異常者の俺でも冒険者になれば王様になれますか?   作:端午

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第2章 1年生編
第12話 トラウマ


 キーンコーンカーンコーン。

 

 チャイムの音が響いている。これから朝のHRが始まる。だるい。

 

 今日は入学式を含め2回目の登校日。やるのはきっと自己紹介やオリエンテーションだろう。

 

 いっそ、授業をしてくれた方が気が楽なのに。

 

「皆さん、ご入学おめでとうございます──」

 

 担任が挨拶と自己紹介をし始めた。そしてそのまま、資料の配布と説明がされる。

 

 それが終われば、今度は生徒の自己紹介が始まる。

 五十音順で比嘉は中盤、だんだんと緊張が高まっていく。

 

 問題は無いはず。自己紹介のプロットは黒板に書いてくれている。それ通りに話せばいいだけだ。

 

 前の席の生徒が着席し、俺の番となる。

 

 俺は立ち上がり、椅子をしまう。当然、教室中の視線が俺へと向かう。

 

「ぁ……」

 

『本当に人間なの?』

 

 それは過去の記憶。目の前にいる彼らとは関係ない。

 

『気味が悪い』

 

 わかっている。けれども、体が言うことを聞かない。

 

『まさかモンスターなのか?!』

 

 最低限で終わらせようにも、口が動かない。

 

『なんでここにモンスターがいるんだよ!』

 

 長い硬直に周りがざわめき出す。それでも、まだ動けない。

 

 すると、背中に鈍い痛みが走る。

 

「大丈夫か?」

「ありがとう……比嘉秀羽です。1年間よろしくお願いします」

 

 後ろの席の生徒が俺の背中を叩いたのだ。

 

 俺はようやく体の自由を取り戻し、自己紹介を終わらせ、席に着いた。

 

 そうすると、今度は後ろの席の彼が自己紹介を始める。

 

日野凛月(ひの りつき)です。中学ではサッカー部に所属していました。高校では部活には入らないで、お金を貯めて冒険者を目指します。一緒に冒険者になる仲間募集中です」

 

 ハキハキと自己紹介を終え、彼は席に着く。

 

 内容は違うが、俺もあれくらいのまともな自己紹介をするつもりだったのだが、トラウマを克服するのは簡単ではないようだ。

 

「さっきはありがとう」

「いやいや、気にすんなって」

 

 自己紹介も終わり、休憩時間となった。その間に先ほどのお礼を伝えておく。

 

「そうだ。さっき言った通りなんだけどさ、比嘉くんも一緒に冒険者にならない?」

 

 俺は既に冒険者だ。一緒になるというのは無理ではあるが、この界隈では伝手が重要になる。それくらい伝えてあげよう。

 

「俺は──」

「日野くん冒険者目指すってまじ?」

「ああ、本気だとも」

「もしかして日野くんってお金持ち?」

「いやいや、金はこれから貯めていくんだよ」

 

 どんどんと人が集まってくる。

 先程の失態を繰り返さないためにも、俺はトイレにでも逃げるとしよう。

 

 廊下を歩きながら、ほかのクラスを覗いてみる。

 そこら中でグループが形成されようとしている。

 

 2つ隣のクラスで青葉さんの姿を見つける。

 目が合うと彼女は何かを察したような顔をした。

 女子集団の中に紛れ込んでいる彼女は、やはり正常なのだ。

 

 

 

 

 週末、俺は学校から解放され本格的に迷宮攻略に挑む。

 

 そのためにも迷宮の攻略状況を確認する。ほかの冒険者と鉢合わせることや、それによる面倒事を避けるためだ。

 

 なるほど。今日攻略に向かう迷宮が決まった。

 両親と浅黄さんに連絡をしておき、駅まで向かう。

 

 

 

 たどり着いた迷宮で、リリと一反木綿を召喚する。

 一反木綿の背から弾幕しながら突っ切る作戦だ。

 水虎には最下層で活躍してもらう。

 

「水虎が居ないってことはぁ、止まらず進み続けるんですねぇ?」

「うん」

「それで飛び道具は私が撃ち落とすと」

「うん。任せるよ」

 

 作戦を共有し、攻略を始める。

 

 この階層で現れるのはFランクのみとはいえ、かなりの攻略速度が出せるようになった。

 

 それもそのはず、春休みの攻略漬けの日々で彼らは成長していた。

 

【種族】リリ(妖狐)

【戦闘力】190(40UP!)

