アストルフォに「王様に会いに行こうよ!」と言われた。
どこのどんな王様なんだ。そう質問したのだが、会えばわかるの一点張りで、碌な説明もなく連れ回される。
勢いよく歩き出したはいいものの、居場所を知らないし確認する冷静さがないもんだからずいぶん歩き回る羽目になった。
「そなたたちか。息災で何より」
「やっほー王様~!」
「今は王ではない。余は校長である」
いざ会ってみると、どうやらその王様という人、校長でもあるらしい。
正直わけがわからないけど組織のトップであることは間違いないみたいだ。
見た目はまんま、どこかの国の王様そのもの。まさにイメージしやすい王様の見た目で、金ぴかの鎧を身に着けた大男だった。
ずいぶんな渋さと全身から強烈なオーラを放つみたいな存在感がある。
これがイケオジか。
真名はカール大帝。
アストルフォが隠すつもりもなく堂々と言ってきた。
話した結果、彼が知るその人とは何か違っているらしいのだが、危険ではなさそうだ。
「生徒会長アラヤよ。マイルームの確認は済んだか? 心を落ち着かせるまで待てばいい。学校の運営はそれからでよいぞ」
「どうも……校長っていうか、結構しっかり王様ですね」
「フッ、身に沁みついた習慣がそう思わせるのか。確かにかつては王であった。だが、今の余は新米校長の身。気兼ねなく話しかけてほしい」
「はあ」
なんとなく返事に困ってしまう。
王様が校長になったことを聞かされたらみんなこうなるんじゃないか。
残念ながら記憶がないから他人がどう思うかわからないけど、きっとそうなんだろう。
「余が校長となったのは――」
「あっ、なんか始まるぞ」
「あ~危ないね。長くなっちゃうかもしれない」
「余はこの月に未来永劫、人々が苦しまぬ平和を作りたい。そのために必要なのは何か? そなたらはわかるか?」
「いえ」
「わかりませーん」
「うむ。では敢えて言おう――学園であると」
なんか良いこと言ってるっぽい感じは出てるが、ちょっとよくわからない。
アストルフォに視線を送ると不思議そうに「ん?」って首を傾げてた。と言っても校長の発言に疑問を持ってる様子じゃない。俺が見てきたから反応しただけだろう。
「お前んとこの王様は汚染でもされてんのかい?」
「そんなことないよ? ちょっと変な感じはするけど多分大丈夫!」
「多分じゃ困るんだよなぁ」
「故に、そなたは生徒会長なのだ」
「いや、全く意味がわかりませんが」
カール大帝……いや、カール校長と言うべきか。
よくわからない発言とは裏腹にとても優しそうな笑顔で俺を見てくる。
悪い人ではなさそうなんだけど、変な人ではありそうだった。
「学園モノはよいぞ。青春、努力、勝利。正統派ラブコメから禁断の愛まで幅広く内包できる」
「なんの話が始まったんだ?」
「おお! 学園モノって楽しそー!」
「乗るな、バカ」
なんのつもりか知らないが、校長は学園モノの良さについて話し始めた。
アストルフォはすっかりその気になって聞いている。しかし俺は、せっかく話してくれるのに失礼だとはわかりながらも、まともに聞こうとは思えない。
みんなが平和に生きられるように。
そう言ってくれるのは有難い。だがそれがなぜ学園を作るとか校長になるとかになるんだ。
何の影響でそうなったのかは知らないが、校長は生き生きしてるし、前世とかそういうのは関係なく素直に受け入れてるアストルフォは、傍から見てて幸せそうなほど喜んでいた。
「マスター、学園モノっていいね!」
「洗脳されるな」
「然り。学園モノとはよいのだ」
「それどういう意味で言って……いや、もう説明はいらないですけど」
曰く、教育がどうだとか、定められたルールの中で守る姿勢と破る快感がどうだとか、校舎という閉鎖的な環境がどうだとか、他にも色々。
ずいぶんマニアックなあれこれを話された気がするが、同意するのはまずい気がする。
少なくともこの二人が本来の学校生活とか校長とは異なる、邪な考えを抱いているのは確かだ。
「言っとくけど学校は何やってもいい場所じゃないからな」
「部活やろーよ! 何部がいい?」
「聞いちゃいねぇ」
「ボクはねー、うーん、マスターと一緒に遊べる部活がいいからぁ……帰宅部?」
「部活じゃねぇだろそれ。マイルームに帰るだけだ」
アストルフォはすっかり取り込まれているみたいで、学校に通った経験があるのかないのかは知らないが、現代の学校はないはずであり、期待している顔でワクワクしている。
それを悪いとは言わないが、期待するような普通の学園生活はないだろう。
ここは虚構世界。
どうやらかなり閉じられた世界みたいだし、聖杯戦争とは無関係な人間がたくさん通ってる学校とかではない。むしろ現状、生徒なんて数えられる程度。
平和な世界にしたい、とは言うけど、そもそも人類がたくさん居る場所じゃない。
これからそうなっていくんだろうか。
現在サルベージ中とのこと。これから色んな物が増えていくらしい。人も、場所も、生活に使える道具も。
データが捨てられたごみ箱みたいな場所から使えそうな物を吸い出しているのだとか。
便利になるのはいいことだ。だからって普通の学校になるとは思えないけど。
「案ずるなアラヤ。そなたを不幸にはさせんとも」
校長はやけに自信満々だった。不思議とそう言われただけで安心してしまうくらいに。
「余が導き、守り、促す。生徒会長は王に非ず、しかし先導する者である。そなたが一人で人々の前を歩けるようになるまで、余が見守り、教えよう」
こういう人をカリスマと言うんだろう。そうに違いない。
何の話をしてるんだか、まだよくわかってない俺でも安心してしまう、頼りになるという確かな実感がそう思わせる。
この世界で何をするのか、何を期待されてるのか、なぜ俺が生徒会長なのか。わからないことだらけだけどこの人が居れば大丈夫。
そう安堵してしまうのと同時に、校長の言葉が気にならなかったわけじゃない。
なぜか彼は俺がリーダーになることを求めてるみたいに聞こえた。
「これを」
校長が右手を差し出してくる。
ごつくて大きな掌の上に乗せられていたのはきれいな指輪だった。
「そなたの物だ。肌身離さず着けておけ」
「はいはい! ボクが着けてあげるよ!」
抵抗とか疑問とかないのか。
アストルフォがひったくるようにして指輪を手に取り、俺の右手を掴む。
人差し指に通された。不思議とサイズはぴったりだった。
「裏側とされる、この月の
重要そうな単語だけど、その言葉の意味はまだわからなかった。