漆黒の冒険譚 むき出しのナ―ベラル   作:シンヤ・ワイルド

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Prologue 2

 

 

「───という訳で、俺、いや、わたくしとモモンガさんが結婚する事になったんでございますわ!」

 

 

 

「ええ──────!」

 

 

 

 黒曜石の輝きを放つ巨大な円卓が鎮座する『ラウンドテーブル』と名付けられた、ナザリック地下大墳墓・第9階層にあるその部屋に咆哮とも悲鳴ともとれる声が響いた。

 

「何言ってるんですか─!? な、なんで、そんな事になるんですか!」

「えェ?さっきの俺、わたくしの話聞いてなかったんでございますの?」

 

「いやその─、話が長いので大部分聞いていませんでした」

 再びナベは肘掛けからズッコケ、頭上に『ズコッ!』とアイコンを浮かべた。

 

 

「おほんっ」

 

 ナベはひとつ咳払いをして、

「だってモモンガさん、わたくしのナ―ベラルの顔は超美人だって言ってたじゃないですか?」

 

「でも、あのう──ナベさん、男ですよね………」

「愛に性別は関係ありませんわ!」

 

「いや、俺にとっては性別はすご~く重要だし、それに、はっきり言って………愛してませんけど!」

「ええ──逆にナベちゃんショック!逆にナベちゃんどんびき──!」

 

「じゃ何ですの、わたくしみたいな中身がおじさんを妻にすることが恥ずかしいとでもおっしゃるの?」

「はい、凄く、もの凄く恥ずかしいです………」

 

「「ズ…」ズコッはやらなくて結構です」

 

「………。」

 

「で、では気を取り直して──じゃあ、なんですの?モモンガさんは、美人で、心根が優しくて、一途に愛してくれて、角と翼があって、おっぱいがたゆんたゆんしてる身も心も女ならいいんでございますか!」

 

「は、美人で…角…おっ〇〇?…というか、全然会話が成り立ってませんよね?」

 

 

「おほんっ!」

 ナベは再び大袈裟に咳払いをして、

「だったらアルベドと結婚してください!」

 

「はぁ!」

 

 

「なぜ急にアルベドが出てくるんです?」

 

「だってモモンガさんの理想のタイプにぴったりじゃないですかですわ、美人で、たゆんたゆんで………」

 

「それはナベさんが言ったんですよ!」

 

「ホホホ、モモンガさんすぐに『本気』と書いてマジシャンになっちゃうんですから!ごめんなさいねですわ。私との結婚は冗談でございますのよ、モモンガさんが私の話に上の空でしたので、ちょっとからかっただけでございますわ。ダブらさんと盛り上がったのは、モモンガさんとアルベドを結婚させちゃおって話なんでございますの」

 

「な、何故、当事者の俺に一切相談無しに?」

「だから今相談してるじゃないですか」

 

「───いやいや、こういうのは相談じゃなくて、事後報告って言うんですよ」

「モモンガさん、恥ずかしがらなくてもいいじゃないですか!アルベドの親ともいえるダブラさんの了解も得ているし、というかむしろノリノリだったし、モモンガさんもアルベドが好きだし、アルベドの設定は書き換えちゃいばいいし、わたくしも父親たるモモンガさんが幸せになれていい気分だし、全員ハッピーじゃないですか!」

 

「───?????」

 

「あ、あのう──ナベさん、突っ込みどころが山盛り過ぎてどこから手を付けたらいいか迷いますが、まず、俺が父親って何ですか?」

 

「だから───ほんとにわたくしの話一個も聞いてないんですね!」

 

 そう言うとナベは先程の話の内、その辺に関する部分をもう一度モモンガに説明する。

 

「ほら、あと半年もしたら『ユグドラシル』も終わっちゃうし、今もっぱらログインしているメンバーはロール勢のモモンガさんとわたくしだけだし、だったら残りわずかな期間だけでもナザリック全体でロールしちゃったら面白いって事になったんですよ」

 

「───あのう、俺、そんなにロールしてましたっけ?けっこうガチの魔法職のつもりだったんですけど……。」(ま、確かにナベさんのお姫様ロールに引っ張られて、俺も魔王ロールやっちゃってはいたけど………)

 

