夜の7時。椚ヶ丘駅で集合してからお祭り会場である神社に向かう。
「いやあ、思いの外集まってくれてよかったよかった。誰も来なかったら先生自殺しようかと思いました」
「じゃあ来ない方が正解だったか」
なんてやり取りを横目に、お祭り会場をぐるっと見渡す。たくさんの屋台があって人も多い。先に何か食べていようかな。りんご飴とか食べたいかも。
りんご飴が売っている屋台に行き、1つ買う。
「毎度あり~」
「ありがとうございます」
お金を払ってから赤い飴を舐める。甘い味が口の中に広がっていく。
「美味しい」
適当なところに腰かけてりんご飴を堪能していると、巾着の中に入れてあるスマホが震えた。確認すると悟からメッセージが入っていた。
『もうつく。どの辺にいる?』
『りんご飴の屋台の近く。射的屋も近いよ』
そう返信し、スマホを巾着の中に戻す。またりんご飴を齧り始めたところで、ぬっとただでさえ夜で暗いのにさらに影ができた。何事かと思って顔をあげると、目の前には悟がいた。
「待たせて悪かったな」
「大丈夫。少ししか待ってないから。むしろ任務終わるの早かったね」
「ソッコーで終わらせてきた」
「だろうね。着替えてこなかったみたいだし」
「別に着替えられたけど、待たすのもよくねぇだろ」
「あははっ、悟がそんな気遣いするなんて、明日は雨かな」
「うるせぇ、失礼だろお前」
「ごめんごめん」
そう軽口を言い合うが、正直心臓は昼間のようにバクバクと鳴っている。普通に話せているかな。顔は赤くなっていないかな。いつも通り振る舞えているかな。緊張してるせいか、変なことばかり考えてしまう。落ち着け私。平常心、平常心……。
「何百面相してんだよ。俺にもりんご飴ちょーだい」
「あ、うん。いいよ」
りんご飴を差し出すと、彼はそれを受け取って口に含む。
「結構美味い。他にもなんか食いてえなぁ」
「あっちにクレープの屋台あったよ」
「マジ? 食いたい」
そのまま自然な流れで手を繋いで屋台の方へと歩き始める。悟の手は大きくて温かくてゴツゴツしていた。普段手なんて繋がないのに……。
悟がクレープを買い、食べている間も手はずっと繋がっていた。離してくれないし、振りほどく理由もないからそのままにしておくことにした。周りからの視線は感じるけれど気にしないことにした。
「ね、ねぇ、悟」
「ん? 何? クレープもうあげれるほどねぇよ」
「そうじゃなくって。あの、こういうの、勘違いするからやめた方がいいよ」
この間のキスも、悟は大量に血を流して、正常ではなかったのだ。きっと私のことを好きだという気持ちはないはず。こうやって手を繋ぐのも、迷子防止とかなのかもしれないけど、それでもやっぱり勘違いしてしまいそうになる自分がいる。
「勘違いしろよ」
「えっ」
「こんなこと、お前くらいにしかしねえから」
悟は真面目な顔をしていて、冗談ではないことがわかった。それから繋いでいる私の手を自分の方に引き寄せ、手の甲に軽く唇を押し当てた。
「えっ、さ、悟!? ちょっと!?」
そのまま歩き出す。手は繋がったままだから私も同じように歩き出した。だんだん人の少ない方へ歩いていき、林の中の道までやってきた。
「前からお前のこと好きだった。いつからかはわかんねぇけど、多分結構前から」
ぎゅっと繋がれている手に力が込められる。その力強さとは裏腹に、彼の声はとても弱々しく聞こえた。
「わかってんだ。呪術師にとってこういう感情は邪魔だって。だから俺も封印したつもりだった。でも、ダメだな。全然できなくて。諦めようと何度も思った。だけど、無理なんだ」
振り返り、悟の青い目が私を射抜く。
「瀬斗、好きだよ」
胸の奥がきゅーっと締め付けられるような感覚になる。でも、どう答えていいのかはわからなくて、黙ってしまう。
「困らせてごめん」
ゆるりと手が離れそうで、慌てて私は悟の手を握り返した。驚いたように悟の体が揺れた。
今、言わないと。私たちに本当に明日が来るのかはわからないのだから。
「私も好き……なんだと思う。悟ほどの熱量じゃないかもしれないけど、それでも悟の隣は居心地が良くて、息がしやすくて、すごく楽なの。だから、悟とならこの先一緒にいても、いいなって、思ってる……」
言葉が尻すぼみになって、恥ずかしさが込み上げてくる。顔にどんどん熱が集まっていくのを感じる。
「本当?」
「こんな時に嘘なんてつかないよ! 私のことなんだと思ってるの!?」
悟の真剣な表情が崩れ、口元に手を当てながら笑った。それから私のことを思い切り抱きしめた。背中に回された腕の強さと、耳に響く心臓の音。それがとても愛おしく感じられて、私もそっと悟の体に手を回す。
悟の体温を全身で感じる。生きている証の音がする。
「あとから勘違いだったとか聞かねえからな」
「言わないよ。悟こそ私を選んで後悔したとか言わないでね」
「言うわけねぇだろ。絶対幸せにする」
「あははっ、呪術師らしくないセリフ!」
私たちはお互い笑い合い、見つめ合って、そしてどちらからともなく唇を重ねた。
花火が打ち上がる音を聞きながら、2人で肩を寄せ合った。