輝ける星のハサン   作:逃げた俺を許してください

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スランプ…!


ただただ

 

 

黄昏の光が()を包む。

 

 刃を研ぎ、目の前にそびえ立つ化け物と対峙する。

 

 この戦いは、英雄が如き栄華を求める戦いに非ず。

 

 この戦いは、我が(結末)を飾る戦いに非ず。

 

 この戦いは、我が私欲を満たすものではない(己ではない誰かのための)戦いであり、我が私欲を満たすための(己ではない誰かのためではない)戦いである。

 

 

――縋る。

 

 

 この戦いは、この研鑽は必ず『彼女』のためのものになる。そう信じて。

 

「GI、GAAAAAA!」

 

 吠えるは悪竜。この世界(テクスチャ)に存在し得ぬ竜。その見に余る醜い欲を抱いたものが成り果て竜と化す、即ち悪竜現象(ファヴニール)と呼ばれるモノ。

 

「は、ハハッ!身に余る欲に溺れた先がこれか。なんとも欲深く、なんとも荘厳で、そしてなんと悲しきことだ」

 

 

――ただ、縋る。

 

 

 このもの()がどのような()を抱き溺れたかは知らない。だが、これだけは分かる。

 

 『生まれた世界が違えば、()あぁ(竜に)なっていた』、と。

 

 何故なら、()は――

 

 

 

――万能の聖杯に、『彼女』の姿を見て、ただただ縋る――

 

 

 聖杯戦争というまやかしの願望器に己の人生すべてを賭けるのだから。

 

 

 


 

 

 

 あれから俺は何をして何を成すべきか、愚図で愚かな頭を回転させ考えた。

 

 

――ふらふらと今まで眠っていたような、おぼつかない足取りで森の中を歩く。

 

 

 俺にはやらなければならないこと、やるべきことがある。

 

 静謐のハサンから、彼女からハサンの地位を奪うのだ。

 

 彼女の精神は、幼いと言って差し支えない。純粋無垢で欲が無く操りやすい娘であれと育てられたからだ。

 

 そして、俺が彼女のお守りをする前の彼女の暗殺手段は『暗殺対象と恋人関係や婚姻関係を結び、接近してから自身の毒で殺す』というものだ。自分で作った関係を自分で壊すなどという行為なんて、あいつには耐えられない。やがて精神が軋み瓦解する。鮮明に未来が見える。

 

 それに『初代ハサン』が静謐のハサンにハサンたる資格なし――と彼女の首を切り落とさない確証がない。だから――

 

 

 

――静謐のハサンをただの(ありふれた)()()に引きずり下ろす。

 

 手段は色々とある。そして手段を選ばないのが俺達暗殺教団だ。使えるものはなんだって使う。

 

 

 

「そのために、は…力を、研鑽を積まなければ…」

 

 強くなる。まずは静謐からハサンの地位を奪い俺がハサンになっても誰も逆らえない、異議を唱えられないほどに強くなることが必要だ。

 

 ()()()()()でハサンの地位を退かなければならなくなった静謐のハサンの後を暗殺教団の中で最も優れたものが継ぐ。これが俺の目指すシナリオだ。

 

 次期ハサンの就任は暗殺教団の幹部が話し合い、審議し、暗殺教団の中でハサンに相応しいものを先導者とする。勿論これには教団内の世論も審議の得点になる。

 

 要は俺が力をつけ、静謐のハサンを追いやりハサンになるということだ。

 

 誰かを育て次期ハサンにする手もあるが、育成が上手くいく確証は無いし、なにより暗殺教団の幹部が静謐のハサンを作り上げた『人柱』と同じ。俺は第二の静謐のハサンは生みたくない。

 

 よって、俺が力をつけてハサンになる。初代ハサンに夜な夜な怯えながら生きるのだ。

 

 

 

 正直に言うと、今すぐにでも彼女に謝りに行きたかった。

 

――突き放して悪かった。

 

――幹部たちを止められなくて済まなかった。

 

――ハサンにさせてしまったのは、俺の責任だ。

 

 脳裏に彼女が浮かぶ度にそんな言葉が口から出てきそうになる。

 

