予定より時間がかかったけど、内容が時間相応かというとお察し。
もうちょっとなんとかなりませんかねぇ・・・?
白夜叉によって用意された獅子の身体と大鷲の翼を持つ"グリフォン"とのギフトゲーム。
それを誰よりも強く望んだ耀は、自身のギフトをもってグリフォンと会話し、自身の命を懸けることでゲームを単純な我慢比べにした。
『この場所を飛び立ち、山を越え、再びここに戻ってくるまで耀がグリフォンの背に跨っていれば勝ち。耐えられずに耀がその背から落ちれば負け。』
単純明快。
しかし、負けは死ぬことを意味する。
普通なら、体を震わせて死の恐怖に怯えながら必死にしがみついていただろう。
だが、風を切りながら加速していくグリフォンの背で春日部耀が思ったことは全く別なことだった。
まだ体が動かなかった頃、大好きな父が語ってくれたおとぎ話。
グリフォンは翼で飛んでいるのではなく、空気を踏みしめるようにして翔る。
子供の頃の耀は父の話が大好きだったが、心のどこかで自分は見ることもできないだろうと諦めていた。
それを今自分は体験し、体感している。
父の話が本当だったと思うと同時に、この『出会い』をくれた箱庭と黒ウサギに感謝する。
(ありがとう黒ウサギ・・・。黒ウサギのおかげでお父さんと同じ体験できたよ。───だからこそ、このゲーム、私が勝つ!)
最後まで自分の身を案じていた黒ウサギの度肝を抜いて安心させてやる。
そんな思いを胸に秘め、駆けていくグリフォンにしっかりとしがみつく。
すでに気温は氷点下を越え、速度に比例して大きくなる風圧はすでに、ただの人間が無事でいられるものではなくなっている。
普通の人間より高い身体能力をもつ耀でさえも喋る余裕もなくしがみついていることしかできない。
それでも、この手綱だけは離さない。
「へぇー、流石にお前が用意しただけあるな白夜叉。グリフォンっていってもそこまで速力があるとは思わなかったが、・・・・・・おぉ!翼羽ばたいただけで雪崩が起きてるぞ、おい!それにとんでもない速さだ」
「当たり前だ、なんせ奴は・・・、まぁ、一族の中でも強力な個体だからな。こちらとしては、あれだけの衝撃を受けながらあやつの背に跨り続けているあの少女の方が驚きだがな。」
「よ、耀さん・・・」
あっという間に、遠くに見える山付近まで行き大きく旋回してくるグリフォンと耀。
そんな様子を、十六夜と白夜叉はのんきにそんな会話をしながら見物し、黒ウサギは心配そうな表情で見つめる。
黒ウサギと同じように、飛鳥やリクオも耀の身を案じながらその場でじっと待つ。
ゴールとなる湖畔を目指しながら、激しく身を震わせ、回転し、容赦なく耀を落とそうとしているグリフォン。
湖畔まであと数十秒。
それでも落とせないと分かると、余分な動きはせず、加速することだけに集中していく。
その巨大な翼が空を叩くたびに、ここから見ても分かるほどの衝撃が発生し、グンッと加速していく。
圧倒的な加速を得て耀の体が浮き、その手に握る手綱だけが命を繋ぐ。
あと数秒耐えれば湖畔にたどり着く。
その体を大きく振り回されながらも、手綱は離さない。
そして、見事ゴールとなる湖畔まで捕まりきりゲームに勝利した。
しかし───、
「・・・っ!」
「春日部さん!!?」
息付く暇もなく、ゲームに勝利したことを喜ぶ暇もなかった。
勢いそのままに湖畔を超えたグリフォンの背の上から、耐え切れなくなったように耀の体が投げ出された。
耀はこのゲームでも証明したように、高い身体能力を持っている。
だが、耀が投げ出されたのは遥か上空であり、運良く助かったとしても大怪我はま逃れない。
黒ウサギとリクオは急いで落ちてくる耀の元に向かおうとした。
だが、黒ウサギの腕を掴み、リクオの目の前に立った十六夜がそれを止めた。
「は、離してください!」
「・・・そこをどいて十六夜君」
「ッ!!・・・お前、そういう『顔』もできるんだな。だけど、行かせねーぜ。あいつはまだ、終わってない。」
