魔王軍幹部、バニルは生きていた。
あの時、確かにブレーザーによって倒されたが、彼もまた悪魔。
地獄から復活したバニルだが、その目的は復讐ではなく、普通に商売する事だった。
その事もあり、ブレーザーも人を襲わないという事で、特に気にしなかった。
そして、そんなバニルからの突然の提案。
それは、バニルは商品開発の知的財産権一括譲渡による高額商談を持ちかけてきた。
この商談に早くもセレブ気分のカズマは、もう危険な冒険者稼業なんかしないとのたまわり、魔王討伐を掲げるめぐみんを怒らせてしまう。
すると、さらにごねるカズマとアクアに、めぐみんが唐突に
「湯治に参りましょう。水と温泉の都、アルカンレティアに」と優しい提案を持ち出す。
街の名前に反応したアクアはすこぶる乗り気、ダクネスも否やはなく、ついでにウィズも一緒に行く事に。
道中、様々なトラブルがある中で、アルカンレティアにたどり着くと共に。
「それでは、ブレーザーさんは私と一緒に」
「んっ?」
めぐみんは、そのままブレーザーの背中に隠れる。
これまでも、めぐみんはブレーザーに頼る事は多く見られるが、なぜ、このアルカンレティアにたどり着くと、そのまま隠れるのか。
「おい、めぐみん、何、ブレーザーさんの背中に隠れているんだ?」
「この街において、ブレーザーさん程、最強の存在はいませんから」
「それはどういう意味なんだ?」
その言葉の意味に疑問を思っている時だった。
「ようこそアルカンレティアへ! アクシズ教徒への入信希望者ですか!?」
「ってうわビックリした!」
そうしているといきなり現れた男性の村人にカズマが驚くのも束の間。
それを合図だったかのように次から次へと住人が姿を表していく
「よくぞ来てくださいました旅の者よ! 今なら特別キャンペーン実施中で! ここにサインをして頂くだけでなんと宿代が1割引きするチケットを破格の値段で買う事が出来ます!」
「水の女神アクア様を崇拝するアクシズ教徒の総本山へようこそ! ささ! 話は後でしますのでまずはこの入信希望に一筆!」
「わざわざ遠い所からありがとうございます! 特産の食べれる石鹸はいりませんか!?今ならここに名前を記入するだけで好きなだけ貰えちゃいます!」
皆揃ってニコニコしながら一枚の紙きれと筆ペンを持って寄って来る。
この明らかに普通ではない事態にカズマが慌てふためく。
それと共に、アクアは怪しい笑みを浮かべる。
「これが私の可愛い信者ちゃんが住まうアルカンレティアよ、信仰心と布教させようとする熱意が人一倍強いとっても良い子達が住む街なの」
カズマと違って落ち着いた様子で両手を腰に当てて笑っているのはアクア。
「隙あらば観光にやって来た連中を片っ端から私の信者にしようと頑張ってくれてるのよ、まあなんて素晴らしいのかしらここは……」
「とんでもない詐欺集団じゃないかよ」
カズマは、その言葉を聞いて、思わず言う。
「そう、だからこそ、この場において、ブレーザーさんは頼りになります!」
「おい、そう言っている間にも、そのブレーザーさんがサインしているぞ!!」
めぐみんが自信を溢れる台詞を言っている間にも、そのブレーザーが、サインをしていた。
「おぉ、これで新たな信者がまた一人」
そう、おばさんが、そのサインした用紙を見る。
そこには。
「…これ、なんて読むのかしら」
「はっ」
その瞬間、カズマの脳裏にとある事が思い出す。
ブレーザーは、基本喋れない事も加えて、書く文字全てが分からない。
これは、宇宙人ではないかと予想していた。
そして、ブレーザーがまさしく、今、書いたサインは、その全くよく分からない文字であった。
「えっ、えっと、あのぉ、出来れば、もう一度サインを」
「ジュワァ」
そのまま、書き続けた。
だが、その全てが、まるで分からない文字の数々。
全て、同じ文字である事は分かる。
だが、現地の言葉ではない為、全てが悪戯だと思われる。
「…駄目だわ、あの人への勧誘は」
「仕方ない、別の奴にしないと」
「石鹸、全部、取られたわ」
それらの勧誘を、全て、サインした上で、信者にならずに撤退させた。
そんなブレーザーは、先程、貰った石鹸をむしゃむしゃと食べていた。
「…」
「ブレーザーさんの後ろ、来ますか」
「勿論」
めぐみんの一言に対して、頷くと共にカズマもまた、そのまま後ろに隠れる事にした。