甘木瀬斗の暗殺教室   作:つがう

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34話

「そこの少女」

「あっはい」

「次は君の個人レッスンの番だ」

「わかりました」

 

 そう返事をしてロヴロさんの方へ歩いて行く。女子用の小さな銃を握り、止まっている的をじっと見つめる。まずは深呼吸。それから引き金を引く。

 パンッ! 的に穴が開く。よし、ちゃんと当たった。私はもう一度構え直し、今度は2発連続で撃つ。パン! パン!  最初の弾よりも少し大きめの穴を開けられた。

 基本的に近接戦闘だから銃を使うのは苦手なんだよなぁ……。

 

「銃は苦手か?」

「えっ、あ、はい」

 

 やっぱりプロにはバレるか……。

 ならばナイフを握れ、とロヴロさんに言われる。私はナイフを手に取り、ロヴロさん相手に軽く手合わせをした。

 

「もっと足に力を込めて踏み込め。その程度では大したダメージにはならない」

「はいっ」

 

 言われた通り足を踏ん張り、勢いよく振り下ろす。

 

「そうだ、それでいい」

「はい!」

 

 私は何度も何度も斬りかかる。それを全て捌くロヴロさん。

 

「ふむ、君はなかなかセンスが良い。鍛えれば強くなるぞ」

「ありがとうございます」

 

 そうお礼を言ってから頭を下げる。まあ、ナイフを完璧に扱うことが出来なくても呪術師は出来るからね。そこまで困らないし。

 

「君は……この教室で積極的にあいつを殺しに行っていないと聞いた。何故だ?」

「何故……って、言われても……」

 

 私はここに護衛として着ているのだからぶっちゃけ殺せんせーを殺す必要はないのだ。

 この人は私が『護衛役』と知っててこの質問をしたのだろうか? それとも知らずに質問をしたのだろうか? ……何はともあれ、今この場で正直なことをいうわけにはいかない。

 

「暗殺対象である以上、奴はこの場にいる全員にとって、いや、地球にとって脅威の存在だ。なのになぜ君はその脅威を排除することに対して消極的なのだ?」

 

 ロヴロさんの質問に困っているうちに、他のクラスの人たちからも視線を集めてしまっている。ここで正直に答えては、私の正体に疑問を持つ人間が増えてしまうかもしれない。

 

「……私は、たとえ相手が地球を滅びしうるモンスターだったとしても、私1人で、私1人の感情で殺したくないだけです」

 

 とりあえずこう答えるのが無難かな。すると、ロヴロさんは私の目を見て静かに言った。

 

「そうか」

 

 それだけ言って黙ってしまった。なんとか丸め込まれてくれたようだ。これ以上何かを聞かれたら上手い言葉が出てきそうにないし、助かった。

 

「これにて訓練終了!」

 

 烏間先生の声がグラウンドに響き、その日の訓練は終わった。




 生徒が皆帰り、ほとんど生徒がいなくなって校庭で、ロヴロは後片付けを終え、同じように帰ろうとしていた烏間に話しかけた。

「ミスター烏間。ちょっと待ってくれ」
「……? ロヴロ。どうかしたか」
「……改めて、生徒の暗殺技術のうまさに感動したよ。私の弟子にしても構わない者が何人もいる」
「本職から言われると嬉しいな」
「……その生徒の事なんだがな」
「何かあったか」

 烏間は怪しげな表情をするロヴロを見る。そしてロヴロは口を開いた。

「髪が短い少女、名前分かるか」
「髪が短い……。岡野さんか不破さんか?」
「いや、明るい髪色の生徒だ」
「……甘木さんか」

 烏間の回答にロヴロは確かにそう呼ばれていた、と呟く。

「彼女の名は甘木瀬斗、5月頃にこの教室に転入してきた転校生だ」
「そうなのか。……ズバリ言う。彼女は一般人ではないな」
「……」

 何故。そう聞き返すのは愚問だと悟ったのか、烏間はただ黙って話を聞く。そんな彼にロヴロは続ける。

「俺が彼女に質問をしたとき、彼女は片手で他方の手首を握った。これはストレスや緊張を抱いた時に出る仕草の1つだ。……だが、彼女は暗殺者でもない。それなのにある程度戦闘慣れしている。それにおそらく彼女は銃やナイフなどの得物を使うのに慣れていない、というより、肉弾戦をメインにした戦い方をしているように見受けられる」
「………………」
「彼女は何者だ、ミスター烏間」
「正直、その質問には答えられない。俺も彼女については詳しく知らないからだ。5月、彼女が転入する前に俺の上司、政府は彼女を『E組の護衛』と説明した。他の生徒たちとさほど変わらない経歴が書類に記されているのにもかかわらず、だ」
「護衛……?」
「ああ。それに加え上司は『何も聞くな。それがお前の為になる』とも言っていた。だから俺は彼女に直接聞いたりしていないし、今後もするつもりはない」

 政府の人間がそこまで言うのだ、下手に探りを入れれば自分の身にも危険が及ぶ可能性がある。それは避けたいところだった。藪蛇を突けば出てくるものは蛇なんかは済まないかもしれない。
 ロヴロはその考えに至ったのか納得したような顔を浮かべる。しかしすぐに真剣な表情に戻った。

「彼女が脅威になるとは思わないのか?」
「思わん。少なくとも今の段階ではな」
「なぜ言い切れる」
「ただの勘だ。奴も彼女のことを普通の生徒として接していいと言っていた。それに彼女はクラスに馴染んでいる。問題ないと判断したまでだ」

 ロヴロはそれを聞いてなるほどな、と言った。

「だがな、ミスター烏間。秘密というのは……長引けば長引くほど辛くなる。職業柄秘密を抱えることも多々あったが、それは慣れだ。彼女が秘密を抱えることに慣れているのならいいが、ここは日本。平和なこの国であの怪物以外の秘密を抱えるのは幼い少女には些か重すぎるのではないかと、俺は思うのだ」
「…………」

 ロヴロの言葉に烏間は押し黙ってしまう。だが烏間は、変わらぬ声音で言った。

「それでもなお、彼女が話さない選択を取っているんだ。政府の人間として、この教室の教師として、俺は信じるだけだ」

 そう言って彼はその場を去った。残されたロヴロは再び空を見上げる。そこには夕日によって赤く染まった雲が広がっていた。
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