甘木瀬斗の暗殺教室   作:つがう

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12話

 渚君の勝利に驚きつつも、E組はようやくいつも通りの和気藹々とした雰囲気になった。けれど、試合前の約束を守って終わるほど鷹岡はまともではなかった。

 

「このガキ……父親も同然の俺に刃向かって、まぐれ勝ちがそんなに嬉しいか。もう1回だ!! 今度は絶対油断しねぇ。心も体も全部残らずへし折ってやる」

「確かに、次やったら絶対に僕が負けます。でも、はっきりしたのは鷹岡先生……僕らの"担任"は殺せんせーで、僕らの"教官"は烏間先生です。これは絶対に譲れません。父親を押しつける鷹岡先生より、プロに徹する烏間先生の方が僕はあったかく感じます。本気で僕等を強くしようとしてくれたのは感謝してます。でもごめんなさい、出て行ってください」

 

 それは強い拒絶だった。生徒達は鷹岡を恐れながらも、しっかりと自分を持っている。それに、烏間先生の授業を受けている生徒だからこそ、烏間先生のやり方が合っていることもわかっている。

 

「黙って……聞いてりゃ、ガキの分際で……大人になんて口を……」

 

 E組全体に向けられた激しい怒り。それに私は反応する。

 この感情の重さだと、呪霊が作れるな、と。だが見て見ぬふりをした。こんな男から得た感情で新たに呪霊を生み出すなんて、碌な呪霊じゃない。私だって選り好みくらいする。

 烏間先生に一瞬で伸された鷹岡を見て、大きなため息を吐きながら近づいていく。

 

「甘木さん、何を……」

「大事なことなんで」

 

 恐らくギリギリの意識で地面に寝ている鷹岡を見下し、私は足に呪力を込めて鷹岡の体に巻き付いていた呪霊を踏み潰す。本当はそのまま呪われて死ねばいいと思ったのだが、この呪霊を放っておいては後々E組の脅威になるかもしれない。だからここで祓うことを選んだのだ。

 

「別に、E組から外れるらしいお前を見殺しにしてもいいんだけどね。慈悲ってヤツ?」

 

 みんなには聞こえないように小さな声で話すが、近くにいる鷹岡と烏間先生には聞こえてしまったことだろう。でも、私が『E組の護衛』であることを知っている烏間先生ならこれが私の業務だと察して何も言わないでいてくれるだろう。

 続けて、自分の足の下で呻いている呪霊を見下す。

 

「三級……いや、準二級クラスか。面倒くさいな。食食、食べて消化しろ。呪力は要らない」

『ァ、アイ、おかあさん』

 

 食食は足元の呪霊を欠片も残さず口の中に入れ、咀嚼もせずに飲み込んだ。

 

『ご、ごち、ソウサマァ』

「ん。戻っていいよ」

 

 食食が私の中に戻っていった。

 

「それじゃあ烏間先生、あの男お願いします」

「っ、あ、あぁ。そのつもりだ」

「その必要はありません」

 

 落ち着いた男の声。現れたのはこの学園の理事長だ。理事長は鷹岡に近づくと、その口に解雇通知を突っ込む。うぇ、えげつな……。

 

「解雇通知です。以後、あなたはここで教える事は出来ない。椚ヶ丘中の教師の任命権は、防衛省には無い。全て私の支配下だという事をお忘れなく」

 

 そう言って理事長は去っていった。

 

「ぁ、ぁあ! あぁぁぁぁぁあああああ!!!!」

 

 鷹岡は叫びながら走って逃げていく。それを追いかけるものはもちろん居ない。二度と来るなバーカ!

 

「鷹岡クビ……」

「ってことは今まで通り烏間先生が……」

 

 今まで通り烏間が体育を担当することにE組たちはとても喜んでいた。

 

「理事長もたまにはいい事するじゃんよ」

 

 理事長が急に現れたことによる驚きと、授業が烏間先生に戻るという喜びで、生徒たちの目には私の行動は鷹岡に殴られた腹いせくらいにしか思われなかったと思う。……いや、そう思いたいのが本音だ。

 それよりも鷹岡に殴られた頬の怪我、みんなになんか言われるかなぁ……。こんなに分かりやすく殴られたんだから硝子に治してもらったりなんかしたらE組に不審がられる。

 

「はあ…」

 

 私はまた深いため息をついた。




「は? 何その怪我」
「…………」

 帰ってきて早々に突っ込まれた。コソコソと硝子にだけ言うつもりだったのに、こういう時に限ってドンピシャで会うんだから……と瀬斗はそっぽを向きながら思う。

「なあ、その怪我何って聞いてんだけど」
「……こ、転んだ」
「はい嘘。お前の嘘わかりやすいんだから最初っから正直に言えよ」
「瀬斗、どうしたんだい? 私たちには言えないこと?」

 傑に優しく諭すように聞かれ、瀬斗は観念したように話し出す。
 昨日から烏間に変わって新しく、防衛省の軍人の教官である男が体育の教師になったこと。そいつは暴力で支配するような男で、逆らおうとしたら殴られたこと。

「……ってな具合でして、でも大丈夫! その男は色々あって解雇になったし、もう会うことは無いと思う! 男に憑いてた呪霊も祓ったし!」
「そういうことじゃねえだろ、硝子のとこ行くぞバカ」
「うぇえ!? バカは酷くない!? 仮にも頑張った人に向かって!!」

 悟はそう言いながらも瀬斗の手を引いて歩き出した。
 そんな2人の背中を見ながら傑は自身の心の中に黒い感情が溜まるのがわかった。

「やはり非呪術師は……」
「傑~~!! 助けて~~!!」

 言いかけた言葉を覆い隠すように瀬斗の叫び声が響く。

「……ふっ、はいはい。今行くよ」

 傑は一瞬驚いた顔をしたがすぐに笑顔になり2人を追いかけた。
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