昼「ははは・・・」
主「主、主人公のリクオさんはちゃんとデテマスヨ?」
久遠飛鳥は不正を嫌った。
昔から、比較的良識のあった飛鳥は努めて正しきことをしてきたつもりだ。
自身が大財閥という巨大な権力を持った家に生まれたからか、それとも自身の『力』を無意識に理解していたからなのか。
力に溺れ、私利私欲を尽くすことはなかった。
だが、自分は十何年しか生きていな小娘だ。
全く間違いがなかったわけではない。
自身の力を知った時、間違いに気づきそれからできる限り客観的行動した。
もし、未だに元の世界にいたとすれば、いずれ自分を抑えた感情のない機械のような生活をおくっていただろう。
そして、異世界に来て目の前で膝をついた状態から動くことができない大男・・・ガルドを見る。
彼がコミュニティのリーダーだというならば、答えてもらおうではないか。
今までにいくつも組織のトップ見てきた経験とさっきから感じる違和感に。
・・・断った後ではあるが、誘うからにはガルド自身も自分のコミュニティについて『全て』語るべきだろう。
場は再び騒然とするなか、いち早く止めたのは驚きの表所を浮かべた猫耳店員だった。
「お、お客さん!当店での揉め事は───」
「ちょうどいいわ。店員さんにも第三者として聞いて欲しいの。・・・多分、面白いことが聞けるはずよ」
そんな店員を証人として、飛鳥は改めてガルドに確認するように問いかける。
「貴方はゲームによってここ一帯を支配するまで大きくなったそうだけど・・・、主催者権限も無いのにどうやってそのゲームを挑ませたの?『自身のコミュニティをかける』なんてよっぽどのことがなければ受けないんじゃないかしら?」
この世界で主催者権限を持つ魔王が恐れられているのは、どんなにリスクが高いゲームであろうとゲームとして『成立』しているなら挑まなければならないという強制力故だ。
単体でどれだけ優秀であろうと、どれだけ強力なギフト持っていようとも『魔王』ではない。
極端に言ってしまえばゲームを受けなければいいだけだからだ。
チラリと横目で魔王に壊され、それでも『かつてのコミュニティ』を残し続けてきたジンを見る。
飛鳥はこの世界の人々にとってコミュニティという組織は、場合によっては命を賭けてでも守るほど大切なものではないのか、と予想する。
自分は別世界の人間であり、彼らと同じ価値観を持っているわけではないから完全に理解できるとは言えない。
それでも、こんな年端もいかない少年がここまで入れ込むだけの価値があるものだということはわかる。
飛鳥の力により、ガルドは本人の意思と関係なく真実を語った。
「・・・ほとんどの奴らはそんなゲームは絶対に、それこそ魔王に挑まれでもしない限り受けない。だがやり様はいくらでもある。支配下にある連中を使ってゲームを受けざるを得ない状態にする、一番簡単なのは相手の女子供を攫って脅迫することだ。影響力が増してくれば頑なな奴らも生活のためにゲームを受けるしかなくなる。」
飛鳥の予想通りではあるが、ここまで絵に書いたような悪党が実在するとは思わなかった。
その告白を聞いていた全員が驚きの表情を浮かべたあと、嫌悪の眼差しを向けた。
そんな中、黙って様子を見ていたリクオはそっと席を離れガルドの前で立ち止まった。
どんなことを言われても怒りそうになかったリクオから飛鳥以上に鋭い視線を向けられたガルドは動かないはずの体が震えるほど、恐怖した。自身に眠っていた本能が激しく警鐘を鳴らしている。
「確かに恐怖による支配は存在する。けどそんな風に傘下に加えても、従い続けるはずがない・・・。何か・・・、そう、永続的に従わせる『理由』があったはずだ」
