ヴァイカーが誕生して3日後、蓮司は夏休みにも関わらず北宝寺高校に登校していた。
「仮面ライダーが補習なんて恥ずかしいよな……まあこんな日はプールに限るか」
学校指定の水着姿に着替えた蓮司は、体育館の更衣室から隣にあるプールに足を運ぶ。プールサイドには既に何人かの生徒が集まっており、各々準備運動や談笑をしている。
体育の授業を1回欠席していた蓮司は、単位認定の為この補習授業への参加を義務付けられていた。軽く準備運動をしてシャワーを浴びると、1年生の体育の担当教師にメニューを自己申告する。
「2年A組1番赤城蓮司です、クロールで50メートル泳ぎます」
先生の了承を得ると、1番レーンに入水してゴーグルを付ける。早く補習を終わらせたいあまり何度も先生の様子をチラチラと伺っていると、突然隣のレーンから助けを呼ぶ声が聞こえてきた。
「脚がつりました!! 助け……!」
「おいおいマジかよ」
先生よりも先に動き出していた蓮司は、溺れかけていた女子生徒の手を力強く引っ張ってサイドまで牽引する。そのまま陸地へ押し出すと、自身もプールから上がって彼女の頬を何度か叩く。
「大丈夫か、しっかりしろ?」
「へ、へへへ……まさか5メートルで溺れてしまうとは……」
「ツイてないな。これじゃまた補習だぞ?」
「そうですね……ともかくありがとうございます、仮面ライダーさん……」
「どういたしまして……え?」
戸惑う蓮司に、大宮美香は笑みを浮かべながら失神してしまった。
一方その頃、北宝寺のニュータウンにある一軒家ではバーベキューが行われようとしていた。5歳になったばかりの寺澤守と、その母親である寺澤恵理は一家の父には内緒で豪華なお昼ご飯にしようと庭先に出ていた。
「早く焼いてよお母さん!」
「焦らないの、それと今日はこれも食べてもらうからね?」
「うげっ!?」
恵理が見せたのは、守が苦手とするキノコだった。普段はその見た目を何よりも苦手とする為、ハンバーグなどに混ぜるなどして食べさせていた。だがいつまでもそうして誤魔化している訳にも行かないのか、今日こそは苦手を克服してもらおうと奮起したのだ。
「嫌だ食べたくない!」
「ダメ! そんなんじゃいつまで経ってもキノコ嫌いなままでしょ?」
「嫌だって言ってるじゃん!!」
家の中に逃げる守を追いかけようとした恵理だったが、彼女の肩に白く透き通った手が置かれる。
振り向くと黒いワンピースを着たオッドアイの少女がいた。髪は白く短く整えられているが、右のサイドだけは目を隠すほどに伸ばしている。彼女は恵理の口元に指を置き鼻で笑った。
「ダメじゃない、もっとキツく叱ってやらないと」
「あなた誰ですか? どこから入って……」
すると少女は恵理を突き飛ばし、広げた右手に銃型の変身デバイスを出現させた。
『シンリャクドライバー!』
「貴方の存在、書き換えてあげるわ!」
少女はシンリャクドライバーのグリップの下に、キノコの絵柄がプリントされたホルダーギアを装填した。
『ネイバー・コネクト』
バイオリンによる不快な待機音声が鳴り響くと、少女は恵理の胸元に銃口を押し付けて妖しく口角を上げる。
「変換」
『ユーアー・キノコネイバー!』
トリガーを引いてネイバーのデータを恵理に注入すると、彼女の体はノイズが走ったように歪んでいくと、金切り声と共にキノコの怪人キノコネイバーへと変化させられた。
「マモル……キノコ、タベナサイイイイ!!」
キノコネイバーは窓を突き破り、2階にある守の部屋まで胞子を撒き散らしながら消えていった。
ひと仕事を終えて佇む少女に、上空からバーベキューコンロを踏み潰してニアスパイダーが降りてきた。
