始まります!
そんな中、夏服の白のポロシャツを着た
すると、色白の手が蓮司の顔から雑誌を優しく奪い取っていく。雑誌はくるくると丸められると、そのまま彼のツンツン頭に勢いよく叩きつけられた。
「ぐあっ、がっ、ぶっ!?」
体制を崩した蓮司は後ろの席に後頭部を強打し、そのまま顔面から床に叩きつけられてしまう。
「頭、顔? とにかく痛いなおい」
そこには長身でそばかすの浮いた女子生徒がゴミを見るような目で蓮司を見下ろしていた。
比較的高身長な蓮司が立ち上がっても彼女は頭1つ大きく、黒髪も肩まで伸びている。彼女は白いカッターシャツと黒いスラックスを履いていた。
「起こす時くらい優しくして欲しいもんだね」
蓮司の言葉を聞いた
「ラーメン奢ってくれる約束すっぽかされたらたまったもんじゃないですからね」
「ラーメン? ああ、確かメダル借りた時の約束だっけ?」
「150枚。1枚あたり0.15円なんでうずまきラーメン約2杯分っすよ」
真冬はスマートフォンを取り出して電卓を操作すると、得意げに計算画面を叩きつけた。
「クチコミ評価4.4、これは当たりの部類でしょ」
「クチコミ見ないと食べられない口?」
「蓮司が先に食べてたのもありますけどね」
手に持っていた雑誌で蓮司の胸をつつくと、空きっぱなしで置かれていた彼のリュックサックにパッと投げ入れる。
「じゃ早速行きましょう。バイクならここから10分です」
「残念だけどバイクは家だ。通学も電車だし」
「それじゃ徒歩って事すか。この炎天下女の子を片道約35分も歩かせる魂胆で?」
「分かったよ、バス代も払う。その代わり追加トッピングはなしな!」
真冬は小さくガッツポーズし、上機嫌で教室を後にする。
本来C組の生徒である真冬とは、学校近くのゲームセンターで意気投合した。最近ハマったメダルゲームが絶望的に下手である蓮司は、当たりを引くまで彼女に幾度かメダルの借金を積み重ねていた。
返済は校則違反をしないよう、お金ではなく昼ご飯の奢りやカラオケ代の負担などで誤魔化している。今回もメダル150枚分の返済のため、駅近くのラーメン屋に赴くことになっていた。
北宝寺高校前のバス停から終点の北宝寺駅前まで乗車した2人は、そのまま駅に隣接しているショッピングモールに向かっていた。
「して蓮司、『仮面ライダー』の噂は聞いた事あります?」
「仮面ライダー?」
「バイク乗りならそれぐらい押さえてほしい都市伝説なんすけどね……」
「俺はメカニックなんだけどな……」
蓮司がそう呟いた瞬間、彼の右半身が泥ハネで汚れてしまう。振り返ると、そこには爆音を轟かせて蛇行運転する2人乗りのバイクがいた。
「イチャついてんじゃねーよ、バーカ!!」
100均で購入したと思われる天狗のマスクを付けた男2人組は、危険運転を繰り返しながら曲がり角に消えていく。
蓮司はポケットからハンカチを取り出すと、汚れた右の頬を乱暴に拭った。
「仮面ライダーってあれ?」
「絶対違う。仮面ライダーは市民をネイバーから守るヒーローっすから」
「また出たよ。今度は何ネイバーって?」
「ネイバーも知らないとはまた無知ですね。まあゲームと設定がかけ離れてるのもありますけど、ネイバーとは……」
真冬が説明しようとしたその時だった。
先程の曲がり角から爆発が聞こえたかと思うと、そこから仮面を被った内の1人がこちらに逃げてきた。
服を台無しにされた怒りから蓮司は彼の足元を引っ掛けて転ばせてしまう。
「おっとごめんよ、何急いでるかは知らないけど周りはよく見ないと」
「た、助けてくれ拓が!!」
男はそう言うと彼の足に縋り付く。
するとまたしても爆発と悲鳴が上がり、見るとそこには逃げ惑う人々と、その奥にムカデのような異形がいた。
至る所にムカデが巻きついた身体に、後頭部からはさらにムカデの胴体が生えている。鋭い牙からは紫色の液体が滴り落ちており、まさにムカデそのものが人の形を模したような怪人だった。
「モット汚ス……モット……」
「ヤベェよ、どうしたんだよアイツ!!」
男は怪人を見て再び逃げだした。
「あれがネイバー、生で見たのは初めてです」
「ああ見たくないタイプのやつだなこれは」
