モモンとナーベの呑気な絡みあり、シリアスな場面あり。笑いとドキドキの楽しい展開に………なってるかなぁ。
皆様にちょっとだけでも笑っていただけましたら幸いです。
後々の伏線なども幾つか忍ばせておきました。そのせいもあり、前3話に比べ少々長めですが、是非最後までお付き合いください。
薄暗く入り組んだ狭い路地、夜闇に紛れるように歩く一人の女。
堅牢な城壁に守られたここエ・ランテルは、三カ国と接している事から通交量が多く、軍事拠点という側面と共に、物資・人・金・など様々なものが行き交う商業都市としても栄え活気に溢れている。
ただしその活気も陽のある内の話である。
大都市とはいえ、陽が沈み、闇がたちこめる時間帯ともなれば、大通りですら人影は疎らとなり、女性や子供が出歩くには不安がある。
特に治安の悪いスラム街の、更に複雑に入り組んだ裏通りともなれば、屈強な男ですら一人で近づくことは躊躇うだろう。
しかし、丈の長い漆黒のローブを纏い、目深にフードを被った女は、そんな闇に覆われた狭い路地を、まるで白昼の公園を散歩するかのように、鼻歌交じりに歩いていく。
「──ふんふ、ふっふふん~、ええっと、その角を左だったかなぁ」
女が角を曲がるとその先には、薄汚れた服を着た幾人かの男たちが、バラックから剝ぎ取った角材を薪代わりに、篝火を焚き、駄弁りながら行く手を遮るように屯していた。
男たちは女に気が付くと、訝しげに話しかける。
「よう嬢ちゃん、こんなとこに一人っきりで来たのかい?」
女は歩きながら答える。
「ん?そだよ」
警戒心のまったくない女の様子に、男たちは注意深く周りを伺うものの、辺りは薪がパチパチと爆ぜる音以外は静寂が支配しており、他に人がいる気配はない。
やがて、目の前の女が本当に一人だと分かると、男たちは互いの顔を見合わせ、ニタリと下卑た笑いを浮かべた。
「ゲへへ…、道にでも迷ったのか?何だったらやさしい俺たちが案内してやってもいいぞ」
「それともここで俺たちと遊んでいくか?」
女は足を止め、男たちを一瞥した。顔に傷のある者、前歯の欠けた者、落ち窪んだ目が爛々としている者など、どれも暴力と犯罪の世界に身を置く者特有の容貌をしている。
「ごっめ~ん、私もお兄さんたちと遊んであげたいんだけどさぁ、今は時間が無いからまた今度ねェ」
女はローブの下の手を腰に当てたのか、前合わせの裾が一瞬ハラリと開くと、隠されていた肢体の一部が篝火の灯に照らされ垣間見えた。
革製なのだろう、下着状のそれは柔肌に食い込むように張り付き、しかし極めて表面積が小さいため、胸と股間を申し訳程度にしか隠しておらず、腹部や太腿が大胆に露出している。
滑らかな白い肌は、しっとりと汗ばんで娜婀めき、細く括れたウェストとそれとは対照的に肉感的な太腿は、男たちの獣欲を刺激するには十分過ぎる艶めかしさがあった。
男たちの一人がゴクリと唾を飲み込み、僅かに覗く女の柔肌を舐めるように見回すと、湧き上がる肉慾を隠そうともせずに黄ばんだ歯を見せながら言う。
「イ─ヒヒ、、そう言うなって、もう只じゃ帰れねェことくらい分かるだろォ、ヒヒヒ、、」
女は顎に人差し指を当て考える様子をみせる。
「ん~どしよかなぁ、でもぉ大事な約束があるし、時間にうるさい相手だからさぁ、やっぱり無理かもぉ、だからそこどいてくんな~い」
「お姉さんの
女の言葉に焦れた男たちは、益々下卑た笑いを浮かべながらにじり寄る。
「グダグダ言ってねえで、大人しくやらせりゃいいんだよ!どうせ騒いだってここには誰も来やしねえんだ。たっぷり遊んでやるぜ!ゲへへ……」
「そんなに遊びたい?じゃあ、しょうがないか─」
女はそう言うと、目深に被っていたフードを外す。
現わされたその顔は悪戯っぽく微笑み、ネコ科の動物を思わせるように可愛らしい。見た目の齢は17~18歳と瑞々しく、金髪のボブカットで煌めくような紫の瞳が男たちを見つめている。
「ウ─ヒョヒョヒョ、こりゃあ上玉だぜェ」
「今日は俺が一番だからな!」
「バカ野郎!俺なんか三カ月もご無沙汰なんだ、俺が先に楽しませてもらうぜ!」
猥雑な声を無視して、女は指を差しながら男たちの人数を数える。
「一人、二人、三人、、、っと」
「ンもう!エロすけべ──!
