「ここに『
荘厳な玉座の間、漆黒のローブを纏い、左手にはギルド武器であるスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを持ち、右手を鷹揚に揚げたオーバーロードは厳かに宣言した。
その声音は緩やかに蕩け響き、ナザリックに存在する全ての魂の深甚にまで刻み込まれた。
≪お父様かっこいい!さすが60回も練習した甲斐がありますわ≫
≪恥ずかしいから、回数は言わないで下さいよ≫
ナベとモモンガはNPC達に悟られないように、メッセージの魔法で言葉を交わす。
≪これでアインズ・ウール・ゴウンのロールプレイも全て完結しましたわね≫
≪そうですね。これでホントに最後なんですね………≫
「では陛下、わたくしは予定通り、モモンとプレアデスを連れて上空でその時を迎えることにしますわ」
「うむ。許可する」
「──付き従え」
ワールドアイテムの『
『23:50:03』モモンガはチラリとコンソールに表示される時計を確認する。
『あと10分か──ナベさんは明日休みみたいだからいいけど、おれは4時起きだからなぁ、サーバーが落ちたら早く寝ねいと仕事に差し支える………』
◆
玉座の間を退出した後、ナベ一行はゲートで一気にナザリックの地表部まで転移して来ていた。
魔法を発動し、従前に仕掛けておいたそれの導火線に火を点ける。
「仕掛けはこれで良し!」
『そいでもって、この飛行の力を込めたネックレスをモモンに掛けてと………』
「──お姫様抱っこ」
ナベはコマンドを発動し、モモンにお姫様抱っこされる。
勿論ナベも自力で飛行することはできるが、散々お姫様ロールを楽しんだ有終の美を飾るべく、凛々しい騎士にお姫様抱っこされてその時を迎えようとしているのだ。
「──飛べ」
漆黒のフルプレート鎧のモモンと、それにお姫様抱っこされたナベは、天空を厚い黒雲が覆うヘルヘイムの上空へと一気に飛翔し、ヤルダバオトをリーダーとするプレアデスも周囲に護衛の悪魔たちを伴いそれに追随する。
『23:58:41』『あぁ後一分か──』
「──止まれ」
晴れない霧により視界の効かない上空で遊泳するように漂よう。
ドーン、ドーン、ドーン、、、
遥か下方 ナザリック地下大墳墓 地表部周辺からたくさんの爆発音のようなものが聞こえ、次いで───。
ヒュルルル──、、、
高速の飛翔物がこちらに近づいて来るのが分かる。瞬間───
ナベたちの周り中に色とりどりの数えきれない光の粒が爆散した。
そう、ナベは最後の瞬間にと無数の花火を打ち上げていたのだ。ただし、その効果は光のエフェクトのみで、本物の花火のような耳を劈く爆発音も、熱も、勿論吹き飛ばされることもない。
ただただ美しい──それだけだ。
ナベが最後に盛大に花火を打ち上げたいとモモンガに相談した際に「ヘルヘイムは霧が濃すぎて、地上からでは花火がはっきり見えないかもしれないから、だったらいっそ花火の中に飛び込んでしまえばいいのでは」というモモンガからすれば半分冗談だったアドバイスを真に受け、そしてそれを今実行している。
『お姫様ロールにこだわり続けた俺のエピローグには最高の演出だなぁ』
≪モモンガさ、お父様、今わたくし花火の中におりますのよ!これ最高でごさいますわ!──あり………≫
「ありがとう」と言いかけて、ナベは自分が今までモモンガに対してその言葉を送ったことが無かったことに気が付いた。──ちょっと照れくさかった。
騎士に抱かれたナベは目を閉じ深く息を吸い込む。
『よし、今度リアルでモモンガさん、いや、鈴木さんを酒にでも誘って、ユグドラシルで世話になった事に対してきちんと「ありがとう」と言おう』
アインズ・ウール・ゴウンに参加してからのこの数年、ユグドラシルの中でだけはリアルでの中小企業の経営者という責任ある立場から解放され、
リアルでは常にストレスで潰されそうになっていたナベにとって、それがどれだけ救いとなったことか………。
そして、全てを受け入れてくれる器の大きいモモンガという無二の親友との出会い。
(俺の滑りギャグ10連発を受けて怒らなかったのはモモンガさんだけだったな………やまいこさんなんか「超位魔法よりもダメージがでかい」とかなんとか言って『女教師怒りの鉄拳』で殴りかかって来そうになったもんなぁ、あんなんで殴られたら俺死ぬっつうの………)
『───そうだ、俺も楽しかったんだ───』
『00:00:00』
頬を伝う冷たい風───。
逞しい腕の感触───。
鼻腔をくすぐるいい香り───。
「ん、いい香り………?」
ナベが目を開くと、そこには───
一面の星空が広がっていた。
「はぁ?、あれ?、ええ─っと?、どゆこと?」
「時間は?」
視界には先ほどまであったコンソールが消え、ひたすらに広がる星空と、星明りに輝くモモンのクローズドヘルムがあるだけだ。
