理子ちゃん(ストロベリー風味)   作:呪術使えない

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理子ちゃん(懐玉―拾弐―)

 

「天内……?」

 

 ふと見ると、天内がそこにはいた。

 そういえば昨日は姿を見なかったが、それにしても、今ひとつ目の前の状況が理解できない。

 

「悟。頑張っておるようじゃな……」

 

 二十歳そこそこの女性……天内が順当に成長したらそうなるだろうという姿をしている。

 六眼が告げる。目の前の女性は他人の空似や術式の変装ではなく天内理子本人だと。

 

「天内なのか?」

 

 呪霊……受肉……というよりも、同化か。肉体をどこから引っ張ってきたかは、だいたい想像がつく。

 

「そうじゃ」

 

「ん……? あ……っ」

 

 焦る。この場合、呪霊操術はどうなる。

 呪霊という範囲から外れれば、当然術式は通用しないはずだ。今の天内は呪霊操術がおそらくは効かない存在になっているのだろう。近いものなら受肉した九相図みたいな感じだ。

 ただ、呪霊操術で操られる呪霊が、呪霊操術の支配下にあるまま、呪霊操術の効かない存在になった場合の挙動は未知。

 

 天内の術式の恩恵を、傑は受けられているままならいいけど。

 

「はぁ、悟。それなりに長い付き合いじゃ。正直、考えてることは手に取るようにわかる。そして、そこらへんは、悟が憂う必要などないと言っておくのじゃな。まったく……」

 

「そうなんだ。なら、いいや」

 

 天内がそう言うんなら、そうなんだろう。これ以上、俺が心配する必要はない。

 

「悟。デートでもせぬか?」

 

「ん、いいけど」

 

 天内が何を考えているかはわからないけど、前、好きって言ってたし、俺とデートしたいのは本当なんだろう。

 

「ポケモンセンターでも行く?」

 

「ここ、宮崎じゃぞ? ポケモンセンターはないのじゃ」

 

 戦闘機やら呪霊やらの兼ね合いで、いま、宮崎に来ていた。

 なるほど。地方には、ポケモンセンターはないのか。

 

「一番近いのは?」

 

「福岡。電車で五時間くらいかかるみたいじゃな」

 

「マジかよ? 同じ九州だろ?」

 

「あ、飛行機なら二時間くらいじゃ」

 

 スマホをいじって、天内は検索をしていた。

 九州って、思ったより広いな。

 

「というか、天内。スマホ持ってるんだな」

 

「一円で買ったのじゃ。黒井名義じゃな」

 

 天内の身分証はないだろう。黒井さんは今の天内のことを知っているのか。

 

「とりあえず駅にゆくか。空港に行くにせよ、一度は電車に乗らなくてはならないようじゃ」

 

「そうだな」

 

 適当に駅まで歩いて行く。

 そこそこに人通りもある。俺はさっきまで戦ってきたけど、なかなかにみんな危機感ないんじゃないかとも思う。

 

「変に自粛ムードになるのも嫌じゃろ。不便じゃし」

 

「それもそっか」

 

 普通が一番か。

 実際、僕らの頑張りのおかげで被害もないわけだし、これでいいのかもしれない。

 

「んにゃ?」

 

 天内が止まった。

 どうしたのかと思う。目線の先には、子供たちがいた。

 

 子供たちは、6Vメタモンでねぇな、とか言いながら、Switchでポケモンをしている。やっぱ天内はポケモンが気になるのか。

 

 天内は、すぐに目線を外して歩き出した。

 そこからしばらく歩いたところで、天内はまた止まる。そして、言った。

 

「悟、今日は何年何月何日じゃ?」

 

「……? 二〇一八年、十月十二日だけど」

 

「Switch初のポケモンのソフト、ポケットモンスター Let's Go! ピカチュウ・Let's Go! イーブイの発売日は、二〇一八年、十月十六日じゃ」

 

「それってつまり……」

 

 考えられる可能性は一つ。

 

「フラゲじゃと……」

 

 あのガキ、フライングゲットした上で、メタモンの6V厳選をしてやがんのか……。フラゲして、やることがそれなのかよ。

 やだな……最近の子どもはストーリーを純粋に楽しむことを知らないのか。

 

「ていうかポケモン、普通に発売できんの?」

 

「傑が頑張っておる。パブリッシャーに流通経路も完全に抑えたようじゃ。無事、発売できるじゃろう」

 

「……マジか」

 

 そこまでやるのか。いや、まぁ、やるか。天内のため、ということだろう。

 

「とりあえず、ゆくぞ。結局、飛行機と電車、どっちにするのじゃ?」

 

「飛行機一択でしょ。金は僕が払うよ」

 

「おー! 心強い」

 

 やっぱ、早い方がいい。こんなとこで、ケチってても仕方ないだろう。

 

 

 ***

 

 

 

「なんとなく、こんな気はしてたんじゃが」

 

 二時間かけて飛行機で来たポケモンセンターはがらんとしていた。商品がほとんど何も置いてなかった。

 

「なんというか、ドンマイ」

 

「ポケモンセンターの商品はほとんど中国産なのじゃな……」

 

 状況が状況なのだろう。商品がないのは、仕方ない。

 

「津美紀に頼めば、ぬいぐるみくらいなら作ってくれるんじゃない? 構築術式で。美々子とかも人形作るの得意だし」

 

「それはそれで、温かみがあって良いのじゃが、公式オリジナルグッズは公式オリジナルグッズじゃろ? 悟はそういうのわかんないんじゃな?」

 

「あ、うん」

 

 天内なりのこだわりか。失望の目で見られるのは割と堪える。

 

「いや、まだじゃ!」

 

「え、なにかあんの?」

 

「福岡パルコで、コラボカフェじゃ! Let's Go! ピカ・ブイカフェがやっておる!!」

 

