起きると医務室にいた。目を覚ますと、硝子がいた。
「おはよう、腕の調子どんな感じ?」
そう言われて左手を動かせば、難なく動いた。どうやら治療は完璧に終わっているらしい。あれだけ無残に捻られていたというのに痛みは全くない。
「ありがとう硝子」
「どういたしまして。弟切にも礼言っときなよ」
「うん、もう中に話しかけたから大丈夫」
「そう。私この後すぐに任務あるから。一応安静にしておいて」
「わかった。でも付き添わなくて大丈夫?」
「夜蛾先生が付き添うから、大丈夫」
「そっか。気をつけてね」
「ん」
それだけ言ってから硝子は医務室を出ていく。私も部屋で休もう。ベッドから降りて、ソファの上に置いてあった上着を手に取って医務室を出る。私の中で、弟切たちが心配の声をかけている。大丈夫だよ、そう返事をしながら廊下を歩いていると前方から足音が聞こえてきた。そこにはボロボロの悟がいた。
「えっ」
背中に嫌な汗が伝う。衝動的に走り出す。
「さ、悟!? 何その怪我、今ならまだ硝子いるから早く硝子のとこに行こう!」
「いらねぇ」
「いらねぇって……いやいや、絶対行った方がいいって。だってその傷、結構深いでしょ」
「いいんだよ、もう治ってる」
「治ってる……?」
「反転術式、使えるようになったから。それに、今までできなかった赫も打てるようになった。前に硝子が言ってたことは分かんなかったけど、確かにあの時掴んだんだよ。呪力の核心ってやつを!」
興奮したように話す悟。多分この怪我のせいでハイになってる。私の言葉がちゃんと届いているのかわからなくて、私は口を閉ざす。
すると、不意に腕を引っ張られる。そのまま引き寄せられて抱きしめられた。突然のことに驚いて固まってしまう。
「俺の方見て」
「え、な――」
なんで? そう聞こうとした瞬間、唇に柔らかい感触が伝わる。キスされていることに気づいた時には、すでに離れていた。
「はは、間抜け面。なぁ、もう一回していい?」
顔を真っ赤にしながら固まる私を見て、彼は楽しそうに笑う。そしてもう一度口づけされる。今度は先程よりも長くて、舌が入ってくる。息が苦しくなって、彼の胸板を押し返すとやっと解放された。
「なっ、何、考えて……」
「じゃあ俺行くわ」
混乱する私を置いて、悟は歩いて行ってしまう。私はその場に座り込む。顔に熱が集まってくる。心臓がうるさい。人生初めてのキスは、レモン味なんて爽やかなものではなくて、嫌なほど知ってる血の味だった。
それから星漿体である理子ちゃんが死んでしまったことを知らされた。幸い天元様の結界に何の異常も出なかった。だが、護衛を請け負っていた2人のショックはどれだけのものなんだろうか。