「あれ? 着替えるの早いな、渚」
「すぐに着替えるに決まってるじゃん……」
「そのまま行きゃあ良かったのに。暗殺者が女に化けるのは歴史上でもよくあるぞ」
「い、磯貝君まで!」
「渚君、とるなら早い方がいいらしいよ」
「とらないよ! 大事にするよ!!」
「その話はあとにしてくれるか」
「……二度としません」
烏間先生の一声で、この場は収まった。相も変わらず緊張感がないな……。
それから少し、烏間先生が歩みを止め、私たちも同じように足を止めた。
「この潜入も終盤だ。律」
『はい。ここからはVIPフロアです。ホテルの者だけに警備を任せず、客が個人で雇った見張りを置けるようです』
「そんで早速上への階段に見張りか。超強そう……」
「私達を脅してる奴の一味なの? それとも無関係の人が雇った警備?」
「どっちでもいーわ、倒さなきゃ通れねーのは一緒だろうが」
寺坂君がパキパキと手の骨を鳴らす。
「その通り、寺坂君。そして倒すには、君が持ってる武器などが最適ですねぇ」
武器? 何かよろしくないものでも持ってるのか、寺坂君。
そう思っていると、寺坂君は不機嫌そうに舌打ちをした。図星か。
「透視能力でもあんのか、テメーは」
と言いながら持っていたリュックに手を伸ばした。
「……出来るのか? 一瞬で2人共仕留めないと連絡されるぞ」
と烏間先生が心配そうに言う。
「任せてくれって……おい木村」
殺せんせーを持っている木村君に、寺坂君が呼びかける。
「テメー1人ならすぐに敵とは思われねーだろ。あいつらをちょっとここまで誘い出して来い」
と、屈強なボディーガードをこちらに引き寄せるような仕草をする。
「俺が? どうやって?」
「知らねーよ、なんか怒らせる事言えばいい」
木村君は悩むように眉を寄せた。カルマ君がそんな木村君に近づき、
「じゃあこう言ってみ木村」
と耳に唇を寄せて言い出す。絶対録なセリフじゃないな。
しばらくして。考えがまとまったのか、木村君はボディーガードの方へ歩き出した。そしてボディーガードの目の前で止まる。
「? ……何だボウズ」
木村君は緊張した面持ちで、
「……あ」
と小さい声で言い、言葉を続けた。
「あっれェ〜、脳みそ君がいないなァ〜、こいつらは頭の中まで筋肉だし〜」
キョロキョロとわざとらしく周りを見渡し、そのまま踵を返しながら、
「人の形してんじゃねーよ豚肉どもが」
と言い放った。
「おい」
「待てコラ」
そりゃ誰だって怒るよ……。あの一瞬でこんな言葉が思いついたのかカルマ君は、本当にヤバい子だな。
怒りがこもった声で2人のボディーガードは追いかけてきた。木村君は全速力でこちらに走ってくる。
「ちょ、くっ……」
「なんだこのガキクソ速ぇ!! てかこいつもしかして……」
ボディーガードが話す中、木村君が私たちの目の前を通り過ぎた。
「おっし今だ吉田!!」
「おう!!」
通路から寺坂君と吉田君がとび出て、ボディーガード2人に食らいつく。手に持っていたのは棒状のスタンガンだ。バチバチッと音がすると、ボディーガード達は気絶する。
「ス……スタンガン…」
「タコに電気を試そうと思って買っといたのよ、こんな形でお披露目とは思わなかったがよ」
「買っといた…って、高かったでしょそれ」
片岡さんに指摘されると、寺坂君は居心地悪そうに、
「ん……最近ちょっと臨時収入あったもんでよ」
と言う。臨時収入? バイトとかやってなさそうだけど、なにかやったのかな。……まあ興味無いからなんでもいいけど。
「……いい武器です、寺坂君。ですが、その2人の胸元を探って下さい」
「あン?」
言われた通りに寺坂君が男の胸元を探ると、拳銃が出てきた。
「そして、千葉君、速水さん。この銃は君達が持ちなさい」
クラスでもトップで銃が上手い2人。それでも今回は驚いたようで、2人とも静かに先生を見つめた。
「烏間先生はまだ精密な射撃ができる所まで回復していない。今この中で最も『それ』を使えるのは君達2人です」
「だ、だからっていきなり……」
「ただし!」
殺せんせーはいつものように顔に文字を浮かべた。その文字は『不殺』だ。
「先生は殺す事は許しません。君達の腕前でそれを使えば、傷つけずに倒す方法はいくらでもあるはずです」
2丁、ぽんと渡された銃を2人は緊張した様子で握りしめた。無理もない。が、確かにこの場で銃を持つのならばこの2人だ。
そうして武器を手に入れた私達は先へ、先へと進んでいく。