夜蛾にそう言われた瀬斗はぱちぱちと瞬きを繰り返しながら聞き返した。
「抗議します!! 私小さいけどちゃんと高校生! 17歳! さすがに中学生としては無理あると思います!!」
「わかってる。だがお前が一番適してるんだ。教師陣から出すわけにもいかないし、他の奴らはお前以上に中学生らしくない」
「硝子は!」
「反転術式持ちを近場とはいえ長期任務につきっきりにさせるわけにはいかないだろ」
「う゛~ごもっとも……あっ、じゃあ後輩たちは!? 七海君とか灰原君は!! 去年まで中学3年生だったじゃん!」
「中学生としては通用しないくらいデカいだろ、目立つ」
「それはそう」
「ちなみに期間は1年間だ」
「1年!? ちゃんと中学3年生やらせる気じゃん!!」
「その間も高専の任務はちょくちょく入ると思う」
「そんなぁ……」
「そういうことだから、頼むぞ、瀬斗。詳細は後で書類にまとめて渡す」
「はぁい……」
こうして瀬斗の椚ヶ丘中学校、3年E組への長期任務が決まったのだった。
1話
「ってなわけで……こちらが詳細が書かれた書類になります……」
そう言いながら私は夜蛾センから貰った書類を広げる。それを見た私の同期、五条悟、夏油傑、家入硝子は目を丸くした。
書類に書かれている詳細は以下の通りである。
少し前に月の7割を破壊した超生物が、「来年の3月までに自分を殺せなければ地球を破壊する」と宣言した。さらにその超生物は、椚ヶ丘中学校3年E組の担任として1年間過ごすことになった。政府はE組の生徒達に超生物の暗殺を依頼。成功報酬を100億円とした。
そこまではいいのだが、とある問題が発生した。それは呪霊の大量発生。E組は椚ヶ丘中学校の中で「エンドのE組」と呼ばれ、差別の対象とされる。つまりは、本校舎の生徒とE組生徒から生じる負の感情が集い、呪霊が発生しやすい場所である。そこに今度は、世界中の暗殺者からの負の感情が向き始めたのだ。これでは無限に呪霊が発生し、生徒達に影響が出る可能性が高い。そこで政府は、呪術師を生徒達の護衛として送り込むことにした。
それが私、甘木瀬斗だ。
以上のことが書かれた書類に目を通し、任務の内容を理解した3人は笑いだす。
「おまっ、中学生って!! あははっ! 無理! 腹捩れる!!」
「悟笑いすぎだよ。ふふっ」
「傑も笑ってるじゃん!!! も~! こっちは泣きたいくらいなのに~……。硝子ぉ~」
「おーよしよし」
情けない声を出しながら硝子にもたれかかると、優しく頭を撫でてくれた。硝子優しい。しゅき。
それから、任務に対する愚痴をぶつぶつと呟きながら4人で昼食を食べているとぴくり、と背中の筋肉が動く感覚があった。
「あ、もう」
『ママ』
ずる、と私の体の中から抜け出てくる。それは2メートル越えの体、両手には大きな赤黒いカギヅメ。頭部には大きな口だけがある呪霊だ。私に甘えるように擦り寄りながら、くうくうと喉を鳴らしている。これは私の使役する呪霊、
私の術式は造霊呪術。自分が抱いた、または自分に抱かれた負の感情を呪霊として具現化させ、それを自分の意のままに操ることができるというものだ。弟切は少し前に具現化させたもので、凶悪な見た目に反して、知能は4歳児くらいしかない。
「また勝手に出てきて……」
『ママ、ごァん?』
「そう、ご飯だよ」
私の返事を聞いた弟切は大きな口を開けて笑うと、依然として喉を鳴らしながら私を後ろから抱きしめる。
「瀬斗ママ子供のしつけはちゃんとしろよな~」
「誰がママだ誰が。戦闘ではちゃんとしてくれるから普段は好きにさせてもいいかなぁって」
「甘いなぁ。使役しているとはいえ呪霊なんだからしっかり管理しないといつか痛い目に遭うかもしれないよ?」
傑の忠告に、眉間に皺が寄るのが分かった。
確かに傑の言う通りなのだ。こうして今も私の命令なしに私の中から勝手に出てきて、私の菓子パンを勝手に食べている。呪霊なのだから食事をとる必要はないというのに。大方、私の真似をしたいだけだろうが、この調子だとそのうち命令を無視して勝手に暴走するような日が来るかもしれない。そうなったら本当に困る。しかし、いくら注意しても聞く耳を持たないのだ。
どうしたものか……と考えながら、私は最後の一欠片となったメロンパンを口に放り込んだ。
「つーかこの超生物? って宇宙人かなんか?」
「違うらしいよ」
「マジ?」
「無駄にゆるキャラみたいな見た目してるのが無性に腹立つね」
「ね~」
「暗殺任務とやらには参加すんの?」
「その辺は私の好きにしていいんだって。私はE組を呪霊から守って、放課後とかに呪霊祓うのが最優先事項だから」
「へ~。あ、そっちのパン頂戴」
「はーい」
返事をしつつ悟にホイップクリームパンを渡し、自分は追加のサンドイッチを頬張った。