甘木瀬斗の暗殺教室   作:つがう

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13話

 昨日は散々な目に遭った……。硝子にもちゃんと怒られたし……。結局怪我は治してもらったけど、あの怪我がいきなり治っていたらみんなに驚かれるからガーゼ絆創膏はつけている。

 

「あっぢー……」

 

 誰かがそう呟く。確かに暑い。山の中は涼しいところもあるけど、大抵がクソ暑い。E組は基本設備がクソなので仕方ないと思う。

 

『プールでしたら、本校舎にあるんですよね? 場所が違うようですが』

「うん……」

「E組がホイホイと本校舎のプールを使えるわけないよねー、片道1kmとかやりすぎ。殺す気かってーの」

 

 渚君のスマホの中でクエスチョンマークを浮かべる律に対してそう言う。

 そんな会話をしていると、カルマ君が渚君の隣に立って歩く。

 

「渚君、この前すごかったらしいじゃん。見ときゃ良かったな、渚君の暗殺」

 

 カルマ君の褒め言葉に、困ったように、照れたように笑う渚君。

 だが人間相手に通用したところで、マッハ20で動く殺せんせーには効かないんだろうな。

 

「さあ着きましたよ、ごらんあれ!」

 

 話している間に目的の場所に着いたらしい。E組達曰く、本来小さい沢だけがあるはずのそこには立派なプールがあった。

 

「なにせ小さな沢を塞き止めたので…水が溜まるまで20時間! バッチリ25mコースの幅も確保。シーズンオフには水を抜けば元どおり。水位を調整すれば魚も飼って観察できます」

 

 至れり尽くせりだな、ほんと。

 

「制作に1日、移動に1分。あとは1秒あれば飛びこめますよ」

 

 今か今かと待ちわびていたクラスでも体育会系のメンバーは上のジャージを脱ぎ、プールに飛び込んだ。かくいう私もジャージを脱ぎ捨て、ばしゃんっと飛び込んだ。

 

「は~っ、冷たくて気持ちいい~……」

 

 夏の暑さで火照った体に冷たい水はとても心地よい。そのまま仰向けになってぷかぷかと浮かぶことにした。

プールを見渡すように視界を動かすと、コースの中では誰かがクロールを泳いでいるし、その外では暗殺バドミントンで使う殺せんせーボールで遊ぶ女子と、水をかけあう男子達。

 

「楽しいけどちょっと憂鬱。泳ぎは苦手だし……水着は体のラインがはっきり出るし」

 

 そう言ってため息をつくのは茅野さんだ。どこから持ってきたのか浮き輪に入り、ボールを抱えている。

 

「大丈夫さ茅野。その体もいつかどこかで需要があるさ」

「…うん、岡島君。二枚目面して盗撮カメラ用意すんのやめよっか」

「せんせー! 岡島君の盗撮カメラ没収してー!」

「あっおい!」

 

 私が言うのとほぼ同時に殺せんせーがカメラを没収した。それからプールの製作者である殺せんせーが笛を無駄にリズミカルにピーピー鳴らしながら小さな王様気分になっていた。

 

「いるよねー、自分が作ったフィールドの中だと王様気分になっちゃう人」

「うん…ありがたいのにありがたみが薄れちゃうよ」

 

 呆れている私たちを他所に、殺せんせーはかなり上機嫌のようだ。

 

「ヌルフフフ、景観選びから間取りまで自然を活かした緻密な設計。皆さんにはふさわしく整然と遊んでもらわなくては」

「堅いこと言わないでよ殺せんせー、水かけちゃえっ!」

「きゃんっ!」

 

 倉橋さんがえいっと水をかけると、殺せんせーは驚くほど情けない悲鳴を上げた。

 

「……えっなに今の悲鳴」

 

 水をかけた倉橋さんも戸惑っているようだ。

 何かを察したカルマ君が静かに泳いで殺せんせーが座っている高い椅子の元へ向かった。がしっと足を持ち、そのまま揺らす。

 

「きゃあッ、揺らさないで、水に落ちる!!」

 

 やっとの思いで椅子から抜け出した殺せんせーは、深呼吸を繰り返している。

 へ~ふ~ん? 殺せんせー水が苦手なんだ~~??

 

「…いや別に泳ぐ気分じゃないだけだし。水中だと触手がふやけて動けなくなるとかそんなん無いし」

 

 そして三村君が殺せんせーに質問をする。

 

「手にビート板持ってるじゃん、てっきり泳ぐ気満々かと…」

「これビート板じゃありません、ふ菓子です」

「おやつかよ!!」

「紛らわしいな!!」

 

 それにしても殺せんせーの弱点に水が含まれているとなると、これから暗殺のバリエーションがまた増えていきそうだ。

 

***

 

 ――ヴヴ…

 

「ん?」

 

 プールから一度上がり、休憩でもしようかと思った矢先に濡れないようジャージに包んでいたスマホが震えていることに気づいた。手を拭いてからスマホを見れば、画面には"傑"の文字。こんな時間にどうしたんだろう、と思いながらメッセージアプリを開く。

 

『お弁当忘れてるよ』

 

 そこには簡潔な文章でそう書かれていた。

 

「嘘っ!」

「瀬斗さん? どうしましたか?」

「お弁当忘れてきちゃったみたいで……あーショック~……」

 

 話しかけてきた殺せんせーに事情を説明する。

 朝ちょっとバタバタしてたからなあ……。今日のお昼は坂の下のコンビニまで行かないと……この暑いのに外出なきゃ行けないとか憂鬱すぎる。

 ――ヴヴ

 

「あれ、またメッセージ?」

 

 画面を見ると、また傑からだった。

 

『届けてあげようか?』

 

 その文字を見た瞬間、私は反射的に返事をしていた。

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