ーーー今週もお疲れさまですーーー
ーそういえばあいつとー
ーーーー大学の友達がさーーーー
賑やかな喧騒、それと外から響いて来る雨の音。心地よい騒々しさだ。
大衆居酒屋、土曜日の夕方で急な雨が降った今日は、いつもより人がいる。
「………」
「…………」
そんな店の隅の隅で、向かいの冴えない野郎と私は向かい合っていた。
別に恋仲だったのが破局した、とか特別仲が悪い、とかではない。それでも私達の間にはただ沈黙があって、私にはそれくらいで良かった。かえってそれが、安心出来るのだ。
「……………」
「………」
大学生の頃からここをよく使っていた。店員の入れ替わりも激しいので顔を覚えられる事が無いのも良いところだが、何より料理が美味しい。他の店よりも少し高めではあるが、居心地の良い席に美味しい料理が食べられるのであれば十分許容範囲内だ。
「……………………」
「…………………………」
中学校からずっと同じ学校だった、ただそれだけだが目まぐるしく移り変わっていく環境の中でも変わらない物があった。だから私達はここで集まるのだ。
日々の流れで削られた心を癒やす為に。
「……酒、頼むか?」
「いや…………次コーラにするよ。」
「そうか、すいませーん!コーラと生一つずつー!」
軽い夏バテに急に降られてびしょ濡れという不快感も相まって、今日はあまり飲む気分にはなれない。
それはこいつもそうみたいで、あまり箸も進んでいないみたいだ。
「コーラと生でーす。」
さっき頼んだ飲み物が来て、最初に大皿で頼んで半分しか減っていないチンジャオロースもすっかり冷めてしまった頃、唐突にこいつが喋り始めた。
「俺、彼女出来たんだ。」
……へぇ、いいじゃん。そう言おうと思ったが、何故か口がうまく動かなかった。
ただ、男友達に彼女ができた。言ってしまえばそれだけだし、祝福すべき事だろう。でも何故か、私の口は、私は、何も言えないでいる。
「高校の頃の後輩。多分お前も会った事あるよな?何か丸っこいあいつだよ。」
「………女性に向けて、しかも彼女に丸っこいって…。あの子ね。わかるよ。」
確かに人懐っこくて、特段太っているとかそういうわけではないけれど、それでもどこか丸っこい可愛い子だった。
…言われてみれば、その子はこいつに対してやけに距離感が近かった様な気がする。あっちにしてみれば念願叶ったりって感じなのだろうか。
「ああ、まぁ……こういう所が俺の悪い所だ。それでも俺が良いって言ってくれたから、それならな。応えなきゃよ。」
「変な責任感。それじゃ好きじゃないみたいに聞こえるけど。」
「あ、いや。そういうわけじゃ…。」
素直に、こういうやつだからこそ一生相手が見つからないのではと心配はしていた。
だからこそ安心してるし、何よりもおめでたいとは思う。
けれど、どうしても何かがつっかえている。それが私におめでとうの一言をどうしても言わせないでいる。どうにか、茶化して場を繋げさせようとしている。
「あの子とさ、付き合うって、私とサシで飲んでて大丈夫なの?相手からみりゃ浮気に見えるんじゃないの、これ。」
「…………ほんと、痛いところを突いてくるな。確かにあんまりいい顔はされないだろうよ、辛うじて相手がお前だから大丈夫ってだけで。」
「は、それはそれで失礼じゃない?」
「そう言っても、俺とお前でそういう雰囲気になったこと一度でもあるかよ。」
確かに、ない。実際こいつは【友達】でありそれ以上でもそれ以下でもない。そういった目では見たこともない。ない、筈なんだ。それなのに、どうして。
この漠然とした不安感は、鬱屈とした躁焦感は、どこから。
思えば恋なんかもしたことは無い。基本的にはクラスメイトはクラスメイトで、特別仲の悪いやつも居なかったけど、良い奴もいなかった。
どうせいつかは居なくなるのだから、そこで何かしてもいつかは流れて忘れていく。なら特段何かをする必要はないだろう。元より一人の方が楽だったから、それで問題は無かった。
コネも、無くて困ったことは無い。仕事や職場に不満は無いし、上手くやれていると思う。
それでも、いつからだろう。孤独感を感じる様になっていた。社会に出てからは、学生だったときよりも人と話す機会が減ったからか。それとも仕事仲間の色恋話を聞いて影響されたのか。
それでも、昔に色恋話を聞いても羨ましいとは思わなかったし、面倒だとも思った。それ自体は今でも思っている。
ならば何が変わったのだろうか、この孤独感は…。
そうか、こいつがいないんだ。お互いに社会人になってからは、たまにしかこうして一緒に何かする機会はない。
私が、一人でも大丈夫だったのは、一人じゃなかったからだ。いつも、こいつが傍にいたんだ。
結局の所、私はいつもこいつがいなければ独りだったのだ。
「……そうだな。」
あぁ、私は結局、独りになるのが怖かったんだ。
「なんだよ、何か言いたい事でもあるのか?」
「いや…ただ…。私は、私が思っていたよりも…。」
強くは、なかった。
「おい本当に大丈夫か?タクシー呼ぶから今日はもう…」
「なあ。」
ならば、これで弱い私とは決別しよう。
私は私で、あいつはあいつなんだ。いつまでも甘えることは出来ないし、いつかは流れて全てなくなっていくのだ。
今が、その時なんだろう。
…けれど最後に。
「…この後暇か?」
「まぁ今日は…何もないよ。あいつは遅くまで仕事だと。」
「私を置いていくのなら……最後に…。」
せめて、今までは一人じゃ無かったと。
そう、刻ませてくれよ。
続きはないです