そして放った言葉はまるで、「そういうこと」を知っているかのような断定だった。
飛鳥の力による強制ではなく、リクオからにじみ出る得体の知れなさを『畏れ』、気が付けば何かわからないまま最後の言葉を告げていた。
「人質だ・・・。各コミュニティから数人ずつ子供を人質として取っている。」
「・・・その子供達はどこに?」
子供、と聞きリクオの声がさらに低くなっていく。
「こ、殺した。最初の何人かは勢いで殺したが・・・、それからは世話する手間も省けると思って全員殺して処分した。」
「そうか・・・」
ジンや耀、飛鳥でさえ体が震え目が離せなくなるほどのプレッシャーを放っていたリクオはその気配を急に霧散させ飛鳥を振り返った。
いつもどおりのどこか困ったような笑顔を向けられた飛鳥は僅かに動揺したが、持ち前のプライドで平静を装った。
「飛鳥さん」
「・・・!なにかしら、リクオ君」
「ガルドの『これ』解いてあげてくれない?」
「はぁ?貴方わかってるの彼は───」
「お願い」
真摯な態度でそう懇願された飛鳥は、どうなっても知らないわよ・・・とため息をつきながらパチンとその指を鳴らす。
それを合図に強制力が消え、体が自由に動くことに気づいたガルドは先ほど感じていた恐怖を理性で振り払い、自身よりはるかに華奢な少年少女にいいようにされたいう怒りを燃料に全身を奮い立たせた。
ただでさえ張り裂けそうだったタキシードは破れ、体毛には黒と黄色のストライプ模様が浮かび上がり獣を思わせる巨大な咆哮をあげた。
「このガキどもがァァァァァ!!俺がどこの誰かわかってんのか!?箱庭第六六六外門を守る魔王を後見人に持ちこの二一〇五三八〇外門を支配する"フォレス・ガロ"のリーダー、ガルド=ガスパーだぞ!!」
「へぇーそれは大変だね。・・・組織の頭がこんなんじゃ、烏合の衆っていうのも間違ってないかもね。」
今すぐにでもその見た目通りの人外の筋力をもって叩き潰されてもおかしくないというのにリクオは、まるでこの程度は危険でもなんでもないかと表しているかのように落ち着いていた。
そして、ゆっくりと片手を服の中にいれ自然体を保った。
ジンが心配そうに見つめ、飛鳥が見守り、耀はいつでも助けに入れるように腰を浮かせた。
ガルドは馬鹿にしていると感じ、怒り、その巨体に見合わない俊敏さををもってその拳を振り下ろし、リクオを潰そうとした・・・・・・瞬間
ゾクッ
「───!!!」
何かが首に触れているような感覚と死を恐れる本能がその体の動きを止めた。
理性が抑えきなかった、獣だった頃最も頼りにしていた本能。
無言のまま、ゆっくりと下を向くと、さっきまで拳の先にいると思っていたリクオがいつの間にか自身の懐におり、あと少しでも体を沈んでいればその刃がこの首を切り裂いていただろう位置で刀のような刃物を握っていた。
「・・・!」
「へぇ・・・。獣の本能のおかげかな?けど、それならこっち、だ!」
「くっ!」
此の身はただの獣でも、ましてや人でもない。
ただの刃物で致命傷を受けるほどヤワな体ではない、そう、ガルド自身理解しているつもりだ。
だが、この
獣の本能だけでなく、第六感が強い忌避感を覚え傷つけられることを恐れている。
固まったまま動けずにいたガルドを大振りの蹴りが襲った。
倒れはしなかったが、リクオの予想以上に強い脚力によって数歩分後ずさった。
人の良さそうなリクオという少年の豹変に最も驚いたのは、この中では一番一緒にいた時間が長い飛鳥や耀であった。
ここまでの道中常に自分達のストッパーとなり、暴力的なことなど知らない人間かと思っていた。
だが実際は逆だ。