リクオの言葉に一瞬気圧された十六夜だったが、その身を引くことなくまっすぐ言い止めた。
注意をこちらに向けながらも、地面へ近づいてくる耀に目を向け言い切った。
『あいつは、まだ、終わってない』と。
有無を言わさず、どこか確信さえある様子で言った。
十六夜はそう言ったが、そうこうしている間にも、未だに耀の体は落ち続けている。
もはや、一刻の猶予もない。
リクオは決断する。
しっかりとした「妖怪化」はこの太陽の下では不可能だろう。
だが、わずかでも力を引き出せればおそらく十六夜を抜くことができる。
時間的な『夜』の後押しもあり、リクオの体が僅かだが薄れる。
その微妙な変化と、リクオから感じる寒気に十六夜は身を沈め、黒ウサギは驚いた顔を向ける。
自身の血の高まりを感じ、今まさに『畏れ』を発動しようとした瞬間、
「なっ・・・!」
後地面まで数十メートルといったところで、耀の体がふわりと落下速度を落としていく。
そして、そのまま重力を感じていないかのようにゆっくりと湖畔の上をふわふわと浮遊している。
その姿を見ていた(リクオを含めた)全員が、驚きの声を上げた。
つい先ほどまでそんな素振りを見せなかった春日部耀が、まるであのグリフォンのように風を操り、空気を踏みしめているのだ。
そんな耀にいち早く復帰し、面白いものを見るような表情を浮かべた十六夜が近寄っていく。
「やっぱりな。お前のギフトって、他の生物の特性を手に入れる類のもんだったんだな。」
「・・・違う。これは友達の証」
軽薄な十六夜の言い方に、ムッとしたような声音で耀が返す。
「悪い悪い。もしかしたら、友好度とかも条件に含まれるのかもな。・・・・・・おかげで面白いもんが二つも見れたよ。まぁ、できればもう少し見ていたかった気もするが」
「?」
耀の言葉に謝罪しながら、十六夜は後ろに視線を向ける。
首を傾げながら、倣って十六夜の後ろを見ると、酷く疲れた様子で座り込んでいるリクオと心配そうに話しかけている黒ウサギがいた。
助ける必要がない、と分かると同時にとてつもない疲労感に襲われたリクオは、その場に崩れ落ちて大きく息を吐いていた。
「大丈夫ですか?リクオさん」
「・・・うん、大丈夫だよ黒ウサギ。ちょっと安心して腰が抜けちゃっただけだから。(流石に、無茶し過ぎたかな・・・)」
太陽の下で妖怪の力を引き出すのはかなり精神力を使う。
この世界に渡って来てから、黒ウサギを捕まえるとき、ガルドとのいざこざの時に僅かに使ったが、あの時はどちらも注意が外れていたからこそ比較的楽に効果を発揮したのだ。(後者の時は、怒りで我を忘れていたガルドだけに効果を発揮した。)
だが、さっきは十六夜がこちらに注意を向けている状態であったため、『中途半端』な
そもそも中途半端とはいえ"畏れ"をあの距離で受けたにも関わらず、ほとんど気圧されずに我を通しきった十六夜の方がこの場合はおかしいだろうが。
「くくく、ハハハハハ!本当におんしらは面白い連中だな。さて、ゲームの勝敗は決まった。勝者は敗者に賞品を求める権利がある!・・・・・・おんしらは一体何を望む?」
黙って成り行きを見ていた白夜叉の言葉を聞き、ハッと、ここに来た目的を思い出す黒ウサギ。
なぜかゲームをすることになってしまっていたが、ここに来た本来の目的は「ギフト鑑定」だ。
「そうでした!黒ウサギ達はギフトの鑑定をしてもらうために来たのです。それが、いつの間にか・・・」
「ギ、ギフト鑑定か?専門外もいいところなのだが」
「あれ?"サウザンドアイズ"ならできるって聞いて来たんだけど」
「"サウザンドアイズ"は特殊な『瞳』のギフトを持つ者達のコミュニティだ。故に、『視る』ことに長けた者も多い。黒ウサギはそこらへんのことからここに来たようだが・・・」
困ったように白夜叉はそう言って、ふむ・・・と一つ頷き、四人を順番にじっくりと眺める。
鑑定に適した瞳を持っている訳ではないが、『見る目』がない訳でもない。
昔はそれなりに
