思い出の夏休み   作:佐々木邦泰 

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全ての描写に意味がある
全ての台詞に裏がある
全ての演出に意図がある

わからなくても楽しめるようには作ってますし、少なくとも損はさせません
どうしてもモヤるなら質問箇所を引用してDMまで相談に来てください


一章

ちりりんという風鈴の音、暑い日差し、じっとりした湿気、夕立が降り始めてから2分以内に匂ってくる雨の匂い、涼みに行った川、夏祭りのポスター、大きな打ち上げ花火

 

これぞまさしく、夏の風物詩である

季語という言い方になる

同時に、私にとってある年の夏を強烈に思い出すキッカケでもある

あの夏、私は大切なものを失った

あの日があったから手に入れたものを今でも思い出せる

今となってはあの夏の記憶はずいぶん薄れてしまったが、それでもたまに思い出す

あの年、私が17歳で、高校2年生の夏だった

当時の私は病的だった

 

⭐︎⭐︎⭐︎

 

「本日から夏休みに入る。諸君らの中には予定があるものもいるだろう。部活の大会もあるだろう!学校の名を背負っているいない抜きに大いに励んでくれたまえ!皆、高校生の夏休みを無駄遣いしないように。若き日の後悔は老後の財ではどうしようもできないからな。ここまで言っておいてだがもちろん課題は出す」

エ〜ッ!と残念そうな悲鳴が教室中に響き渡り、廊下を経由して両隣の教室からも聞こえてきた

「仕方ないだろう。カリキュラムを消化しておかないと後が苦しいんだ」

教師の言い分もわかるが、学生としては夏休みの課題なんて焼き払いたい気分である

私もかつてそうだった

「無論、提出がなかったものに関しては逆点(さかてん)がつく。マイナスという意味だ。その他の提出要項に関しては、各教科ごとの提出課題条件に準ずる。量は多いが励んでくれ。提出遅れのないようにするんだぞ、遅れても引くからな」

後悔なく時間を使えと言ったり課題に励めと言ったり、どうしても盆休みに課題をさせたいようだ

あちこちから「鬼悪魔吸血鬼」と聞こえてくるが、大魔王教師にはそんなものは通用しなかった

盆休みくらい休ませてくれたっていいのにね、けちんぼ

「西野、量、多いね」

「うん。多いよね」

「やだね、本当に」

「全くもって同感だ。全面的に君の意見を尊重する」

「そこ喋らないの」

大魔王に怒られてしまった

 

⭐︎⭐︎⭐︎

 

終業式と諸連絡を終えて夏休みに突入した

午前中のみで学校から開放されるこの特別な感覚には格別なものがある

下駄箱で靴を履き替え校舎を出ると暴力的な紫外線と日光が襲ってくる

太陽が敵意を持って我々を焼き殺そうとしているようだ

不意に友人の野村くんに肩を叩かれ声をかけられる

「西野、どっかへ遊ぼうよ」

「どこへ?」

「足を伸ばして神奈川へいいんじゃないか?横浜なんて久しいだろ」

「いつ?」

「明日朝8時東京駅前で待つ。来なければ置いてゆく。返事は聞かない。なに、聞いただけさ。君は万年つまらなさそうな顔をしているくらいだし暇だろう?」

まさか捨てられるとは思ってないような子犬みたいな顔(雰囲気)をしていた

「そんな顔、してるつもりはないけど?」

「人は自分のことになるとバカになるって本当らしいや」

「褒めてる?」

「弁解したって聞きゃしないだろ」

余計なお世話だ

やかましい友人がいそいそと帰って行く中、私は一人、夏休みにせねばならないことを考えていた

この夏私は帰省しなければならないのだ

久しく祖母に顔を見せていなかったし線香もあげねばならない

祖父が亡くなった時、私は葬儀に出られない状況だったのだ

家に帰ってからも私はこの夏どう使うべきか考えていた

教師共のいう後悔のない使い方、私の犯したことを贖罪せねばならない時が来たのだ

 

⭐︎⭐︎⭐︎

 

1人で食べる夕食を終え、風呂から上がり、荷造りを始めていた私は帰省ルートを確認していた

都内から帰省先までは新幹線で6時間の距離に相当する

そこから私鉄とバスを乗り継いで、最後はバス停から20分ほど歩くと、祖父母の家に着く算段だ

かつては楽しくて仕方なかった道だが今は少し悲しい道だ

昔と今とで違うのは、私が大きくなったことと同行者が居ないこと、祖父母の家ではなく祖母の家であるということだ

仕事の都合がつかず、先に行ってなさい後から追いかけて行くとのことだ

能天気な人達だ。今時数万円があればその金で家出だって出来ちゃうのにね

信用されてるのか、試されているか...

