俺は珍しく家族と朝食を食べてから、家を出た。
今日は浅黄さんに頼まれたチームでの迷宮攻略となっている。
相手もちょうど二ツ星との事で、Eランク迷宮を選定しておいた。
相手の力量は未知数だが、四ツ星のカードを引き継いだとなれば、Cランクの複数枚は確定とし、Bランクもあるかもしれない。
Eランク迷宮ですら1日かからないかもしれない。
ギルドにたどりついた俺は、待ち合わせの相手を探す。
世間は春休みに入ったようで、昼間にも関わらず、若い冒険者が複数見られる。
「おはよう!」
「おはようございます。今日はよろしくお願いします」
「よろしく!てか、そんな畏まらなくても良くない?タメでしょ?」
「じゃあ、よろしく」
陽気に声をかけてきたのが
表面的には人格的問題はなさそうだが、聞いた話では強いカードのせいで増長しているらしい。
そんなことを気に留めつつ、迷宮へと移動を始める。
「どこの迷宮に行くの?」
「川沿いにあるEランク迷宮」
「オッケー。ところでさ、4月から高校生でしょ?どこ高?」
「すぐそこのとこ」
「私も同じ!同じクラスかもね」
高校か、行きたくないな。
親の意向で行くことになったが、まるで乗り気でない。
確かに、アンゴルモアがなければ、学歴が大切になるだろう。
裏を返せば、アンゴルモアの中では学歴なんてなんの意味もない。プロの冒険者なんかも同様だ。
「なんで高校なんか行くの?」
「普通に就職とかするためだけど?」
「プロにはならないんだね」
「そうだね。私は目的果たしたらそれで終わりかな」
「目的って?」
「落し物探し。近所にBランク迷宮があるでしょ。うちのお姉ちゃんがその中に大切なもの落としてきちゃったらしくてさ、それ探しに行きたいんだよね」
「そっか」
近所のBランク迷宮。それは前回のアンゴルモアで自衛隊の対応が遅れた原因だ。
自衛隊ですら手こずったそれに一市民として挑戦するとは、勇気のいることだろう。
彼女の問題はそこか。身の丈に合わない願いと力を持ってしまった。
いつ暴走してもおかしくなさそうだ。
そういえば青葉さんの姉が四つ星なら、元チームメイトの浅黄さんもそうなのだろうか。
あの人そんなに強かったのか。
いや、それほどの身のこなしには見えなかった。
「比嘉君の方はなんで冒険者してるの?」
「力を手に入れて、支配するため」
「アハハ、厨二病的な?それのために異常に迷宮に行きまくってんの?」
「異常?」
「1週間で二ツ星とか普通じゃないから。そんな異常行動してるから見張って欲しいって頼まれたんだよね」
なるほど。このチームは半人前の面倒を見るのではなく、半人前同士で相互監視してるのか。
わざわざそんなことを伝えたりしないけれども。
そんなこんなで迷宮へとたどり着く。
そして作戦会議として、お互いのカードと戦略を伝え合うことになった。
俺はとりあえず、いつもの3体を召喚する。
「あー、水虎の眷属召喚で押し切った感じ?」
「そんな感じ」
「あん?うちのマスターを舐めてんじゃねえぞ」
「ひっ!」
なんだコイツ。この前は前に出るなとごねていたのに。まあ今はいい。
それよりも青葉さんの持つ、四ツ星の手持ちを見せてもらうとしよう。
青葉さんの合図とともに4体の大型獣が姿を現す。
しかし、それらは想定とは異なり、 Dランクしかいない。
主戦力を隠している?そんなことをする理由がない。
既にロストさせたのか?ならば増長などするはずがない。
本当は姉から引き継いでいないのか?