 だが、それは叶わぬことだ。今彼女に謝罪したところで許してはもらえない。ただ暗殺教団の表上トップになった彼女に媚を売ろうとしているようにしか見られないだろう。

 

 それはただの『逃げ』だ。許しを請い、楽な方に逃げているだけだ。生き汚い。惨めでしかない。――いや、もう俺は惨めなのだろう。嫉妬に呑まれて彼女を突き放したのだから。

 

 彼女の未来を守る。

 

 彼女の()を守る。

 

 

 是は償いだ。

 

 今まで彼女を傷付けたのだから、俺も傷付くべき。

 

 彼女をハサンにしたのだから、俺が代わりにハサンになるべき。

 

 

 

 そんな、償い――

 

 

 


 

 

 

 俺は、この体が幼い頃から死霊の類を引き寄せる。

 

 前世があるからか、それともこの体の体質か。俺にはわからない。だがこれは俺にとって都合が良かった。

 

 前世で読んだ漫画『呪術廻戦』に出てくる夏油 傑というキャラクターがいる。彼は倒したい呪霊を従えて戦う、人海戦術ならぬ霊海戦術を駆使する男だ。

 

 この世界にいる死霊は人の負の感情から生まれたものではなく、無念を抱いて現世に執着する霊なのだが…俺も夏油と同じような芸当をすることが出来る。

 

「『口寄せ』ッ!」

 

 恐らく『NARUTO』に登場したことで人々が思う『忍者っぽいこと』に含まれるようになった、本来イタコや巫女が使う術『口寄せ』。

 

 『NARUTO』に出てくる『口寄せの術』と違い、動物や武器と契約して使役することが出来ないが…代わりに『魔に連なるモノ』を使役出来る。使役するまでの手順はこうだ。

 

1

召喚した、もしくは近付いてきた死霊・魔獣・悪魔・魔神を殺す。(死霊の場合は祓う)

 

2

この世界に存在できる楔(肉体ないし霊力)が無くなった魂があの世に逝く前に契約する。

 

3

俺の体の中にあるエネルギーを消費して召喚する。

 

 以上。

 

 名称では『NARUTO』に似ているが、内容は殆ど夏油の能力のそれだ。

 

 この『口寄せ』で俺の体質に引き寄せられた死霊を倒して契約し、俺の力にする。死霊を屈伏させたことで増した力を駆使して新たに引き寄せられた死霊を屈伏させ、俺の力にする…これを繰り返し俺はどんどん力を増していった。これはハサンになるのに役に立つので嬉しい。

 

 だが、それと同時に――

 

「コロス…コロスコロスコロス!ヨクモオレヲオイティッタナァァァ!」

「アンタガアタシヲダマシタノガワルイノヨ!サイショハイイヤツダトオモッテイタノニィィィ!」

「グッ…!止まれ貴様ら!!痴話喧嘩は他所で――」

「「ジャマスルナァァァ!!」」

 

 少々…いや、かなり問題が起きた。

 

 戦闘にはあらゆるトラブルがつきものだ。当然、複数の死霊が一度に襲い掛かってくることもある。

 

「チッ、『変わり身』!『影分身』!

 

 始まりは少し強い程度の男の死霊だった。次に、その男と生前関わりがあったであろう女の死霊が来た。俺の体質が引き起こした偶然なのだが、これが最悪の事態を引き起こした。

 

 その二人の死霊が、周りの死霊を喰らいだしたのだ。

 

 二人の死霊は生前、お互いに強い恨みを持っていたようだ。その恨みが、偶然二人の死霊が死霊として再会したことで増幅した。やがて増幅した恨みは互いを殺そうとする殺意に変わり二人を悪霊にした。

 

「キェェェェェェェェェェ!」

「アァァァァァァァァァァ!」

「言語能力も無くしたか…!」

 

 二人は互いを殺すため、力をつけるため共感性の強い死霊を取り込み殺しあった。

 

 死霊の共感性とは、同じような恨み・執着を持つことだ。

 

 男の死霊は自分と同じように女に恨みを持つ死霊を、女の死霊は自分と同じように男に恨みを持つ死霊を取り込んでいった。

 

