37話
船が水の上を進み、水を切る音が響く。
椚ヶ丘から約6時間。海だけしか見えなかった景色に少しずつ陸が見えてきた。
「にゅやァ……船はヤバい……船はマジでヤバい……。先生頭の中身が全部まとめて飛び出そうです……」
殺せんせー、乗り物酔いするんだ……。
「! 起きて起きて殺せんせー!! 見えてきたよ!!」
無邪気な声音で倉橋さんが殺せんせーにナイフを突きつけるが、殺せんせーは酔いながらも華麗に避けた。
「東京から6時間!!」
「殺せんせーを殺す場所だぜ!!」
鮮やかな島の風景に、E組たちは目を奪われた。潮風が気持ちいい。磯の香りが鼻腔をくすぐる。自然豊かな島に、私たちはこれから2泊3日を過ごすのだ。
「ようこそ普久間島リゾートホテルへ。サービスのトロピカルジュースでございます」
サービスドリンクに口をつけることはなく、ストローを手でいじる。喉は乾いていないというのもあるが、単純に何かを口にする気分ではないのが1番だ。
普久間島に来る前日、高専でとある任務が悟と傑に割り振られたことを知った。星漿体である少女の護衛と抹消。
星漿体とは、日本国内のあらゆる結界の強化・行使を行っている天元様と同化する人間のことだ。星漿体の少女の命を狙っているのは天元様の暴走による現呪術界の転覆を目論む呪詛師集団『Q』と天元様を信仰、崇拝する宗教団体、盤星教『時の器の会』の2つだ。
天元様と星漿体の少女が同化するのは2日後の満月。それまで悟と傑は少女を護衛し、天元様の元まで送り届けるというのが今回の任務の内容らしい。失敗すればその影響は一般人にも及ぶ。特級の2人に相応しい任務とも言える。
1級術師であり、一応長期任務中の私は参加できないということで当初の予定通りE組の沖縄暗殺旅行に参加したということだ。硝子もこの任務には参加しないし、仲間外れというわけではない。……わけではない、が……少し寂しさを感じるのはおかしいことなのだろうか。
「いやー最高!!」
「景色全部が鮮やかで明るいな〜」
「ホテルから直行でビーチに行けるんですね、様々なレジャーも用意してあるようですねぇ」
「例のアレは夕飯の後にやるからさ、まずは遊ぼうぜ殺せんせー!」
「修学旅行ん時みたく班別行動でさ」
「ヌルフフフ、賛成です。よく遊び、よく殺す。それでこそ暗殺教室の夏休みです」
それから私たちはいくつかの班に分かれて、1つの班が殺せんせーと遊ぶ間に、そのほかの班が着々と暗殺の準備を進めていく。