時間ないから全員纏めて遊んで・あ・げ・る」
ス──ドスッ、
ドスッ、ドスッ、ドスッ、、、
スラム街では、喧嘩や病気に起因して、道端に死体が転がっていることなど日常茶飯事だ。そのため、余程の事情が無い限り特に事件として調査されることはない。
ただし、そのまま放置しておくと疫病の原因になったり、場合によってはアンデッドになることもあるため、依頼を受けた冒険者が定期的に巡回し、見つけ次第頭陀袋に詰めて処理施設に運び適切に処分される。
ある日、薄汚なく狭い路地の数か所に、額に穴の開いた死体が何体か転がっていたが、特に誰の気に留まることもなく、普段通り適切に処理された。
それから暫く、スラム街の住人の間では夜中にうろついていると『エロすけべ―』という二つ名の雌猫悪魔に襲われるという噂が囁かれ、治安が幾分良くなったのだが、当の雌猫悪魔が実在するのか、真偽の程は分からず終いだったという。
◆
モミ、モミ、モミ、、、
「あ、あのう、モモンさん、わたくの勘違いかもしれませんが、もしかして、直にいっちゃってます?」
「は!その問であらせられる『直』がそのまま素直に【間に隔てがないこと・直接】という意味であり、そして『いっちゃって』はスラングとしての【触っている】と仮定するならば、私の手と姫様のおっ〇いとの相関関係は正にその通りであると愚考致します」
どことも分からぬ草原で目を瞑る美姫ナーベラルの頬をやさしい風が撫ぜた。仄かに蒼い草の香りの混ざる新鮮な空気を、彼女は胸いっぱいに吸い込む。
「ああ、おいしい空気ですわ」
ナ―ベラルはそっと眼を開け満点の星空を見上げる。
モミ、モミ、モミ、、、
「星が綺麗、キラキラと輝いて宝石箱みたいですわ」
美姫を後ろから抱きしめながらモモンは耳元で囁く。
「そうなのかもしれません。この世界が美しいのは姫様の身を飾るための宝石を宿しているからに違いないかと」
モミ、モミ、モミ、、、
「こんな美しい星々が、わたくしの身を飾るためですか。フフフ、たしかにそうかもしれませんね」
視界一杯に広がる満天の星空は美しく、清冽な空気の流れに身を浸しているような、爽やかな夜風も心地よい。のだが、ナ―ベラルはもはや言わずにはいられなかった。
「ってか、いつまでナマチチ揉んどるんじゃ──!」
「………はい?」
モモンは呆けたような返事をするもすぐに言葉の意味を理解し、ドレスの中に差し入れていた手を引き抜くやすかさずナ―ベラルの前に戻り跪いた。
「この命で謝罪を……」
言うが早いか次の瞬間には背中の大剣が抜き放たれ、その刃が彼の喉元に充てがわれていた。
キャーーーー!
「やめ、やめ、やめてェ──!
