放課後。生徒が誰もいなくなった、呪霊が蔓延る校庭を見つめながら芝の上に座る。
「おいで、弟切」
弟切の名を呼ぶと、私の体からずるりと弟切が現れる。赤黒いカギヅメで私を傷つけぬように注意を払いながら擦り寄って甘えてきた。
『ママ、ぉ、オシごト?』
「そう。ここにいる呪霊を動かないようにしてくれるかな」
『アイ』
私の言葉を聞いた弟切は、すぐさま校庭に数多くいる呪霊を千切っては投げ、千切っては投げる。弟切の攻撃により呪霊たちはかろうじて存在は出来ているものの、ピクピクと細かな痙攣を繰り返すだけで何もできないようだ。約1分でひとまず表に出ていた呪霊たちを戦闘不能にしてしまった弟切は、褒めてもらおうとぱたぱたと近寄ってくる。
『ママ、上手ニできた。ほメて』
「ありがとう、弟切。偉いね」
よしよし、と言いながらいつもの様に弟切の頭を撫でる。嬉しそうに目を細める弟切を見て思う。本当に可愛い子だと。呪霊は面倒だし、次から次へと現れるから好きになれという方が難しいが、己が生み出したこの子たちはやはり少し違う。
「それじゃあ次は
手を前に出しながら呼べば、手のひらから黒いスライムのような物体が現れる。手のひらサイズのそれには弟切と同じように口だけがぽっかりと空いている。
『おかぁ、さん』
食食も擦り寄って甘えたような声で鳴く。この行動は私が生み出した呪霊に共通する行動なんだけど、やっぱり私を母親だと認識しているのかな。雛鳥の刷り込みのように。
『キュルキュル』
「食食、転がってる呪霊全部食べてくれる?」
『ウン、わかッタよ』
お願いをすると、食食はぴょんと飛んで校庭に転がっている呪霊たちの方へ向かう。そして、呪霊の体に潜り込むようにして飲み込んでいく。私はそれを眺めながら、自分の横で転がっている弟切の頭を撫で続けていた。
しばらく経って、全ての呪霊を食べ終わったらしい食食は戻ってくる。
『ぜンぶ食ベタ!』
「よくできました」
小さい子を褒めるような言葉と共にぷるぷるのその体を撫でる。するとまた嬉しそうな声を上げながらすりすりと身を寄せてくるのだ。
「それじゃあ今日はもう帰ろうか。2人とも、私の中に戻って」
そう2体に命じれば、すっと私の中へと消えていく。私は立ち上がろうとした時だった。ぶわりと不自然な風が吹いて思わず目を閉じてしまう。目の前にいたのは殺せんせーだった。
「あ、殺せんせー」
「おや瀬斗さん、まだ校舎にいたんですか?」
「ちょっとね~」
濁すような言い方で私が返事をして、芝の上に置いていたカバンを拾い上げる。そんな私の様子をじっと見つめる殺せんせー。何か変なことでもしただろうか。
「殺せんせー? どうしたの?」
「いえ、君は不思議な雰囲気を纏った人だと思っていまして」
「不思議? よくわかんないけど、褒め言葉として受け取っとくね」
殺せんせーは多分、私が呪術師だということはまだ分かっていない。別に教えるつもりもないけど。それでもこうやって普通に教師と生徒をやっているのだから、この生物からすれば私の素性などなんでもいいのだろう。私にとっては都合が良いけれど。
「それじゃあまた明日ね、殺せんせー!」
「はい、また明日」
軽く手を振って、私は学校の敷地内から出た。