リクオは暴力というものを正しく理解し、『正しく使おうとする側』だ。
そしてガルド=ガスパーという男はリクオにとって触れてはいけない『何か』に触れたのだ。
「ガルド。リーダーっていうのは、『頭』っていうのは確かに支配することによってなることもできる。だけど・・・、それは頭が強者ならの話しだ。その力を恐れられながらも、支配されていれば安心を得ることが出来る。他のコミュニティ(組)に負ける心配をがない。そう思わせられる頭がいてこそ成り立つことだ。・・・僕のかつて出会ったある男は恐怖によって世を平定できるほど強大だった。そいつは人を人とも思わない極悪人ではあったけど、人質なんて取るまでもなく『怖れ』られていた。」
「な、何が言いたい!」
リクオはかつて互の畏れをかけ百鬼夜行をぶつけ合った『あの男』とその男に付き従っていた敵の姿を思い起こす。
そして目の前にいる人とも獣とも言えない『弱い』相手を見つめ、
「君はリーダーの器じゃなかったんじゃないかな。」
「貴様ァ・・・、貴様ァァァ!」
さっきまでとは一転して人を食ったような笑みを浮かべたリクオに対して、ガルドの怒りは振り切れた。
未だに危険を伝え続けている自分の勘を押しつぶし、今度こそその剛腕を持って目の前にいるいけ好かない小僧を屠ろうとした。
「これ以上は、ダメだよ」
「そうね。途中からリクオ君に全部持ってかれちゃったけど、あなたの敵は彼だけじゃないのよ?つまり、全面戦争だっていうなら私達も加わるけど・・・いいのかしら?」
振り上げようとした腕は耀に掴まれるだけ動けなくなった。
元来が獣であるガルドにとって腕力というのは最も自信のあるわかりやすい力だ。
それが、その華奢な腕から想像できないほどのより大きな力によって押さえつけられている。
そして、飛鳥の言葉を受け歯を食い縛る。
まだリクオに関して言えば「あの刃」に触れさえしなければなんとかなるかもしれない。
だが、他の二人はギフトのうえで間違いなく『格上』だ。
純粋な筋力では耀に負け、飛鳥の「命令」については打つ手がない。
リクオはそんな風にガルドを押さえ込んだ二人を見て、どこか驚いたような納得したような表情をした。
「ははは・・・。流石だね」
「笑ってる場合じゃないでしょう。あそこまで煽るなんて・・・、ちょっと無謀じゃない?」
飛鳥はリクオに呆れたような声をかけた。
さっきは謎の「得体の知れなさ」を感じて動けなくなったが、飛鳥から見たリクオという少年は基本的に人が良い性格で、身体能力も悪くなく、なぜか刃物の扱いにも慣れているといったものだ。
しかし、いくら身体能力がいいと言っても、あくまで人並み以上。
十六夜や春日部ほどぶっ飛んだ性能であるわけではない。
故に、不意打ちでならさっきのように相手をできるかもしれないが、ガルドのような人外の存在との直接戦闘は難しいと考えたのだ。
・・・『夜』には比べられないが『昼』であっても「人外」との戦いに、問題児達の中で誰よりも通じているのはリクオだが、それを知る者はいない。
「・・・確かに、ちょっと無茶したかもね。また『夜』に文句言われそうだよ」
「何かいったかしら?」
何でもないよ、と返しながら未だに耀に抑えられながらもこちらを睨みつけているガルドをみる。
明確な目標もなく、ただコミュニティを大きくするためだけに悪事を働いてきた外道。
誰かが罰しなければ、罰せられなければならない。
「ジン君。こういう悪党が裁かれるところはある?」
「え、あ、はい。もちろんありますよ。彼が行なったのはこの箱庭でも違法なことです。・・・・・・ただ、裁かれるまでに箱庭の外に出されしまうと、それまでです」