ここまで近くで視れば、凡庸な存在か、はたまた英雄になりうる存在かどうかぐらいはわかる。
「どれどれ・・・・・・やはり、全員高い素質を持っているな。聞くが、おんしらは自分のギフトの力をどの程度把握している?」
「「「企業秘密」」」
「・・・まぁ、僕はそれなりに」
「おいィ?確かに、ゲームをしたばかりの相手に言うのは抵抗があるかもしれんが、それでは話が進まんぞ。」
リクオを除いた全員が、自身のギフトに関して口を閉ざした。
といっても、自分についてどう言うべきか悩んでいたため、リクオ自身もあまり詳しく言わず曖昧に笑っているだけだったが。
他の三人は白夜叉の言うように、いずれ『闘う』かもしれない相手に自分の能力を説明したいとは思わなかったというのもあるが、最も大きな理由は『自分もよくわかっていないから』だった。
だからこそ、思いに多少の差異はあってもここに来ること自体に反対はしなかったのだ。
「私も
しばし、考え込んでいた白夜叉だったが、この『問題児』達がこれから箱庭に巻き起こすだろう新しい流れを想像し、ニヤリと笑う。
優れた
自分がそうだったように、この四人とコミュニティ"ノーネーム"は周りを大きく巻き込んで「面白可笑しい」日々を過ごすことになるに違いない。
それを見るためと思えば、このくらいは問題ないだろう。
そうして、こちらを見つめる面々にいかにも妙案が浮かんだとばかりに声を上げ、パンパンと柏手を打つ。
すると、四人の眼前に光り輝く四枚のカードが現れた。
「このカードは、・・・僕の名前と、これは・・・?」
「詳しい説明は後でするが、それは自身の持つギフトを表示・収納することができる"ギフトカード"というものだ」
白夜叉にそう言われて、それぞれ自分の手元にあるカードを見る。
黒と白の混ざり合ったような色をしたリクオのギフトカードにも、いくつか表示が現れた。
『奴良リクオ・ギフトネーム"
「───」
思った通りというか、予想通りのことが書かれている。
『ぬらりひょん』という本質と『
その二つが「ギフト」として認識されているらしい。
このことをどう説明するかと他の三人を見てみると、十六夜は早速、ギフトの収納機能を"水樹"で試している。
その様子をを見たリクオは、なんとなく自身の持つ愛刀"
すると、水樹と同じように光となって消え、ギフトカードの『鬼纏う者』の下に『祢々切丸』が追加された。
(ギフトって単純に能力のことかと思ったけど、色々な『形』があるのかな?・・・ってそんなこと考えてる場合じゃないか)
「この
「ん、そんなことか?そこに刻まれたギフトネームはおんしらの魂と繋がった"
「・・・へぇー、ならその『全知』ってのも宛になんないもんだな」
「なに?」
そのの言い様に首をかしげた白夜叉に、十六夜は自身の持つギフトカードを渡してみせた。
そこに刻まれたギフトネームを見て、その『ありえなさ』を認識した。
軽薄な表情と対照的に驚愕の表情の白夜叉。
ギフトネームのことと言うなら、リクオも少し気になる。
「十六夜君のギフトカードは何かおかしかったの?」
「いや、少しは期待したんだが、俺の知らない俺のことを誰とも知れない『全知』なんてのが知るわけもなかったってだけだよ」
驚いた表情のまま「"ラプラスの紙片"ほどのギフトがエラー?それとも───」と、何やらブツブツと呟いている白夜叉からギフトカードを受け取った十六夜。
リクオがそれを視線で追っていることに気づくと、ニヤリと笑い一つ提案をした。
「気になるんだったら互いに見せ合うか?春日部やお嬢様のギフトはなんとなく解ったんだが、お前の力はどうにも解りにくくてな。今のところの予想は存在感を操れるってとこだ。けど、それだけじゃどうにも納得出来なくてな。俺も気になってたとこなんだよ。・・・別に断ってもいいぜ?自分で謎を解いてくって楽しみができるからな」
最後に本当に楽しみにしているかのように笑った。
十六夜はこちらのことを思い、「言わなくてもいい」という選択肢を与えてくれている。
