異常者の俺でも冒険者になれば王様になれますか?   作:端午

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幕間1

「ハァ……」

 

 だるいな。早く今日という日が終わればいいのに。というか数週間くらい一気に終わってしまえばいいな。

 

「華音ちゃん、まだお姉さん帰ってきてないの?」

「……うん。今度はBランク迷宮だからいつもより長いんだってさ」

 

 私が露骨に気落ちしていると、友人たちが心配して声をかけてくれた。

 

 なんでお姉ちゃんは冒険者なんかになってしまったのかな。

 普通の仕事していたら毎日顔を見れたのにな。

 

「そうだ。気晴らしに放課後遊びに行かない?」

「そうだよ。今日くらい部活サボっちゃお」

「……ありがと」

 

 友人たちが気を利かせてくれた。お姉ちゃんが迷宮に行くたびにこれで本当に申し訳ないな。

 

 

 

 

 家に帰る頃には、日が暮れていた。

 

 友人たちのおかげで随分と気持ちが切り替えられた。もう数週間頑張って耐えよう!

 

「ただいまー」

 

 玄関には当然の事ながら家族の靴が置いてある。

 左からお母さんの靴、お父さんの靴、お姉ちゃんの靴……。

 

 お姉ちゃんの靴!!

 

 お姉ちゃんはもう帰ってきてる!

 

 予定よりもだいぶ早いけどどうしたのかな?

 まあ、なんでもいいや。

 

 私は靴を脱ぎ、リビングに向かった。そこにはくつろいでいるお父さんとお母さんがいる。

 お姉ちゃんはいない。

 

「あ、おかえり」

「おかえりー」

「ただいま!」

 

 私はそう言い捨てて、お姉ちゃんの部屋に行く。リビングでないならそちらにいるはずだ。

 

 部屋の前まで行けば、お姉ちゃんの匂いがする。間違いなくここにいる。

 

 あれ?少し汗臭いな。帰ってきたばかりでまだお風呂に入っていないのかな?

 

「お姉ちゃんおかえり!」

 

 ドアを開ければ、やはりそこにお姉ちゃんがいる。

 疲れきった様子でぐったりと椅子に座っている。

 

「……華音こそおかえり」

 

 元気がない。いつもなら迷宮帰りでも明るく返事をしてくれるのに。

 

 何かあったに違いない。それはきっと予定よりも早く帰ってきた理由と同じものだ。

 

「何があったの?」

「ちょっと失敗しちゃった」

 

 失敗。けれどもお姉ちゃんの見た目は元気がないことを除けばいつも通りだ。

 仲間に何かあったのかな。

 

「……うゥ」

「どうしたの?!」

 

 突然、お姉ちゃんは泣き出した。辛いことを思い出してしまったのだろう。

 

「私…負けちゃった。……大切な仲間を……ロストさせちゃった」

 

 やはり何かあったのは仲間のようだ。ロストということは、幸いそれは人間ではなく、カードのようだ。

 

 お姉ちゃんは使うカードには全て名付けをしていた。

 同種のカードを使えばまた出会えるはずだ。

 

 だったらなぜこんなにもショックを受けているの?

 いや、今はそれよりも……。

 

「辛かったね。仲間は戻ってくるからそんなに泣かないで」

「……私じゃだめなんだ。……私にはあの子のようには……」

 

 ……は?『あの子』って誰?

 

 『あの子』は悲しんでるお姉ちゃんの前に現れないけど、私ならずっとそばにいてあげるよ?

 

「……もう冒険者は辞める。……それはあの子に任せる」

 

 なんで『あの子』のことなんて言うの?

 

「ごめんね、華音。急に泣いちゃって。でも、おかげで気持ちの整理がついたよ」

 

 謝らないで。お姉ちゃんは悪くない。

 

 『あの子』が悪いんだ。そいつがいなければ、お姉ちゃんはこんなに悲しまなかった。

 

 私がお姉ちゃんを助けてあげなくちゃ。

 

 私が『あの子』を殺さなくちゃ。

 

 

 

 

 

 疲れていたようで、その後お姉ちゃんはすぐに眠ってしまった。

 

 私はお姉ちゃんの携帯を借りて、情報を集める。

 

 浅黄鏡介と赤塚剣一、お姉ちゃんのチームメイトであるこの2人ならなにか知ってるかもしれない。

 

『急に電話なんて何かあったのか?』

 

 まずは、赤塚剣一の方に電話をかけた。話が早そうで助かる。

 

「妹の華音です。姉の様子がおかしくて、お話を聞かせて貰えませんか?」

『やっぱ引きずってるよな...。簡潔に言うと、俺たちはBランク迷宮に挑戦したが、返り討ちにされてきた。俺たち自身は無事なんだが、何枚かのカードをロストさせちまったんだ。多分それがショックだったんだと思う』

 

 それが帰りが早かった理由か。けれどもその話に『あの子』は関与していない。

 

「姉が『あの子』と呟いていたのですが、心当たりはありませんか?」

『多分、天狐のだろうな。1番気に入ってたし、ロストさせたショックは大きいはずだ』

 

 確かにショックを受けているのは事実だ。

 

 けれども、天狐と『あの子』は関係ない。

 お姉ちゃんは名前を知っているなら名前で呼ぶはず。

 つまりお姉ちゃんは『あの子』の名前をしらない。

 

「ありがとうございます」

『ああ、役に立てたなら何よりだ』

 

 

 続いて浅黄鏡介に連絡を取る。

 

『おはようございます。どうしました?』

 

 寝ていたようだ。起こしてしまい申し訳ないが、このまま要件を言った。

 

『「あの子」ですか……。心当たりはないですね。彼女が話すことは大抵動物のことか妹であるあなたのことでしたから』

 

 やはり私とお姉ちゃんは両思いなようだ。

 だとしたら『あの子』って一体誰?誰にも話していない秘密なの?

 

 

 

 状況を整理しよう。

 

 お姉ちゃんはBランク迷宮で、お気に入りの天狐をロストさせてしまった。

 そして何らかの理由で蘇生ができない状態にある。

 

 また、冒険者を引退して、冒険者としての何かを『あの子』に任せるらしい。

 

 私のお姉ちゃんを取り戻すには、この二つをどうにかしなければならない。

 

 

 蘇生できない理由は何?

 

 お金なら稼げばいい。一般的に手に入らないものが必要なの?

 

 蘇生に必要なのは同種同性のカードだけ……いや、もう1つある。

 ロストした天狐のソウルカードだ。どこか取り戻せない場所に置いてきてしまったのか。

 

 取り戻せない場所。そんなものは限られている。

 ソウルカードが落ちてるのはBランク迷宮の中だ。

 

 そこに行くには最低でもお姉ちゃんと同じ四ツ星冒険者にならないといけない。

 

 私が冒険者になれば、冒険者をしているはずの『あの子』を見つけだすこともできるかもしれない。

 そうしたら……。

 

 お姉ちゃんは巻き込めない。手を汚すのは私だけでいい。

 

 そして私は冒険者になった。

 

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