「そうか・・・。なら、やっぱり『郷に入れば郷に従え』とも言うし、箱庭流に決着を付けようか」
「箱庭流?」
そのいいように嫌なものを感じながらジンは聞き返す。
それに対してリクオは、返答代わりのようにガルドに対して宣戦布告する。
「ゲームをしよう。"フォレス・ガロ"と"ノーネーム"で、君の大好きな『ギフトゲーム』を。」
ガルドは驚愕の表情を浮かべ、飛鳥と耀はうんうんと頷き、ノーネームのリーダーであるはずのジン=ラッセルはくらくらする頭をおさえ空を仰いだ。
(先に謝っておくよ。ごめん、黒ウサギ・・・。)
夕暮れ時に十六夜を連れた黒ウサギが帰ってきた。
十六夜の奔放さに困ったもの感じながらも、得られた「水のギフト」にホクホク顔をしていた黒ウサギだったが、自分がいない間の出来事を聞いて固まった。
呆然とした様子でリクオに問いかける。
「う、嘘ですよねリクオさん?皆さんが私を騙そうとしているドッキリなんですよね・・・?」
「ごめん、黒ウサギ」
本当に申し訳なさそうな顔で謝るリクオとジンを見て、事実として起こったことであると受け入れる。
初ゲームがこの辺で一番大きなコミュニティとの本気のギフトゲームになるなんて予想できるわけもない。
ゲームの内容、賭けるもの、賞品が書かれている"
さらに相手本拠地で行われるため圧倒的に不利なゲームとなることは間違いない。
暗い気持ちになりかけていた黒ウサギは、ふと、黙って面白そうに成り行きを聞いていた十六夜に気づいて安心したような声を上げた。
「考えてみれば"フォレス・ガロ"程度なら十六夜さんお一人で十分ですよね。はぁ~、これで一安心です。」
「何言ってんだ。俺が出るわけないだろ」
「当たり前よ。当事者たる私達だけ十分だわ!」
二人の憮然とした否定の言葉を聴いて、え?と、再び固まった。
無理矢理意識を再起動させた黒ウサギは、慌てて説得のための言葉をかけたが、
「待ってください!御二人は共に戦うコミュニティの同志なのですよ?」
「あぁ、確かに俺達は同志になるんだろうな。・・・けど、それとこれとは話が別だ。この喧嘩はこいつらが『売って』、そのガルドって奴が『買った』喧嘩だ。それに部外者が手を出すなんていうのは無粋ってもんだ」
だから俺は参加しない、とにべもなく断られてしまった。
筋が通っていなければ全く動こうとしない、そんな十六夜の姿に『夜』の自分と同じ頑固さを見たリクオは苦笑しながら、
こういった手合いはテコでも動こうとしないだろう。
それはリクオ自身が一番よく知っていることだ。
「黒ウサギ、ガルドっていう男はどうしても許せないんだ。僕やジン君、そして飛鳥さんや春日部さんもそれを強く感じた。あれだけの悪行を行った相手が何の罰もなく暮らしているなんていうのは箱庭だろうと、箱庭の『外』だろうとダメだ。だから、お願い。やらせてくれ。」
「リクオさん・・・」
その言葉を受けて、改めたてガルドの行ったことを思う。
以前から"フォレス・ガロ"の悪評は聞いていたが、ここまで酷いとは思っていなかった。
何の罪もない子供達を人質としてコミュニティを賭けたゲームを強制的に受けさせていただけならまだしも、その子供達を殺してしまっている。
子供達が大切だからこそ、ガルドに従ってきたコミュニティが不憫でならない。
事細かに聞いた話では、耀は真正面からガルドを押さえつけ、飛鳥は終始そのギフトをもって圧倒していたらしい。
リクオは、自身の口から『荒事』には慣れていると語り護身刀を見せてくれた。
(リクオさんは話に聞くほど戦えそうには見えませんが、どうやらあの刀は何らかの加護があるようですね。それに皆さんで挑むなら大丈夫でしょうか?)