 スマホの画面をこちらに見せて、指をさして天内はそう言った。

 

「あー、カフェか……」

 

「とりあえず、これを買うのじゃ」

 

 天内は、どこにでもありそうなピカチュウのぬいぐるみを手に持つと、レジまで持って行った。

 そのまま、バーコードが読み取られ、金額が表示される。天内は金額と、少し離れたところにいる俺の顔を見比べる。

 

「ん?」

 

 商品を置いたまま、天内は歩いてこっちやってくる。俺は手を引かれて、レジまで連れられる。

 天内は金額を指差す。

 

「払うのじゃ」

 

「は……?」

 

「払うのじゃ」

 

「ぷ……ふふ。金持ってなかったのかよ……ふふ」

 

「払うのじゃ」

 

「あー、わかったよ」

 

 まぁ、このくらいなら、払ってやってもいいか。カードを出す。

 最近、傑が政権を取ったから、僕名義でもカードを作れるようになったんだよね。これがなかなか便利でいい。

 

 支払いを終えて、ピカチュウの首根っこを掴んで、天内に渡す。

 

「大事にしろよ?」

 

「のじゃ」

 

 大事に抱きかかえて、天内は言った。

 

「次はコラボカフェだっけ?」

 

「む……この距離なら、地下鉄……バス、いや、タクシーが一番早いか」

 

「はいはい、タクシーね」

 

 ま、それでいいだろう。

 駅から、タクシーを拾って、福岡パルコに向かう。

 

 タクシーに乗って、街中を進んでいく。やることもないから車窓から外を眺める。やっぱりというか、平和で、みんな危機感がなかった。

 

 ふと、走る女子学生が目に入る。少し気になる。呪力を使って走っているのか。よく見れば、なにか残穢を追っているように見える。

 廃ビルっぽい建物に入って行った。

 

「止めるのじゃ!」

 

 天内がタクシーの運転手に言った。

 たぶん、天内も気が付いたんだろう。

 

「どうしました?」

 

「少し、用事ができた。すまぬが、ここで待っていてくれぬか?」

 

「えっと、待機料金がかかりますが?」

 

「構わぬよな、悟」

 

「いいけど」

 

 別に自己責任だから、ほっときゃいいと俺は思う。でも、天内は見過ごせないようだった。

 

「では、ゆくぞ! 悟!」

 

「え? 俺も行くの?」

 

「当たり前じゃ。ゆけ! 悟!」

 

「えー」

 

 しかたなく、タクシーを降りる。まったく、天内は、何と戦うつもりなんだか。

 

「あ……運転手よ。妾のピカチュウを置いておくのじゃ」

 

「え……?」

 

「さっき、ポケモンセンターで買ったばかりなのじゃ。タクシー料金より高いはずじゃ。必ず取り戻しにくるのじゃ」

 

「あ……はい」

 

「悟。これで、向かえるのじゃ」

 

 そして、俺たちはあの女子学生が入って行った建物に向かう。

 

 立ち入り禁止の入り口が無造作に壊してあり、無理やりに侵入した形跡があった。

 中に入る。一階はゲームセンターのようだった。少し歩くと、さっきの女子学生が呪霊と戦っている姿が見える。

 

「く……『災禍転呪』!!」

 

 なにかの術式の発動で、呪力が高まる。

 高まった分の呪力をそのままぶつける感じだろう。呪霊が吹き飛ばされる。

 

「きえーぇええ」

 

 倒し切れてないじゃん。

 東京じゃないにしても、呪霊のレベルがそこそこ高いな。

 

「悟!」

 

「術式順転――」

 

「うわ……っ! 待つのじゃ!? こんな街中で使うな!?」

 

「えー、めんどっ」

 

 とはいえ、助けないとあの術師は死ぬか。まぁ、助けてあげたほうがいいか。天内の前だし。

 

「蒼パンチじゃ!」

 

「れいとうパンチみたいに言うなよ」

 

 言われた通りに動くのはシャクだから、蒼ではなく、赫を使う。六眼による呪力操作。そして赫による完璧な時間の調節。

 

 ――結果として、確定で決まる黒閃。

 

「ま、まずまずかな」

 

 これだったら、純粋に蒼で黒閃を決めた方が一発の威力は強いか。送りバントってところだ。

 

「うわ、なんだ……! テメェ!?」

 

 呪霊と戦っていた子は、こちらに気がつくと、拳を構える。

 

「いや、ピンチだったでしょ? 助けてあげたんだけど」

 

「チ……。誰も助けてくれとか言ってねぇ。ていうか、どこの術師だ?」

 

「あ、五条悟。僕、五条悟だから。知ってるでしょ?」

 

「は……? え? 有名人?」

 

「知らない? そっか……」

 

 よく見れば制服も呪術高専のものだ。ここは九州、つまりは西日本だから、京都高専の生徒ってことなんだろうけど。歌姫の生徒なのに僕のこと知らないのか。

 

「あー、悟。たぶん福岡分校の学生じゃ」

 

「福岡に高専なんかあったっけ?」

 

「分校じゃ。一応、東京高の一部ということになっておる」

 

「へぇ、詳しいな。天内」

 

「まぁ、のう。傑に憑いて回ってたわけじゃし」

 

 なんというか、天内は聞いたらなんでも答えてくれそうな便利さがある。傑よりも、たぶん色々雑学に詳しいイメージだ。

 

「……っ!? お前! 呪い!?」

 

「契約して、危害を加えない縛りをしているから大丈夫じゃ」

 

「そうだっけ?」

 

「そうじゃ」

 

 俺が知らないか、天内が適当言っているかはわからないが、まぁいいだろう。俺には関係ないことだ。

 

「あ、そうだ。迷惑料金払ってくんない? 僕、命の恩人ってわけだし」

 

「いや、頼んでねぇよ。なんで払わなきゃ」

 

