甘木瀬斗の暗殺教室   作:つがう

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7話

 梅雨の時期に入った6月のある日。今日も絶好調に雨だった。湿気でうねる髪と、低気圧のせいでだるい頭を少し湿気ってる机に額をくっ付けてため息をつく。

 

「はい、皆さん。HRを始めます。席に着いてください」

 

 ゆっくりと机から頭を上げると、そこにはいつもよりも頭が大きな殺せんせーがいた。いやどゆこと。

 

「殺せんせー。33%ほど巨大化した頭部についてご説明を」

 

 律が説明を求めると当たり前のように返ってくるその返事の内容に、クラスメイト達がツッコミを入れる。ほんと、どこまでも面白生物だな、殺せんせーは……。

 ぎゅぎゅっと殺せんせーは自分の頭を絞って水分を切っていた。

 

「さて、烏間先生から伝わっていると思いますが、また新たに転校生が来ます」

「あー、まあぶっちゃけ殺し屋だろ」

「律さんのときは甘く見て痛い目に遭いましたからねぇ。先生も今回は油断しませんよ」

 

 生徒として参加する殺し屋に何も思わないのか…。どっちにしろまたもやキャラが濃そうだ、と思わずにはいられない。

 

「そういえば律、何か聞いてないの? 同じ転校生暗殺者として」

 

 原さんが振り返って律に聞く。律はすっかりクラスに馴染んで、今や情報関連はほとんど律に聞くのがテンプレと化していた。私も時折聞いたりする。

 原さんに聞かれた律はいつもより真剣な声音で話始めた。

 

「はい。少しだけ…初期命令では私と彼の同時投入の予定でした。私が遠距離射撃、彼が肉迫攻撃。連携して殺せんせーを追い詰めると。ですがふたつの理由でその命令はキャンセルされました」

「へぇ、理由って?」

「ひとつは彼の調整に予定より時間がかかったから。もうひとつは、私の性能では彼のサポートに力不足…私が彼より暗殺者として圧倒的に劣っていたから」

 

 転校初日に触手を破壊した律自身が劣るというのだ、相当な腕なのだろう。教室内は緊張が漂っている。 ガラガラ、とドアを開けて入ってきたのは白装束の男だった。実年齢17の私が思うことではないが、さすがにこの白装束の男が中学生には見えない。

 

「何? あの格好……」

「あれが、転校生?」

 

 生徒たちの疑問に答えるかのようにその人は片手を上げ、それを握りしめた。無言で行われるその動作に奇妙な空気が流れる。やがて白装束の男は握った手を広げると、煙と共に鳩を出した。

 

「…は?」

 

思わず声が出てしまったが、これはクラス全員が思ったことだと思う、

 

「ははははっ。ごめんごめん、驚かせたね。転校生は私じゃないよ。私は保護者、まぁ、白いしシロとでも呼んでくれ」

 

 発せられた声で男だとわかる『シロ』と名乗ったその人物は教室の中にさらに入る。いつもなら笑顔でよろしくお願いしますと話す殺せんせーもビビって壁の隅で液状化してしまっている。

 

「ビビってんじゃねぇよ殺せんせー!」

「奥の手の液化まで使ってよ!」

 

 おかげでクラスメイトからはブーイングが飛んでいた。

 

「いやぁ…律さんがおっかない話するもんで!」

 

 そうだとしても仮にも暗殺のターゲットなんだからビビらないでよ……。

 殺せんせーは元の姿に戻ってから改めて口を開く。

 

「初めましてシロさん。それで、肝心の転校生は?」

「初めまして、殺せんせー。ちょっと性格とかがいろいろと特殊な子でねぇ。私が直で紹介させてもらおうと思いまして」

 

 その言葉にさらに怪しさが増す。そもそもなんでそんな白装束に身を包んでまで正体を隠しているんだ。正直私は転校生よりもそっちの方が気になってしまう。

 そう思いながら、シロの一挙一動を見逃さないように見つめる。シロは教卓まで歩くと、教室の端の方──渚君がいる方向に目を向けて固まる。

 

