朝。昨夜の任務のせいで寝不足だ。事前に遅刻すると言っていたが、まだ眠い。別の長期任務をやっている人間に深夜の任務を頼むなよ……。
あくびをしながら教室に入ると、何やら騒がしかった。
「何、どうしたの?」
「あっおはよう瀬斗さん。なんか、プールの方が大変なんだって」
渚君がそう教えてくれた。
なんだろうと思いつつプールの方へ向かうと確かに大変なことになっていた。木の板はバキバキに割られ、プールのコース分けのブイはその形を保たずに浮いている。わかりやすくめちゃめちゃになっていた。
「…ッ、メチャメチャじゃねーか……」
「ビッチ先生がセクシー水着を披露する機会を逃した!!」
「こんなとこで披露すな」
つい冷静に突っ込んでしまった。まあ、でもこれはちょっとひどいな……。
「ゴミまで捨てて…ひどい…誰がこんな事…」
奥田さんが困ったように缶を拾った。
「あーあー…こりゃ大変だ」
「ま、いーんじゃね? プールとかめんどいし」
そんな声が後ろから聞こえ、自然と視線はそちらへ向く。そこには寺坂君たちがいた。彼が纏っている感情は苛立ちだった。そんなに強くない感情だ。子供のかわいらしい癇癪くらいのもの。
寺坂君は何か言いたそうに見ていた渚君の胸倉を掴んで言った。
「ンだよ、渚。何見てんだよ。まさか…俺らが犯人とか疑ってんのか? くだらねーぞ、その考え」
くだらないのはどっちだ。
「まったくです、犯人探しなどくだらないからやらなくていい」
殺せんせーはそう言い切ってそのままマッハでプールを直し、みんなに声をかける。
「はい、これで元通り!! いつも通り遊んで下さい」
あーあー。これじゃ壊す方がバカみたいだ。そう思いながら寺坂君の方を見ていると、私の視線が気に食わなかったのか、寺坂君がこちらに近づいてくる。
「なんだよ、お前も文句あんのかよ」
「なんもないよ。それともなんか言ってほしかった?」
私が聞くと、彼はイラついた表情を見せるが、対して私はにこにこと笑顔を続ける。
「……チッ」
舌打ちをして踵を返した彼の背中を見ながら、私は素直になればいいのに、と思った。
***
「殺せんせー、随分ふやけたね」
「カルマ君に水をかけられてしまいましてね」
「ターゲットも大変だねー」
プールも終わり、校舎に戻る道中、私は殺せんせーと話しながら歩いていた。
「君は、そんなに暗殺には興味がないようですね」
「そう見える?」
「そうですね。君一個人で私を殺そうとしたことはないでしょう?」
「ないね」
「それは君が『護衛』だからですか?」
「んー、まあそうかな。あんまり人に殺意とか憎しみとか抱きたくないんだよね」
そう言うと、殺せんせーは少し寂しそうな顔をして、それからまた笑顔に戻った。
「そうですか。でも他の皆さんは決してネガティブな感情で先生を殺しに来ているんじゃないと思いますよ」
「わかってるよ。わかってる」
わかってても出来ないことはあったりするんだよね。
――prrrr……prrrr……
「あ、電話。ごめん殺せんせー」
「次の授業、遅刻しないように気を付けてくださいね。放課後は朝遅刻した分、勉強ですよ」
「あー約束してたやつか。もちろんやるよ。ドタキャンとかしないから安心して」
ひらひらと手を振りながら通話ボタンを押した。
「はい甘木です――」