自分勝手で人を誂うことを楽しんではいるが、楽しむ以上に甚振ることはしない。
言葉は些か乱暴だが、これはそういうことだろう。
十六夜に提案されるまでもなく、リクオは自分のことを皆に説明するつもりではあった。
彼らはこれから一緒に過ごしていくことになる『仲間』だ。
後から、気付かれるより自分の口から言いたい。
これは、元の世界で妖怪と知ってもそばに居てくれた友人達から学んだ教訓だ。
リクオは元の世界に大切な仲間が、家族が、友人がいる。
にも関わらず箱庭に来れたのは、『夜』であったために「ぬらりひょん」としての本質が現れたからこそだろう。
だが、他の3人は本当の意味で元の世界を捨て去って来た。
つまり、それは元の世界では理解されることもなく一人だったということではないのか。
リクオは、百物語組という百鬼夜行と戦った際に普通の人々から負の感情を向けられ命を狙われた。
元来、妖怪は悪だ。
故に、人間からそういった感情を向けられる覚悟はしていたつもりだ。
それでも、あの時は『嫌な事を考える』程度に堪えた。
あれほど極端ではないだろうが、それでもあれだけ特異な力を持っているのだ。
それに近しい体験を十六夜達は長い間してきたのだろう。
だからこそ十六夜は拒否する余地を残している。
「ありがとう十六夜君。けど、どうせ話すなら皆に話さないとね」
「・・・なんで感謝してるのかわらんが、それならさっさとあいつら呼んでくるか」
自分は彼らに比べれば遥かに恵まれていた方だ。
だから、拒否する理由もない。
リクオがそう笑顔で返答すると、十六夜は一瞬呆けた後、顔を背けて自分のギフトカードを見ていた飛鳥や耀を呼んだ。
飛鳥と耀、そして黒ウサギ(ついでに白夜叉)が集まったところで、一呼吸。
少し緊張した様子のリクオに、飛鳥が不思議そうに見つめた。
「それでリクオ君。改まって一体何の話かしら?」
「うん、ちょうど良い機会だから言っておこうと思って。僕の力について」
飛鳥は、その言葉を受けて表情を曇らせた。
何となくではあるが、リクオは自身の
ただの勘か、それともどこか飛鳥と同じようにギフトを知られることで、十六夜達に『拒絶』される心配をしていたからか、それはわからない。
だが、リクオは今、覚悟をもってそれを告白しようとしている。
昼は結局ガルドの乱入により有耶無耶になってしまったが、その覚悟は飛鳥と同じものだ。
ならば、同じ思いを持つ者として真っ直ぐにそれに応えなければならない。
十六夜が静観の姿勢を示す中、飛鳥は続きを促した。
「・・・そう。それで、貴方のギフトはどういうモノなの?」
「うん。まず、最初に言っておかなくちゃいけないことがあるんだ」
リクオは、どこから話していくべきか考え、順番に、全て説明することにした。
「僕は、純粋な人間ってわけじゃなくて、その、
沈黙が広がり、その場にいた全員が驚いた様な表情をした。
その様子を見ながら、子供の頃自分に妖怪の血が流れていると喧伝していた時を思い出す。
子供ながらに軽はずみな事をしたと思うが、あの時は誰も信じなかったために不貞腐れていた。
だが、この非常識なギフトをもった彼らはリクオの言葉を理解し、信じた上で、驚いている。
これで、最初に危惧していた「信じられなかった場合」の心配はする必要がなくなった。
しかし、まだ『異形の血』を持っていることについてはわからない。
自身もまた人並み外れた力を持つ十六夜らは、単純な『恐れ』は抱かないだろうが、根本的な人外へ忌避感はわからない。
ましてや、妖怪は人の『畏れ』という信仰をもって存在できているようなものだ。
その力・姿は否応なく人間をオソれさせてしまうだろう。
それを「嫌だ」と感じれば、排斥しようとする意思が生まれる。
だからこそ、彼らが次にどのような表情をするのか、リクオは伺うように見つめた。
最悪、コミュニティを出ていくことも視野に入れて。
すると、そこには・・・
