翌朝。朝の6時に起床し、烏間先生に連絡。帰りの船が出る時間までにはホテルの方に戻って来ることを約束してから、空港の方へと私は向かった。
「七海君、灰原君。おはよう」
2人にそう声をかけると、2人は揃って振り返った。
「おはようございます! 瀬斗さん」
「おはようございます。よく眠れましたか」
「うん、それなりに」
「……ちゃんと寝てください」
「昨日夜に色々あってさ……。東京に帰ったらまた仮眠とるよ。というか、悟たちは? まだ来てない?」
「多分もうすぐだと思います」
「そっか」
それから他愛もない雑談を2人としていると、誰かが小走りをするような足音が聞こえ、振り返る。
「瀬斗じゃん!」
どうやら走り寄ってきたのは悟のようだった。
「星漿体の子置き去りにして来ないでよ……。仮にも護衛任務中でしょうが……」
「傑いるし別に良くね」
「よくないわ」
はあ~。思わず大きなため息をつく。本当に自由奔放なんだからこの男は……。
「おお! もしかして貴様が甘木か!」
悟の後ろの方から、そんな元気な声が聞こえてくる。そちらを見やれば、黒髪のおさげにセーラー服姿の少女がいた。もしかしなくてもこの子が星漿体の少女だろう。
「夏油と五条から話は聞いておった!」
どんな話を聞いたんだか。そう思いながらも私は少女に近づく。
「妾は天内理子という」
「甘木瀬斗です」
よろしく、と言うのは少し憚られた。彼女は星漿体なのだ。明日の日没後には彼女は天元様と同化し、天元様に成る。
だから私は彼女の方に手を差し伸べ、握手を求める。彼女はにこっと笑い、私の握手に応じた。その笑顔はおおよそ、明日にはなくなるとは思えないほど無邪気で、愛らしいものだった。
「飛行機の時間は? 保安検査とかまだやってないよね?」
「まだ離陸まで少し時間あるからね。ぼちぼち行くよ」
「そう。ご飯は? ホテルで食べた?」
「そうだね。もう済ませたよ。瀬斗たちは?」
「私はまだ。でもお腹空いてないから別に大丈夫」
「私と灰原は適当に済ませました」
そういうことなら適当な場所に座って時間を潰すかと思い、私たちは近くにあったベンチに腰掛ける。隣には当然のように悟が座ってきて、私の方に体重をかけてきた。甘えるような仕草に驚きつつも、悟がこういう行動をする時は大概倒れそうなほど疲れてることが多いから、何も言わずにそのままにさせておく。
「……悟、大分消耗してるね。無下限も今さっきまで発動しっぱなしだったでしょ」
「任務が任務だ。俺だって流石に気張るわ」
緩やかに閉じられた瞳には普段はあまりない隈があった。今は人手が多いから少しだけ警戒を弛めたのだろう。また飛行機に乗り、高専内に戻るまで術式のスイッチを入れっぱなしにするのは相当な疲労を伴うはずだ。
「悟、口開けて」
「なに」
「いーから、開けて」
怪しげなものを見るような目をしながら、悟は口を開ける。そこに私は飴玉を突っ込んだ。いちごミルク味の甘い飴玉。からころと音がして、悟はそれが飴玉であることに気づいたようだ。
「疲れた時は糖分摂るのが一番なんでしょ? 本当はチョコとかの方が良かったんだろうけど、生憎持ち歩いてなくてね」
「……サンキュ」
「どういたしまして」
徐々に時間が迫ってくる。保安検査場の前まで歩き、私以外が検査場の方へと入っていく。
「……悟!」
「あ?」
私が呼び止めると、彼は1人で私の方に戻ってくる。
「何、俺なんも忘れてねーと思うけど」
「そうじゃなくて、なんか嫌な予感がするから。気をつけてって言いたかったんだ。悟と傑が強いことはわかってるよ。わかってるけど、でも、もし何かあったらって思ったらやっぱり心配になるじゃん」
「俺の事誰だと思ってんの? 要らねえ心配してる暇あんならお前は自分の事考えろよ」
「……あはは、そうだよね。ごめん、嫌な予感、したからさ」
悟は少し驚いたように目を丸くすると、にやりとした笑みを浮かべた。
「心配すんなっつの」
ぽんっと悟は私の頭に手を置いて、再び保安検査の方へと戻っていった。
飛び立つ飛行機を見ながら、私は首を隠すように手で覆う。項がチリチリと熱い。この感覚があった時、大抵良くないことが起こる。
「……大丈夫、ただの気のせい。なんてことない。杞憂に終わるはず。だって2人は最強なんだから……」
自分にそう言い聞かせるように呟く。どうか何も起こりませんように。そう願わずには居られなかった。