「タクシー待たせてるから、待機料金かさんでるんだよね。その分ってこと」

 

 無償で助けるどころか、俺としてはマイナスだった。そのマイナス分の補填で済ませてあげるんだから、俺ってとっても優しいだろう。

 タダで助けてやってもこの学生のためにはならない。同じ無謀を繰り返すだけになる。少しは痛い目も見ないとだ。

 

「嫌だよ……当たり屋かよ」

 

「悟……いや、なにも言うまい。やむを得ぬか。妾のピカチュウをメルカリで売り払うことで、資金は捻出しよう。それで許してやってはくれぬか?」

 

「天内……お前さ……たぶん待機料金って、五百円くらいだぞ?」

 

「む……今の妾はお小遣いとかないからの。唯一の所有物といえばピカチュウのぬいぐるみのみ……そのピカチュウも、メルカリに……うぅ……ピカチュウ」

 

 天内は目に涙を溜めて、うずくまった。なんなんだよ。

 そんな天内を見てか、女子学生はうろたえていた。

 

「わ、わかったよ……払ってやるよ五百円。ほら、あと、これで涙拭けよ」

 

「すまぬの……ぐす……」

 

 五百円を受け取る。ま、なんでもいいか。

 

「竜胆さん!」

 

 男だった。おんなじ制服だから、なんだっけ……福岡高専のクラスメイトってところだろう。

 

「結木!?」

 

「あれだけ単独行動はするなって……。……っ!? 五条悟!?」

 

「あ……? こっちは知ってる感じか」

 

 こちらを見るなり、戦う姿勢を見せている。いや、これは戦うっていうより、逃げる算段って感じか。

 

「く……っ! 竜胆さん! 大丈夫ですか!?」

 

「大丈夫だけど……こいつら、知ってんの?」

 

「当たり前です。特級呪詛師です……」

 

 苦々しい顔をして、男の生徒は言った。まぁ、普通、知らない方がおかしいか。

 

「呪詛師? なら、戦うのか?」

 

「無理に決まってるでしょ!! 逃げますよ」

 

「別にゆっくりしてけよ。僕たちタクシー待たせてるし、置いてくからさ」

 

 正直、相手するのも面倒になってきた。

 逃げるなら、普通に逃げればいい。

 

「特級呪詛師! この街で悪巧みですか!?」

 

「あ?」

 

 生き延びられそうな雰囲気だから、少しでも情報を得ようというところだろう。

 

「福岡パルコで、Let's Go! ピカ・ブイカフェに行くのじゃ」

 

「は?」

 

「デートなのじゃよ」

 

「あ、うん」

 

 なんとも言えない表情で、二人は頷いた。

 呪詛師ってコラボカフェでデートに行くもんなのか、とか、呪詛師にも普段の生活があるでしょう、とか、そんなコソコソした会話が聞こえてくる。

 

「行くのじゃ! 悟! Let's Go! ピカ・ブイカフェじゃ!」

 

「そうだな、天内」

 

 高専生を置いて、走っていく天内を追いかける。

 

 タクシーに戻ると、天内は、さっそくピカチュウを取り返して、膝の上に乗せていた。

 また、出発する。

 バックミラーには、追いかけてきたのか、こちらを見送る学生二人が写っていた。

 

「そういえば、悟。さっき赫パンチをやっておったじゃろ?」

 

 タクシーの中、思い出したように天内は話しかけてくる。

 

「ん? そうだな」

 

「普段のニュートラル無下限は、順転を弱めたもの……つまりは蒼バリアということじゃな」

 

「まぁ、そうなるか」

 

 止める力、とは言うが、根本の原理としては蒼と同じ。たぶん、そう呼んでもいい。

 

「こう、弾く力……赫をまとって、赫バリアみたいなことはできぬのか?」

 

「やる意味あるか? 今でも十分でしょ? ま、とどまったらうざい攻撃が来たときは、赫で払いのけるけどさ」

 

 やろうと思えば、できなくはないはずだ。

 反転の出力は最低でも順転の二倍。けれど、時間を制御できるレベルで赫を扱えている今なら、きっと可能。

 

「翠も合わせて、三色バリアじゃ」

 

「いや、『翠』は無理だろ? 最低出力で、あれだし」

 

「むー、頑張るのじゃ」

 

「頑張って、どうにかなるもんじゃないだろ……」

 

 あらゆる呪力でのニュートラルを重ねて安定状態に持って行ったものが『翠』だ。ニュートラル蒼での防御レベルに出力を落とすのは、原理的に不可能に思える。

 

「魔虚羅の適応は、蒼の術式効果を呪力で中和する適応じゃった。赫は中和されておらなかったから、無下限の術式そのものを中和する呪力ではなく、蒼だけじゃな。こんなふうに攻略されたとき、バリアの種類は豊富にあった方が便利じゃろ?」

 

「そりゃ、そうだろうけどさ」

 

「それに、『翠』を防御に使えたのなら、体に当たった術式効果を直接消滅させられて、かなり硬い守りになるはずじゃ」

 

「『落花の情』みたいに、必中の術式へのカウンターにも使えるのか……。あ……」

 

 そうか。バリアの形にこだわっていたのが悪かった。『落花の情』の呪力のカウンターの代わりに、『翠』を設定すればいいのか。

 

「悟。なかなか冴えてるのじゃ」

 

「まあね」

 

 ただ、思いついたとはいえ、できるかどうかは別問題だ。

 いろいろと調整をしなければいけないところがある。

 

「と、着いたようじゃ」

 

 福岡パルコだった。

 タクシーの運転手に、カードで決済をしてもらう。最近は現金を使わないから、もらった五百円、どうしようか。

 

 そんなことを考えながら、天内に着いていった。天内は初めての場所に少し迷いながら、進んでいく。案内板を繰り返し見て、なんとか辿り着いた。

 