『サーバーダウンが延期になった?もしくはロスタイムでもあったの?』
様々な可能性が脳裏を過ったが………
『何かわからないけどこれ面白そうな展開になってる?とは言っても、まずモモンガさんに連絡しないと………』
ナベは慌てて通話回線をONにしようとして───手が止まる。
コンソールが浮かび上がらない。
「どうなってる?」
コンソール無しで作動するはずのGMコールも強制終了も一切感触が無い。
しかし、今モモンガにメッセージを送ろうと思った瞬間、頭の中から細い線のようなものが延び何かに繋がろとしたことを感じ、しかし、それは何にも繋がることなく切れてしまったことが分かる。
今日は最終日、すべての締めとなる日にこんな面白そうなことが起こるとは………。
「なにこれ、どうなってる?どんだけユーザーを楽しませれば気が済むんだ!」
ナベの言葉の端々にある感情は、サプライズ的なロスタイムと、このゲームではこれまで感じた事がなかったまるで生身であるかのような全身の感覚を提供してくれた運営に対する感謝にも似た気持ちだ。
誰も返事をすることのないナベの言葉は満天の星空に吸い込まれていく。
そう、モモンガにメッセージが繋がらない以上、誰も返事をすることのないその言葉………。
───しかし、
「どうかなさいましたか?姫様───」
初めて聞く男性の───やさしい声。
その声を誰が発したかはすぐに分かった。
顔を下したNPC『モモン・ザ・ダークウォリアー』のものだった。
「何か問題がございましたか?姫様───」
モモンは問いを繰り返す。
どう返事をするか迷っていたナベは、いい香りの出どころもモモンであるとすぐに分かった。
くんか、くんか………。
『いい匂い、いい匂い、ああたまんねェいい匂い』
「ひ、姫様───、、」
「ああ、ええっと、取り敢えず一回降りましょうか………ですわ」
「はい、畏まりました」
『俺今もしかして、NPCと会話してる?』
『ていうか、俺の声?いつものボイスチェンジャーの声と違うぞ?普通に若い女の声じゃんか!これも噂に聞くユグドラシル2へのバージョンアップの影響なの?いやいやボイスチェンジャーは俺の端末側の機能だよなぁ、だから仮にここがユグドラシル2だとしても声色は変わらないはずだけど………?』
ナベがそんな事を考えているうちにどんどん高度が下がり、それにつれ地上の様子がはっきりとしてくる。
そこにナザリック地下大墳墓の地上部分は痕跡すらなくなっており、しかも暗澹とした毒の湿地だったはずの周辺は一面の草原になっている。
「姫、地表に付きました」
モモンはナベをやさしく降ろす。
NPCとの自然な会話。
脚から伝わる自分の体重。
柔らかい草の感触。
そよ風に靡くドレス。
瞬くような満点の星空。
モモンのいい香り。
───それはどう考えても現実のものとしか思えなかった。
『これがユグドラシル2なのか?──ならば何故メッセージもGMコールも繋がらない?──というか、いくらなんでもこんな超リアルなバーチャル空間が作り出せるか?──それに、この匂いとか、電脳法的にまずいんじゃないの?いやいやこれ、面白がってる場合じゃないのかも!』
一人ぼそぼそと呟く王女を心配したモモンがさらに問いかける。
「どうかなさいましたか?姫様」
「いや、そのう──GMコールが繋がらないみたいで………」
モモンはヘルムを脱ぎ、小脇に抱えるようにしてそのまま跪き、その顔をナベに向けた。
『な、なんちゅうイケメン───!超絶イケメン!鼻血出そうなイケメン!───ってそう言えばモモンの顔を作る時、俺もモモンガさんも絵的なセンス無いからナ―ベラルの顔をベースに男っぽく仕上げたんだったよなぁ。つうか何で俺、男の顔見てドキドキしてるんだ………』
何故か顔を真っ赤にしている王女が怒っていると思い、モモンは頭を下げて──。
「お許しを、無知な私では姫様の問であらせられるGMコールというものに関してお答えすることができません。ご期待にお応え出来ない私に…この失態を払拭する機会を頂けるのであれば、これに勝る喜びはございません。何卒、何なりとご命令を…」
『やはり会話してる。普通に会話してる。表情が変わるし、しかも口元が動いている。こんなことがありえるのか?やっぱりこれは現実なのか?確かめる方法は───』
その時ナベの頭上に電球がピコンと現れたかのように一つのアイデアが思いついた。
『そうだこれは実験なんだ。絶対に避けては通れない実験なんだ』
「謝る必要はありませんが、命令ならば一つあります。えェと、そのぉ───わたくしの───、、その何と言いますか、お、お、おぱ、、おぱ、、」
「姫───?」
(これがもしユグドラシル2の超進化した世界だったとしても、ゲームである以上絶対に18禁は出来ないはずだ。
この実験で一つの疑問が解決する。
けしてHな意味では…いや、でもHな実験をするんだからHなのか?──ええい、儘よ!
