期末テストが近いこの教室では、みんながそれぞれ勉強をしていた。暗殺も少しお休みして、勉強1本に集中しようと思っている。テスト前に部活を停止するような感覚と同じだろうか?
「ふわ……ぁ」
私は大きなあくびをする。昨日は遅くに任務が入って最悪だった。廃墟にいる呪霊って本当に気持ち悪いんだよなぁ。テスト勉強のイライラも相まって必要以上にぐっちゃぐちゃにしてから祓ってしまった。呪霊に八つ当たりするのは虚しいからやめたいんだけどな~~。
ぐりぐりと眉間を親指で揉みながら問題集に向き合う。
「寝不足?」
「あ、片岡さん。そうなんだよね、ちょっとだけ」
同じクラスの片岡さんに話しかけられ、問題集から目を離して彼女に答える。彼女はクラス委員ということもあってしっかり者だ。私の様に教室の後ろであくびをしているような人間ではない。自習時間、殺せんせーだけでなくこうして生徒間でも教えたり教えられたりしている。私はどちらかと言えば教える側だ。
「甘木さん、ここって……」
「ん、ああ、ここはね」
今は奥田さんに国語を教えてあげているところだ。彼女の苦手分野である国語、今は古文について質問を受け、教科書を見ながら教えていた。今回の目標はどれか一つの教科で1位を取れば触手1本だが、そればかりに気を取られて得意教科以外を疎かにするわけにはいかない。だから奥田さんはこうやって苦手教科の克服のために積極的に私に声をかけてくれる。可愛くて素直なので私もつい構ってしまうのだ。
再びあくびをかみ殺そうとすると、隣のカルマ君が大きくあくびをした。
「こらカルマ君、まじめに勉強やりなさい! 君なら充分総合トップが狙えるでしょう!!」
あ~あ~目付られやんの……。確かに最近のカルマ君ってなんとなくサボり気味というか、身に入っていないというか……。でもカルマ君成績不振でここに落ちたわけじゃないから大丈夫なのかな。天才の余裕ってやつ?
「言われなくてもちゃんと取れるよ。あんたの教え方が良いせいでね」
と、だるそうに顔に乗せていた本を取って殺せんせーをちらりとだけ見る。
「けどさぁ殺せんせー。あんた最近『トップを取れ』って言ってばかり。フツーの先生みたいに安っぽくてつまらないね」
「…………」
それの何が気に入らないんだろう。普通ってこの上なく贅沢なことだと思うんだけど。普通に学校に通って、普通に勉強して、普通に恋愛して、普通に結婚して……。それは死と隣り合わせの呪術師には難しいことだ。
教科書を机の上に置き、カルマ君は続ける。
「それよりどーすんの? そのA組が出した条件って……なーんか裏で企んでる気がするよ」
その言葉にみんなは笑う。E組がこれ以上失うものなんてありはしない、と。すでにいろいろなものを取り上げられたE組からすれば、今更何を要求されたところで「まあE組だし」と踏ん切りがつくのだろう。
「でも勝ったら何でもひとつかぁ、学食の使用権とか欲しいな〜」
「ヌルフフフ、それについては先生に考えがあります」
和気あいあいとした空気の中、殺せんせーは提案した。殺せんせーの手には椚ヶ丘中学校のパンフレットがあった。
「さっきこの学校のパンフを見てましたが、とっても欲しいものを見つけました。これをよこせと命令するのはどうでしょう?」
パンフレットのページをペラペラと捲り、とあるページで触手を指した。そのページに書かれているものを見た私たちの反応を見て、にやりと笑う。
「君達は一度どん底を経験しました。だからこそバチバチのトップ争いも経験して欲しいのです。先生の触手、そしてコレ。ご褒美は充分に揃いました。暗殺者なら、狙ってトップをとるのです!!」
殺せんせーは触手に、国数英理社総の文字を浮かび上がらせ、パンフレットを手に得意げにネクタイを直した。
そのご褒美はかなり欲しいな……。ちょっと頑張ってみちゃおうかな……。