「ハハハハ!『妖怪』か、それは予想できなかったぜ。そんでもって、妖怪とのクォーターか」
「箱庭で居るとは聞いたけど、こんなに早く会えるなんて・・・!」
「それで?一体なんの妖怪なの?見た感じじゃ、全くわからないわね」
「・・・あれ?」
『問題児』等と評される彼らにとって、リクオが悩んでいた忌避感なんてものは全くの無縁だった。
むしろ、自分が初めて出会う未知に対して溢れんばかりの興味と興奮を隠すこともなくさらけ出していた。
彼らは普通の人間ではない。
それは単純なギフトの有無だけではなく、どこまでも前に進んでいこうとする精神。
誰もが望むが、決して誰もが得ることはできない強い心。
リクオは自分が悩んでいたことが馬鹿馬鹿しくなり、苦笑した。
十六夜達のことを簡単にではあるがわかっているつもりになっていた。
だが、どうやら見当違いだったらしい。
(どこかで、おこがましくも『守るべき相手』なんて見てたのかな・・・。ははは。僕は知ってたはずだったのにね。下手な妖怪よりよっぽど強い人間を・・・)
心の中で三人に申し訳ないと思い、どうすればいいかと考えた。
見たところ興味津々といった三人、彼らはもっと詳しい説明が欲しいらしい。
・・・まずは疑問に答えることから始めた方が良さそうだ。
「どうしたんだ?」
「いや、なんでもないよ。何の妖怪か、だったね。僕はぬらりひょんだよ。」
「ぬらりひょん?」
「ぬらりひょんってあの頭が長い?」
そう言って十六夜達は、リクオの後頭部に視線を向ける。
ぬらりひょんの一般的なイメージは、やはり「頭の長い妖怪」というものなのだろう。
実際、祖父は見た目からしてぬらりひょんそのものなので間違っているとも言えないが。
その後も、十六夜達の質問は続いた。
百鬼夜行のこと、組のことを言えば、そこで過ごしていた他の妖怪達や普段の様子を。
妖怪にとって重要な『畏れ』や土地神への信仰について
他の百鬼夜行や陰陽師について
質問に答えるたびに次の質問が飛んでくる。
夜になると妖怪化できると言った時には、まるで変身ヒーローを待つ子供のように目を輝かせた。
リクオはその目に戸惑いながらも、『ここ』では難しいがすぐに見られる、と言うことでなんとか宥めた。
そんな問題児達の勢いに押されながらも楽しそうにしているリクオを見て、黒ウサギはホッと息を吐く。
黒ウサギは、リクオに「元の世界に帰る方法」を訊かれてから心の中で、『連れてきてしまったこと』を申し訳なく感じていた。
せめて、楽しんでもらえれば・・・そう思っていた。
だからこそ、黒ウサギにとって大切なこの箱庭の世界をリクオが楽しいと思ってもらえているのか不安だった。
どこか他の三人よりも落ち着いた様子を見せていたリクオが、この世界を面白いと思い、楽しんでくれているのかわからなかったのだ。
今回の告白でリクオが妖怪の血を引く存在であり、その妖怪が『ぬらりひょん』であることには驚いたが、この箱庭で人外との混血というのはそう珍しいものでもない。
むしろ、さまさまな種が存在するからこそ混血は多く、純粋な純潔よりも確実にその実数は多いだろう。
これで、何の憂いもなく友好を深めていけるのならば嬉しい限りだ。
しかし、
「それにしても・・・、『ぬらりひょん』ですか」
「まさか、その存在をまた聞くことになるとはなぁ。あれもなかなか面白い奴だったが、・・・さて、あの童どんな関係なのか」
白夜叉は興味深そうに、そして懐かしそうにリクオを見つめた。
黒ウサギもリクオに視線を向けながら、僅かに思考する。
『ぬらりひょん』
それは箱庭で多少過去を調べたりしたことがあったり、それなりに長寿の種であれば誰でも知る存在だ。
数十年ほど前の箱庭で一時期話題になり、消えていった存在。
箱庭の三大問題児に比べれば、遥かに弱く、その武功も際立って大きなものとも言えない。
それでも、その名が広く知られているのは特異な存在だったからだ。
『最弱の魔王』『率いる者』『畏れの主』『身の程知らずな魔王』etc...