頭の中で3人の評価とガルドの実力を考慮した上で判断すれば、十分勝機のあるゲームだ。
ギフトゲームへの挑戦に一応の理解を示した黒うさぎは、一つため息をついたあと念を押すように、
「・・・分かりました。けど、自身の体の安全だけは気を付けてくださいね?皆さんの身に何かあったら、黒ウサギは怒りますからね」
見るからに心配しているというオーラをだして言われた3人は強く、頷いて見せた。
だいぶ日が落ちてきた中、ジンに先に本拠へ帰るよう促した黒ウサギの提案により『ギフト鑑定』を行っている超巨体商業コミュニティ"サウザンドアイズ"に行くことになった。
曰く、「ゲームが明日なら、自身のギフトを理解し、より力を引き出すことが勝利へつながるはずデス!」らしい。
一人を除いた全員がそれぞれ思いは違ってもギフト鑑定に乗り気だ。
唯一の例外であるリクオは黒ウサギ達に着いて行きながら、重大なことに気づいた。
(・・・ギフト鑑定って、どういう事が知らされるんだろう?もしかして、これは「妖怪」だってばれちゃう?いや、けど、これから一緒に過ごすわけだし早めに知ってもらったほうがいいのか・・・・・・。そもそも黙ってる必要もない?いっそ先に自分で言ったほうが・・・?けど、『昼』は人間だし───)
3人が異なる世界から来ているという話しを聞いているときにも思考の中に埋もれ、結局"サウザンドアイズ"の旗を掲げた店に着くまで考え続けていた。
目的の店は営業時間がちょうど終わるところだったようで、真面目そうな店員からは時間外営業はしていません、と取り付く隙もないほどきっぱりと断られた。
それでもどうに入れてもろうとした黒ウサギだったが、逆に店仕舞をしていた店員から身元の確認として「名」と「旗」を尋ねられ、「うっ・・・」と言葉に詰まった。
これが旗も無く、名も無いコミュニティ"ノーネーム"の現実だ。
身元の確かでない客の相手はしない、店側が大手のコミュニティとなればそれは顕著だ。
そうして、言葉もなく困り果てていると、黒ウサギにとっては恩人でもあり天災でもある白髪の幼女が店の奥から飛びかかってきた。
「イィィィヤッホォォォォォ!会いたかったぞ黒ウサギィィィィ!!」
「きゃあああ!」
走ってきた勢いまま飛びついてきた幼女の衝撃によって黒ウサギはきりもみになりながら転がっていき、そのまま浅い水路に落ちていった。
十六夜が、因果応報だな、と自分達がこの世界に召喚された時のことを思い出しながら笑っていると、どうにか立ち上がったらしい黒ウサギが自分の胸に顔を押し付け、だらしのない笑みを浮かべている幼女を見て驚愕の叫びをあげた。
「し、白夜叉様!?どうして貴女がこんな下層に・・・・・・。って、いい加減に離れてください!!」
離れる様子を全く見せない白夜叉と呼ばれた幼女を黒ウサギ頭を掴むことで引き剥がし、店に向かって投げつけた。
「おっと」
「わ!」
その進路上にいた十六夜はさっと身をかわし、未だに考え込んでいたリクオはとっさにキャッチしていた。
「ふむ。あっちの輩のように避けなかったことは評価しよう。だが、なぜ上下逆さに持ったままなのだ。・・・・・・襟を掴むな、私は猫か何かか?」
「あ、すみません」
キャッチしてしまった幼女をどうしていいかわからなかったリクオは、そっと地面に立てらせた。
満足気に頷き、改めて黒ウサギが連れてきた来訪者を順に見つめる。
ニヤニヤと面白いものを見るような視線を向けられた飛鳥は、一連の流れに驚きながらも白夜叉に話しかけた。
「貴女は店の人?」
「広い意味で言えば店の者だがな。私は四桁の門、三三四五外門に本拠を構えている"サウザンドアイズ"の幹部をしている白夜叉だ。この黒ウサギとは少々縁があってな。こうしてコミュニティ崩壊後もちょくちょく世話を焼いている。ま、器の大きな美少女とでも認識しておいてくれ」
「・・・確かにお世話になっていますが、その分いろいろと苦労もかけさせられていますがね」
曇りのない笑顔で自己紹介した白夜叉に、どこか遠い目をした黒ウサギがツッこむ。
そんな様子を見ていた十六夜は、白夜叉に凶暴な笑みをむけ
「へぇ・・・。上層のコミュニティの主力ってとこか。じゃあ少なくとも、あの蛇神よりは強いんだろうな?」