「二名様ですか?」

 

「そーじゃ」

 

 まぁ、そこそこの待ち時間で、席へとつける。

 

「そんな、混んでないな」

 

「ま、発売前じゃからの。発売してからが本番じゃな。ステッカーもらえるみたいじゃし」

 

「こんなステッカーのために来るか?」

 

「来るのじゃ」

 

 ジム攻略をしたらもらえるステッカーがあるみたいだが、俺はそこまでほしいとは思えない。天内は違うのかもしれないけど。

 

 メニューを見る。

 

「てか、結構するな……」

 

「コラボカフェじゃからの」

 

「料理に、飲み物に、デザートを二人分頼んだら、ピカチュウ何匹分だ?」

 

「のじゃ!?」

 

 天内の抱きしめるピカチュウを見る。とはいえ、あいつもそこそこだった。だいたい三匹分くらいか。

 

「ご注文はお決まりですか?」

 

「相棒イーブイドリアじゃ。相棒ピカチュウアイスラテもじゃな。一つずつ。飲み物は食事中で頼むのじゃ」

 

「俺はおやすみカビゴンのグラスパフェ。ラプラスに乗って!冒険ゼリードリンク。あと、この甘味プレート」

 

「……『ゆうれいの正体は‥!?甘味プレート』ですね。かしこまりました」

 

 復唱して、店員は戻って行った。

 

「悟は甘いものばかりじゃな」

 

「まぁね。天内はラーメンじゃなくてよかったのか? カイリューのやつ」

 

「妾は忘れておらぬ。沖縄で悟が妾のラーメンに七味と胡椒いっぱい入れたのじゃ」

 

「そうだっけ?」

 

「そうじゃ。妾は忘れておらぬ」

 

 ま、ちょっとはイタズラしてやろうとは思ってたけど、がっつり警戒されてるみたいだ。

 別にいいか。

 

「それで、術式の話だけど……」

 

「なんじゃ? タクシーの話の続きか?」

 

「ぶっちゃけ、虚式どう思う?」

 

 一応、天内にも聞いておきたかった。技は増えたが、現状、茈だけで足りている。使う相手がいないのもそうだが、いい使い方も思いつかない。

 

「人工仮想怨霊で、術式の制御を強化して、発動時間を短くすれば良いじゃろ。近づくにつれて必殺性の上がる攻撃を出してくる砲台じゃ。これで、勝てる」

 

「それは……確かにな……。でも、俺と戦えるってなったら傑だろ? それであいつの力借りるって、ちょっと違うんじゃね?」

 

 宿儺も倒したわけだし、俺が真正面からぶつかれる相手は傑だ。日本人全員術師にしたら、骨のあるやつ出てこねぇかな。

 

「じゃあ、引き打ちでよいじゃろ。敵の近づく速度に合わせて、碧、黃、茈を撃ち分ければよい。どうせ避けれぬ」

 

「いや……それ、どうなの?」

 

「遠距離から茈連打で勝てるじゃろ。碧を常に発動準備しておくのがコツじゃな。近づく気も失せるというものじゃ」

 

 虚式の同時発動か。当然、俺は蒼を複数発動できる。輪転と反転の同時使用も完璧。碧を準備しつつ、茈を撃つなんてことも、当然できるか。

 

「いや、でも……虚式の同時発動は、流石に制御が面倒でしょ」

 

「やる気出すのじゃ。頭がぶっ壊れても、妾が治す」

 

「さすがに自分で治せる範囲かな。それに、傑相手にするなら、お前、あっち側でしょ」

 

「のじゃ」

 

 見た感じ、生得領域で繋がってるのは変わらないっぽいから、天内が術式を使えば、傑の呪霊は再生をするだろう。

 それに、今の天内は、多分前より強い。

 

「お待たせいたしました……」

 

 料理が来る。

 天内のやつに、俺のパフェだった。

 さっそく、食べてみた感じ、普通に美味しいパフェだった。まぁ、そんなもんか。

 

「く……かわゆい……かわゆいのじゃ。食べるのがもったいない……」

 

 天内は、ポケモンの形に盛り付けられたドリアと、にらめっこをしていた。

 俺はスプーンを持ち替える。

 

「え? 食べねぇの? もーらいっ」

 

「ぎゃあぁあー」

 

 崩れたポケモンに、天内は叫び声を上げる。

 

「ぷは……。はは……っ」

 

「もー、悟……すぐそういうことする」

 

 拗ねたように、天内は言った。

 そんな天内に、俺は皿の上を指差す。

 

「見ろよ、天内! クク……そいつ、すごい顔だぞ? ハハハっ」

 

 俺の一撃で、ぐしゃっとなってかなりやばい。

 

「へ……? む!? ぷ……くはは……。きゃははは」

 

 へのへのもへじでもこうはならないだろう顔を見て、天内も笑い出した。

 けっこうツボだ。天内もそうだったから、かなりの時間、二人で笑い続けた。

 あー、笑った笑った。

 

 息を整える。

 

「そういや天内」

 

「なんじゃ?」

 

「俺のこと好きって言ってたけど」

 

「そうじゃな」

 

「俺のいいところ何個言える?」

 

 たとえば、美々子とか、菜々子だったら、全部でおしまいだった。憂太とか、恵だったら、強いでおしまいだ。

 

「おん? 強いのじゃ! あと、顔が良い。眼が綺麗じゃ」

 

「いいぞ天内!」

 

「なんだかんだで情に厚いところも妾は良いと思う。まぁ、なんというか……子ども相手にフレンドリーを履き違えてヤバい感じになってるが、その努力は素直に評価しようと思うのじゃ」

 

「もう一声!」

 

「ん……普段は結構アレじゃが、やってはいけないことの線引きが自分の中にちゃんとあるところじゃな」

 

「ナイスー!」

 

 俺、やっばり、けっこういいところあるわ。後で傑に自慢しよ。

 