なんにしろ、彼女は四ツ星級のカードではないものの、十分な戦力を保有しているようだ。
「比嘉君っていつもこんな感じ?」
「そうですね。色々考えているのでしょうけど、ほとんど口にはしません」
「大変そうだね」
「……攻略を始めよう」
彼女たちの、戦略は実際の戦闘で見せてもらうとしよう。
昨日と同じく、リリを抱えて一反木綿に乗る。
青葉さんも騎獣スキル持ちがいたようで、大型獣の背に跨る。
乗っているのは2つの頭を持つ巨体の犬、オルトロスのようだ。
前方に敵を補足した。
青葉さんのモンスターたちは敵を見つけるとそのまま飛びかかり、攻撃を始める。
俺たちは魔法で援護でもしようかとも思ったが、そうはいかないらしい。
4体の大型獣が、好き勝手に暴れていて手の出しようがない。
あ、今仲間同士で軽く衝突した。連携はおろか、作戦すらないのだろう。
水虎は頑張って合わせようとするが、1体に合わせても3体がズレてくる。大変やりづらそうだ。
あ、今度は罠を起動させてしまっている。
「皆さん、一旦止まりましょう」
「作戦会議しましょうよぉ」
リリと一反木綿の言葉で進行は止まる。
「はっきり言いますけれど、連携がとても酷いです」
「それとよ、流石に罠に気づけないのはやばいんじゃねえの」
「いやー、それでも今まで何とかなってきたし、大丈夫じゃない?」
「転移の罠とか踏んだらどうする気だよ」
「そういえばそんなのもあるだっけ」
Dランクが4枚もあればゴリ押し攻略も可能だろう。
しかし、それは低いランクの迷宮に限られる。
「Bランク迷宮は無理だよ」
「……でもさ、そっちだって水虎のワンマンチームでしょ」
それは否定できない。
「は?おい、マスター。目にもの見せてやれ!」
「この前のやつ、やりますよ!」
「舐められっぱなしはぁ、良くないですよぉ」
うちの奴ら煽り耐性無さすぎだろ。それにそれは何の解決にもなっていないだろうに。
もう勝手に準備し始めたよ。リリは剣になり、一反木綿はバフをかける。
「へぇ、じゃあ目にもの見せてもらおうじゃない」
彼女も煽り耐性が低いようだ。引っ込みつかないし、やるしかないか。
俺は接敵すると同時に、1番近い敵の首を落とす。
襲い来る攻撃を交わしつつ、2体目を切り捨てた。
そうしているうちに、水虎が1体倒していた。
最後に残ったのはナイトメア、実体のないがゆえに剣では倒せない。
それでも、一反木綿の魔法で倒される。
「……」
「作戦を共有しよう」
「……」
「または分担するとか」
「……君は何者?」
そう思われるのも当然だろう。人形について話すわけにもいかないし、真実と嘘を織り交ぜ伝えておこう。
「付喪神の装備化だよ」
「その動きは?」
「小二からやってた格闘技」
「その道に行けば、成功するんじゃない?」
「それじゃ、願いが叶わない」
その願いは人間の限界では叶わない。人間の限界を超えた力を手にするために冒険者になった。格闘技の道に進むなんて本末転倒だ。
「本気なんだね」
「うん」
「……今の私じゃ、Bランク迷宮なんて行けない。それは分かってるけど、どうすればいいかわからない。」
おそらく協力の申し出だろう。
彼女の持つカードが強力なのは確かだ。
この申し出を受け入れれば、それを利用する事ができる。
しかし、
「だから、私に力を貸してくれない?」
「予定が合うときだけなら」
「ありがとう」
俺は異常だ。
彼女は先程そう言っていた。その発言は、彼女が正常だということを物語っている。
実際、姉の伝手を頼れば、プロの冒険者に同行することもできるだろう。
けれどもそれはしない。彼女にはそれほどの意思はないのだ。
先程言っていた目的も、彼女にとってはそれほど重要なことでもないのだろう。
彼女に足並みを揃えて、ペースを落とす訳にはいかない。
俺がするのは最低限の伝手を作るだけだ。
【Tips】
ポニーテルが特徴の陽気な少女。
過度なシスコンであり、姉のためになら人生を捧げるつもりでいる。
小さい頃の夢は姉の嫁だった。