「いやぁ、遊んだ遊んだ」
すっかり夕暮れ。もうすぐ夕飯という時間、真っ黒……本当に文字通り真っ黒に焼けた殺せんせーが1日を十分に満喫したらしく、満足げに言った。
「黒すぎだろ!!」
「歯まで黒く焼けやがって」
「もう表情が読み取れないよ」
歯って焼けるっけ……。いや焼けないよな……?
夕飯は貸し切りの船上レストランで夜の海を堪能しながら食べるそうだ。波の音が耳に心地よい。
「……な、なるほどねぇ……。まずはたっぷりと船に酔わせて戦力を削ごうというわけですか」
「当然です。これも暗殺の基本のひとつですから」
少々自慢げに磯貝君が言うと、実に正しい、と殺せんせーは言う。
「ですが、そう上手く行くでしょうか」
ワイングラスを傾けながら殺せんせーは多分笑った。
「暗殺を前に気合の乗った先生にとって、船酔いなど恐れるに……」
黒すぎて表情が分からない。他のみんなもそれを指摘すると、戸惑ったように殺せんせーはそんなに黒いかと聞いた。
「表情どころか前も後ろもわかんないわ」
「ややこしいからなんとかしてよ……」
「ヌルフフ、お忘れですか皆さん。先生には脱皮がある事を。黒い皮を脱ぎ捨てれば!」
被っていたカンカン帽を少し上げると、殺せんせーの頭の真ん中からピシ、と亀裂が入った。
「ほら元通り」
そう言って黒い皮が脱げた。月1の脱皮だっけ、これ。
「あ、月1回の脱皮だ」
合ってたようだ。
「こんな使い方もあるんですよ、本来は『ヤバい時の奥の手』ですが………………あっ」
自慢げに言っていた殺せんせーは、途中で重要な事実に気がついたようだ。そうだよね、それ奥の手だよね。暗殺前に自分で戦力減らすって……舐めプ? いやこれ天然だな。シンプルなミスだな?
「どうして未だにこんなドジ殺せないんだろ」
片岡さんの言葉に頷いた。
食事が運ばれてくるが、みんな殺せんせーの方が気になっているみたい。それもそうか。彼らからすれば目の前のご馳走よりも、これからの一世一代の大勝負とターゲットに目が釘付けになるだろう。
ちゃんと食事を楽しんでいるのはたぶん私くらいなんだろうな。うわっ、この肉柔らかっ。うまっ。
美味しすぎる料理に舌鼓を打っていると、ふと視線を感じた。
「……?」
だがその視線の先を辿ろうにも、誰もいない。私は首を傾げ、再び食事を再開した。
***
夕食後、私たちは暗殺の会場である水上チャペルへと向かった。
「さ、席につけよ殺せんせー」
「楽しい暗殺」
「まずは映画鑑賞から始めようぜ」
三村君と岡島君の意地悪そうな笑顔が、殺せんせーを迎えた。
「まずは、三村が編集した動画を見て楽しんでもらい、その後テストで勝った7人が触手を破壊し、それを合図に皆で一斉に暗殺を始める」
例の7人はいつも扱っている銃を誇らしげに抱えている。
「それでいいですね、殺せんせー?」
「ヌルフフフ、上等です」
磯貝君の言葉に殺せんせーはドヤ顔で応対。
「セッティングごくろーさん、三村」
「頑張ったぜ、皆がメシ食ってる間もずっと編集さ」
菅谷君が三村君を労う。
ボディチェックも終えた殺せんせーが座席に着くと、殺せんせーはどんと構えた。
「準備はいいですか? 全力の暗殺を期待してます。君達の知恵と工夫と本気の努力。それを見るのが先生の何よりの楽しみですから。遠慮は無用。ドンと来なさい」
殺せんせーの言葉にE組は笑う。
「言われなくとも、はじめるぜ殺せんせー」
カチリ、と照明が消えたことにより、目の前のテレビが明るく光った。テレビから映像、音声が流れ始める。
『……我々調査隊に極秘情報を提供してくださった方々にお越しいただきました。お話を伺う前に、続きをご覧ください。……買収は、失敗した』
「失敗したぁぁあああ!!?」
『最近のマイブームは熟女OL。全てこのタコがひとりで集めたエロ本である』
「違っ、ちょっ、岡島君達、皆に言うなとあれほど……!」
『お次はこれだ。女子限定のケーキバイキングに並ぶ巨影。誰あろう、奴である。バレないはずがない。女装以前に人間じゃないとバレなかっただけ奇跡である』
「クックック、あーあ、エロ本に女装に恥ずかしくないのド変態?」
『給料日前の奴である。分身でティッシュ配りに行列を作り、そんなに取ってどうすんのと思いきや……なんと唐揚げにして食べだしたではないか。教師……いや、生物としての尊厳はあるのだろうか』
三村君の動画編集力も相まって面白過ぎるな……。
『こんなものでは終わらない。この教師の恥ずかしい映像を1時間たっぷりお見せしよう』