「それで───」と、ナベは話を続ける。

「モモンガさんが王様になって、アルベドがそのお妃様で、わたくしがその娘の王女で───」

(待って、待ってよ、いくら何でも年上のオッサンが俺の娘って、いったいどんなカオスなんだよ)

 

「それから───宝物殿のあのNPCがわたくしの兄の王子様っていう設定なら面白いでしょ!」

「ブ────ッ!」

 モモンガは何かを吹き出すような声を出した。きっとリアルで飲んでいた水でも吹いたのだろう。

 

「パ、パ、パンドラズ・アクタ───?」

 

「あ、そうそう、そんな名前でしたよね。あれ、モモンガさんのNPCでしょ?だったら誰に遠慮することなく設定をいじれるじゃないですか」

 

 黒歴史に塩を擦り込まれるような感覚に固まってしまったモモンガ───微動だにせず何も言わないモモンガを見たナベは同意と解し、

 

「じゃあ、決まりという事でいいですね!───いいですね!」

 

「───あ、あは、あは、あははは、、」

 

 

「それから、その他のNPCたちもちょっとづつ設定をいじりますからね」

 

 その言葉にハッと我に返ったモモンガが「それはまずいですよ!いくらなんでも勝手に設定いじったりはできませんて!」と言うと。

 

 それを聞いたナベの穴の開いただけのまん丸の目がすっと細まった(実際に細まることはないが)ようにモモンガには見えた。

 

 

「モモンガさん、この一週間わたくしが何をしていたとお思いですか?」

 ナベはすっくと立ち上がると鷹揚に両手を広げそう問うた。

 

「いや、知りません」

 ───ナベは上半身を左斜め後ろに体重移動して頭上に『ズコッ!』というアイコンを出した。

 

「ナベさん、その『ズコッ』はもういいですよ」

 

 

「はい、では気を取り直して───」

 すると再びナベが話を始める。

 

「ほら、あれ、いつ頃だったかなぁ、二人で一緒にNPCたちの設定を見たことがあったじゃないですか」

「ん?ああ、そう言えばそんなことあったかもしれませんね」

 

「それでほら、セバスの設定を見たときに二人で「何もね─!」って驚いたことあったでしょう」

 

 そうなのである。面白半分でNPCたちの設定を見てみよう!というナベのしつこいお願いを受けて、やむを得ずギルマス権限で見ることにしたのだが、まず初めに見たのは玉座のすぐ傍に控えていたアルベドの物だった。

 

 設定魔とも言われたタブラ・スマラグディナのそれはとんでもない長文だった。ただ長いというだけではなく、NPCの設定文というよりはもはや抒情詩といった雰囲気ですらあった。しかも、最後の一文にとんでもないことが書かれていた。『ちなみにビッチである。』と………。

 

 次にやはり玉座の間に控えていたハウス・スチュワードのセバス・チャンの設定を見たときには、先に見たアルベドの設定文の長さと比較してしまったせいか、あまりの簡素さにこれまたびっくりしてしまった。

 

 セバスの創造主である『タッチ・ミー』の質実剛健な性格からしたら、らしいと言えばらしいのだが。

 

「あれじゃ可哀そうじゃないですか。誰だって生まれてから今までのいろいろな思い出があって、その積み重ねこそが人生に彩りを与えてくれるもんでしょう?」

 

「………。」

 

 

 そのナベの言葉───、そこには確かにモモンガの琴線に触れるものがあった。

 

 この『ユグドラシル』を知り、仲間たちと出会い、数多の冒険を重ねたあの輝かしい日々。

 そう、その思い出こそまさにモモンガにとっては何物にも代えがたい宝物であった。

『そうだ、楽しかったんだ───』

 

 ナベは両の手を胸の前でキュッと掴み、それから徐に広げ「わたくしはNPCたちに───」インチキお姫さまロールのオーバーなアクションで「人生を与えてあげちゃいたのですわ!」そう宣った!