 死霊という魂を大量に取り込んでいった二人は自我が薄れ、ついに生きているもの共感性がないものも関係なく取り込むようになった。

 

「確か近くに小規模だが村があったな…暗殺教団の者はいなかったはず…拙いな、こいつらが村の方に向かったら…!」

 

 先程、口寄せできる死霊の中で比較的強い部類の死霊を足止めに使おうとしたが、力の差がありすぎて逆に取り込まれてしまった。

 

 時間をかけてしまったら村が危ない。だが並の死霊では太刀打ちできない。漁夫の利を狙おうにも、片方が吸収されてしまったら本当に叶わなくなってしまう。

 

「………はぁぁぁ…」

 

 深いため息が出る。俺が倒した死霊の中で一番強いやつを繰り出すしかないか。世界(テクスチャ)に影響があるから『あいつ』は呼びたくないんだが… 是非も無し。

 

 

 

「【罠を張り巡らせ、獲物を得たり】」

 

 転生してから久しく使っていない、()()()で呪文を唱える。

 

「【地を這い壁を這い天を這う】」

 

 懐から出した()を腕に突き立て、溢れ出た血を牙に塗りたくる。

 

「【絡め取り、搦め捕り、其の牙を突き立てる】」

 

 真紅に染まった牙で地面(テクスチャ)を切り裂き、世界の裏から『魔に連なるモノ』を口寄せする。

 

「【汝は狩人。爾は醜くも美しい番也】」

 

 

 

 

 

 

 

 

「来い、『絡新婦(じょろうぐも)』」

 

 

 

 


 

 

 

 俺の能力が強くなり、教団の中で実力を上げるとともに魔に連なるモノを引き寄せる体質も強力なものになっていった。

 

 最初は見慣れぬ魔獣がどこからともなく現れた。里の近くで現れる魔猪と似たような風貌だったが、力が断然と強い。暗殺教団の下っ端が8人怪我を負った。

 

 次にゴーレム。この世界(テクスチャ)に巣食う魔術師では到底作ることの出来ない代物で、ゴーレムを構成する魔術の形式もかけ離れていた。何しろ夏に現れたのに体が雪で構成されていた。おかしいだろ?

 

 終いにはスライム、オーク、ゴブリンetc…前世で皆さんがお世話になったであろうエッな本に出演する方々である。こいつらは俺が転生した直後では存在を聞いたこともなかった魔物たちだ。特にスライムのせいで地獄絵図が生まれた。スライム討伐に派遣された暗殺教団の野郎どもが服を溶かされて…なんかこう…とても┌(┌^o^)┐ホモォ…になった。勿論スライム、オーク、ゴブリンは根絶やしにした。

 

 ここまで来たら流石にわかる。

 

 どうやら時空を超えて魔獣がやってきているようだ。

 

 最初は嘘だろ…?と俺も疑っていたのだが、ある一人の魔物が来て確信に変わった。

 

 日本でそこそこの知名度を誇る妖怪『絡新婦』だ。

 

 前世では孫六女郎蜘(じょろうぐも)とも呼ばれ、いくつかの伝説を残すくらいには有名だった。

 

 絡新婦は美しい女に化けるとされる、400年以上生きた蜘蛛とされる…はず…前世でそんな話を聞いた。ずっと昔のことだから覚えていないが間違いない筈。

 

 だが絡新婦なんていう存在、転生してこの方見たことも聞いたこともなかったし、初めて絡新婦に出合ったときに絡新婦が着ていた着物も暗殺教団が活躍する文化圏では見たことがない。

 

 

 『あっ、こいつ異世界あるあるのエセ日本からやって来たな』と思ったね。

 

 絡新婦と戦った際、絡新婦は『ここは何処だ!?屋根裏に潜んで人を食い殺そうとしていたはずなのに、いつの間に外に…!?』と言っていたのにで、絡新婦は歩いてここまで来たわけではなさそうだった。

 

 これは俺が引き寄せているのでは?という考えが確定で間違いないだろう。取り敢えず殺した。

 

 