 それはそうと、チラリと後ろを見る。

 気づかれていないと思ってるのか、さっきの福岡高専の学生二人が座っていた。

 

 今のやりとりに聞き耳を立てて、普通にデートしてるだけじゃん、私は帰るぞ、とか、ただの偽装デートかもしれないです。何を企んでいるのかわかりません、とか、そんな会話をしていた。

 暇なのかな。なにやってんだか。

 

「それなんじゃ? わたあめか?」

 

「ん? あげないよ?」

 

 天内は学生に気づいているのだろうが、気にも止めず、新しく来た甘味プレートに興味を向ける。

 

「妾のイーブイ一口食べたじゃろうに……」

 

「あぁ、まぁ、美味しかったかな」

 

 シロップをかけると、わたあめが溶けて中からポケモンが出てくる。あとは、普通の甘味プレートか。なるほど、けっこう面白いな。

 

 ま、それなりに楽しかったか。食べ終えて、なぜか甘味プレートではしゃいでいる福岡の学生を尻目に、会計をする。

 

「限定グッズ……在庫ももう少ないのじゃな……」

 

「ま、店やってるだけでもありがたいってとこか……」

 

 工場の問題か、輸送の問題か、単に売り切れ間近なのかはわからないが、グッズは少なかった。

 

 天内は、グッズを一通り見て、自分のスマホとグッズにあったスマホケースを見比べる。その後、スマホをしまってなにも持たずにこっちに来た。

 

「行くのじゃ」

 

「ん? 何も買わなくていいのか?」

 

「うん……」

 

 そういえば、天内は金持ってないんだったか。

 

「ちょっと待ってろ」

 

「のじゃ?」

 

 さっき天内が見てたスマホケースをレジに持って行って買う。

 

「ほら、やるよ」

 

「……っ!? 悟、優しいのじゃ」

 

 顔を明るくして、天内は受け取る。沖縄で、滞在時間を伸ばしたときもそうだったけど、わかりやすいやつだった。

 

「まあね。大事にしろよ」

 

「ありがとう。大切にする」

 

 なんとなく、気になる。いつもの仰々しいなのじゃ口調じゃなかった。案外、こっちの方が素なのかもしれない。

 

 

 

 ***

 

 

 

 コラボカフェに行った後、あれから、ホテルを取って、しばらくは休んでSwitchで遊んでから、夕飯を食べた。

 それで俺はシャワーを浴びて、次に天内が浴室に入って、まぁ、戻ってくる。

 

「悟、なにしてんのじゃ?」

 

「いや、暇だから制御の特訓。虚式同時使用のためにね」

 

 ベッドの上で、俺は『蒼』、『赫』、『翠』をそれぞれ複数個同時にだして、制御の限界を確かめていた。

 

「赤、青、緑。なんというか、緑の発光ダイオードができて、三原色全部揃ったみたいな感動があるの……」

 

「え? ダイオードって、青が最後じゃないの? ほら、ノーベル賞とってた」

 

「あぁ、あれなら、ま、そうじゃな。実はそれまでの緑のダイオードは、原色よりも黄色に近かったんじゃ。青の技術を応用して、プライマリーなグリーンができあがったわけじゃな」

 

「へぇー、詳しいな」

 

 相変わらずの天内だった。よく知ってる。

 

「というか大丈夫なのじゃ? 制御ミスったらホテルごと吹き飛ぶじゃろ? 憂太みたいな感じで」

 

「余裕、余裕。憂太みたいにはならないっしょ」

 

 正直、憂太が茈を暴発させてから、初めて指向性を持たない茈ってあんな感じなんだと、知ったくらいだ。

 

「そんなふうに鍛錬して、飽きないもんじゃな」

 

 天内は、俺の隣まで近寄ると、並んでベッドの上に座った。

 

「まあね。自分の可能性を試せるって意味でも、けっこう楽しいかな」

 

「そうじゃな。悟はそうじゃもんな」

 

 天内は少し呆れたように、そして感心するように言った。

 

「そういう意味じゃ、天内と話すのは、けっこう楽しいかな。新しい発想が試せるわけだし」

 

「そう言われると、なんかちょっと嫌じゃな……」

 

 複雑そうな顔で天内は言った。術式の話をし出したのは天内だろうに、嫌ならそんな話なんてしなきゃいいだろ。

 

「嫌って、どういうことだよ?」

 

「妾と話しても、けっきょく悟は自分で完結するんじゃ。それが寂しかったってだけじゃ」

 

「ふーん」

 

 天内の言う意味は、わかった。長い付き合いと天内は言っていたが、術式の関係もあってか、俺が他人にどう感じているかも筒抜けのようだった。

 

「あ、ちょっと待っておれ」

 

 天内は、ベッドから降りて、数歩だけ動く。そこには買ってから、ホテルの部屋に飾って置いておいたピカチュウのぬいぐるみがあった。こっちを見てる。

 天内の手で、ぬいぐるみは後ろを向かせられる。

 

「これでよし、と」

 

「いや、ぬいぐるみだろ? それ」

 

「それでも、目があると嫌じゃ。恥ずかしい」

 

 そう言う。天内は今、下着姿だった。

 

「服着ろよ。ていうか、俺はいいのかよ?」

 

「どうせ六眼でいろいろ見えてるんじゃから今更じゃろ。それに、服は一着しか持って来てないんじゃ。流石に寝るときまで着てとうはない」

 

 もともと一泊する予定だった俺は、着替えを預けてあったが、天内は違うようだった。

 それに、この天内の言い草だと、俺が常に覗きしてるみたいじゃねぇかよ。

 

「わかるのなんて、呪力だぞ? 呪力。ま、どんな体してるかはわかるけど、直に見るのとは違うっつーの」

 