モモン!なにやってますの?!」
「は!この身を処断するご許可を頂きたくお願い申し上げます」
『そっか─、NPCにきつめの冗談は通じないよなぁ』
「ダ、ダメです。自害は認めませんわ」
「しかしながら姫、神聖にして不可侵たる御身の
『うっわー、重い、重いわー、それに『れいぼう』って何?雰囲気からして『冷房』じゃなさそうですわ。もしかして『うるわしい・ふくらみ』なのかしら?ぜったいお前の造語だろそれ!取り敢えずなんて言っとこうかなぁ?──よし!』
「モモン、あなたの全てを許しますわ」
「………」
「兎に角、危ないからその剣を仕舞なさい」
モモンは深紅のマントを翻し、自身の首に充てがっていた剣を徐に鞘へと納め、一段と深く頭を下げる。
「慈悲深き姫様の御言葉を拝──」
しかしナ―ベラルは言葉を遮る。
「あ──堅い、堅い、もうちょっとリラックスしていきましょうですわ!それにモモンのお陰で実験は成功しましたのですから」
そう18禁行為が出来るという事は、ここがゲームの中でないことは確実である。そこでふと気が付いた。
『もしかしてリリース前のベータ版か?それで制限が解除されているのか?え、モモンガさんは知ってたの?これってドッキリ?あ、このワールドアイテムが何か関係ある?』
ナ―ベラルは手に持つ『
漆黒の短杖の上部に、同じく漆黒のしかし艶やかな球体が浮遊している。
『そうだよなぁ、あのケチ糞なモモンガさんが、最終日とはいえ俺にワールドアイテムを貸してくれるっておかしいもんなぁ。そういう事なのか?』
これまでの人生で培ってきた常識が『アバターの姿で現実世界に転移した』という夢物語などあるはずがないと否定すも、ところが五感の全てで感じるこの否応もない現実感。
脳の内側と外側が猛烈にせめぎ合うような不思議な葛藤の中で、しかしナ―ベラルはすぐに答えを出した。
『うん。とりあえず楽しもう!』
ナベはこういう性格なのだ。情報が足りていない現状では、分からないことはいくら考えても分からない。ならば、今の状況を楽しんでしまえば良いと。
『あとは、あ、そうそう、魔法だ、魔法が使えるかも実験しなくちゃ!でもコンソールも出ないしどうしたら──?』
ところが、魔法を使おうと思った瞬間、頭の中で使い方が理解できる。手を動かそうと思えば、理屈など知らなくても勝手に動くのと同じような感覚だ。
『おお、なんか出来そう──』
頭に想い浮かべるのはとっておきの魔法──。
す──っ、ナ―ベラルは一つ大きく深呼吸をし瞼を閉じる。意識を集中すると途端に、自身を中心に10メートルもの煌びやかで巨大なドーム状の立体魔法陣が展開される。
魔法陣は青白い光を放ち、半透明の文字とも記号とも見える紋様を浮かび上がらせる。それは目まぐるしく形を変え、一瞬たりとも同じ文字を浮かべていない。
夜闇の草原一帯を煌々と照らすその幻想的な光景………
シュぺタ──ン!
──闇を切り裂く一閃。
瞬間ナ―ベラルの顔面に鋭い衝撃が走る。上体は大きく海老反りブリッジ状にしなる、次いで顔中に焼けるような痛みが襲い、すぐに魔法陣は跡形もなく消え去った。
「ぎゃ────!
いたい──!
いきなり痛──い!」
振り切ったフォロースウィングの姿勢から直ちに跪いたモモン。その手には特大のハリセンが握られていた。
「姫!こんな無防備な状態で
………。
ナ―ベラルはブリッジの体勢から、ぎィーーという建付けの悪いドアが軋む時の効果音が聞こえて来そうな動作で、小刻みに震えつつゆっくりと姿勢を戻す。
『
『え──、なんでこんなに痛いの?痛いなんてことありえる?』
これまでもモモンに突っ込みを入れられることは幾度もあったが、ぶたれた感覚はあるものの、激痛というのは初めての経験だった。
『我慢だ、我慢、顔面が激痛でも、上位者として威圧を込めて…』
「か、かほは、いけまへんわ、、」全然無理でしたー!