怪人ムカデネイバーを見てそれぞれ正反対の印象を持つ2人。写真を撮ろうとする真冬に対し、蓮司は彼女の手を引いて走り出そうとする。
だがバランスを崩した真冬につられて転倒してしまう。こちらに狙いを定めて走り出したムカデネイバーに、真冬はようやく恐怖を抱いた。
「あっ……」
「ああクソ、こんな所で死んでたまるか!」
蓮司はリュックサックを放り投げて真冬の前に立つと、拳を固く握って迎え撃とうとする。
「やめて! 蓮司!!」
ムカデネイバーは無数の足が蠢く右腕を振り上げて蓮司の頭を叩き潰そうとする。咄嗟に両腕でガードしようとしたが、ムカデネイバーの腕から滴り落ちた毒液で突然ガードが崩れてしまう。
目前に迫る攻撃に蓮司は目を瞑る。死を覚悟した彼だったが、攻撃はどこからともなく飛んできた銃弾によって弾かれてしまった。
「驚きましたまさか、生身でネイバーに立ち向かおうという一般市民がいようとは」
蓮司の元に現れたのは、白のシャツにジーンズを穿いた青髪の青年だった。
「初めまして私は、対ネイバー同盟のハカセといいます。本名です」
ハカセは流線型の水色の携帯銃を構えると、再び襲いかかってきたムカデネイバーの膝を撃ち抜きその場に倒れさせた。
その隙にハカセは赤いサングラスをポケットから取り出すと、有無を言わさず蓮司にかけさせる。
【生体認証中……変身者登録完了】
サングラスから機械音声が鳴ると、蓮司の腰に光が集まってドライバーの型を形成していく。光が晴れると、黒いモニターが取り付けられたバックルに銀色のベルト帯のドライバーが蓮司に装着された。
『ボウエイドライバー!』
「おい何だよこれ!? 外せないし……」
ベルト帯を揺らしてボウエイドライバーを取り外そうとする蓮司に、ハカセはバイクの絵柄がプリントされた薄い板状のキーホルダーを差し出す。
「これをバックルの右から差し込んで起動シークエンスを開始してください、シークエンスはサングラスから指示されます」
「何言ってるか全然わかんねえよ!」
「変身すれば。あの怪人を倒せます、今変身できるのはあなたしかいない状況ですお願いします」
頑なに説明を省こうとするハカセに口をあんぐりとさせる蓮司だったが、立ち上がろうとするムカデネイバーと怯えきった様子の真冬を見て再び拳を握りしめた。
「俺しかいないんだよな?」
「今はそうですね」
「なら、変身してやるよ!」
ハカセからキーホルダーを受け取ると、バックルの右側にある差し込み口に装填した。
『レッドゾーン、コネクト』
ドライバーから淡々と機械音声と共にバイクの走行音が鳴り響くと、目の前にシルエットによる起動シークエンスの説明と、赤色の球が蓮司の左側に表示される。
蓮司はガイド通り右手で赤色の球を右側にスライドさせていくと、そのまま左手で球に向かってストレートを打った。
【ACCESS!!】
成功表示が映されると、蓮司は一瞬口元を緩め、その後顔を引きしめた。
「変身!」
ドライバーから粒子コーティングによって紅の装甲が装着されていく。コーティングが終わると、そこには両手足に小さなタイヤ、首に白いマフラーが付けられた仮面の戦士が立っていた。
【Who are you?】
「えっ? 名前は……」
「ウェブウォーリアーネーム、言わばニックネームでお願いします」
ハカセのアドバイスを受け取ると、蓮司は咳払いしてシステムに名前を登録した。
「なら、ヴァイカーで!」
【OK! You're VIKER!!】
『ヴァイカー! レッドゾーンフォーム!』
機械音声は一転、テンションが高い女性のものに変わって新しい戦士の誕生を祝福する。
モニターには炎が揺らめくアニメーションが映され、彼の闘志を奮い立たせていた。
「オ前……誰ダ?」
変身した蓮司を見てムカデネイバーは困惑する。
それとは反対に、先程まで怯えていた真冬は彼の姿を見て安堵を浮かべ目を輝かせた。
「蓮司が、仮面ライダーになった……!」
「仮面ライダー? ああ、さっきのか」
ムカデネイバーは回復した脚を這わせて3人に襲いかかる。が、いつの間にか目前に迫っていたヴァイカーの蹴りを顔に食らって後方に吹き飛ばされた。
