目の前にいる“ふたり”のあおちゃんのギャップで絶対にありえない展開が頭の中を駆け巡ってまた“とんちんかん”なことを言いそうになったわたしを、あおちゃんは遮る。とりあえず、これでわたしはまた恥をかかずに済んだ・・・かもしれない。

 

 「・・・着いたみたい」

 

 そう言うとあおちゃんは肩にかけているポーチから自分のスマホを取り出し画面を開いて呟く。

 

 「どうしたの?」

 「お迎えがきた」

 「そっか・・・それは早くいかないとだよね」

 

 久しぶりに会ったというあおちゃんとの時間。本音はもう少しだけ今日の演技審査のこととか色々話したいなとは思うけど、さすがにお迎えの人を待たせるわけにもいかないから、せっかくの再会もあっという間におしまい。といっても肝心なわたしが“初めましてじゃない”ことを覚えていないから、久しぶり感はゼロだけど。

 

 「じゃあ、まだちょっとしか話してないけど私はこれで帰るね」

 「うん。じゃあね」

 「今日の演技審査・・・受かるといいね」

 「・・・うん」

 

 そして最後に健闘を祈るような言葉で“さよなら”を言ったあおちゃんは、真っ直ぐに立ち止まっているわたしに軽く頭を下げて、正面玄関の向こう側に足を進める。

 

 

 

 “・・・空央のことなんて覚えてるわけないのは分かりきってたのに、なに自分勝手に期待してんだろ・・・”

 

 

 

 「あおちゃん!

 

 最後に“さよなら”を言って正面玄関へ歩いていく姿と感情にほんの少しだけ寂しさを感じたわたしは、思わずあおちゃんを呼び止める。

 

 「・・・?」

 

 呼び止めたわたしの声に、今度はあおちゃんが振り向く。

 

 「オーディション・・・・・・“今度”は一緒に勝とう

 

 あおちゃんが振り向いたのを見たわたしは、頭の中で何を言うかとかを考える前に自然と言葉を口から出していた。しかも、自分は覚えてもいないのに“今度は”なんて何様?ってワードまで飛び出す始末。

 

 「・・・って言っても、わたしは覚えてないんだけどね・・・」

 

 ほんとに何を言うかを整理する前に勢いのまま言葉にしちゃったから、言い終えると自分で驚いて、恥ずかしくなってわたしはまた“自爆”した。でも、すれ違いざまの心なしか寂しそうに感じた表情(かお)を見たら、励まさずにはいられなかった。

 

 「ふっ・・・はははっ・・・それさ、言うならむしろ(こっち)のセリフじゃない?」

 「あははっ、言われてみたらほんとじゃん何言ってんだろねわたし?」

 「それ私に聞かないでよ知らないし」

 

 勝手に励まして勝手に自爆してさっきからグダグダなわたしを見て、あおちゃんはまた堪えきれず今度は声を出して笑い出して、それに釣られてわたしも笑う。あおちゃんが馬鹿にしてるわけじゃないのは、顔を視た瞬間にわかった。

 

 「・・・けどありがと。ほんとのことを言うとちょっとだけ不安だったけど、あゆみちゃんのおかげで8割ぐらいは吹っ切れた

 

 

 

 そして裏表のなさそうな満面の笑みであおちゃんが笑いかけた瞬間、わたしはオーディションのときの“怖いあおちゃん”も、いまこうやってわたしと笑い合ってる“優しいあおちゃん”も、どっちも“本当のあおちゃん”だってことに気が付いた。

 

 

 

 「“今度”はちゃんと共演者になってもう一度会おうね・・・あゆみちゃん

 「・・・うん!

 

 拙い励ましで元気になったあおちゃんは、今度こそ背を向けて正面玄関の向こう側へと出て行った。ただ普通に外に出ていく足取りでさえ颯爽に見える綺麗な背中を、わたしは姿が見えなくなるまで立ち尽くしたまま見送る。

 

 「(わたしとあおちゃんが“共演者”・・・)」

 

 ヴゥ_

 

 “_着いた。通り挟んだ向かいのコンビニのとこに車止めてる_”

 

 あおちゃんの姿が見えなくなるのと同時に、まるで夢から醒めるような現実に戻される感覚と一緒にお母さんからのLIMEが来た。




3年越しに、すれ違い_



8話と9話のどっちを先にしようか迷いましたが、作者的に“こっちのほうがしっくりくる”ということでこの順番になりました。
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