「蛇神?」
首を傾げた白夜叉に対して、視線を僅かにそらす。
その視線の先には、黒ウサギが大事そうに抱えた水のギフト・・・・・・十六夜が世界の果てでゲームに勝利した証明でもある『水樹』があった。
それ目にした白夜叉は興味深そうな表情を浮かべた。
「ほぅ、私が神格を与えたアレに勝ったのか。一体どのようなゲームに勝利したのだ?」
「ゲーム・・・・・・ってより、ただぶっ飛ばしただけだぞ。」
「なんと!?それは、また・・・。」
神格持ちを倒すことができるのは、同格の神格を持つ者か、種としてのパワーバランスが余程崩れている場合だけだ。
そのどちらにも当てはまらない十六夜の『イレギュラー性』を感じた白夜叉は、どのようなギフトを持っているのかが、気になった。
一方十六夜はそんなことよりも、自分が倒した蛇神に神格を与えたという白夜叉がどの程度の実力であるかが気になった。
「それで、この箱庭であんたはどの程度なんだ?」
「私の実力か?そうだな・・・、この東側四桁以下のコミュニティに並ぶ者のいない"
軽薄そうな笑みを浮かべていた十六夜は、『最強の主催者』という言葉を聞き、隠そうともしない闘争心を白夜叉に向けた。
自らの力がこの箱庭でどの程度なのか、どこまで行けるのかを確かめるために来た身としては、是非とも『最強』を相手に自分を試したい。
それは同じ言葉を聞いていた、飛鳥や耀も同じようでその目に「挑戦」の意思を示した。
その視線の意味するところに気がついた白夜叉は実に楽しそうに笑った。
「み、皆さん?一体何を」
「ハッハッハッハ!面白いではないか、黒ウサギ。お主の連れてきた者達は。私自身刺激に飢えておるからな。・・・ん?そこの着物のは良いのか?」
「・・・・・・まぁ。流石に勝てる気がしないので遠慮しておきます」
最初は気が付かなかったが、この白夜叉という存在からはリクオにとって相性の悪い『陽』の力を感じる。
それは、本人にその気がないにも関わらずに漏れ出している力の一端に過ぎないだろうが、その濃度はまるで『太陽そのもの』のようだった。
リクオが自身の力を感じた上で挑戦しない選択をしていると知ると、白夜叉はまた別の意味で感心したように笑った。
他の三人からは僅かに残念そうな空気がリクオへ向けられたが・・・。
「よいよい。挑む『勇気』、挑まぬ『勇気』どちらも大事なことだからな。未知が相手なら尚更な。・・・・・・さて、ゲームの前におんしらに確認しておくことがある。」
強者たる力とそれに裏付けられた自信をもつ白夜叉は余裕の表情を持って、自身の着物の裾から一枚のカードを取り出した。
"サウザンドアイズ"の旗印である向かい合う双女神の紋が刻まれたカード。
そして、見る者に『畏れ』を与える壮絶な笑みで問い掛ける。
「望むのは
「「「「───っ!」」」」
白夜叉の言葉とともに言い知れない『力』がその体より溢れ出し、圧力となって十六夜達を襲った。
まるで『世界そのもの』が動いているかのように、視界が暗転し、荒野が、草原が、雪と氷に覆われた銀世界が、現れては消えていく。
その光景にはなんの脈絡もなかったが、全てが見たこともない場所であり、風景であった。
全員が一切身動きの取れない中、リクオはその不可思議な現象に
妖怪が自身の力を開放し、存在を一段階高める事によって不可思議な現象を起こす畏れの発動・
今、リクオが体験している世界の異変はそれに似ていた。
だが、同時に二つは違うものであるとも感じた。
そう感じたことで、白夜叉への認識を改める。
目の前の相手は『妖怪』ではなく、別の次元を生きる『神仏』に連なる存在であると。
「・・・すごい・・・・・・」
誰が呟いたことだったのか。
その一言に全ての想いが凝縮されていた。
いくつもの場所を魅せられ、最終的に白い雪原と凍る湖畔───そして、この世ではありえない『太陽が水平に廻る世界』に連れてこられた十六夜達。
箱庭に来た時のように別世界に連れてこられたわけではなく、まるで今、世界が一つ創り出されたかのようであった。
そんな『奇跡』に唖然として立ち尽くす3人に白夜叉はもう一度問いかける。
