話に聞くと、俺とレオは聖杯戦争中に知り合っていたらしい。
プリプリしながらアストルフォが教えてくれた。
どんな会話をしたのか、どんな風に出会ったのか、俺は一切覚えていない。でもあの感じからして仲良くなっていたってことで間違いないだろう。
「なんかさぁ、ずるくない⁉ ボクには冷たいくせにあの人には優しくしちゃってさぁ!」
「彼女か」
「彼女じゃないよ! 男の子だもん!」
「わーかった。悪かったって。別に冷たくしたつもりはなかったんだ。これからは気をつけるよ」
まあ確かに俺もないがしろにし過ぎた感じはしてる。なんで対抗してるのかはよくわからないがあまり考えない方がいいかもしれない。
俺が謝るとアストルフォはにんまり笑って嬉しそうに胸を張ってきた。
そうか、こういう態度が微妙にイラッとさせるんだな。
「とりあえず今日はもういいや。休もう。真面目に考えてもしょうがない気がしてる」
「おっ! いいねー、そういう考え方大好き!」
「何も考えてなさそうだもんな」
「ん? 褒めてる?」
「……意外に半々くらいかな」
とにかく、住む場所はあって、味方であろう人たちが周りに居る。
今はそれでいい。
詳しいことは明日から考えていけばいい。考えるのはあまり得意じゃない、はずだ。とりあえず今日は休みたい。
しかし、休むのはいいとしてもマイルームはあくまでも教室。アストルフォが少し物を持ち込んでるとはいえ、おかげで残金ゼロ。少なくともベッドはない。
果たしてそれで休めるのかって心配が出てきた。
「部屋……殺風景なんだよなぁ。寛げるかな」
「あ、ボク知ってるよ。住めば都って言うんでしょ?」
「そりゃ物があったらだろ。寝るところさえちゃんとしてないんだぞ」
「マスターってハッカーなんでしょ? ハッキングして欲しい物作ればいいじゃん」
「記憶喪失の俺が?」
「あぁ~……それも知ってる! 為せば成る!」
「適当言いやがって」
そんなこと本当にできたらいいんだけど。他の人はできるのかな?
レオは天才っぽい雰囲気めちゃくちゃ醸し出してたし、やるかどうかは別として技術的にはできるかもしれない。頼んでみようかな?
「今お金もないんだよな。使ったのお前なんだぞ」
「えへ」
「可愛くしてもダメ」
「でもでも、ゲームはあるよ! 一緒に遊んで楽しめるね!」
「むしろそれしかできないんだよ、今。稼ぐ方法があったら働いてもらうからな」
「えぇ~……」
嫌そうな顔してるな。自分のせいだっていう認識がないな。
「俺も一緒にやってやるから」
「しょうがないなー。マスターとボクは一蓮托生だもんね!」
「お前ことわざとか詳しいな。俺が教えた?」
「ううん。色々プレイしてたら覚えた」
違うんかい。
普通にゲームしてただけだったらしい。
「でもボクがゲーム好きになったのはマスターのおかげだよ?」
マジか。
あんまり自慢になるような話じゃないなぁ。他人には言わない方がいいかもしれない。
まあしかし、確かに嫌いじゃないような気はする。自分のことは忘れてるくせにスペランカーが死にゲーなことは覚えてたし。
何はともあれまず休息。色々話を聞き続けて少し疲れた。
記憶喪失ってのは案外疲れる。
こういう時、底抜けに明るいアストルフォが近くに居てくれてよかったと思う。
「ねぇ、ちょっと」
「大体なんで死にゲーばっかりなんだよ。現実が記憶喪失で辛いんだぞ? もうちょっと穏やかで楽しい気分になるやつにしなさい」
「そう? だってマスター、サーヴァントとしてはちょっとアレな……ちょっとなーっていうボクを召喚したんだからさ。難しい方が好きなのかと思って」
「ちょっと」
「んなわけないだろ。現実厳しいならむしろゲームでくらい無双したいわ」
「痛いのが気持ちいい人じゃないの?」
「違うわ」
「ちょっと待ちなさい! あんたよ、あんた! 話を聞け!」
おや? 頭空っぽにしてアストルフォと話してたら誰かに話しかけられたことに気付かなかったらしい。
マイルームに向かう廊下の途中で、振り返るとツインテールの女の子が立っていた。
「目が覚めたって聞いたから、一応挨拶しておこうと思って」
「あー……」
「記憶喪失って本当? じゃあ、私のことも、覚えてないの?」
「いや、少し覚えてる。同じクラスの遠坂凛、さん」
記憶喪失だと言われたし、事実重要そうな聖杯戦争のこととかは忘れているんだけど、何もかもを忘れたわけじゃない。自分の名前もそうだ。
レオもそうだったし、彼女のことも、顔と名前くらいは覚えている。
口にしてみると、彼女はフンッてそっぽを向く。その仕草にも見覚えがある気がした。
「さんもちゃんもいらない。凛でいいわ。あなたは忘れてるかもしれないけど、一応前から知り合いだったわけだから」
「そう? えっと、ひょっとして仲良かった?」
「良くも悪くもないわね。ただ、そこそこ話す機会はあった。それだけよ」
挨拶に来てくれた割には案外素っ気ない態度だ。こういう人だったんだろうか?
情けない話、別に俺も女の子の扱いが上手い方じゃない、という記憶がある。仲が良くも悪くもない女性を呼び捨てにするのは中々に勇気が要る行為だ。
疑うわけじゃないんだけど、記憶がある頃の俺は呼び捨てにしてたのか?
念のためアストルフォに聞いてみる。
「そうだった?」
「そうだったよ。うーん仲がいいかは微妙だけど、確かによく喋ってたような」
「呆れた。本当に忘れてるんだ」
ちょっと責めるみたいな口調で言われる。強気そうな人だし遠慮はなさそうだ。
聖杯戦争に参加するマスターの一人でウィザード。多分俺なんかよりよっぽど優秀な人物。
俺と知り合いだったとは言うが、きっと敵同士だったんだろうし、なぜ声をかけられたんだか。
「えーっと、聖杯戦争のことは覚えてないけど無事でした。とりあえず元気です」
「そうみたいね。その身分で聖杯戦争を覚えてないっていうのは問題だと思うけど」
「そうなんだ」
「ボケっとしてる暇はないのよ。この学園はあんたが立て直さなきゃいけないんだから。ちゃんと自分の役割わかってる?」
わかってるかと聞かれたら、正直何もわかってない。
わかりません、と正直に答えた。
どうやら呆れてるらしい凛はこれ見よがしに大きなため息をつく。
「しょうがないから私も手伝うわ。いい? どうせ、今の私たちはここで生きていかなきゃいけないんだから仕方なくよ。別にあんたのためじゃないからね」
うーん、これは……。
「ツンデレだね」
「やめなさい、本人の前で」
「は? ツンデレじゃないわよ! そ、それじゃ私が、なんか、まるで……あんたのこと好きみたいじゃない!」
凛は顔を真っ赤にして怒っていた。いや、怒っているだけ、とは限らない気が……。
しかし別に俺は凛に好かれる何かをした覚えはなくて。となると記憶がある頃に何かした?
少なくとも、はっきり否定してきた凛がもじもじしながら俺をチラチラ見てるのと、なぜかそれを見たアストルフォが信じられないくらい怖い目をしてるのが、俺の目の前にある現実だった。