 

 

「───なるほど、ナベさんの話はわかりました。でも、ギルメンが心血注いで作り上げたNPCの設定を、無断で歪めてしまうような事はやはりできませんよ」

 

「そうでしょうとも、そうでしょうとも、わかります、わかります、その通りでございます。で・す・か・ら、この一週間わたくしはギルメン、元ギルメン問わず、片っ端からお連絡をとっていたのでございますわ」

 

 またまたモモンガはナベのその拘りと行動力を何故己のスキルアップに向けないのかと思いつつ、もはや逃げ道はなさそうだと観念するのだった────。

 

 

 

「それでは、まずは自分の設定から書き直しますわ」

 

 

 

 ◆

 

 

 

 プレイヤーネーム『ナ―ベラル・ガンマ』通称ナベ、本名『渡邊悟』彼はリアルの世界で後輩の『アインズ・ウール・ゴウン』メンバーであった『弐式炎雷』に誘われて『ユグドラシル』のアカウントを持つことになった。

 

 ちなみになのだが、ナベがメンバーになってからしばらくして、ギルド長のモモンガとリアルでの名が同じだったことで、お互い何となく変な親近感を持ったのはまた別の話である。

 

 その後紆余曲折はあったものの、外装は幾人かのメンバーで構想中だったプレアデスという『戦闘メイド』チームの一体として弐式炎雷が作っていた『γ(ガンマ)』をベースに、というか顔と髪型はほとんどそのままにただ単にドレス姿にし、プレイヤーネームを渡邊のあだ名の『ナベ』と、彼が好きだった20世紀のアニメに出てきたキャラの『ランバラル』と、元々あった『γ』を合わせて『ナ―ベラル・ガンマ』としたという経緯がある。

 

 プレアデスに付いてはメンバーが一人減ってしまったこともあり、レベル・姿形・種族・職業・チーム名等は全てそのままに『戦闘メイド』から『メイド悪魔』へとコンセプトを一新し、そのリーダーとして第7階層守護者デミウルゴス────

 

 

 ────の、弟という設定のNPCを新規で製作し、名前を『ヤルダバオト』とした。

 

 

 ◆

 

 

 

「さ、わたくしの設定はこんなものでいいかしら」

「お父様、お父様────」

 

「やめて下さいよ!この部屋ではモモンガでいいでしょう?」

 

「やはりこういう事は慣れておきませんと、設定にもモモンガさんの事は「プライベートでは「お父様」公の場では「陛下」と呼称する」と記載しましのよ」

 

「ていうか、なんで俺の設定上の名前が『モモンガ・スズキ・アインズ・ウール・ゴウン』なんですか?どうしてスズキを入れないといけないんですか?」

「わたくしは「ナ―ベラル」にすでに自分の本名が入ってますけど、お父様の『モモンガ』には全然本名の要素ないじゃないですか!」

「ゲームってそういうもんでしょうが!」

 

「それにアルベドをお嫁さんにするなら、やはりアルベドにも『スズキ』を名乗られてあげるべきなんじゃないですか」

 

「ですから、リアルで結婚する訳じゃないんですよ────!」

 

 

 ◆

 

 

 

「さて、この子の設定は────」

 

 

 モモンガとナベは自分自身と家族となるアルベド及びパンドラズ・アクターの設定の改編を完了し、ここ第1階層へとやって来ていた。

 勿論、二人は死の支配者の魔王と、可憐なお姫様という絶賛ロールプレイ中である。

 ちなみにナベは「ラウンドテーブルの間」以外では人間形態のお姫様の姿で、艶やかな黒髪をシニョン風に纏め上げ、そこには煌びやかなティアラが乗り、黒目切れ長の瞳がどこか涼やかな、まさに美姫そのものである。黙ってさえいればだが………。

 

 

 さて、設定の改編にあたり設けたルールがある。

 

 改編とは言っても基本的には元々の設定は極力そのまま残し、その設定を補完するような意味合いで人生経験を追加する。

 連絡が取れなかったギルメンの内、まだアカウントを残しているものが作ったNPCに付いてはいっさい手を付けない。と、そんな感じである。

 

 

 目の前に居るのは長い銀色の髪を片方に集め、肌は白蝋じみており、真紅の瞳に口元には種族の特徴である牙が見えていて、服装はスカート部分が大きく膨らんだ漆黒のボールガウン、身柄に合わず胸の部分が大きく強調され、年の頃は14歳くらいの絶世の美少女、ナザリック地下大墳墓第1~第3階層の守護者でありトゥルーヴァンパイアの『シャルティア・ブラッドフォールン』だ。

 

 モモンガとナベはシャルティアの設定は薄々は知ってはいたものの、あらためて読んでみると────。

 

「「どんびき────」」と、思わず声に出してしまった。

 

 

「これ、変態過ぎでこざいますわ!」

「ナ―ベラルよ、へ、変態は言い過ぎではないか?」

 

