甘木瀬斗の暗殺教室   作:つがう

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6話

 E組にきて早くも数週間が経った。

 すっかり教室にも慣れてきた頃、どうやらこのクラスに新たな転校生が来るらしい。烏間の一斉送信メールの文面から、今度は普通の転校生を自称する私とは違い、正真正銘の暗殺者だろうとE組の生徒たちは予想していることだろう。

 教室に入った私は目を丸くすることになる。黒く平べったい板状の直方体が教室に新たに置かれていたからだ。

 

「……………………え、えっと…?」

 

 困惑しすぎてうまく言葉が出てこない。それは他のクラスメイト達も同じことで、HRが始まったが、全員の目線はどうしても新たに来た『自律思考固定砲台』に行ってしまう。

 

『おはようございます。新たに転校してきました、自律思考固定砲台と申します。よろしくお願いいたします』

 

 可愛らしい女の子の声、だがそれは紛うことなき"機械"であった。

 

「ど、どうなんだろう……これは……」

 

 案の定自律思考固定砲台は問題児であった。1時間目からずっと鳴り止まない銃撃にクラス全員が参ってしまっていた。それは私とて例外ではない。頭の中でまだ音が響いている錯覚さえあった。

 昼休み、4時間目に放たれたBB弾を掃除するのは自律思考固定砲台ではなく、私たちだ。

 

「兵器としては100点満点……というよりそれ以上だけどさ、生徒としては落第点でしょ、彼女」

「あはは……。瀬斗さんが普通の転校生だったからみんな余計に戸惑ってるみたい」

「だろうねー……」

 

 箒でBB弾を集めながら渚君と話す。

 そんなことがあったからか、翌日は寺坂君にガムテープでぐるぐる巻きにされていた。

 

「この拘束は、あなたの仕業ですか? これは立派な加害行為であり、それは契約に反する……」

 

 自律思考固定砲台はそう抗議の言葉を口にするも、寺坂君に一蹴され、結局その日は昨日とは違い授業中は拘束され銃撃は一度もなかった。可哀想だけど、さすがに庇えなかった。

 

***

 

 そのまた翌日、今日は自律思考固定砲台の画面の面積は広がっていた。この教室にいると毎日面白いことがあって飽きないけど時々脳の処理が追い付かない時がある。現に今も、面積の広がった自律思考固定砲台を見ながら私は首を捻っていた。

 

「お、おう……? どういうこと……? も、もしもーし」

 

 そう言いながら、自律思考固定砲台が傷つかないように表面を優しくノックをしてみる。

 

『おはようございます! 瀬斗さん!』

「うん、おはよう……?」

 

 元気よく挨拶されたのでとりあえず返しておく。昨日までとは180度変わって画面の面積が広がり、そして中にいたAIも全身が映されているのに加え、表情も豊かになっていた。殺せんせーがやったことは明らかだが、まさかここまで劇的に変わるとは思わなかった。

 

「昨日までの私の行動を謝らせてください。大変申し訳ございませんでした。そしてこれからは協調性を持って皆さんと殺っていきたいと思います」

 

 しゅんとした顔と共にそう言う自律思考固定砲台に、苦笑いをするしかない。だいぶ女の子らしくなったなあ。

 昼休み。自律思考固定砲台の周りには人が集まっていた。

 

「わぁ、体の中でなんでも作れるんだ!」

『はい! 作って欲しいものがあればなんでもおっしゃってください!』

「じゃあ……花とか!!」

『わかりました! 花の形を学習しておきます』

 

 すっかり生徒らしくなってしまった自律思考固定砲台はみんなで考えた末、『律』と呼ばれることになった。安直だけど可愛い名前だ。

 

「上手くやっていけそうだね」

「んー、どうだろ。結局彼女、殺せんせーのプログラム通り動いてるだけでしょ」

「えっ」

「厳しいけど、カルマ君の言う通りだよね。機械自体に意志があるわけじゃない。彼女がこの先どうするか、どうなるのかは、彼女を作った持ち主が決めることだよ」

 

 私がそう言えば、カルマ君もそれに同調するように頷いた。

 私たちの想像通り、案の定律は保護者によって直されてしまっていた。今後同じように律を弄れば危害を加えたと見なし、さらに寺坂君のように縛って壊れでもしたら賠償金を請求するらしい。いくら地球が大事だとしても、こっちの気持ちももう少しは汲んでくれないものかなぁ。

 クラスの全員がまたあの傍迷惑な射撃が始まるのかと身構えていた時、律が出したのは銃ではなく綺麗に咲く様々な花束であった。ひらひらと花びらが教室中に舞う。

 

『花を作る約束をしていました』

 

 律は淡々とした、機械らしい声音で言葉を紡いでいく。

 

『殺せんせーは私のボディに計985点の改良を施しました。その殆どは、マスターが暗殺に不要と判断し削除、撤去、そして初期化してしまいました。しかし、学習したE組の協調から、私個人は協調が暗殺に不可欠な要素であると判断し、消される前にソフトをメモリーの隅に隠しました』

「素晴らしい! つまり律さん、あなたは!」

『はい! 私の意思でマスターに逆らいました! 殺せんせー、こういった行動を"反抗期"と言うのですよね。"律"は悪い子でしょうか?』

「とんでもない。中学3年生らしくて大いに結構です!」

 

 昨日と同じく、可愛い笑顔で主に逆らったと伝えるその姿は画面の中にさえいなければ普通の中学生だ。

 こうして自律思考固定砲台、もとい律がE組の仲間になった。

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