反抗する気はないが、それにしたって少し悲しかったような気がする

心配して欲しかった?そうではない

むず痒いようなものが心臓から全身に送り込まれているようで、次第に手足が麻痺するような感覚を覚え、すぐに寝支度をした

これは毒で、暑さと日差しにやられたのだと思った

 

⭐︎⭐︎⭐︎

 

翌日の朝9時

家を発ち、東京駅へ向かった

8時だと野村くんに出会すからだ

途中土産物屋に立ち寄って土産を見ていた

東京駅で土産物を買おうとすれば、大概全国の土産物が手に入れられる

そういう意味で言うなら東京の土産といえばなんだろうか?

言わずもがな、ヒヨコ饅頭は福岡土産である

となると東京土産は東京バナナになるのではなかろうか

個人的はあまり好きではない

好きという人は物好きだと思う

でも祖母は好きなのだから、買わないわけにはいかない

祖母の住む家は地域で、親族が散らばっている

ある程度の数が必要だから、思い切って奮発し、五箱購入した

新幹線に遅れないように充分すぎるほどに猶予を持っていたため、30分も時間が余った

いつもの悪い癖である

時間を潰そうと思い、カフェでジンジャーエールを注文して席へ座る

中々混み合っているようで、途中で相席は可能かと尋ねられ快く受け入れた

初老といった感じの御仁で、立派な人であった

風格があった

向かい席の椅子に荷物を置いていたので、少し片付けると、その人は向かいに座ってレモネードを頼んだ

「帰省か」

「そうです。今時珍しくもない」

「しっかり者だね、土産もしっかりだ」

「バナナですがね」

「君は若いよ。酒は無理そうだ」

「そこまでわかっておいて肝心なことを言わないんですね、大人って」

「今日はとても暑い。そうが思わんか?」

「さあ...いずれは涼しくなるんでしょう」

「君も中々頭が回るね」

「そこまで」

「よく覚えておくといい。言葉で相手を殺すことができるということを忘れないことだ。比喩ではないよ。君は刃物みたいな男だ」

「心配しなくとも、明日にはいないかもしれない人間だから、心配は要らないよ?」

「若者は怖いことをするね」

「上の世代には敵いませんよ。あなたはこの場を支配したじゃない」

気まずい空気が互いの口から漏れ出そうになるのを堪えていた

5分ほどの睨み合い、沈黙の後、彼は財布を取り出して席を立った

「この場は奢るよ。君みたいな人に出会えてよかった」

「褒めてないよね。怖がってる」

「君だってそうじゃないか」

にんまり笑ってレジへ進む彼の背中を見送ると、ジンジャーエールを飲み干してカフェを出た

あの人は賢いから嘘がわかるんだ...

それだから私の甘さを見抜いてなにをしようとしているかわかったんだ

 

⭐︎⭐︎⭐︎

 

新幹線に乗って昼時に、となると名古屋か大阪になる

私は名古屋で昼食を取ることを選んだ。

車内販売で天むすと軽食を買い、新幹線内で食べた

これが昼食だ

口を開くと憂鬱な気分が漏れ出そうだったが堪えた

今はまだそんな時じゃないんだ

もっとやるべきことが他にある

針のような苦痛をなんとか飲み込んだ

 

⭐︎⭐︎⭐︎

 