「ら、らしかに、わらくひが迂闊れした。ても、いきなり暴力は良くないのてははりまへんこと。わらくひたって話せはわかりまふのよ………」
「それから、とさくさにまひれて、わらくひのことふぉ『ハカ』といいまへんてひた?」
「愚見を申し上げさせていただくことをお許しいただけますならば、あれは『暴力』ではなく『突っ込み』でございます」
「あ、あのう、わはくひ、ホケておりませんのよ………」
「な、何と!あれはボケではございませんでしたか?」
「この命で謝………」
「こら──!お前の方がよっほとホケとるやないかー!」
そんなユグドラシル時代からのいつものやり取りをしながら、ナ―ベラルはふとモモンの持つハリセンに気が付いた。
「ねェモモン、そのハリセンどこから出ひまひたの?」
「は!これはアイテムボックスの一番手前側に常に用意してございます」
『常に一番手前て、殴る気満々やんけー!それにわたくしの事を「バカ」と言った事、完全にスルーしとるやんけ!い、いやいや、そんなことより』
「アイテムボックスってどこにございますの?」
「は?ここにございますが………」
モモンはそう言うなり虚空に手を伸ばすと、そこに黒い穴のような空間が広がり、そしてその手は中へと吸い込まれた。
「うっわ、きっも、なにそれ、どうなってますの?」
『………もしかして、そうか!多分魔法の時と同じ感じなんだな』
「モモン、これはお手柄ですわ。アイテムボックスに保管しているマジックアイテムが使えれば、この窮地もきっと乗り越えられますわ!」
ナ―ベラルは頭にアイテムボックスをイメージして手を差し込むと………。
「うわーやりましたわ!もう安心して大丈夫ですわよ!」
「姫様、おめでとうございます」
「これで……… わたくしドレス着放題ですわ!」
モモンが跪いたまま体を右側にズコッと動かしたことを、ナ―ベラルは見逃さなかった。
「いいですかモモン。わたくしのドレスは、毛皮で出来た石器時代の『はじめ人間風』から『十二単風』あるいはアニメの『ベルばら風・セーラームーン風・・』果ては近未来の『宇宙忍者風』まで総数百着以上ございますのよ。これだけ揃えたのは、ユグドラシル広しと雖もわたくしがNO1と自負してございますわ」
ナ―ベラルは自信満々に胸を張る。
「姫、もうちょっと実用性のあるアイテムは、、、ある訳ないですね」
「ああ──、なんか、嫌な言い方!モモン感じ悪いですわ」
これ以上は不毛な会話と思ったのか、モモンは話題を変える。
「姫、先程姫様のお乳に触れさせていただきました際、こんなものがおりましたが」
モモンはそう言うと、指で摘まんだ小さく黒いものをナ―ベラルに見せた。
「ん?なんですのそれ?」
『てか、さっきはわたくしのパイオツのこと『麗膨』とかいい感じで言ってたくせに『お乳』って、それどうなの』
ナ―ベラルが顔を近づけよく見ると、それは………。
「ぎゃ──!Gでございますわ!」
(パイオツの谷間にGがいる女なんて最低やんけ──!嫁に行けんわー!)
(いやいや、なんで俺嫁に行こうとしとんねん?)
