――ピピピピ……ピピピピ……
目覚ましの音で目が覚める。時間は5時半。いつも通りより少し早い。夏休みだというのにこんな朝に起きるのには訳がある。それは私の教室が暗殺教室だからだ。
南の島での暗殺旅行1週間前なのだ。訓練と計画最終確認のために全員で校舎に集まる。
「ふわ、ぁ……」
あくびをしながら寮から出て、椚ヶ丘中学校へと続く道を歩く。今日は天気が良く、朝日が眩しい。
「今日も暑い……」
ぼそりと呟きながら歩いていると、いつの間にか校門の前に着いていた。
一応土日以外はちゃんと訓練に入っているけど、正直そろそろ体が限界を迎える気がする。明日は休むかな……。
制服から体操着に着替え、念入りに準備体操と柔軟をする。次第にみんなが集まってきたので、訓練を開始。
そこへバカンス姿のイリーナ先生が登場。
「まぁまぁガキ共。汗水流してご苦労な事ねぇ」
肌の露出が激しいワンピースに、ハリウッドセレブさながらのサングラスとつばが広めの帽子。相変わらずだなあ、この人。
「ビッチ先生も訓練しろよ。射撃やナイフは俺等と大差ないだろうにさ」
そんな三村君の意見を受け入れず、イリーナ先生は目元を細め、妖艶に笑う。
「大人はズルいのよ。あんた達の作戦に乗じてオイシイとこだけ持ってくわ」
そんな余裕綽々なイリーナ先生に声をかける者が1人。
「ほほう、えらいもんだなイリーナ」
イリーナ先生の師匠である殺し屋の斡旋業をやってるロヴロさんだ。
「ロッ、ロヴロセンセイ!?」
「夏休みの特別講師で来てもらった。今回の作戦にプロの視点から助言をくれる」
烏間先生が淡々と説明する中、イリーナ先生は顔を青ざめさせていく。さすがのイリーナ先生も師匠には頭が上がらないようだ。
「1日休めば指や腕は殺しを忘れる。落第が嫌ならさっさと着替えろ!」
「へ、ヘイ喜んで!!」
そう言ってイリーナ先生は急いで洋服が置いてある校舎へ駆け出した。
「ビッチ先生あの師匠には頭上がらねーなぁ」
「……ああ、てかあの人いかにも怖いもん」
あはは、と苦笑いを零しながら私はナイフを握る。私、なんとなくロヴロさん苦手なんだよな。正体がバレているような気がして。
少ししてイリーナ先生が帰ってきた。それを確認してロヴロさんは言葉を切り出す。
「それで、殺センセーは今絶対に見てないな?」
「ああ、予告通りエベレストで避暑中だ。部下がずっと見張ってるから間違いない」
エベレストまで行ったんだ……烏間先生の部下……仕事とはいえ、どんまいすぎる。
「ならば良し。作戦の機密保持こそ暗殺の要だ」
ロヴロさんは満足げに黒手袋をしめた。
「ロヴロさんって殺し屋の斡旋業者なんですよね。今回の暗殺にも誰かを……?」
磯貝君の質問にロヴロさんはあっさり答えた。
「いいや、今回はプロは送らん」
そう言い切ったロヴロさんに私たちは頭上にクエスチョンマークを浮かべる。
なんでだろう。みんなの話からすると、修学旅行ではプロの暗殺者を雇っていたらしいのに。
そんな空気を感じ取ったようにロヴロさんは言葉を繋いだ。
「……というより送れんのだ。殺センセーは臭いに敏感。特に君達以外の部外者の臭いを嗅ぎ分ける。君達の知らない所でプロの殺し屋をずいぶん送り、誰もが悉く失敗してきたが」
なるほど。
どうやら殺せんせーはプロ特有の強い殺気を臭いごと覚えたらしく、2回目からは教室にすら辿りつかせてもらえない。
つまり、1度使った殺し屋は2度使うのは難しいというわけだ。
「それに、困った事も重なってな」
「困った事?」
矢田さんが聞き返す。
「残りの手持ちで有望だった殺し屋数名が、何故か突然連絡がつかなくなった」
うわあ……。それはかなり痛手だ。原因はわかっているのだろうか?
「という訳で、今現在斡旋できる暗殺者は0だ。慣れ親しんだ君達に殺してもらうのが一番だろう」
ロヴロさんはそんな言葉で締め括り、訓練を再開した。
私たちのすぐ後ろでロヴロさんが作戦を細かく聞いている。
「先に約束の7本の触手を破壊し、間髪入れずクラス全員で攻撃して奴を仕留める。……それはわかるが、この一番最初の『精神攻撃』というのは何だ?」
「まず動揺させて動きを落とすんです。殺気を伴わない攻撃には……殺せんせーもろいとこあるから」
渚君の説明に前原君も続く。
「この前さ、殺せんせーエロ本拾い読みしてたんスよ。『クラスの皆さんには絶対に内緒ですよ』ってアイス1本配られたけど……。今時アイスで口止めできるわけねーだろ!!
「「クラス全員で散々にいびってやるぜ!!」」
「他にもゆするネタはいくつか確保してますから。まずはこれを使って追いこみます」
「残酷な暗殺法だ」
ほんとにな……。