「よーしそうだ!! そんな感じでプール全体に散らばっとけ!!」
寺坂君が上から指示を出す。結局全員が集合して、私たちは水着に着替えさせられ、プールの中で寺坂君の指示通りに散らばる。
「疑問だね僕は。君に他人を泳がせる器量なんてあるのかい?」
「うるせー竹林とっとと入れ!!」
「フヒィ!!」
あーあー竹林君可哀想に……。
「すっかり暴君だぜ寺坂の奴」
「ああ、あれじゃ1年2年の頃と同じだ。学年中の嫌われ者。浮きすぎなんだよこの学校じゃ」
皆がヒソヒソと話していた時、殺せんせーがサッと来た。
「なるほど、先生を水に落として皆に刺させる計画ですか。それで君はどうやって先生を落とすんです? ピストル一丁では先生を一歩すら動かせませんよ」
確かにそうだ。そう言われても寺坂君は余裕の表情を崩さない。よほど自信があるのだろう。
「……覚悟はできたかモンスター」
「もちろんできてます。鼻水も止まったし」
2人が向き合う。
寺君坂は銃を持ち、殺せんせーは顔に横縞を浮かべた。
「ずっとテメーが嫌いだったよ。消えて欲しくてしょうがなかった」
「ええ、知ってます。これの後でゆっくり2人で話しましょう」
殺される気のない殺せんせーの言葉に、寺坂君はギリ、と歯噛みをする。
カチリと寺坂君が引き金を引いた刹那、轟音と共にプールの岩が爆発した。
「は……」
間抜けな声が自分の口から漏れるように出る。
「ッ、
すぐに思考を切り替え、落下死を防ぐために豪我を呼び出す。ぎょろりとした目玉は私を捉え、私の体よりも大きな両手で包み込まれる。
『マァマ』
豪我が私が落ちぬようしっかりと包み込むが、傍から見れば私は自由落下をしているように見える。そのため、殺せんせーは私を触手で掬い上げて地面に下ろした。
『ア……マァマ、とらレル』
大きな体をわなわなと震わせ、豪我が目玉を動かす。
「豪我、私はここにいるよ。大丈夫」
『マァマ?』
「いきなり空中で呼び出してごめんね。ありがとう
豪我の体を撫で、私の中に戻るよう命令するが、豪我は中々戻らない
『マァマ、足、ドクドク』
その言葉に、私は自分の足を見る。そこから血が流れていた。ああ、痛みの正体はこれか。自覚した途端、痛みが増していくような気がした。
『マァマ、痛い。痛いした奴、殺す?』
「殺さないよ。心配してくれてありがとう、もう私の中に戻って」
『ハァイ……マァマ……』
豪我が戻ったあと、まだ崖にいて危険な生徒たちを助けに行こうとしたのだが、思ったよりも足の怪我が邪魔をして歩けない。
「ッ痛……」
痛みで顔が歪むのがわかった。だというのに、新手が現れる。
「はい、計算通り。久しぶりだね殺せんせー」
シロとイトナ君だ。なるほど、やはりこの計画は寺坂君が自分の頭で考えたんじゃなく、まんまと操られた結果ってわけか……。
「ちなみに君が吸ったのはただの水じゃない。触手の動きを弱める成分が入っている。あの坊やにプール上流から薬剤を混入させておいた。前にも増して積み重ねた数々の計算。他にもあるが戦えばすぐわかるよ」
「さぁ兄さん。どっちが強いか改めて決めよう」
イトナ君の瞳がギラりと光った。
次々と繰り出される鋭い触手の攻撃、対して殺せんせーは防戦一方で、時間が経つにつれ触手がふやけ、膨れ上がっていった。
「触手の数を減らしその分パワーとスピードを集中させた。単純な子供でも操りやすい」
イトナ君がバナナを食べながら触手を操っている。先ほどの激闘のエネルギーを再度取り戻そうとしているようだ。
「片や君は全身濡れてますます動きが鈍ってきた。『心臓』を破壊するのも時間の問題だ」
シロの淡々とした説明とその場にあった現状は的確だ。
「まじかよ……。あの爆破はあの2人が仕組んでたとは」
「でも押されすぎな気がする。あの程度の水のハンデはなんとかなるんじゃ?」
