29話
「あっづ~い……」
夏休みだというのに任務、任務、任務……こんなんじゃ全然休みにならないよ。
今は午後1時。10時からの任務を終えてやっとお昼ご飯にありつけるところだ。
「過労死する」
「ほらだれてないで立って、昼食にするんでしょ」
「う~……」
傑が手を掴んで引っ張り上げてくれる。
「どこ入る?」
「うーん……マック?」
「あり。ポテト食べたい」
と、いうわけで私たちはマックに入った。
席に座って注文を済ませる。数分後に商品が届いたのでそれを持ってテーブルに着く。
「ビッグマック2個て。傑って本当に大食いだよね……」
そう言いながらも自分のチーズバーガーの包みを開け、ハンバーガーに齧り付く。うん、美味しい。
「後の任務は?」
「夜に廃病院。2級案件で、メインは灰原君」
「あーあのいい子そうな子」
「いい子そう、じゃなくて本当にいい子だよ。七海君もね」
「はは、違いない」
他愛もない会話をしながら食事をしていると、傑がばくりとビックマックを頬張る。一口でほとんどなくなったのを見て思わずびっくりしてしまう。
「どうしたの?」
「え~……いや、口大きいなぁって」
「ふふっ、瀬斗は小さいもんね」
「平均的だと思うな~。それにしても、そんな大きな一口でよく喉詰まらないなって思う」
「ちゃんと咀嚼はしてるよ。それに普段から呪霊玉呑んでるしね、喉に詰まらせることはないかな」
「あ~……」
納得の声が思わず漏れてしまう。
私もポテトを摘まむ。程よい塩っ気と油っこさが絶妙で、つい次々口に運んでしまう。夏は暑くてだるいけどやっぱり食べるのは好きなんだよなぁ。
そんな感じでまったりした時間を過ごしていたときだった。不意に携帯が鳴る。着信を見ると、補助監督さんの1人だった。
「はい、甘木です」
食べていたものを飲み込んでから電話に出る。
『今お時間よろしいでしょうか?』
「大丈夫ですよ」
『ありがとうございます。では早速ですが、これからご予定はありますか?』
「いえ、夜まではフリーですけど……」
嫌な予感がする。
『すみませんが、今から送る場所に応援に行ってもらってもよろしいでしょうか……』
ほらね。私は小さくため息をつく。
「ごめん傑呼ばれた~」
「はは、ドンマイ。食べたものは私が片付けておくから早く行っておいで」
「ありがと~」
急いで残りの一口くらい残ったハンバーガーを口の中に突っ込んで店を出た。
もっとゆっくりお喋りしながら食べたかったよ~……
***
「すみません、遅くなりました」
「いえ、むしろ急な呼び立て申し訳ありません」
現場に着くと既に帳は降りていた。詳しい話を聞くと、どうやら二級案件だと思っていた呪霊が他の呪霊を取り込み、一級程度に成長したらしい。それで急遽私に連絡が来たということだそうだ。
中に入ると、そこはもう酷い有様だった。床も壁も天井も血まみれだし、至る所に肉塊が落ちており、思わず目を背けてしまった。まるで地獄絵図だ。
「問題の呪霊はどこに……」
キョロキョロと見渡していると突然背後に気配を感じて本能的に前へと飛び退いた。すると先程まで私が立っていた場所には巨大な口のようなものが現れており、ガチンッ! と音を立てて閉じられた。あれを食らっていたらと思うとゾッとする。
「来いッ、弟切!
『グルルァ、ギシャァアアアア!!!』
『おシゴと、だね』
鳥兜が蜘蛛のような脚を威嚇するようにガチガチ鳴らしながら口から毒液を垂らす。鳥兜は毒を持った呪霊だ。特に口の中は毒が濃い。弟切も気合が入っているようで、両手の大きなカギヅメを地面に突き刺しガリガリと地面を削っている。
私も気合を入れないと殺される。
「鳥兜、
『ア゛、ァァゥ』
そう指示を出すと鳥兜はごぽ、と呪霊を吐き出す。過去に手懐けた箱のような形の呪霊、溜羅木は箱から枝のように細い腕を出して本体であろう箱の中にしまっている武器を取り出すことができる呪霊だ。大変便利なので無理矢理手懐けた。呪霊を身体に取り込むというのは猛毒を摂取するのと同義であるため、普段はすでに毒属性である鳥兜に取り込ませている。鳥兜の毒で野良であった溜羅木を沈静化させる意もある。
「溜羅木、槍」
溜羅木の出した武器を手に取り、構える。あれはどこから出てくる?
『ママ!』
弟切が私を抱き上げ、大きく跳躍する。したからまたあの巨大な口が出てきていたのだ。危ない……油断していたら本当に食われてしまうところだった。
「まさかあの呪霊、地下にいるのか。ちょろちょろと口だけ出しやがって……。鳥兜!」
『ギャァウ!!』
鳥兜が溜めた毒を吐き出すとそれは見事に命中して呪霊は断末魔のようなものを叫びながら大きな体を地上へ露出させた。地上に露出した呪霊をしっかりと視界に捉える。
「弟切、私を投げろ! そして合わせて!」
『任セテェ!!!』
弟切は私を地上へ投げる。空中で槍を構え直す。それと同時に弟切が思い切り踏み込んで加速した。私が握る槍は呪霊の巨体に突き刺さり、そのまま私の体重を乗せてメリメリと貫通していく。呪霊の体液のようなものを浴びながらもそのまま呪霊を貫き通して、そしてやっとその動きを止めた。
ビクビクと痙攣を繰り返し、自分の体に突き刺さっている槍を引き抜こうとガリガリと爪を立てる。しかし、もう遅い。私は槍に込める呪力を強めていく。
「弟切、殺せ」
『アイ、ママ』
ぐぢゃり。と音を立てて呪霊の体が弟切のカギヅメによって引き裂かれ、呪霊はそのままひときわ大きく痙攣したかと思えば動かなくなる。
「ふー。これでおしまぁーい。てかこいつの体液くっっっさ! 冷静になるとめちゃ臭い!!」
『ママッ、頑張っタヨォ』
弟切が私の頬に頭を擦り付けてくる。
「うんうん偉いよ、でも今私めっちゃ体液浴びて臭いから擦り寄らない方がいいと思うなぁ」
『?』
うん。なんもわかってねえわこれ。
『グルルル』
鳥兜まで寄ってきた。だから私今呪霊の体液でぐちゃぐちゃなんだって……。
とりあえず補助監督さんのところに戻るか。
帳が解け、内側から出られるのを確認して外に出る。
「戻りました~」
「お疲れ様で……う゛」
補助監督さんが顔をしかめる。
「あ~、すみません、祓った呪霊の体液の臭いです……」
「い、いえ、大丈夫、です……。あの、先に入っていた呪術師の方々は……」
「あぁ……。私が入ったときにいくつか肉塊があったので、おそらくそれが……」
そう言うと補助監督さんの顔色はさらに悪くなった。この人は多分まともだな。こんな仕事やってるんだし多少イカれてないとやっていけないだろうけど。
「車に乗ってください。呪術高専まで送ります」
「ありがとうございます」
この状態で車に乗るのってかなり罪悪感あるけど……歩いて異臭まき散らすより大人しく車に乗った方がいいよね。
弟切と鳥兜、溜羅木を戻してから車に乗り込んだ。