『あれ、っていうかなんか可愛い?』
『あ、そうだこの前のナザリック五大最悪探検肝試し大会の時に、恐怖公のところでGまみれになっちゃった時にドレスの中に入り込んだんだ。でも何故だ?全然気持ち悪くないぞ。それどころかすごく可愛く感じる。あ、そう言えば、元々二式炎雷君が作ってたガンマの初期設定には『虫好きで、人を貶すときなどは虫に例える』って項目があったような気がするぞ。あれ見たときは『なんじゃそれ』って思ったけど、今のわたくしってあの設定に引っ張られてるの?』
「兎に角…その子はここで保護しておきましょう」
そういうなり、ナベはモモンからGをやさしく受け取り、アイテムボックスへと閉まった。
『でも性格が設定に引っ張られる?もしかすると設定だけじゃなくて肉体にも引っ張られたりするのか?肉体が本物の女になってた場合は、心も女性的になってしまうのか?あれ、そう言えばさっきから頭の中で考えている時、自分の事を俺って言ったり、わたくしって言ったりしてなかった?こうなったらよし、体をしっかり確認してみるか』
「ええっと、モモン、ちょっとそのまま下を向いててもらえるかしら」
「はい、畏まりました」
『さて、これでよしと』
ここでようやくナ―ベラルは、先程来何となく見ないようにしていた自分の体を、しっかりと観察してみることにした。
ゆっくりと下方に視線をやると、美しい胸元が視界に入る。肌は真珠のように白く透き通り、柔らかな絹織物より尚キメが細かい。
そこには大きく割れた谷間があり、谷の深さに呼応して存在感を示す双峰が遮るせいで、その下に有るはずの半身は見えない。
薄桃色のドレスはサテン地のように艶があり、それが胸の我儘を辛うじて諫めていたが………。
ナ―ベラルはその部分を一気にずり下げた。
──ブリリ~ン
勢いにまかせ弾き出された柔らかな双峰は、満天の星空の下で優艶に大きく波打った。
「なんという………」
二つの膨らみは形よく均整美を保って隆起していて美しい。ゲームでは下着を外すことは出来ないので、当然その下のディティールは一切デザインしていないにもかかわらず、俗にいう『釣り鐘型』というのだろうか、慎ましく突起した桜色の先端部分までもが美しい。
ナ―ベラルはそっと手を充て軽く揺すると、気持ちのいい重さを掌に感じる。
そして先端をほんの少し摘まんでみる。
「──あん♡」
その声に俯いていたモモンの肩がピクリと揺れる。
『あぁ、やべ、やべ、思わず声が出ちゃったわ』
『仮にベータ版だったとしてもビーチクまで表現するか?この際パンツの中も確認してみるか。でもこんな開っ広げな屋外で?ベータ版ねェ?』
『──ベータ版…?』
『ベータ版だとしたら当然これ運営に見られてる?よね?ハハ………』
ツーっと、背中に一筋の汗が流れたことを感じ、ナ―ベラルは思考の海から浮かび上がる。
視線を上げると、目の前に跪くモモンもまた顔を上げている?
「───はぁ?」
「どこ見てんのよ───────!」
ナ―ベラルは慌てて双峰を両手で覆い隠しモモンに背を向ける。
「はい、姫様。私から見て10時の方角、距離にして約8㎞先より近づいて来る人影のようなものがございます」
「え、ええー?あの、その、わたくしのパイオツ……」
「ひ、人影?誰?プレアデスのみんな?」
「いえ、未だ距離が遠く、黒系の外套で全身を覆っているようで、夜闇に紛れてはっきりはしませんが、おそらくは一人のように見えます」
ナ―ベラルはモモンの視線の方角を見定め、直ちに魔法を発動する。
「ラビッツイヤー」
◆
「──遅いではないか」
スラム街の奥、そこに襤褸のフードですっぽりと顔を隠した二人の男と、悪戯ネコのような表情の女が対峙していた。
「でもー、こんなところを待ち合わせ場所にする方がいけないんだよー。途中で沢山のおにいさん達に求愛されちゃってー大変だったんだよ」
「でもあれって、もしかして、あなた達のお仲間だったのかなぁ?」
女は悪戯っぽい笑顔でそう問う。
「いや、我々には関係のない者どもだ」
嘘だ。女の実力を試すために組織が用意した捨て駒である。捨て駒とは言っても、その者達の実力は上位冒険者にも匹敵するワーカー達であった。