【先天技能】

・狐火

・変化

【後天技能】

・野心

・渾身の一撃

・臆病

・運動音痴

・詠唱短縮(NEW!)

 

【種族】水虎

【戦闘力】225(35UP!)

【先天スキル】

・河童の大親分

・水妖

・相撲

【後天スキル】

・自由奔放

・目利き

 

 

【種族】一反木綿

【戦闘力】205(35UP!)

【先天スキル】

・紙一重

・中等攻撃魔法

【後天スキル】

・忠誠

・初等補助魔法

・騎獣

・高速移動(NEW!):熟練度に応じ、移動速度にプラス補正。

 

 

 特筆すべきは移動速度が上昇したことだ。

 これにより、Fランク迷宮などでは旨味の少ない雑魚戦を掻い潜り、主まで辿り着けるようになった。

 

 快速運転の最中、リリが尋ねてくる。

 

「一つも罠が見当たりませんけれど、ここはFランク迷宮なのですか?」

「昨日はぁ、やっと週末だと意気込んでたのにぃ?」

「うん、ここはFランク迷宮。全6階層と深くもない。けれども、攻略に入った冒険者が2日帰ってこないんだ」

「まさか、イレギュラーエンカウントですか?!なら何故、貴方がここに来るのですか?!」

「たった2日だからギルドは動かない」

 

 たった2日ではイレギュラーエンカウントとは断定できない。

 故にギルドは動かず、個人で動くしかない。

 

 最下層に入って、連絡が途絶えれば浅黄さんがギルドに報告するという手はずだ。

 

「だとしても、何故危険を冒すのですか」

「助けるためだよ」

 

 入った冒険者はまだ生き残っているかもしれない。

 まだ助けられるかもしれない。危険は承知でここに来ている。

 

 以前よりも戦力は向上した。その上今度は話の通じるカードたちだ。

 

 救助が来るまで耐えしのげるはず。

 

「同じ轍は踏まないでください」

「……うん」

 

 その通りだ。同じ失敗は繰り返さない。今度は必ず全員で生還する。

 

 こいつらとは上手くやれてるし、お金が貯まれば買取をしたいものだ。

 

 しかし、値引きしてもらったリリとは違い水虎と一反木綿は通常価格だ。

 その上、水虎はDランクの中でも上位とされ、価格も高い。

 

 そう簡単には買い取れないだろう。

 

 

 リリを水虎へと交代し、最下層へと進む。

 その風景は様変わりせず、他の階層と同じまま。

 

 最下層でありながら、出現しているモンスターも変わらない。

 変わるのはモンスターの数。

 

「水虎、眷属で生き残りを探して」

「おう」

 

 異様に多いモンスター達、それも一般的な眷属とは思えない多様性がある。

 試しに携帯を取り出すが、機能しない。イレギュラーエンカウントで確定だ。

 

 おそらく、ここに現れたのは「幸せの王子様」だろう。

 そいつは乗っ取った迷宮に出現するモンスターを自身の眷属として召喚する。

 

 眷属の数は迷宮のランクによって変わる。Fランク迷宮の場合は最大で100体だ。

 

 Dランクカード1枚の新人冒険者には撃退は難しいだろう。

 

「一反木綿は敵を迎撃、燕を最優先で」

「了解ですぅ」

 

 今この階層には本来この迷宮にはいないはずのモンスターが2種類いるはずだ。

 

 1種目は幸せの王子様の本体。これを倒せばおわりなのだが、攻撃性能が皆無な代わり、守備性能がとても高い。

 条件を満たすまで倒すのは難しい。

 

 2種目はツバメ。本体から金箔を剥がし、モンスターに付与する。

 付与されたモンスターにはバフを、剥がされた本体にはデバフを与える。

 剥がしてから付与するまでに燕を倒すことがセオリーだ。

 

「マスター、見つけたぜ!もうすぐこっちに来る!」

 

 視界へと入ってきたそれは、大量のモンスターを引き付け、爆走する黒馬。

 そしてその背には人影が見える。

 

「おーい!!!俺は逃げる!お前も逃げろ!」

 

 そう言いながら、駆け抜けて行った。

 

 不自然なほど元気そうだ。おそらく、攻略情報を見ずに入ってきたのだろう。

 なんて不運な人だ。

 

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