55話
「あ~だめだぁ~、思考がまとまらない……」
星漿体の死の翌日、私たち呪術師は変わらずに任務にあたっていた。もちろんそれは私も例外ではない。ただでさえ夏休み最終日に任務があるというだけで憂鬱なのに、私の脳内にはあの日の悟の行動がチラついて集中できないのだ。
どうしてあんなことしたのだろう。……キス、なんて、友達にするものではないはずだ。それとも、悟は私のことが好きだったりする、のかな。
「いやいやいや……まさかそんなはずないよね」
仲の良い友達で、同期。それ以上でも以下でもないはずだ。
「顔あっつ……」
明らかに夏の気温のせいではない体温の上昇に頭を抱える。本当に勘弁してほしい。こんな調子ではまた悟に何かされかねない。どうにかしてこの気持ちを切り替えなければ。
「瀬斗さん!」
「うわあっ!?」
突然目の前に殺せんせーが現れ、思わず大声を上げてしまった。
「な、何、どうしたの」
「夏祭りに行きませんか。今日思い立って暮らすみんなに声かけてます。用事で断る人が意外に多くて傷ついてます」
「夜7時……」
任務はないし、個人的な用事もない。断る理由はないな。
「いいよ。空いてるし、椚ヶ丘駅に集合でいいの? というか、E組以外の友達誘っても大丈夫?」
「もちろんです!」
「じゃあ行くよ」
「ありがとうございます! 待ってますからね!」
そう言ってマッハ20のスピードで消えていった。硝子とか誘ってみようかな。
「浴衣、あったかなぁ」
高専に戻り、誰かを祭りに誘おうと思ったのだが、こういう時に限ってみんな出払っていた。なんとも間が悪い……。流石に1人で行くのは寂しいんだけどな……。まあ、それはそれでE組の誰かと回れば良いだけだけど。
「ンなとこで突っ立って何してんの?」
「うひょあっ!!」
背後からの突然の声掛けに変な悲鳴が出てしまう。振り返るとそこには悟がいた。心臓が勝手にバクバク言っている。あれ以来まともに話せてなかったせいだろうか。
「さ、悟……」
「こんなとこで何してんのって聞いてんの」
「え、えっと、えっと……今日、お祭り行こうって担任に言われてさ、友達も誘っていいって言うからみんな誘おうと思ったんだけど、みんないないから……悟も任務あるんでしょ? 傑に聞いたよ」
「……じゃあ誰誘うんだよ」
「1人で行こうかなって。他のクラスの子たちもいるし、その子たちと回ろうかなーって」
目を逸らしながら言うが、悟から何で? と言いたげな視線を向けられている気がする。
「一緒に……行く?」
その言葉を口にすると、自分の耳元まで熱くなるような感覚に襲われた。恥ずかしくて目を合わせられない。俯きながら返事を待つ。沈黙が流れる。聞こえてくるのは自分の鼓動の音だけだった。少ししてから、私の手を大きな手が包み込んだ。驚いて顔を上げると、悟が満足そうな笑みを浮かべていた。
「でも任務あるって、どうするの?」
「何時から?」
「夜の7時」
「先に会場にいろよ。すぐ終わらせて行くから」
「わ、わかった。……待ってる」
「ん」
ぽんっと頭に手を置いて歩き出した悟を見て、胸の奥がきゅっとなった。なんだこれ、すっごくドキドキする。前までは何とも思ってなかったのに。あのキスのせいで意識するようになってしまった。
「ああ、もう……厄介だ」
誰もいなくなった廊下でへたり込み、火照った頬を冷ますように手で扇いだ。