よし、兎に角上位者として威圧を込めてはっきりと命令しよう)
「わたくしの──お、おっぱいを揉みにゃしゃい!」全然無理でした!
ナベは胸を突き出すようにズイと一歩近づく。
モモンは王女の顔から首元を飾る豪奢なネックレスへと視線を下げ、数舜躊躇うもすぐに意を決し、更に少しづつ少しづつ下方へと降ろす。
そこはオフショルダーネックドレスによりデコルテ部分である首元から鎖骨のライン、果ては胸元までが大きく開放されており、豊饒なる谷間をも露わにしている。穢れを知らぬ肌は、真珠のように滑らかで透き通るように白い。内包の我儘な双丘は、窮屈そうに薄桃色の光沢のあるサテン地を否応もなく押し上げていた。
───それがモモンへと迫る。
「し、しかし、姫、そんな不敬なことは──」
「いいからやりなさい。これは命令です!」
そう言うとナベは恥ずかしそうに顔を横に向け眼を閉じた。
『これってよくよく考えたら、ほとんど痴女上司のセクハラやんけ──』
モモンも現在異常事態が起こっていることは分かっている。それはそうだ、ある瞬間に全く違う世界に転移してしまったかのように周囲の状況が変わってしまったのだ。それに警護していたはずのプレアデスやガーディアンの悪魔たちも消えてしまっている。
ヤルダバオトにメッセージを送っても全く繋がらない、おそらくとんでもない何かに巻き込まれたのだろう。
至高の41人の中では最も短慮と言われた王女殿下とはいえ、その百術千慮は己如きでは図り知ることは出来ない。ところが普段の余裕とユーモアに溢れた気品ある振舞いとは打って変わり、まるで道に迷った小娘のように狼狽えている。
◆
あの日俺は生きる意味を得た。
空虚な日々だった。庶子として生を受け、何の希望も目的もなく生き、そのまま朽ち果てる時を待つだけの人生。
俺は荒れた。俺にあるのは腕力だけだった。その剛腕に物を言わせ目の前に立ち塞がるものは全て薙ぎ払った。
俺は付け上がった。付け上がって何が悪い、だって俺は強いのだ。噂に聞く階層守護者最強のバンパイアとやらにも負ける気はしない。
そう、全ての事はこの有り余る力でどうにでもできると信じていた。
あの日玉座の間で、至高の41人のまとめ役でもあらせられるかの偉大なる御方、モモンガ魔王陛下に謁見するまでは。
───桁が違った。
その玉体からは黒き後光が揺らめくように立ち昇り、死の支配者たる威光を放っていた。あまりの力の波動に俺の魂は震えあがり、体は身動き一つできなかった。
俺が今まで信じていた己の力とはいったい何だったのか───。
俺は弱い。弱すぎる。力だけを信じて生きてきた俺が、この偉大なる魔王の前では母を失った震える乳飲み子のようではないか。
───恐かった。生まれて初めて本当の恐怖というものを知った。
不肖の俺はおそらく処断されるのだろう。
人生に悔いが無いなどと言えば大嘘だ。俺は何者でもないし、何事も成し遂げていない。俺の人生はまだ始まったばかりじゃないか。しかし、偉大なる魔王の前ではそんな空言など意味を成さない。
俺はただ魔王陛下からの下知を待った。
「──そなたに名を授ける」
「只今よりそなたの名は『モモン・ザ・ダークウォリアー』である!」
お、俺に名を………?
