第12話 トラウマ
キーンコーンカーンコーン。
チャイムの音が響いている。これから朝のHRが始まる。だるい。
今日は入学式を含め2回目の登校日。やるのはきっと自己紹介やオリエンテーションだろう。
いっそ、授業をしてくれた方が気が楽なのに。
「皆さん、ご入学おめでとうございます──」
担任が挨拶と自己紹介をし始めた。そしてそのまま、資料の配布と説明がされる。
それが終われば、今度は生徒の自己紹介が始まる。
五十音順で比嘉は中盤、だんだんと緊張が高まっていく。
問題は無いはず。自己紹介のプロットは黒板に書いてくれている。それ通りに話せばいいだけだ。
前の席の生徒が着席し、俺の番となる。
俺は立ち上がり、椅子をしまう。当然、教室中の視線が俺へと向かう。
「ぁ……」
『本当に人間なの?』
それは過去の記憶。目の前にいる彼らとは関係ない。
『気味が悪い』
わかっている。けれども、体が言うことを聞かない。
『まさかモンスターなのか?!』
最低限で終わらせようにも、口が動かない。
『なんでここにモンスターがいるんだよ!』
長い硬直に周りがざわめき出す。それでも、まだ動けない。
すると、背中に鈍い痛みが走る。
「大丈夫か?」
「ありがとう……比嘉秀羽です。1年間よろしくお願いします」
後ろの席の生徒が俺の背中を叩いたのだ。
俺はようやく体の自由を取り戻し、自己紹介を終わらせ、席に着いた。
そうすると、今度は後ろの席の彼が自己紹介を始める。
「
ハキハキと自己紹介を終え、彼は席に着く。
内容は違うが、俺もあれくらいのまともな自己紹介をするつもりだったのだが、トラウマを克服するのは簡単ではないようだ。
「さっきはありがとう」
「いやいや、気にすんなって」
自己紹介も終わり、休憩時間となった。その間に先ほどのお礼を伝えておく。
「そうだ。さっき言った通りなんだけどさ、比嘉くんも一緒に冒険者にならない?」
俺は既に冒険者だ。一緒になるというのは無理ではあるが、この界隈では伝手が重要になる。それくらい伝えてあげよう。
「俺は──」
「日野くん冒険者目指すってまじ?」
「ああ、本気だとも」
「もしかして日野くんってお金持ち?」
「いやいや、金はこれから貯めていくんだよ」
どんどんと人が集まってくる。
先程の失態を繰り返さないためにも、俺はトイレにでも逃げるとしよう。
廊下を歩きながら、ほかのクラスを覗いてみる。
そこら中でグループが形成されようとしている。
2つ隣のクラスで青葉さんの姿を見つける。
目が合うと彼女は何かを察したような顔をした。
女子集団の中に紛れ込んでいる彼女は、やはり正常なのだ。
週末、俺は学校から解放され本格的に迷宮攻略に挑む。
そのためにも迷宮の攻略状況を確認する。ほかの冒険者と鉢合わせることや、それによる面倒事を避けるためだ。
なるほど。今日攻略に向かう迷宮が決まった。
両親と浅黄さんに連絡をしておき、駅まで向かう。
たどり着いた迷宮で、リリと一反木綿を召喚する。
一反木綿の背から弾幕しながら突っ切る作戦だ。
水虎には最下層で活躍してもらう。
「水虎が居ないってことはぁ、止まらず進み続けるんですねぇ?」
「うん」
「それで飛び道具は私が撃ち落とすと」
「うん。任せるよ」
作戦を共有し、攻略を始める。
この階層で現れるのはFランクのみとはいえ、かなりの攻略速度が出せるようになった。
それもそのはず、春休みの攻略漬けの日々で彼らは成長していた。
【種族】リリ(妖狐)
【戦闘力】190(40UP!)
【先天技能】
・狐火
・変化
【後天技能】
・野心
・渾身の一撃
・臆病
・運動音痴
・詠唱短縮(NEW!)