新幹線を降りたら雨が降っていた

予報では一日中晴れだったから通り雨なのだろう

じっとりした湿気が肌に張り付いて肌から養分を吸っているような気がする

重いリュックサックを背負っているからか、背中に化け物が寄生しているかのように感じた

まるで化け物の子育てだ

湿度が高いと汗を吸った肌着も汗で濡れたままになって気持ちが悪い

嫌な感じがする

私鉄は駅直結駅始点で便利だ

座れたのはラッキーであった

あいにくバスには座れなかったが、そんなことで怒ったりはしない

嫌な嫌な気分が風船のように腹の中で膨れていくような気がして、吐き気が止まらなかった

吐き気と緊張で頭痛を併発して倒れそうだった

バスが目的の停留所に止まるのは7時半過ぎで、暗くなり始めた頃だった

バスを降りると、私はバス停のベンチに倒れ込んでしまった

歩くことさえ出来なかった

このまま死んでしまってもいいと思っていた

今なら楽に死ねると思った

色々迷惑をかけた

受けた恩義もなにもかも捨ててただただ死ぬことだけを考えた

街頭で照らされた周囲の田舎の色、匂いを感じこそすれ、それをそうだと知覚できなくなった

色があるのはわかるけど、何色かわからない

音が聞こえても音としか思えないから、車の音にも気づかなかった

 

「ザザザ...?」

音が耳に入っていくだけで肝心の内容がわからなかった

口になにかを押し付けられたようだが...

感覚からしてペットボトル、水の味がしたから水だろう

「飲めるよ。押し付けないで。こぼすと濡れて寒いから」

「ザザザザ。ザザザザザザ?」

人を人と認識できない時点で私は壊れてしまったんだと思った

私は道端の石になって、生きるでも死ぬでもなく存在していると思っていた

ある程度水を飲むと、思考回路が動き出してきた

「そういえば、朝方に東京駅でジンジャーエールを飲んで以来の水分だ」

そういえば水分をとっていなかった

緊張で喉が渇くと思いきや逆に水を飲むことを拒否するとは想定外だった

思考回路も破綻していて、水分のことを考えていなかった

「そんなのダメだよ、今日暑いんだから」

「救急車の世話にならなくてよかったねぇ」

水を飲ませてくれたのは女の子と、中年男性だった

「うっかりしてたよ。助かった」

「どこ行く気?街行きのバスは朝までないよ?野宿する気?バックパッカーなの?」

質問の多い娘だ

「帰省目的でね、ここから少し歩くんだ。喜葉の方へね」

「喜葉方面に丁度行くから乗りなさい。疲れて倒れるようじゃいけないよ」

「水まで世話になってるんです、申し訳ないですよ」

飼い殺しの給料で働いた経験があるからモノの値段と他人への差し入れがどれほどのことかとてもよくわかる人間である

「ミホ、荷物を載せてあげなさい。お疲れのようだからね」

「そんな、悪いです」

「ここで放っておくのはいけない気がするからやってるんだ。君のためじゃなくて、自分が嫌な思いをしたくないからだ」

よくも悪くも大人なんだ

この人はそういう人なんだ

「トランクに積んじゃうよ〜」

リュックサックも剥ぎ取られてトランクに押し込まれた

「追い剥ぎに遭ったような気分です」

「満更でもなさそうなのは?」

「気がついてくれる人がいたことが嬉しいからかな」

「面白いこと言うな、君」

「中身はどうかな...」

「後部座席に乗りなさい。ゆっくりするといい。ミホも一緒だがいいかな?」

「聞くまでも」

白い車だった

先ほどはわからなかったが白い車に乗っていたようだ

後部座席に座ると中年男性が私に話しかけた

「たまらんよな、この湿気」

「雨が乾かないからね」

「乾かない季節だもんな」

ミホさんが乗ってくる

「なんの話してたの?」

「湿気がすごいねって...」

「それだけじゃなさそうだけどね。後ろよーし、オーライ」

車が喜葉の方へ走り出した

「君、そういえば名前聞いてなかったな」

「西野です」

「!」

「西野遼太郎です」




あとがき

キリよく何回かに分けて配信します
目安としては一応10話くらいを予定中
完結までは気長にお待ちください
出来れば今夏中に全話配信したいけど...無理そうな気がする
冷やし中華を年中売ってるようなノリじゃいかんのですよね
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