浅黄さんが救助を要請してくれているだろうが、すぐには来ない。
救助が来るまで彼は耐えられるかはわからない。できる限りの事はしておこう。
水虎の眷属は最大48体、本体と一反木綿を合わせたこちらの戦力は50体。2体ずつ倒せば殲滅できる。
ただ、現実は過酷なものだった。
「くそっ!体が痺れてやがる」
「うぅ……なんだか眠くなってきましたぁ」
足の速いモンスターは先ほどの彼が引き付けている。
故にここにいるのは、足が遅く、その分搦手が得意なモンスター達だった。それも金箔によるバフがかかっている。
状態異常にかかったカードは敵の的にしかならない。2体を引っ込め、リリを召喚する。
「剣ですね」
「いや、篭手」
「……はい、かしこまりました」
リリはやたらと華美な籠手へと姿を変えた。
そして俺は1枚のカードを取り出し、更にそれから1本の刀を取り出す。
籠手となったリリ越しに刀を握る。
解呪と回復の魔道具よりも優先したそれのカード化。吉と出るか凶と出るか。
「シュウ!新たな力を感じます!」
吉だ。その刀は顕明連、「使用者」に神通力を与える。
俺自身にはその効果は作用しなかった。
しかし、リリを挟んで刀を握ることで、「使用者」を彼女に押し付けたのだ。
「他心通と天耳通で索敵して」
「はい!」
目の前にいる敵は十数体。1人では捌ききれないだろう。
けれども、今は違う。リリが狐火と神通力でサポートする。
狐火で火力を補い、漏尽通で霊体への攻撃も可能となる。
さらに、人形で常に健康体を維持することで、状態異常による結果を上書きする。
今、俺は人間の領分を超えた力を手にした。
これはリリの協力あってのものであり、俺の求める力とは別のものだ。
けれども、その片鱗を見た。冒険者を続ければ、その力は手に入る。
ここらのモンスターは片付けたので、先ほどの彼に応援を派遣する。天耳通でその場所を特定した。
小さな呼吸の音が2つ、大きな足音群からは少し距離があるらしい。
おそらく、先程の彼が火事場の馬鹿力を発揮したのだろう。
そちらに水虎を向かわせる。
「頼んだよ」
「そっちも気を抜くなよ」
「私がついてますから、危険があればすぐに逃げ出させます」
「そりゃ、安心だ」
こいつらの俺に対する信用が低い気がする。
おかしなことをしてきたつもりは無いが、今ここで払拭するとしよう。
モンスターを斬り伏せながら進み、ついに敵を捉えた。
所々金箔が剥がれ、ただれた肌がむき出しになっている銅像、幸せの王子。
「僕の邪魔をするなぁ!!」
王子の怒号に反応し、周囲にモンスターが召喚される。
現れた燕が王子から金箔を剥いでいく。王子はその痛みに苦しみ喘ぐ。
「うぐっ!あぁ!」
なんとも痛ましい光景だ。ただ俺にしてやれることはない。
リリが狐火で金箔を咥えた燕を打ち落とす。
彼の苦しみは無駄になってしまう。わかっていても手は止めない。
「いっ!うぅ!」
それと並行し、出現したモンスターを倒していく。
バフさえなければただのFランクモンスター。気を抜かなければ対処できる。
「ぐぅぅ!あああ!」
「マスター、加勢に来たぜ!」
勢いよく戦いに割り込んでくる水虎の後ろには、彼の眷属である河童に囲まれた冒険者と黒馬がいる。
無事に保護できたようだ。
「うぅ!いぁ!」
水虎はさらに河童を召喚する。その数は40体、ここから一気に攻勢へ転じる。
俺とリリは燕を打ち落とすことに専念しても、数も質もこちらが勝っている。
「あぁぁぁぁ!!!」
最後の1枚が剥がされた。やはりそれを加えた燕もまた、空中で切り落とされる。
背後では水虎が最後のモンスターを倒し終える。
「何故だ!何故幸せになってくれない!何故僕の犠牲を理解してくれない!」
王子の体にヒビが入っていく。もう時期ヒビが心臓にまで達し、彼は倒れ、第2フェーズへと移行する。
ほっておけばいい。けれども言わずにはいられなかった。
「この世に生きる大衆は愚者だよ。自己犠牲なんかしても救えない。彼らを救うには守り続けるしかないんだ」
俺の持論は、彼の行動とは正反対のものだった。
愚者に救いようはない。救いたいならば、徹底的に管理して、愚かな行動を封じなければならない。
「そうか。最初から俺がやるしかなかったんだな」
王子の雰囲気が、その場の空気が変わる。
ヒビの進行は止まり、彼の前に1体の燕が現れた。
余計なことをした。ほっとけばよかった。
「ピィ!……?」
空から降ってきた赤い一筋が燕を貫いた。
ルビーで装飾された剣、童話では最初に手放したはずの宝石。
王子は動き出し、剣を手に取る。そして両目を開き、そのサファイアの目で、俺たちを見下ろした。
ギルドの情報とは違う別パターンの第二フェーズへの突入。これもリドルスキルの一種なのか?