「どうする?"挑戦"ならばそれなりに楽しんでもらおう。だがしかし、"決闘"を望むと言うならば・・・・・・私も『魔王』の名にかけて、誇りと命の限りを尽くし闘おうぞ」
ただ、"主催者権限"を持っているだけではない。
個人で戦おうと思うのがバカバカしいと思えるほど強力な力を持つ存在。
『これ』が"魔王"だ。
そう白夜叉に言われているようだった。
箱庭の貴族である黒ウサギをもってして『問題児』と評された3人は、沈黙をもって返したが、それでも自分達が喧嘩を売った相手との実力差を正しく理解していた。
いや、さっきの一瞬に
幾ばくかの静寂の後、3人の中でも一番の問題児であることを自他共に認めている十六夜が諦めたように笑い、・・・・・・両手を挙げた。
「参った参った。降参だ、白夜叉」
「ふむ?それは決闘ではなく挑戦でいいということか?」
「ああ。これだけの
「十六夜君・・・」
「くくく。おんしにしてはなかなか可愛らしい言い様ではないか」
たとえ意見を曲げることになっても、そこは逆廻十六夜だ。
あくまで、不遜な態度は崩さなかった。
そんな意地の張り方に、リクオは苦笑し、白夜叉は腹を抱え大いに笑った。
飛鳥や耀も苦々しいい表情をしながらも、十六夜と同じ返答をする。
その様子をハラハラしながら見ていた黒ウサギはホッと胸をなでおろした。
「もう!皆様、少しはリクオさんのように分別を身につけてください!喧嘩を買う"階級支配者"なんてのも問題ですが、売る新人なんてもっとありえないです!それに白夜叉様が魔王だなんていったい何千年前の話てすか!!」
「・・・ん?じゃあ、元魔王様ってことか?」
黒ウサギの言葉を軽く聞き流していたた十六夜だが、最後の『何千年前』の部分で首を傾げた。
実際に"魔王"として恐れられていた時期があり、そして今は一コミュニティの幹部をしているということだろうか?
当の本人は、「さて、どうっだたかな?」と明確には答えず、悪戯っぽく笑っているだけだったが。
リクオは、白夜叉が元魔王であるということに妙な納得を感じていた。
これ程の力を持っていれば魔王のイメージにもぴったりだ。
ゲームをすることにはなったが、やはり白夜叉が「直接」試すわけではないらしい。
それでも、人が想像する幻想種"グリフォン"を相手にしたゲームとなると、挑戦しないと言ったリクオとしても気になった。
様々な妖怪に出会い、共に過ごしてきたがグリフォンは見たことも、「存在する」ということを聞いたことがない。
この
姿に変化は現れないが、それでも心の奥底からやってみたいという気持ちが沸き上がってくる。
もし、(ありえないだろうが)3人のうちに積極的に挑戦しようとする者が現れなければリクオが手を挙げていただろう。
誰よりも早く、真っ先に手を挙げたのが3人の中では比較的大人しい方の耀であったことには驚いたが・・・
「大丈夫?春日部さん」
「大丈夫、問題ない。・・・・・・私にとってこれは『夢』の一つだから。」
「夢、か・・・。なら、頑張ってね」
うん、と頷きグリフォンへ向かっていく耀の背中を見つめる。
自分の気持ちも大事だが、それ以上に耀の体を心配して話しかけた。
しかし、あんな輝くような瞳で「夢」なんて言われたら、引き下がるしかない。
それに、リクオは耀の目から勝機があると感じた。
命を捨てるでもなく、足元が見えなくなっているわけでもない。
『勝機がある』うえで、『覚悟』をもって挑むというなら自分にできることはその背を押すことだけだ。
(まぁ、本当に危なくなったら・・・・・・全力で助けよう)
今の自分はほぼ人間そのままだ。
できることなど身を挺すことぐらいだろう。
それでも誰に言うでもなく、心の中で誓う。
誇り高き「人間」の彼女を助けよう、と。
耀がグリフォンの背に跨り、その手綱を握る。
そして、グリフォンが大地を蹴り耀と共に空へ駆けていく。
今、『最初』のギフトゲームが始まる。
夜「・・・・・・おい、夜のはずなのになんで『昼』がこんなに出てるんだ?」
昼「なんか太陽が出てるから・・・」
十六夜「あれ?俺もうゲームやってね?」
主「※この作品の主人公はあくまでリクオさんです。リクオさん視点だとこれが初ゲーム」
次回は、ギフトネームの予定