何故だ、俺は処断されるためにここに呼ばれたのではないのか?処断する者に何故わざわざ名を与える?
「モモン・ザ・ダークウォリアーよ、そなたに王女の近衛を命ずる」
「………?」
訳が分からずただ跪いていた俺に、魔王陛下は魔法で作り出した漆黒のフルプレート鎧と二本のグレートソードを下賜して下さった。
「モモン・ザ・ダークウォリアーよ、そなたは強い。そうあれと余が創造した二番目の
この不詳の身を息子と………。
その偉大にして神聖不可侵たる御名の一部を下賜され………。
そして強いと………。
何ともったいないお言葉なのだろう。偉大にして絶対なる魔王、至高の41人のまとめ役であり、盤上の一手に複数の意味を持たせる深謀遠慮と究極の魔法を操り、このナザリック地下大墳墓の絶対的な主であり、アインズ・ウール・ゴウンの頂点に君臨する御方から名と成すべき仕事を授かった。
もはや恐怖心などどこにも無かった。
先ほどまで怯えていた俺は、体の中心にまるでズドンと太い一本の鋼の芯が通ったように揺るぎない自信に満ち、空虚だった胸の中には熱い昂奮が得も言われぬ多幸感となり、尽きる事のない泉のように湧き上がる。
ふと玉座の隣を見ると、見目麗しい王女殿下が微笑みを浮かべておられる。
そうだ、俺はこの御方を守るのだ。
「あ、そうそう、もしも王女が『
そう言って魔王陛下は『はりせん』なるものを取り出した。
「ちょ、ちょっと、陛下、それはいりませんでございますのでは?」
「よいよい、ハハハ、、」
「ハハハって、笑い事ではございませんわ!」
「よいよい、ハハハ、、」
「モモンは100レベルの戦士職なんでございますのよ!そんなのに突っ込まれたらわたくしの首が捥げてしまいますわ!」
「捥げてしまったらデュラハンにでも種族変更したらよいではないか!ハーハッハッハ………」
「ってか、デュラハンてアンデッドじゃないですか──!それってわたくしが死ぬこと前提ではございませんか!どこの世界に娘をアンデッドにしようとする親がございますかですわ!」
「いやいや姫よ、アンデッドも中々よいものであるぞ!」
≪っていうかモモンガさん、モモンに息子のようなものとかいったら、モモンは俺の兄か弟ってことになっちゃうじゃないですか!ま、外見的に兄になる感じ?≫
≪ついロールプレイに夢中になって余計な事まで喋っちゃいましたけど、別に設定に書き込んだ訳じゃないし問題ないでしょう!≫
≪でも、俺に『突っ込みを入れる』っていうのはきっちり書き込んでましたよね!≫
なんとお優しいお二人なのか、きっと俺の緊張を解いて下さっているのだろう。
───あの日、俺は溢れる涙を堪えて、慈悲深き魔王陛下に全てを捧げると心の中で誓った。
そして賜った勅命である近衛の任、諧謔の王女であり麗しの姫君、何よりも我が妹であるこの御方を必ずや守り切ると………。
それこそが我が生きる意味なのだ。
◆
『その姫がこの異常事態に際し目の前で怯えているのだ。自分が狼狽えてどうする。おっ〇いを揉むことで、姫が少しでも落ち着いていただけるならば何を躊躇うことがある。それが不敬であるならば、この命を持ってお詫び申し上げよう』
モモンは覚悟を決め、嵌めていたガントレット外し、ゆっくりと立ち上がるとナベの後ろへと回る。
『あれ、モモンは後ろに行った?っていうか俺何で眼を瞑ってるんだ?』
モモンは背後から優しく抱きしめるようにし、右手で───
『ええ──、後ろからなの?』
「あ、あのう、モモン、、なんで後ろ──」
ナベが言い終わる前に、モモンの手がナベの胸元に………。
───滑り込んだ。
モミ、モミ、モミ、、
『───?ん、なにこの気持ち良さ?…なんか思てたんと違う!』
「てか、ナマチチ揉んどるやんけ──!」
やっとモミモミまで来れました。次回以降はガンガン飛ばして………行けるかなぁ?
前回、Prologue1・2を同日投稿させていただきましたが、自分の予想を遥かに上回る皆様にご覧いただけた様でとてもありがたく感じております。
特にご感想を頂きました御方々には謹んで御礼申し上げます。
※高評価、ご感想など頂けましたら励みになります。是非よろしくお願い申し上げます。