「やっぱりわかるんじゃな……。そもそも、悟のかけてるそのグラサン、完全遮光で見えないじゃろ。直には見などせんくせによく言うのじゃ」

 

 そう言われてみれば、服を着ていようが着ていまいが、関係ないような気がしてくる。いや、やっぱ関係あるわ。

 

「つーか、グラサンの脇から見えたときはどうすんだよ。寝るとき外すし」

 

「善処するのじゃ」

 

「めんど。お前が善処しろよ」

 

 見られたくなきゃ相当に振るまえっていう話だった。そういうところで、他人に気遣い求めるかよ。

 

「そういえば、どうじゃ? 妾のプロポーションは。クク、大人になった妾はグラビアアイドルにも負けぬと思うのじゃが」

 

「ん? それはねぇんじゃね?」

 

 かけていたサングラスを持ち上げて、天内を見る。言われてみれば、昔のちんちくりんとは違うが、グラビアアイドルに勝っているかといえば、違う。

 

「にゃぁああ!? プロポーションは、グラサンあげずとも見えるじゃろ!! というか、そこはお世辞でも頷くべきところじゃ!」

 

「ぷ、ははっ」

 

 天内は、顔を真っ赤にして憤った。なかなか騒がしいやつだと思う。そうだ、天内はこういう奴だった。

 

「はぁ……。というか、悟。悟は、なんというか……女に入れ込むタイプじゃないじゃろ?」

 

「ん?」

 

「そこんとこ、実際どうなんじゃ? こう、からかわれるだけだと、恥ずかしがるのもバカらしく感じてくるもんじゃ」

 

 スンとなって、天内はそう聞いてくる。

 ちょっと考える。

 

「んー? なんつーかさ。生物として根本が違うっていうか」

 

「む……?」

 

「花に、自分をわかってもらおうとは思わないだろ?」

 

 こう言うのが、実際、しっくりくる。心の底から互いを理解できるとか、そういう関係っていうのは、できないだろう。

 

 そうしたら天内は、ベッドに腰をかける俺の隣に座わってくる。

 

「悟。そうやって、線引きして……ハナから無理だと決めつけるのは良くないじゃろ」

 

「実際、そんなもんだろ」

 

 諭してくる天内だが、俺は現実を見ているだけだ。

 

「案外、自分が思う以上に、自分のことは理解されてるもんじゃよ」

 

 天内は手を重ねてくる。天内が何故か漲らせた呪力に、無下限の不可侵が発動し、拒絶をするが、天内の呪力の特性が無下限を中和する。天内は手を重ねてくる。

 

「そういうもんかね」

 

「そういうもんじゃ」

 

 つい、重ねられた手に力がこもる。天内が普通の人間なら、手はどうなっていたか……呪力の動きから、天内の術式が発動したのがわかる。大丈夫みたいだ。顔色一つ変えていない。

 こういうとき、楽で良い。変わらずに手は重ねられたままだった。

 

「ま、俺はこのままでもいいけどね」

 

 

 

 

 ***

 

 

 

「これを妾だと思って大切にするのじゃ」

 

「嫌だよ。買ったの俺だし」

 

「むー。ああ言えば、こう言う……」

 

「そりゃあね」

 

 朝っぱらから、なぜこんなふうに言い争っているのかといえば、原因は天内にあった。

 

「もうすぐ妾はこの肉体を捨てる。里香に渡すのじゃ。ちょっとは妾のことを思い出してほしいじゃろ? だから、まぁ、記念の品じゃ」

 

 天内はこう言ってきかなかった。そうやって、俺にピカチュウのぬいぐるみを押し付けようとしてきている。

 

「里香のことなら、憂太がどうにかするんじゃねぇの? お前はそのままでいいだろ」

 

「ダメじゃ。ダメなのじゃ」

 

 こんな調子だ。

 受肉なら、適当に悪い奴捕まえてきて、それでいいと俺は思うんだけど、傑はそうじゃない。憂太もだった。

 

 なら、なおさら、天内が自分を犠牲にする道理もないはずだ。

 

「てかさ。肉体渡すって、自分の体であいつらイチャイチャするってことだろ? お前はそれでいいのかよ?」

 

「む……くぅ……手を繋ぐくらいなら……。いや、いや……」

 

 ピュアかよ。

 天内も恋人のスキンシップがわからないわけじゃない。その上での、この拒絶ようだった。

 

「嫌なら犠牲になるとか言うなよ」

 

「妾は死人じゃよ。誰かを助けるために自らが犠牲になる。そんな未練を背負って生まれた呪霊の女王じゃ」

 

 よくわからない使命感を天内は背負っている。それが俺には理解できない。

 

「つーか、傑には会ったのか?」

 

「会ってない。会わせる顔がないのじゃ……」

 

 気まずそうに天内は言う。天内がどうしてそんなにしょんぼりするのかわからない。

 

「よっと」

 

「のじゃ!?」

 

 天内の頭に手を置いて、『蒼』でワープをした。

 

「よ、傑」

 

「ん? 悟か。帰ってきたんだ。ちょうどいいところに……ん? ――っ!?」

 

 俺が連れてきた天内を見て、傑は驚く。天内は、おずおずといった様子で傑の前に出ていく。

 

「久しぶりじゃの」

 

「受肉……かい?」

 

 天内は傑から目を逸らした。

 

「身体を拾ってきたのじゃ。天元さまのところに行ってきたのじゃな。天元さまは妾の肉体を結界術の外郭として使うことで自我を保っていた。それをもらい受けてきた」

 

「そうか。よかった。……理子ちゃんは役割を果たせていたわけだね」

 

 安堵するような傑の言葉に天内は首を振る。

 

「別に妾の肉体がなくとも、天元さまはなんとかしたじゃろ。妾は役目を果たせなんだ」

 

 疲れたように笑って、天内は言った。そんなに、役目っていうのが大事だったのか……俺にはそれがわからない。

 