 

 しかし───。

『いったいどういう経験をして来た事にしたらこんな性格に………?』

 

 モモンガが悩んでいる様子を見てナベは────。

 

「あ、シャルティアに付きましては、創造主であらせられるぺロロンチーノ様と結構お打ち合わせを致しましたから問題ございませんわ」

 

「ほう………。」

『エロゲにはまって中々ユグドラシルに行けないって言ってたくせに、そんな時間があるならたまにはこっちにも来てくれたらいいのに』

 

「では陛下、早速お願いいたしますわ」

 そう言いつつナベは、設定が書き込まれた羊皮紙をモモンガに手渡し、そしてモモンガはその文章をシャルティアの設定欄へとコピペした。

 

 

 

 シャルティアにはこんな物語が用意されていた。

 

 ────それは二百数十年前のこと、シャルティアはとある国の侯爵家の長女として生を受けた。

 彼女が2歳の時には妹が産まれ、シャルティアは母親似の銀髪、妹は父親似の金髪。二人はとても仲のいい姉妹であったが、シャルティアが5歳の時、妹は将来の政略結婚のため王家の養女として貰われていってしまった。

 

 それから月日は経ち、シャルティアが14歳の時、突如死の竜王の軍団が攻め込んできて一夜にして国は滅んでしまった。

 

 シャルティアもそこで命を落としたはずだったが、気が付くとなぜかナザリックのあるヘルヘイムに転移して来ており、元々何らかの能力があったのか肉体は吸血鬼として生まれ変わっていた。

 

 その後近くを通りかかったぺロロンチーノに保護され、彼の養女としてここナザリック地下大墳墓で暮らしていたのだが、やがてその特出した戦闘力が認められ、地下1~3階までという最多階層の守護者として役割を与えられている。

 

 もしかすると妹も同じ能力を有していたならば、どこかの地でひっそりと暮らしているのかもしれない────。

 

 妹の名を「キーノ───」という。

 

 

 

 

「こんな感じで、後は幼少期の妹とのエピソードと、その他14歳までのいくつかの思い出を追加すれば完成でごさいますわね」

 

「ほう────中々よく出来ているではないか」

『ま、確かに、ペロロンチーノさんの養女として育てられたということなら、あの変態設定もありか───ありなのか?』

 

 

 

 それから二人は順次NPCたちの思い出創造に精を出すのであった。

 

 

 ◆

 

 ◆

 

 ◆

 

 

 あれから半年、モモンガとアルベドの結婚式に、ギルメンの何人かが参列するというサプライズ企画があったり、ナベがモモンガと一緒でなくとも外出できるようにと新たな100レベルNPCを作ってはみたものの、モモンガもナベもネーミングセンスが無く、結局『モモン・ザ・ダークウォリアー』というどこに出しても恥ずかしい名前にしてしまったり、ナザリック内五大最悪探検肝試しを行った時は、ナベがGまみれになって気絶してしまったりと、色々ありました………。

 

 

 そして今、ユグドラシルサービス最終日、モモンガとナベ以外に数人やって来た内の最後の一人、黒いスライムの異業種ヘロヘロがログアウトした──。

 

 静まり返る『ラウンドテーブル』と名付けられたこの部屋には、いつもの二人の異形が座していた。

 

 

「さ、モモ、お父様、最後の大仕事を致しましょう!」

 

 重厚感のある大きな黒曜石の円卓の一点を見つめていたモモンガはその言葉で我に返る。

 

「そうですね。やりましょう」

 

 ◆

 

「──付き従え」

 

 宝物殿の領域守護者でもあり王子のパンダズ・アクター、王女専属の近衛騎士モモン・ザ・ダークウォリアー、ヤルダバオトをリーダーとしたプレアデス。モモンガとナ―ベラルはそれらを従えて──。

 

 

 ナザリック地下大墳墓第10階層『玉座の間』には主要な守護者各員がすでに玉座に向かい跪いており、そして玉座の隣には王妃であるアルベドが慈母の微笑みを湛えてこちらを迎えるように立っていた。

 

 




『あれから半年──色々ありました………。』の部分の三つのエピソードも其々あるのですが、果てしなくカルネ村が遠くなりそうなので要約してしまいました。
 もし需要がありましたら、本編終了後のこぼれ話的に投稿してみようと思います。
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