いろいろな呼び名があったが、彼の者は"魔王"だった。
ギフトは他の魔王から見ればそれほど強力でもないにも関わらず、たった一度の敗北を除き常勝。
魔王らしくもあり、魔王らしくもなかった存在。
数多の異形をを引き連れたコミュニティ、そのリーダー。
本人ではないだろうが、そんな「ぬらりひょん」の血を引くというリクオ。
「まさか、ですよね・・・?」
頭の中に浮かんだ想像をありえないと切り捨て、黒ウサギは未だに質問攻めに遭っているリクオを助けるためにリクオの下に向かった。
おそらく、リクオのいう『ぬらりひょん』は、その世界に存在した『ぬらりひょん』なのだろう。
黒ウサギはそう結論付けた。
直接見たことがあるわけでもない黒ウサギは、ぬらりひょんがやった事や結末を知っていた。
しかし、その容姿や保有するギフトの詳細までは知らなかった。
「黒ウサギの奴は本当に面白い輩を連れてきてくれた。運が良いのか悪いのかはわからんが」
十六夜達を止めようとする黒ウサギ、分かりやすく不満を顔に出す十六夜達、そしてこの状況を楽しみながら困ったような表情を浮かべているリクオ。
かつて『ぬらりひょん』に会ったことがある白夜叉は、その
彼らがこの箱庭に招かれたことに何らかの意味があるなら、今は知らずともいずれ知ることになるだろう。
白夜叉は魔王だ。
時には試練を与えることもある。
だが、魔王であると同時に神仏に連なる存在でもある。
故に、その求めがあるまでは見守り、もし真に求められれば力を貸そう。
彼らは、下手な魔王よりよっぽど厄介な存在だ。
たいていの問題は、自身の身に宿る奇跡をもって乗り越えていくだろう。
だが、これは白夜叉の経験則だが、この箱庭においては「上には上がいる」が当たり前だ。
派手に暴れた輩には、理不尽な力が襲いかかってくることを箱庭の歴史が証明している。
だから、もし、彼らが途方もない何かに潰されそうになった時には是非とも頼ってもらいたい。
かつての白夜叉を思い出させてくれる彼らは、まず間違いなく無茶をする。
意地を通しても死んでしまっては意味がない。
飛鳥や耀あたりは、この箱庭でも絶対の死を避けることはできないだろう。
("
そこまで考えたところで、やはり自分は"元・魔王"であると改めて認識した。
彼らの身に降りかかるであろう災厄のことを思い、彼らの身を案じながらも、戦うことを考え戦力として数えている。
白夜叉は静かに嗤い、新しく"ノーネーム"の一員となる問題児達を見つめる。
ガヤガヤと言い争っているが、その目は今を楽しんでいる目だ。
「・・・こらー!ここが誰のゲーム盤か忘れたわけではないだろうな?・・・私も混ぜろー!」
ついに我慢しきれなくなった白夜叉は騒がしくも、楽しそうな輪の中に入っていった。
まるでリプレイのように黒ウサギに襲い掛かり、その体の感触を楽しむ。
突然襲いかかられた黒ウサギが叫び、それを見た十六夜達が笑いながらもその目を輝かせ、リクオが慌てて止めに入る。
それから、リクオと黒ウサギの『説得』が通じ、騒ぎが落ち着いたのはその30分後のことだった。
ここは異世界であるとわかっていたが、それでも人が住む場所からではまず見ることができないだろうこの星空を見ているとなかなか心が洗われる。
現在、本拠地となる立派な館から一人抜け出してきた十六夜は外へ出てすぐに空を見上げ、その満天の星空と自身の名と同じ十六夜の月に目を細めながらそう思った。
"サウザンドアイズ"の支店を出てからここに来るまでの情報から、ただ堅実にギフトゲームクリアしていくだけは今の"ノーネーム"の目標を叶えることは到底不可能であると確信した。
"ノーネーム"の最終目標は嘗ての仲間たちを取り戻し、人類最高峰とまで呼ばれたコミュニティを滅ぼした魔王を見つけ出し勝利することだ。