「お前も物好きだよな、ああいうのの何が楽しい訳?」
「面白いじゃない、愛情がある日突然壊れていくその不幸! 堪らないわ……」
恍惚な表情を浮かべて手を広げる少女に、ニアスパイダーは庭にちらばっていたキノコを貪りながら面倒そうに返す。
「まあ俺たちの仕事は終わった。計画通りハカセがやってきて、デストさんに返り討ちにされるってわけ」
「ホントに、何でアイツの指示に従わないといけないわけ? 真面目にやってたら二度とあんな不幸が見られなくなるのに」
「ったくペインもデストさんも俺には同じに見えるけどね。さあ帰るぞ」
ニアスパイダーは少女ペインを担ぐと、民家の屋根伝いに跳躍しながらその場を立ち去っていった。
無事に補習を終えた蓮司と美香は、食堂で自販機のコーラ片手に向かいあわせで席に着く。
制服姿の美香は瓶底メガネに黒のおさげと、却ってクラスで目立ってしまう程の風貌をしていた。水泳の時には比較的美形に見えた顔立ちも、メガネをしてしまえばキレ目も顔の輪郭も一瞬で消えてしまう。
怪訝そうな目で見つめる蓮司に、美香はカバンから堂々と1冊のアルバムを取り出した。
「『KAMEN RIDER's FILE』、何だこれ?」
ファイルを取り上げた蓮司はそのままページをめくる。そこにはヴァイカーやドリーマーの戦闘中の様子が写真に収められており、最後のページには蓮司とハカセが並走して走って行った3日前の写真が載っていた。
写真にはそれぞれ吹き出しメモで補足が書かれており、『ヴァイカー初変身!』や『ダブルライダー初共闘!』と主張の激しさが目立つ。
反応に困ってしまう蓮司に、美香はSNSのアカウントから自分の投稿を遡って彼に見せる。
「ほら、この投稿覚えてないですか?」
「『助けて仮面ライダー!!』って、あれアンタの投稿だったのか?」
「そうですそうです! いつも私が投稿した後必ず来るから、絶対見てくれてるって思ってまして!」
美香はコーラを一気飲みすると、今度はカバンからサイン色紙と油性ペン、そしてインスタントカメラを取り出した。
「サインと握手、それから写真! 烏滸がましい限りですが何卒よろしくお願いします先輩!」
「また厄介なファンができたな。ほら、貸して」
蓮司は慣れた手つきでサインを書き、軽く美香の手を握ってインスタントカメラを奪い取り自撮りを行う。
撮られた写真にもサインを書くと、美香に渡してコーラ片手に一息つく。サインと写真を手に美香は幸せそうにそれらを抱きしめていた。
「はあーたまらん、先輩がこんなにファンサ上手な人だとは……」
「ちょっとやる機会があっただけさ。一応正体は内緒にしといてくれよ、学校に行きづらくなるからな」
「勿論ですよ! プライベートは絶対漏らしません!」
首がねじ切れそうな勢いで横に振る美香に、蓮司はコーラを吹き出しそうになった。口を手で押さえて咳き込んでいると、ポケットのスマホに着信が入る。相手はハカセからだった。
「蓮司君、ネイバーが現れました。子供を人質に宝谷南公園に逃げています」
「分かったすぐに向かう、なるべくそっちで耐えてくれ」
「いえ……申し訳ありませんが私は別件で用がありまして。ネイバーは蓮司君に任せます。それでは」
有無を言わさずハカセは電話を切ってしまう。
蓮司は残ったコーラを一気に飲み干すと、咳き込みながら食堂を出て校舎裏にある駐車場に向かう。マシンレッドエンドに跨ってヘルメットを被っていると、息を切らしながら美香が駆け寄ってくる。
「あたしも……連れてってくださーい……」
「ダメだね、ファンを危険な目に遭わせるわけにはいかないんでね。それにヘルメットが1個しかない」
「そ、そんなあ……」