「それでも、理子ちゃんのおかげだよ。理子ちゃんのおかげだ。たった今、日本中の非術師から漏出する呪力を集めて、完成した」

 

「……っ!?」

 

「日本が戦争状態になってしまったおかげでもある。不幸中の幸いかな。これが果たされれば、もう天元はいらない。呪霊によって理不尽に命を奪われる心配もなくなる」

 

 傑が政権を取ったおかげで、呪力に籠る感情の指向性を操作しやすくなったことが最後のピースだったんだろう。

 これでようやく、全員を術師にできるというわけだ。

 

「そうなのじゃな……」

 

 もともとは天内の言い出した計画だった。そう切なげに呟く。もっと喜ぶんじゃないかと想像したが、違っていた。

 

「理子ちゃん?」

 

「妾のこと、恨んでおらぬのか……?」

 

 天内は言った。俺は天内に感謝しているくらいだし、天内を恨む理由が見当たらない。傑もきっと同じだろう。

 

「私たちが呪詛師になったことかい?」

 

「そうじゃな」

 

 そういえば、そんなこともあった。もう昔だし、些細なことすぎて忘れていた。

 

「私たちが選んだ道さ。私たちは最短を選んだ。そう、私たちが選んだんだ。そうだろう? 悟」

 

「ま、そうなるかな」

 

 今になって思えば、あそこから高専に戻るということもできたかもしれない。結局、俺たち最強だから、どこにいたって止められるやつらはいなかった。

 ま、今は最高に楽しいし、別にもうどうだっていい話だ。

 

「でも、妾は……そなたらに、殺させたじゃろ……?」

 

「あぁ、アレのことか。あれは縛りだったからね」

 

「それでもじゃよ。妾が望まなければ、罰を受ける必要はなかった。あぁ、殺させたのは妾じゃ。必要だと思った……でも、その結果がこれじゃよ……」

 

 記憶を捻り出す。たぶん、話してるのは盤星教の信者たちのことだろう。

 天内が、なにを悔やんでいるのか、俺にはまるで理解できなかった。

 

「必要って……それは?」

 

「傑は、あいつらを殺さないと……あのときあいつらを殺しておけばよかったと、一生後悔するハメになる……なる気がしたんじゃ……」

 

 天内の優しさだったのだろうか。あのときの俺も、そう、あいつらは死んでもなにも考えなくていいやつらだと感じていた。

 

「理子ちゃん。大勢の命より、私の後悔かい? らしくないな」

 

 少し考え込んで尋ねる傑に、天内は首を横に振る。

 

「傑の役割を考えた結果じゃよ」

 

「……っ! 私の役割……か……」

 

 その言葉に、傑はやや不服そうに肩をすくめる。

 天内が死んだ後、いくらか参っていた傑だった。あれがあったからこそ、新しい目標へと向けて一直線に踏ん切りがついたわけでもある。

 

 なんとなく感じていたが天内は、目的のために犠牲は仕方がないと割り切るようなドライなところがある気がする。

 

「あぁ、考えた結果じゃが……もっと良い選択があったのではと、思わざるを得ない」

 

 いや、そもそも呪霊となって意思薄弱な状態だった。まともな判断をできる方がおかしいと言える。

 

「なにもないよ。理子ちゃんが思い悩むようなことは、なにもないんだ」

 

 そんな傑の言葉に、天内は力なく笑みを浮かべた。

 

「妾は役目を果たせなかった。せめてもじゃ。この肉体は、祈本里香に渡そうと思う」

 

「そうか……」

 

 傑は頷く。

 それに俺は納得がいかない。

 

「傑。意味わかんねぇんだけど。アイツらのことは、アイツらがなんとかするだろ? 天内はこのままでいい」

 

「私は理子ちゃんの遺志を汲んであげた方がいいと思うんだ」

 

 イラつく。

 そういえば傑は、最後の最後で天内を天元のところに行かせたんだったか。

 

「いいんじゃ、悟。妾は、もういいんじゃ」

 

「よくねぇよ!!」

 

「……!?」

 

 天内がなぜそんなことを言うのか、俺には意味がわからない。

 

「天内! 沖縄のときも、昨日の福岡も、お前、楽しそうだっただろ? あれは、楽しんでたね。この六眼()はなくたって、それくらいわかる」

 

「…………」

 

「人生、もっと楽しみたいって、思ってるんじゃねぇのかよっ!」

 

「それは……」

 

 言いかけて、天内は言葉を飲み込む。俺の考えが間違っていないということはわかる。

 

「なぁ、天内!」

 

「私は……生まれてきていい人間じゃなかった」

 

「……?」

 

 少し、遠くを見るように、天内は言った。

 そんな天内の雰囲気は、今までと違う。

 

「ずっと……。そう、ずっと。息ができなくて……水の中からガラス越しに、みんなを見つめているような感覚だった」

 

「…………」

 

 呪霊として、過ごしていたときのことを言っているのか、なんとなく少し違うような気がする。

 

「私はここに居ていい人間ではないから、ならせめて、私が犠牲になるおかげでって……」

 

 そんなつまらない天内の呟きを、俺は遮る。

 

「傑、言ったよな? 天内が断ったら、同化はナシだって」

 

「あぁ、言ったね。でも理子ちゃんは同化を断らなかった」

 

「は? 傑。それ、マジで言ってんの?」

 

「マジもなにも、それがあの時のことだからね」

 

 わかってない。いや、傑のことだ。親友だ。わかってて言っているのだろう。これは俺にしか言えないことだ。

 

「――知ってるだろ? 俺、正論嫌いなんだよね」

 

「あぁ、そうだったね」

 

 傑は笑っていた。長い付き合いだ。俺がなにを言いたいかくらいはすぐにわかったんだろう。

 