「水虎、彼を守って」
「おう!」
睨み合いが続く中、水虎は眷属に後ろの冒険者の防御を固めさせる。
敵は1体のみ、こちらの数が多くても足を引っ張りあうだけだ。
王子と相対するのは俺と水虎だけとなった。
「はぁぁ!!」
「右へ避けてください!」
王子の一撃は大地を抉り、後ろの河童達にまで届いた。斬撃を飛ばしたのだ。
俺には物理学に反したその動きは想定できなかった。
リリが他心通で察知しなければ当たっていただろう。
けれども、安心した。
王子のそれは、以前戦った騎士とは比べ物にならないほどお粗末だ。
力任せに振るっただけ。何が来るかわかれば、次は躱せる。
「そいつ連れて下がってろ!」
水虎の指示で、河童達は冒険者を連れて下がっていく。
辺りにはモンスターが出現する様子はない。
燕を貫かれたのは、彼の意思の表れだろう。
先程の発言から、彼は自力で戦うはずだ。
ならば、先ほどまでのモンスターが溢れる状況と違い、ここから離れれば安全だろう。
「はぁぁ!!」
王子の2振り目、大振りなそれは当たれば致命傷となるだろう。
しかし、乱雑なそれは俺達には当たらない。
俺は王子へと接近し、サファイアの目に剣を突き立てる。
リリが剣先で爆発を起こすも、サファイアには傷一つつかない。
第一フェーズでは、金箔を剥がすことで弱体化した。
ならば、第二フェーズでは両眼のサファイアと剣のルビーを剥がすことになる。
そう予想したが、直接的な破壊はできないらしい。
第一フェーズ同様に何らかのギミックがあるのか?
「リリ、周りに何かある?」
「いえ、何も」
天耳通で見つからないとすれば、音を立てない静止したものか?それとも王子自体に何か隠れているのか?
「ふぅ…」
「おい、大丈夫か!」
「まだいける」
俺の体力は残り少ない。早く決着をつけなければ、俺たちの勝ち目がなくなる。
周囲を見渡しても、やはり何もない。王子に目を向けても、目を開き、剣を持ったことしか第二フェーズ突入前と変わりない。
変わりない。ならば彼が倒れる条件も同じなのか?
彼の体のヒビは治ることなく、そのまま残っている。
ヒビが心臓に至れば倒れる。
このパターンでは、自然とそうなるのではなく、自分たちでやらなければいけないということだろうか。
しかし、そうだとすれば意味ありげに残された両目と剣の宝石はなんなのか。
わからないが、とりあえずは思い付くことを試すほかない。
再び王子へと接近し、ヒビに刀を差し込み、その先から炎を撃ち出す。
ヒビが広がった。方法は確定とみていいだろう。
「ヒビを狙って」
「おう!」
王子は俺に向けて剣を振るう。その隙に水虎が背後からヒビを狙う。
ランクの差、数の差、技量の差。多重の差が王子を追い詰めていく。
「俺の邪魔をするなぁ!!」
怒りにより、剣に込められる力が上昇する。
けれども冷静さを欠き、剣筋はさらにぶれる。
それを見逃すはずもなく、俺は刀を王子の胸のヒビに差し込み、手を離す。
「オラァ!」
「かはぁっ!」
水虎の張り手がそれを押し込んだ。王子はよろめき、後方へ下がっていく。
その隙に水虎と一反木綿を入れ替える。
炎に包まれ、遅れて風の刃が降り注ぐ。
王子はついに膝を着いた。
容赦はしない。リリと一反木綿による追撃は止まず、王子を襲い続ける。
「何故俺の邪魔をするぅぅ!」
「君と同じだよ」
口は災いの元だと先ほど知った。けれども彼の言葉を無視はできなかった。
消えた王子の跡には魔石と指輪が落ちていた。
【Tips】幸せの王子
第1フェーズでは、フロア中央に鎮座する本体とその周辺に召喚される眷属と戦う。眷属であるツバメが本体から金箔を剥がし、ほかの眷属に付与することでバフを与える。
眷属はその迷宮に出現する中からランダム選ばる。Fランク迷宮では最大100体出現し、ランクが1つ上がる毎に50体ずつ増えていく。
眷属の最大数を倒した時点で、本体にヒビが入っていき、第2フェーズに移行する。
第2フェーズでは崩れた本体を捕食した燕と戦うことになる。こちらには特殊なギミックはない純戦闘型であるが、第1フェーズで疲弊した状態で望むため、苦戦を強いられることが多い。
出現する眷属はランダムなため、高ランク迷宮では高ランクのモンスターが眷属として現れるし、運が悪ければ主として出現するはずのモンスターも現れる。