「ん……?」

「何か?」

 

 殺せんせーがそう聞くと、シロは目線を外して殺せんせーの方を見る。

 

「いや、皆いい子そうですなぁ……。これならあの子も馴染みやすそうだ。では紹介します…。おーいイトナ! 入っておいで」

 

 いやいやいや、さすがにその誤魔化しかたはないでしょ。と、言いたいのをぐっと堪えて扉のほうに呼び掛けるシロを見ていたら、聞こえたのは扉が開く音ではなく、建物が突き破られる音だった。それも私の真後ろの壁を。

 流石に予想していなかった出来事に肩を揺らしてしまったのだが、入ってきた少年はそのまま平然とした顔で席に座る。

 

「俺は……勝った。この教室の壁よりも強い事が証明された。それだけでいい……それだけでいい……」

 

 シロへの疑惑が一瞬にして塗り替えられた瞬間だった。

 ちょっとどころか、かなり変わった転校生に、全員が反応に困った。殺せんせーも中途半端な顔になっている。なんだその顔。

 

「堀部糸成だ。名前で呼んであげてください。ああそれと、私も少々過保護でね。しばらくの間彼の事を見守らせてもらいますよ」

 

 おそらくにこやかな表情で言うシロ。

 わけのわからない空気感のその場に最初にメスを入れたのはやはりというべきか、カルマ君だった。

 

「ねぇイトナ君。ちょっと気になったんだけどー……今手ぶらで入ってきたよね? 外、土砂降りの雨なのに、何でイトナ君一滴たりとも濡れてないの?」

「確かに。なんで?」

 

 カルマ君につい同調して聞いてしまう。だがイトナ君はカルマ君と私、どちらの問いにも答えることはなく、ぐるりと教室中を見回した。それも一段落つくと、カルマ君の前に立ち、ぽんと頭に手を置いた。

 

「お前は……多分このクラスで一番強い。けど安心しろ。俺より弱いから俺はお前を殺さない」

 

 まるで小さい子供の頭を撫でるようにカルマの頭を撫でた。いや、教師陣を抜いたのなら、このクラスで一番強いのは私だと思いますけど。なんてったって私1級術師ですし! と胸を張りたいのをこらえる。呪力や呪霊など知らないイトナからすれば、カルマ君が一番強いと判断するのは当然のことだし。現に彼は喧嘩とか強いしね。

 

「俺が殺したいと思うのは俺より強いかもしれない奴だけだ」

 

 イトナ君はカルマ君から離れ、なぜか教卓で暢気に羊羹を食べる殺せんせーを指さした。なぜ今羊羹を食べているんだというツッコミはこの際なしでいこう。

 

「この教室では殺せんせー。あんただけだ」

「強い弱いとは喧嘩の事ですかイトナ君? 力比べでは先生と同じ次元には立てませんよ」

「勝てるさ、だって俺たち血を分けた兄弟なんだから」

「「「兄弟!?」」」

 

 イトナが懐から殺せんせーが食べているものと同じ羊羹を取り出しながら言ったその言葉は、とても衝撃的だった。

 

「兄弟同士、小細工は要らない。兄さん、お前を殺して俺の強さを証明する。時は放課後、この教室で勝負だ。今日があんたの最後の授業だ。こいつらにお別れでも言っておけ」

 

 動かない殺せんせーに一方的にそう告げると、イトナは出ていった。

 教室には困惑や戸惑いが支配し、少しの間雨音だけが響いていた。

 

「ちょっと先生! 兄弟ってどういうこと!?」

「そもそも人とタコで全然違うじゃん!」

 

 沈黙の後、クラスの全員が殺せんせーに詰め寄った。当たり前だ。あまりにも姿が違いすぎる。

 

「全く心当たりありません!! 先生生まれも育ちも一人っ子ですから!!! 昔両親に、弟が欲しいってねだったら、家庭内が気まずくなりました!!」

「殺せんせー親とかいるんだ!?」

 

 思わずツッコミを入れてしまった。

 

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