「天内、同化はナシだ。俺が決めた。イヤって言いたくないなら言わせるし、言わないなら無理やり連れて行ってやる」

 

「でも、それじゃ……」

 

「お前がそんなことをしなくちゃいけない理由も、仕組みも、俺たちが全部ぶっ壊してやるよ。それでいいだろ? 傑。だって俺たち、最強だし」

 

「ははっ……言うね、悟。なら、私も少し張り切ろうか」

 

「バカじゃ。悟は大馬鹿じゃ。他人の意思くらい尊重するんじゃ」

 

「ヤダね」

 

 泣いて、天内は言った。俺が決めた。もう天内がなにを言ったって関係ない。

 

「さ、始めようか。全日本人の術師化……天元の結界を利用した儀式になる。来たる十二月二十四日、我々は百鬼夜行を開催する!」

 

 

 

 ***

 

 

 

「今は天元の結界は私たちが抑えて、死滅回游に使用させてもらっている。全国民の術師化は、これで死滅回游を終わらせない限り不可能になったわけだ」

 

 東京、新宿。

 そこに突如現れた結界の内、ビルの屋上、数人の影が見える。

 

「まさか宿儺。君が私に頼ることになるなんてね」

 

「ふん、黙って集中していろ。……来るな」

 

 呪詞、掌印、舞、楽。可能な全ての手順を行った庵歌姫の術式、『単独禁区』により、宿儺の呪力総量、出力は一時的に百二十パーセントにまで高められる。隣には尺八を奏でる裏梅がいる。

 

「〝龍鱗〟」

 

「〝反発〟」

 

「〝番いの流星〟」

 

 掌印、呪詞、それら全てを省略しない。その出力は、二百パーセントにまで達する。

 世界を断つ――、

 

「『解』!!」

 

 死滅回游。その結界に侵入した際に起こる強制転移。

 宿儺の見据えるその先に現れたのは――( )

 

 ――五条悟。

 

 羂索の卓越した結界術により隠された呪力。それにより、結界内に転送されてきた五条悟は、宿儺の初撃を見誤る。

 

「〝位相〟 〝因果の連環〟

   ( )〝悠久〟     ――」

     

 ――術式輪転『翠』!!

 

 高速で呪詞を唱えた無下限の『翠』による術式の消滅。

 この世界を断つ『解』に対抗するため、算段があった。

 

 

 

 ***

 

 

 

 天内は中心にバツ印を書く。これが俺ってことだろう。

 そして、それを円で囲った。

 

「宿儺の空間を切る斬撃は、要するにベタ塗りじゃの」

 

「あー、ま、そうか」

 

 ペンでなぞって塗っていくんだったら、中心へは無限に時間がかかって色を塗れない。だけど、ベタ塗りなら、指定した範囲内の色を塗るという機能で、囲んで仕舞えば無限の内側だろうとも色が変わる。

 

「今、悟は、この紙を歪めることでベタ塗り攻撃に対応しているわけじゃな」

 

「そうそう」

 

 もともと無下限は時空間に干渉する術式だ。最初は驚いたが、タネさえ分かってしまえば、ある程度対応はできる。

 

「こうして、しまうのはどうじゃ?」

 

 天内は、俺を囲う円の内側に、もう一つ円を書く。確かにこれなら、ベタ塗りは、ドーナッツ型にしか塗られないというわけか。

 

「そういう対策ができそうってのはわかったけど、どうすんの?」

 

「『翠』で弾くのじゃ。見た感じ、あれは術式効果を無効にするパワーがあるようじゃから、この内側の線になり得る」

 

「なるほどね。ま、今度、宿儺みたいな方法で不可侵が突破されそうだったら試してみようかな」

 

 

 

 ***

 

 

 宿儺の空間を断つ『解』。それは『翠』により、防がれたかのように見えた。

 

「マジか……!?」

 

 ただ、宿儺のその幾重にも重なる斬撃は、十二分に力を発揮した『翠』でも受け切れない。

 

 右腕を、五条悟は切断される。

 

「思い違いをしているのだろう? 貴様らが俺に挑む側だぞ」

 

「負けておいてよく言えるなぁ! 宿儺ちゃん?」

 

 会話の中、五条悟は自らの右腕を反転術式により、修復させる。

 

「ふ……ッ」

 

「不意打ち当てて、喜んでんのか? こんな舞台も用意して、正々堂々これないって? いや、負けるからできないんだっけ?」

 

「おっと、すまんすまん。風情のないことをしてしまったな。これは、詫びだ」

 

「あ……?」

 

 宿儺は、弓を引くように構えを取った。今までに見たことのない動作に五条悟は宿儺の意図を考えあぐねる。

 

「構えろ。まずは火力勝負といこう。五条悟……貴様の新たな力、試してやる」

 

「お、いいねぇ。なるほど。じゃ、極ノ虚――」

 

 くしくも、呪力が高まり切るのは完全に同時だった。

 

「『■』――『(フーガ)』」

「『 』――『無』( アカーシャ )

 

 二つの光に、世界は分たれる。

 

 






登場人物紹介

理子ちゃん(懐玉―拾弐―)
強引なのも悪くないかも。

五条悟
諦めない心がある。

夏油傑
理子ちゃんの生き方に共感したから引き留めなかった。だけど、あえて行かせる理由もない。

竜胆サキ
福岡分校の生徒。あんまり強くない。コラボカフェで盛り上がってた。

結木海斗
福岡分校の生徒。五条悟知ってた。コラボカフェで盛り上がってた。

羂索
結界術係。

庵歌姫
バフ係。羂索に連れられて退避した。

裏梅
音楽係。なんとなく近づいてみたけど、余波で瓦礫に埋まった。五条悟め……。

両面宿儺
使えるものを全て使って頑張ってる。



色サンプル

日下部篤也、対戦相手は?

  • 五条悟
  • 夏油傑
  • 乙骨憂太
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