 とまぁ…俺の体質も良いことばかりではなかった。普通に神話に出てくるモンスターも引き寄せるので普通に危険だ。一応、妖怪も『魔に連なる』判定を受けたので口寄せで召喚出来るのは嬉しい誤算。絡新婦の糸は(しな)やかで頑丈、非常に便利で、獣の捕獲や暗殺対象の捕縛で役立ってもらっている。

 

 そしてこんな使い方もある。

 

 

 

 

「ギィィィィ!?」

 

 絡新婦が出す糸を片っ端から巻取り、死霊達の周りを囲むように糸を張り巡らせる。

 

 そう、捕縛出来ないような強大な死霊の足止めに使えるのだ。

 

 周りの死霊を吸収し強くなった死霊とは言え絡新婦の糸には手こずるらしく、男の死霊が糸を千切ろうと苦戦するが女の死霊がそんな男の死霊の隙を逃す筈がなく。男の死霊は糸に気を引かれているうちに背後を取られてしまい女の死霊に奇襲をかけられてしまった。

 

 死霊たちが足を引っ張りあっている最中に周りの糸を補強して死霊たちの逃げ口を無くしていく。糸は重なり合い、やがて繭のようにドームを形どった。

 

 死霊たちは身動が取れず、俺は魔術を使うなりなんなり出来る状態になった。

 

「共食いしてろ。その間に俺は祓魔の儀を済ませておくから」

「「アァァァァァァァァァ!」」

 

 死霊たちによって凸凹に凹んだり膨らんだりしている繭を冷めた目で見る。

 

 

(うた)え、(うた)え、(うた)え。主の威光を知らしめよ。

 

 紡げ、励め。いつまでも絶えることなく。真実は無い。

 

 嘆け。すべては許される。

 

 

 死告天使(アズライール)

 

 

 

 


 

 

 あのお方、輝く星のハサン様は四天使アズライール様の加護を受け生まれてきた。輝く星のハサン様曰く、「一度死んだ魂が神の世に迷い込み、アズライール様がその魂を永久的に保存するために現世に送られた」そうです。今となってようやく輝く星のハサン様の言っていることを理解出来たのですが、これは輝く星のハサン様をハサンという英霊にしサーヴァントにすることがアズライール様の狙いだったのでしょう。まさしく天命だったのですね。

 

 輝く星のハサン様は生まれも稀有なものでした。

 

 輝く星のハサン様が誕生なされたとき、晩鐘が三度鳴ったのです。あの葬礼を人々に知らせ、死の訪れを響かせる晩鐘が。輝く星のハサン様の母君が亡くなられたときは丸一日、幼かった輝く星のハサン様が泣かれた時は輝く星のハサン様が泣き止むまで、輝く星のハサン様に危険が迫った時は焦るように何度も。当時のハサン様は鐘がなる度に大慌てで輝く星のハサン様のもとに向かわれたそうです。

 

 やがて一度代が変わり、静謐のハサン様が後を継ぐと輝く星のハサン様はどんどん力をつけられました。

 

 輝く星のハサン様は民を守るためなら異端の術にも手を出したそうです。

 

 魔術、呪術、妖術……それと、『ニンジュツ』と呼ばれるもの。

 

 輝く星のハサン様曰く、「力を持たぬただの人を守るためならば、異端の烙印も受け入れよう」とおっしやったそうです。私には輝く星のハサン様がある人を守れず、『力を持たぬただの人』とその人を重ねているように思えるのですが…そんなことあり得ませんよね。

 

 ただ、初代ハサン様の「真実は無い すべては許されている」というお言葉は、人を守るためならば異端という禁忌を犯してでも励むべきという意味だったのかと輝く星のハサン様のお言葉で気付けました。流石輝く星のハサン様です。

 

 

 

 とある女暗殺者の手記――




次回ザバーニーヤを明かします

主人公くん
未来で聖杯戦争のことを知る

絡新婦
いきなり日本からワープさせられた。死んで肉体を失ったが強制的に契約させられ、魔力でできた肉体を手に入れた。
基本日本のとある山に棲んでいる。
未来では忍術を使う子供が生まれている。
「いきなり殺されて強制的に契約させられたのだ。ちょっとした復讐をしたっていいだろう?」
かなり高位の妖怪なので、♂の血液があれば子供を生める。
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