蓮司はシールドを開けてウインクすると、赤いサングラスをかけてボウエイドライバーを出現させる。
バックルの右にある装填口にレッドゾーンホルダーギアを差し込むと、シールドを下ろしてレッドエンドを発進させた。
「変身!」
『ヴァイカー! レッドゾーンフォーム!』
ボウエイドライバーに備え付けられた緊急用音声認識機能によって、蓮司は起動シークエンスをショートカットする裏技でヴァイカーに変身してみせた。
ヴァイカーは北宝寺高校生の注目を集めながら正門を抜けると、目的地の宝谷南公園へ走っていった。
取り残された美香はその場で立ち尽くしていたが、彼女の元に同じ北宝寺の女子生徒がやってくる。
「あなたは……?」
「話は大体分かってるよ。仮面ライダー、好きなんでしょ?」
カバンのチャックの隙間から黄色いサングラスを覗かせながら、真冬は下手くそなウインクを美香に送った。
宝谷南公園から700メートルほど離れた団地の駐輪場にて、ハカセとデストはお互いにサングラスをかけて対峙していた。
ハカセは青いサングラスをかけてボウエイドライバーを装着、ベガスホルダーギアを右の装填口に差し込んでいる。
対するデストは黒いサングラスをかけ、シンリャクドライバーと牛の絵柄がプリントされたホルダーギアを取り出した。
「お前のおかげで、この世界を書き換えることができそうだ。本当に感謝している」
「私はそんな事の為にウェブウォーリアーシステムを作ったんじゃありません。貴方は私の試作品を改造し、悪魔の武器に変えてしまった……」
「悪魔? 何を言う、悪魔はお前だろうが! 忘れてはいないだろう、お前のトモダチとその死を!」
デストはシンリャクドライバーをハカセに突き出して非難する。ハカセは右手で指を鳴らすと、静かに起動シークエンスを完了させた。
「変身……」
『ドリーマー! ベガスフォーム!』
変身したドリーマーは、生身のデストに向けて右手からコインのシャワーを浴びせようとする。
しかしデストはシンリャクドライバーでそれらを全て撃ち抜くと、グリップの下にバッファローホルダーギアを装填して銃口を自身の左腕に押し当てた。
焦るドリーマーを笑っているように見えるものの、その目は抑えきれない破壊衝動によって赤く血走っていた。
『ニア! ネイバー・コネクト』
「お前が作った悪魔の兵器で、お前を破壊する。変換!」
トリガーを引いたデストは、シンリャクドライバーの生体書き換えによってその姿を変化させていく。
ニアスパイダーと同じ黒いアンダースーツに、牛の意匠を持った怪人がドリーマーの前に立ちはだかる。
『Destruction! Buffalo!』
牛の上級怪人・ニアバッファローは、シンリャクドライバーを投げ捨てると黒い蒸気を背中から噴出させながらドリーマーに突進していった。
一方、宝谷南公園にたどり着いたヴァイカーもその異変に察知することができた。
「おかしいな、嫌な予感がするぞ。それも厄介な……」
辺りを警戒しながら進むヴァイカーの前に、木製のベンチの上で倒れ込む守の姿があった。
守の手足には毒々しいキノコが生えており、彼の力を吸い取るように徐々に大きくなっていた。肌も青白く唇も紫に変化しており、事態は一刻を争うようだ。
すぐに病院に向かおうべく走るヴァイカーだったが、彼の脚を蜘蛛の糸が絡め取り近くの木に吊り上げてしまう。
「ぐなっ、何だ!?」
「ヒャハハ、引っかかった引っかかったあ!」
見上げると、そこに居たのはニアスパイダーだった。ヴァイカーはこの状況を打開すべく、両脚のタイヤを回転させながらニアスパイダーを問い詰める。
「お前か! あの子供をあんな目に遭わせたのは!? このクソ野郎!」