皆が不思議そうに話すと、後ろの岩から寺坂がやってきた。
「水だけのせいじゃねー」
「寺坂……!」
「力を発揮できねーのはおまえらを助けたからよ。見ろ、タコの頭上」
寺坂君に言われて見上げる。
「!!」
「助け上げた場所が触手の射程範囲内に!!」
「特に、ぽっちゃりが売りの原さんが今にも落ちそうだ!!」
殺せんせーが必死に助けたからだろう。
岩の隙間に村松君。木に吉田君。そして枝に原さん。原さんが掴まっている枝はすでにミシミシと悲鳴を上げている。
「あいつらの安全に気を配るからなお一層集中できない。あのシロの奴ならそこまで計画してるだろうさ、恐ろしい奴だよ」
寺坂君の冷静な言葉に前原君がつっかかる。
「のん気に言ってんじゃねーよ寺坂!! 原たちあれマジで危険だぞ!!」
「おまえひょっとして……今回の事全部奴等に操られてたのかよ!?」
「……フン」
前原君の言葉に寺坂君は自嘲的な笑みを浮かべ、半ばヤケクソ気味に叫ぶ。
「あーそうだよ。目標もビジョンも無ぇ短絡的な奴は、頭の良い奴に操られる運命なんだよ。……だがよ、操られる相手ぐらいは選びてぇ」
寺坂の言葉に皆が聞き入る。
「奴等はこりごりだ。賞金持って行かれんのもやっぱり気に入らねぇ」
奴等、の方で無意識にシロとイトナ君の方を見た。悔しさを表情に滲ませてからカルマ君の胸をどんと叩く。
「だからカルマ! テメーが俺を操ってみろや。その狡猾なオツムで俺に作戦与えてみろ!! カンペキに実行してあそこにいるのを助けてやらァ!!」
その言葉に、カルマ君はニィッと笑みを見せる。
「良いけど……実行できんの俺の作戦? 死ぬかもよ」
「やってやンよ。こちとら実績持ってる実行犯だぜ」
ザッと歩いて威厳よく歩き出す。
何かあればフォローしたいけど……この足でやれるだろうか。
「瀬斗さん」
「ん、なに? 渚君」
「足、怪我したの?」
「あー、うん。崖の岩場か何かにひっかかったみたいで」
「結構血が出てる、早く止血しないと……」
慌てた様子の渚君に言われ、確かに傷口を見てみると血が流れ続けている。どうやらかなり深いようだ。とはいえ今私水着だからなんもないしなあ……。
「瀬斗さん、これ使って」
「カルマ君……いいの?」
「さすがに血流したまんまはまずいでしょ」
「ありがとう。ハンカチ持ってる系の男子だったんだね」
「一言余計じゃね?」
作戦を考えているカルマ君がふとこちらを向いてハンカチをくれた。お礼を言いつつ受け取ってからハンカチを足に当てる。また硝子にお説教されるな……。
***
「思いついた! 原さんは助けずに放っとこう!!」
カルマ君が名案! というようにポンと手を叩くが、皆の顔は晴れない。どんな思考回路でそうなったんだろう。
「おいカルマふざけてんのか?」
悪魔の顔をして笑うカルマ君に寺坂君がツッコむ。しっかり首元のシャツを掴んで。
「原が一番危ねーだろうが!! ふとましいから身動き取れねーし、ヘヴィだから枝も折れそうだ!!」
とことん失礼だなお前は。原さんに聞こえてたらどうするんだ。
とはいえ原さんはプルプルしながら枝に必死に食らいついている。寺坂君の言う通り、限界は近いだろう。
「……寺坂さぁ、昨日と同じシャツ着てんだろ。同じとこにシミあるし。ズボラだよなー、やっぱお前悪だくみとか向いてないわ」
「あァ!?」
今にも殴り合いの喧嘩が始まるんじゃないかと、私は呆れながら見ていたのだが、カルマ君は余裕綽々といった感じで話を続ける。
「でもな、頭はバカでも体力と実行力持ってるからお前を軸に作戦立てるの面白いんだ」
寺坂君のシャツのボタンをちぎり、カルマ君はイタズラっ気たっぷりの笑顔で笑った。
「俺を信じて動いてよ、悪いようにはならないから」
「……バカは余計だ。いいから早く指示よこせ」
寺坂君が文句をつけた後、静かに指示をするよう促した。