そのために、地道に生活基盤を固めていく、というのももちろん大事だ。
しかし、十六夜にとって単純な作業のような生活は苦痛でしかなく、刺激こそが何者にも勝る楽しみだ。
"ノーネーム"の目標へ最短ルートであり、そして十六夜の欲求を叶えてくれる方法。
頭の中で、すでにその方法を考えつき、それを実行に移すためにわざわざ外に出てきたのだ。
女子組が風呂に行き、リクオが疲れたからと寝室へ向かったこのタイミングで。
十六夜の考えの中に、「リーダーであるジン=ラッセルや黒ウサギへ相談する」という至極まともな考えは、一切、全く、全然、一欠片も存在しなかった。
それなりにジン達にも考えや予定はあるだろう。
だが、確実に十六夜の方法以上に積極的な策ではない。
彼らは、『待つ』ことに慣れすぎている。
だからこそ、引くに引けない状況を作り火をつけなければならない。
まだ見ぬ『いつか』を夢に見るだけでなく、現実のものとして考えられる程度の芯がなければ、到底"ノーネーム"の再建など不可能であると認識していなければならない。
もし、ここまでお膳立てしても「夢見る」だけを望むなら自分は"ノーネーム"を抜ける。
(さて、吉と出るか凶とでるか・・・。まぁ、まずは仕掛けをしっかりしなけりゃな)
こちらを見ている連中に気づかれない程度に辺りを見渡し、「さて、なんて切り出すか・・・」と十六夜が考えていると。
ゾクッ
「・・・っ!」
どこからともなく『寒気』を感じ後ろを振り返った。
薄い雲が月を隠し、館の影が濃くなる。
気づけばそんな陰の濃いところに何かがいる。
十六夜の目には何も見えていない、だが確かに『何か』がいる。
いつでも動けるようにその足に力を入れると、その何かがこちらに歩いて来た。
微かに生えた雑草を踏む足音がゆっくりと近づき、影からその姿が出てくる。
影から出てくると、さっきまで見えていなかったのが嘘であるかのようにその何かは、はっきりとその全身を現した。
鋭い目と風に漂うように流れる長髪を持った青年。
その青年は
何者であるか尋ねようとした直前で、その言葉を飲み込んだ。
目の前の青年が何者であるかという疑問に十六夜はすでに答えを持っている気がした。
そして、改めて館の中にいたであろうメンツを思い返し、該当する人物を思い出す。
確証があるわけではないが、おそらく目の前の人物は『彼』だろう。
「やっぱり、おもしれーなオマエ。ここまで劇的だとは思わなかったよ。」
十六夜がそう言いながら笑って見せれば、その青年も楽しそうに笑った。
互いに合わせ鏡のように笑い、青年はどこか挑戦的な目で十六夜に問いかけた。
「答え合わせは必要か?十六夜」
「・・・見た目だけじゃなくて、中身も変わりすぎてねーか?なぁ、
十六夜は人間だったときとの内面の差に驚きながらその名を呼んだ。
その答えを受けて、ニヤリと笑った青年・・・リクオは、十六夜が自身の思っていた通りの人間であることを認識した。
ほぼ初対面にも関わらず、『この姿』を奴良リクオだと理解した。
もしも、元の世界で出会っていれば人間であるとか、妖怪ではないなんてことは関係なく組に誘っていただろう。
そして十六夜がリクオの誘いを断るところまで鮮明に予想できる。
「さて、この姿じゃ初めてだし改めて名乗っておくか!・・・・・・オレは関東妖怪総元締奴良組三代目、奴良リクオだ。酒でもありゃ、盃交わしてじっくり話したいもんだが、まぁ、これから頼むぜ」
妖怪・奴良リクオは箱庭にその姿を現した。
『夜』リクオと十六夜がであっているとき、黒ウサギは嫌な予感を感じたそうな・・・
どうにも安定しない・・・
今は、とにかく続き書いていくことにするけど絶対いつか全修正する。