「あー違う違う、でもあんな目に遭わせたヤツの仲間ではあるな。目的はただ1つ、お前を殺すこと!」
「そうはいかねえよ!」
飛びかかるニアスパイダーに、ヴァイカーは間一髪蜘蛛の糸を引きちぎって地上に着地して攻撃を避けた。
すぐさまメニューを開いてギアを上げると、ニアスパイダーの背後を取り余力で強力な回し蹴りを放つ。
避けられず大打撃を食らったニアスパイダーだったが、すぐに体勢を立て直すとヴァイカーに向けて糸で生成された爆弾を口から放出した。
「ギアをもっと上げるか!」
【MODE 2⇒MODE 3】
爆弾を必死に裂けながら、ヴァイカーはタッチパネルを開いてもう一度加速力を上げる。
高速で飛んでくる糸の爆弾に対し、ヴァイカーは高速移動を駆使してそれらを避けつつニアスパイダーの顎にアッパーを打ち込んだ。
疲労が溜まる前にギアの値を1に戻すと、時間の流れが元に戻ってニアスパイダーは上空に打ち上げられてしまう。トドメを刺すべくヴァイカーはフィニッシュメニューを開いた。
「ブッ!? てめえ……」
すぐさま木々を糸で結んで巨大な蜘蛛の巣を作り上げたニアスパイダーは、巣に張り付いたままヴァイカーを見下ろす。
「おいおいどうした蜘蛛男? もうギブアップか?」
「いいやあ? 俺の心配より、クソガキの心配をした方がいいんじゃねえの?」
「何……なっ!?」
ヴァイカーが視点を戻すと、そこには守を人質にキノコネイバーが不敵な笑みを浮かべていた。ニアスパイダーは巣に宙吊りになったまま腹を抱えて彼を嘲笑う。
「ナハハ、どうやら終わりはお前の方だったな!」
「お前汚ねえぞ!!」
「汚い? 結構。いいかよく聞け? クソガキの命はもってあと半日、つまり明日の5時までだ。明日の4時に近くの廃工場でお前の命と交換だ、なぶり殺してやるよ!!」
ニアスパイダーは口から糸を吐いてヴァイカーの両手足をタイヤごと拘束してしまう。
動けずにいるヴァイカーの前では、キノコネイバーが自身の口から胞子を吐き出して守のキノコの成長を促している。
「マモル……キノコ……クッ……ワレロ! キノコニ、食ワレロ!」
「くそっ……マモル君! しっかりするんだ!」
ヴァイカーの声も虚しく、守はどんどん弱っていってしまう。ニアスパイダーは追撃にヴァイカーの口を糸で塞ぐと、地面に降り立って彼を蹴り倒した。
「ーーー! ーーーーーーーーー!!」
「最後にひとつ教えといてやる……人間ごときがぁ、俺たちニア様々にぃ、楯突くんじゃあねえ!!」
ニアスパイダーはヴァイカーの腹を何度も踏みつけ、彼の苦しむ様を見てボルテージを上げていく。
やがて意識を失いかけていくヴァイカーを見て反応に飽きたのか、キノコネイバーに指示を飛ばしてその場を立ち去ろうとした。しかしヴァイカーはニアスパイダーの足を自身の両足で小突いて精一杯の抵抗を試みる。
「なんだよさっさと落ちろよ、ったく……」
ニアスパイダーが呆れ返っていると、彼らの元に2人の女子高生が駆けつけた。真冬と美香である。
「あの、近口先輩? ほんとにぶっつけ本番で大丈夫なんですか?」
「黙って見てなって。美香ちゃんは私のファンになる準備をしておいて」
「はあ……」
真冬は美香にカバンを託すと、自身はニアスパイダーの前に立って黄色いサングラスを彼に見せびらかした。
「ふーん、まだウェブウォーリアーがいたとはね」
「見てろ! 蓮司に出来て私に出来ないことは、無い!」
真冬はそう叫び、そばかすを覆い隠すようにサングラスを装着した。
【生体認証スタート】
感想やお気に入り追加、評価等いただけますと執筆の励みになります!
よろしくお願いします!!