【種族】水虎
【戦闘力】225(35UP!)
【先天スキル】
・河童の大親分
・水妖
・相撲
【後天スキル】
・自由奔放
・目利き
【種族】一反木綿
【戦闘力】205(35UP!)
【先天スキル】
・紙一重
・中等攻撃魔法
【後天スキル】
・忠誠
・初等補助魔法
・騎獣
・高速移動(NEW!):熟練度に応じ、移動速度にプラス補正。
特筆すべきは移動速度が上昇したことだ。
これにより、Fランク迷宮などでは旨味の少ない雑魚戦を掻い潜り、主まで辿り着けるようになった。
快速運転の最中、リリが尋ねてくる。
「一つも罠が見当たりませんけれど、ここはFランク迷宮なのですか?」
「昨日はぁ、やっと週末だと意気込んでたのにぃ?」
「うん、ここはFランク迷宮。全6階層と深くもない。けれども、攻略に入った冒険者が2日帰ってこないんだ」
「まさか、イレギュラーエンカウントですか?!なら何故、貴方がここに来るのですか?!」
「たった2日だからギルドは動かない」
たった2日ではイレギュラーエンカウントとは断定できない。
故にギルドは動かず、個人で動くしかない。
最下層に入って、連絡が途絶えれば浅黄さんがギルドに報告するという手はずだ。
「だとしても、何故危険を冒すのですか」
「助けるためだよ」
入った冒険者はまだ生き残っているかもしれない。
まだ助けられるかもしれない。危険は承知でここに来ている。
以前よりも戦力は向上した。その上今度は話の通じるカードたちだ。
救助が来るまで耐えしのげるはず。
「同じ轍は踏まないでください」
「……うん」
その通りだ。同じ失敗は繰り返さない。今度は必ず全員で生還する。
こいつらとは上手くやれてるし、お金が貯まれば買取をしたいものだ。
しかし、値引きしてもらったリリとは違い水虎と一反木綿は通常価格だ。
その上、水虎はDランクの中でも上位とされ、価格も高い。
そう簡単には買い取れないだろう。
リリを水虎へと交代し、最下層へと進む。
その風景は様変わりせず、他の階層と同じまま。
最下層でありながら、出現しているモンスターも変わらない。
変わるのはモンスターの数。
「水虎、眷属で生き残りを探して」
「おう」
異様に多いモンスター達、それも一般的な眷属とは思えない多様性がある。
試しに携帯を取り出すが、機能しない。イレギュラーエンカウントで確定だ。
おそらく、ここに現れたのは「幸せの王子様」だろう。
そいつは乗っ取った迷宮に出現するモンスターを自身の眷属として召喚する。
眷属の数は迷宮のランクによって変わる。Fランク迷宮の場合は最大で100体だ。
Dランクカード1枚の新人冒険者には撃退は難しいだろう。
「一反木綿は敵を迎撃、燕を最優先で」
「了解ですぅ」
今この階層には本来この迷宮にはいないはずのモンスターが2種類いるはずだ。
1種目は幸せの王子様の本体。これを倒せばおわりなのだが、攻撃性能が皆無な代わり、守備性能がとても高い。
条件を満たすまで倒すのは難しい。
2種目はツバメ。本体から金箔を剥がし、モンスターに付与する。
付与されたモンスターにはバフを、剥がされた本体にはデバフを与える。
剥がしてから付与するまでに燕を倒すことがセオリーだ。
「マスター、見つけたぜ!もうすぐこっちに来る!」
視界へと入ってきたそれは、大量のモンスターを引き付け、爆走する黒馬。
そしてその背には人影が見える。
「おーい!!!俺は逃げる!お前も逃げろ!」
そう言いながら、駆け抜けて行った。
不自然なほど元気そうだ。おそらく、攻略情報を見ずに入ってきたのだろう。
なんて不運な人だ。