その返事に女は落胆を隠そうともしない。
「ええ、そうなんだー『俺の仲間をよくも!』って怒ってくれると楽しいんだけど…」
「まったく、お前のような女をなぜ盟主様がご所望されるのか…」
軽く二・三度顔を振った男は、懐から地図の描かれた羊皮紙を取り出し女に手渡す。
「そこが待ち合わせ場所だ。今回は盟主様の右腕たる副盟主様が、直々に最終面接を行ってくれるのだ。感謝せい。それから、これは俺からのありがたい助言だが、かの女史は時間にうるさい方だから、少なくとも一時間は前に待ち合わせ場所に到着しておけよ」
◆
闇が覆う見渡す限りの草原を、頭も腰も上下しない独特の動きで疾風の如く走る女。
女は数カ月前のある事件をきっかけに、広範囲に暗躍する秘密結社と繋がりを持つようになっていた。
秘密結社は女の持つ情報と、その英雄級の力を欲し、女は現在所属している組織を抜けるための隠れ蓑を求めており、互いの利害関係が一致したのだ。
秘密結社は秘密というだけあってさすがに用心深い。女がスパイではないという確証を得るまで、組織の実態は勿論、組織の正式名称すら伝えてはいない。
女の方も特殊部隊所属とあって、これから転籍するかもしれない組織に付いては油断なく調べていた。
そういう訳で、数カ月に渡る連絡係とのまどろっこしい折衝を経て、ようやく今日秘密結社の幹部と接触の機会がやって来たのだ。
しかし、女は苦々しい思いで走っていた。
『こんなだだっ広い草原で、どうやって待ち合わせ場所を探せっていうんだ!』
すると、地平線辺りだろうか唐突に青白い光が煌き、すぐにその光は消えた。
女は走りながらその場所を視認する。
「あれが目印?なんであんな目立ちそうなことするの?それにまだ約束の時間のだいぶ前だよ?」
理由は分からないが、あれが待ち合わせ場所の目印であることは確実だろう。女はさらに加速した。
『──疾風走破』
ナ―ベラルの頭にピョコンと現れたウサギ耳は、ピコピコとかわいらしく動きながら遥か遠方の足音を鮮明に聞き取っていた。
「たしかに一人のようですわね。でもすごいスピードよ!もしかすると時速100㎞近く出てるかもしれないですわ」
『プレーヤーか?逃げるか?でも走ってもあっちの方が速そうだなぁ、飛ぶか?いや狙い撃ちされるかもしれないなぁ』
ナ―ベラルがしばし逡巡していると、
「姫、私の後ろに!」
モモンがナ―ベラルを庇うように前に出て、二本のグレートソードを抜き放ち両の手に構えた。
疾風の如く迫るそれは、数キロの距離を瞬く間に走破し、二人の前でゆっくりと停止した。
女がたどり着いた場所には、戦士風の男と、ドレス姿の女がいた。
戦士風の巨躯の男は、金と紫の紋様の入った見事な漆黒のフルプレートに、深紅のマントを靡かせ二本の大剣を構えている。
ドレスの女は、その後ろで隠れるようにこちらを窺う。
その女は髪をシニョン風に絡め上げ、そこには宝石を鏤めたティアラを乗せ、胸元はさらに大粒の宝石を輝かせたネックレスで飾り、艶のある薄桃色のドレスもよくよく豪華だ。
二人が纏う一品一品が、全て国宝級と言われても、異論をはさむ者など誰もいないと断言できる。
しかしながら特出すべきは、二人の顔がそれら装飾華美な品々よりも更に美しいということだ。兄妹と思わしきよく似た二人は、正に才子佳人と呼ぶにふさわしい。
なぜがドレスの女の頭にはウサギのような耳が付いているが、おそらく何らかのマジックアイテムなのだろう。そのウサギ耳に手を添えているところを鑑みるに、こちらを探っていたに違いない。
漆黒のローブを纏い、ネコ科の動物にも似た可愛らしい女は、目の前の有り得ない光景に度肝を抜かれ、戦慄に固まり、紫の瞳は大きく見開かれていた。
しかし、驚いたのは、見事なフルプレート鎧でも、豪華なドレスでもない。
驚愕の本流はやがて言葉となり、彼女の口から零れ落ちる……。
「──この女、なぜにおっぱい丸出し?」
ナーベちゃんがおっ〇い丸出しにしちゃったので、一応R15付けました(^-^;
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