「俺が誰なのか……俺はヴァイカー、仮面ライダーヴァイカー! ってどうかな?」
ヴァイカーは手を腰に置いて後ろを振り返る。真冬は笑顔でピースサインを送り、ハカセもぎこちなさげにそれを真似した。
「なら決まりだ。いくぜムカデ男」
ふらつきながら立ち上がったムカデネイバーに距離を詰めると、立て続けに顔に何発もパンチを打ち込む。
ムカデネイバーは反撃に殴りかかろうとしたが、ヴァイカーは一瞬にして後ろに回ってがら空きの背中を蹴り上げる。
「何ッ!?」
「どうだ速いだろ。どんどん行くぜ」
ヴァイカーは両手を広げてタッチパネルを出現させる。様々なメニューがある中、『GEAR』のメニューを開いて上向きの矢印を2回押した。
【MODE 3】
「ドコヲ見テイル!」
ムカデネイバーは右手から毒液を噴射する。飛び散った街路樹が次々に枯れ果て炎上していくが、ヴァイカーは口元に指を当てて動かない。
するとヴァイカーの周りの景色がほぼ止まったように変わってしまう。その間襲いかかる毒液の濁流を軽く裂けながら、タイヤが高速回転している右腕でムカデネイバーの胸部にアッパーを食らわせる。
その瞬間、時間の流れが元に戻りムカデネイバーは上空に打ち上げられた。
「マジすか、いつの間に……」
「あれがレッドゾーンの力です、システムガイドありとはいえここまで使いこなしてしまうとは思いませんでした」
ヴァイカーの圧倒的な力に2人は驚嘆してしまう。ヴァイカーは再びタッチパネルを出現させると、今度は『FINISH』のメニューを開く。
「さあ、ファイナルラップだ」
ヴァイカーの黄色い目が輝き、両手足のタイヤが煙を上げて高速回転する。
ギアメニューで速度をさらに上げると、赤色の光とともに高く飛び上がった。
【MODE 5】
『レッドゾーン! フルスロットルブレイク!』
炎を纏った右脚でムカデネイバーを貫くと、大きな風穴をくぐり抜けて着地する。
ムカデネイバーの身体はすぐに爆散し、爆風を受けたヴァイカーのタイヤがゆっくりも止まっていった。
ヴァイカーが立ち上がると、彼の足元に光が集まり人の形を作っていく。そこには天狗の仮面を被った男が倒れており、目を覚ますや否やヴァイカーを見て後ずさった。
「ば、化け物! 俺の身体に何しやがった!?」
「化け物って誰、俺? 何の事だよ」
男は悲鳴をあげながら逃げていく。
ヴァイカーは不思議に思いながらも、バックルからキーホルダーを引き抜き元の姿に戻る。サングラスを外して真冬の元に行こうとするが、突然蓮司の体に激痛が走ってその場に倒れてしまう。
「何だ……体が、痛い……!」
「レッドゾーンの加速を使いすぎた副作用ですね。大丈夫ですただの筋肉痛なので」
「筋肉痛ってレベルじゃねえよ……」
「動けないなら仕方ありません。車を呼びます、説明諸々あるので是非ご同行をお願いします」
ハカセは真冬と共に蓮司を担ぐ。ボロボロの蓮司に、真冬は魔が差したのか肘で軽く小突いた。
「痛っ!お前それほんとシャレにならない!!」
「マジでやられてるんすね申し訳ない。それと……ありがとう」
「どういたしまして。ラーメンはまた今度な」
真冬の顔に笑顔が戻り、蓮司は口元を緩めて体を2人に預けた。駆けつけた黒いバンに、3人は1歩ずつゆっくりと歩いていく。
「あれがウェブウォーリアーか。邪魔してくれちゃって……」
その様子を、駐車場の屋上から蜘蛛のような意匠を持つ怪人が鬼気迫る表情で見つめていた。
次回の仮面ライダーヴァイカー!
「ようこそ、対ネイバー同盟へ。歓迎します」
「責任? 自己中集団を助けてやる義理がどこにあるって言うんですか……」
「私は仮面ライダードリーマー」
「ファイナルラップに乗り遅れんなよ?」
第2話『Welcome to 仮面ライダー』
ハカセのライダーメモ
■レッドゾーンホルダーギア
ウェブウォーリアーをレッドゾーンフォームに変身させるホルダーギア。
レッドゾーンの力を得たウェブウォーリアーは、ギアを上げることによって身体能力と加速力を成長させることができる。
但し、ギアの使いすぎは身体を著しく疲弊させる為に注意が必要。