「んん……」
仮眠室の固いベッドとは違う、ふかふかな感触と温かい何かに包まれた感覚に目が覚める。
「……あ、悟の部屋で寝てたんだっけ……」
ぼんやりとする頭を振りながら起き上がる。今の時間は……19時。灰原君との任務があるから準備しないと……。立ち上がろうとすると、ぐっと後ろから引っ張られる。
「悟、引っ張らないで」
「ん゛~……」
「悟」
ぽんぽんと悟の頭を叩いて起こす。しばらくすると、悟はぱちりと目を開けてから大きくあくびをした。
「何、任務?」
「そうだよ。だから放して」
「……悪ぃ」
「別にいいよ。よく寝たし、行ってくるね」
「おー」
部屋を出て寮から外に出ると、既に門のところに準備万端な灰原君がいた。
「あっ! 瀬斗さん!」
「ごめんね、待たせた?」
「いえ! まだ約束の時間じゃないので大丈夫だと思います。補助監督さんもまだ来てないですし」
「よかった」
それからしばらく待っていると、車がやってきた。
「お疲れ様です。よろしくお願いします」
「お疲れさまです」
車に乗り込むと、後部座席に座った。
「今回は2級案件です。呪霊は複数体確認されています。甘木術師がいるので大丈夫だとは思いますが、危険だと思ったらすぐに退避するようにしてください」
「分かりました」
「はい!」
車は走り出し、山奥へと向かう。
しばらくして目的地に着くと、帳を下ろしてもらい、中へと入っていった。
「じゃあ、行きましょうか!」
「うん」
呪力を感じる方へ進んでいくと、そこにいたのは2級相当の呪霊が数体。
「灰原君、いける?」
「行けると思います」
「何かあれば私がフォローに入るから、無理しない程度に頑張ってみて」
「はいっ!」
灰原君は元気いっぱいといった様子で駆け出すと、一気に呪力を練り上げて拳を振るう。その拳は呪霊にヒットすると、そのまま祓ってしまった。
「やりましたよ! 先輩! 見てました!?」
「うん、すごいね。一発だった」
「ありがとうございます!」
その後も順調に呪霊を祓っていくと、最後の一体になった。
「気配から察するに、あと1体ですかね?」
「多分ね。油断しないように気を付けていこう」
慎重に歩みを進めると、そこには見上げるほど大きな呪霊がいた。3メートル、いやそれ以上ありそうだ。しかもこちらに気づいているようで、今にも襲ってきそうな勢いである。
私達は警戒しながらゆっくりと近づき、攻撃に備える。
「あれ、2級……じゃ、ないですよね」
「だろうね」
目の前にいる呪霊からは禍々しいオーラを感じ、明らかに強いことが分かる。これは、1級相当かもしれない。そう思った瞬間、呪霊は物凄いスピードで襲いかかってきた。
「っ!」
咄嵯の判断で避けたが、私の頬にはかすり傷ができていた。それを見た灰原君は慌てて呪霊から離れ、距離を取ろうとしている。しかし、それは無駄に終わる。なぜなら、呪霊の触手のようなものが伸びてきて、それが灰原君の足を捕えてしまったからだ。
灰原君はそのまま地面に叩きつけられそうになる。地面に当たる寸前で私は灰原君をキャッチしたが、このままではまずいと思い、一旦逃げようとする。だが、それも叶わず、今度は私が捕まってしまう。
そして、ギリギリと締め上げられていく。あまりの力の強さに、骨がミシミシと軋む音が聞こえる気がした。
「く……ッ、弟切!
2体の呪霊を呼び出すと、すぐさま弟切は私を拘束している呪霊の触手を引き千切り、射干は呪霊めがけて呪力の弾丸を飛ばす。それを食らった呪霊は痛みを感じたのか、声にならない叫びをあげながら私を拘束していない触手をバタバタと動かしている。
「灰原君、走れる?」
「頭の中、シャッフルされて気持ち悪いですけど、なんとか……」
「十分。とりあえず逃げるよ」
そう言って私たちはひとまず走り出した。弟切と射干も私たちの後ろをついて走る。
「瀬斗さん、どうしますか?」
「ん~、正直私だけでもいけなくはないけど、あの触手が厄介だな。多分あの触手、動くものをオートで狙ってる。それに、さっきの攻撃でだいぶダメージ与えたはずなのに全然効いてないし、結構タフなタイプだと思う」
「確かに、そうですね……」
「でも、ここであれを放っといたら面倒になるのは火を見るよりも明らか。ってなわけで2人で協力して祓おう」
「はいっ!」
元気な返事を聞いて思わず笑みを浮かべると、再び立ち止まる。後ろを振り返ると、もうすぐそこまで呪霊が迫ってきていた。灰原君は臨戦態勢に入っている。私も体内に呪力を込めていく。下手に得物を使うよりも、こっちの方が手っ取り早い。
先に動いたのは呪霊の方だった。またもや触手を伸ばしてくる。
――バチンッ!! その攻撃を難なく弾くと、今度はこちらから仕掛ける。呪力を練った右手で殴ろうとするが、避けられる。
「灰原君!」
私が叫ぶと同時に灰原君が飛び出し、呪霊を下から思い切り蹴り上げる。すると呪霊はバランスを崩し、倒れそうになるところをすかさず追撃する。そしてそのままとどめをさすかのように思いっきり拳を振り下ろした。
ドォンという音と共に土煙が上がると、呪霊は地面の上で伸びていた。
「ふぅ……」
一息つくと、灰原君がこちらに向かって歩いてくる。
「先輩、怪我無いですか?」
「ないよ。灰原君は?」
「呪霊に叩きつけられそうになった時頭の中がぐるぐる回ってましたけど、もう大丈夫です!」
「そっか。よかった。食食、食事の時間だよ。おいで」
私の手のひらから食食が出てくる。スライム状の体をあの呪霊と同じくらい大きくして、呪霊を食べていく。
『おかあさん、じゅりょく、は?』
「いる。変換しておいて」
『はぁ、い』
しばらくすると食食は食べ終わり、元の小さいサイズに戻る。そのタイミングを見計らっていたように、帳が上がった。
「あ、帳上がりましたね」
「そうだね、戻ろうか。眠い」
「あははっ! 僕も寝たいです!」
車に戻ると、補助監督からお疲れ様と言われ、そのまま高専まで送ってもらった。
寮に着くと、部屋に戻りささっとシャワーを浴びて着替える。ベッドに入るとすぐに睡魔に襲われ、そのまま眠りについた。