戦闘が終わったのを確認し、浅黄さんに連絡を入れる。
なんとか救助の出発前に連絡をすることができたようだ。
救助の費用は馬鹿にならない。Fランク迷宮だと100万円であり、駆け出し冒険者に引退を勧めるには十分過ぎる額だろう。
唐突に河童が消えて、彼は今怯えているかもしれない。早く合流するとしよう。
「リリ、あの冒険者を探して」
「それならもう来ますよ」
「おーい!」
なんで?そう口にする前に声が聞こえてきた。
何らかのスキルか魔道具でこちらの状況を知っているのだろうか。
「良かった。あいつは倒したんだな」
「うん」
「ありがとう。おかげで命拾いした」
「気にしないで」
「いやー、河童が消えたときはお前がやばいんじゃないかって焦ったぜ」
なるほど。それでこちらに来たのか。
確かに俺たちは互いに実力を知らない。そう判断するのも無理はないか。
そんなことを考えていると、彼は申し訳なさそうに話し出した。
「……ギルドの依頼で来てくれたんだよな?その…代金のことなんだけどさ」
「ちがうよ」
「え?」
「ギルドを通さないで、個人で来たんだよ。代金はこの魔石でも貰えればいいよ」
「そうなのか。本当にありがとう!」
この魔石100万円するから、救助代金と見れば妥当なんだけどさ。
そんなことよりも確認したいのは指輪の所有者だ。
幸せの王子の落とすアイテム、サファイアの指輪。
その効果は使用者の負傷に応じ、味方の使用する魔道具の効果にプラス補正がかかる。
丸1日逃げ切った彼か、トドメを指した俺か、所有権は使って見ればわかるか。
先程の戦いで若干負傷した水虎に指輪を渡す。
「着けて」
「おう?」
「リリ、変化はある?」
「若干神通力が強くなったような?」
若干か、怪我もそうだしな。
とりあえず所有権は俺にあるということでいいだろう。
さて、ここでの用事も済んだし、帰るとするか。
「あ、ちょっといいか?」
「なに?」
「いつかお礼がしたいんだけど。連絡先とか交換しないか?」
「うん、いいよ」
連絡先を交換し、そのまま一緒にギルドまで行くことになった。
「俺は東雲颯太、高校1年生の一ツ星冒険者だ」
「僕は比嘉秀羽、高校1年の二ツ星」
「まじか、同い年で二ツ星かよ。やっぱすげぇヤツなんだな」
「そうでもないよ」
すごいのは俺ではなくカードの力だ。
俺はカードの力を借りているだけ。人間の限界はたかが知れてる。
それを超える日はいつ来るのやら。
東雲君と別れたあと、迷宮攻略に向かおうと思っていたら、浅黄さんから呼び出された。
とりあえず、近所のギルドまで来て欲しいらしい。
さて、覚悟を決めてギルドに入る。警戒を怠ってはいけない。
なぜなら、彼は信用できないからだ。
彼は元四ツ星冒険者であり、今もある程度の戦力を保有し続けているだろう。
騎士との遭遇時は、それを使って救助に来てくれた。
しかし、今回は違った。彼は動かった
。
俺の実力を信用している可能性もあるが、たった一ヶ月の付き合いで、そうはならないだろう。
俺と東雲君か、迷宮の場所か、はたまた仕事の都合だろうか。
後ろの2つは違うか。
イレギュラーエンカウントとの戦いは死や後遺症を伴う可能性がある。
それに向かう異常者はこの2つなど顧みないだろう。
彼が東雲君と接触していないことを考えれば……。
彼は俺に対し何らかの因縁を持っている。
そう考えれば、日頃の過保護な行動にも説明がつく。
彼の真意を見極めなければ、今後の活動に支障が出るかもしれない。
「お待たせしました」
「それほど待ってませんよ。まずはご無事なようで何よりです」
「レンタルしたカードのおかげです」
「いえいえ、それを使いこなすのも、比嘉さんの実力によるものです」
「では、褒め言葉として受け取っておきます」
「……比嘉さんは何故イレギュラーエンカウントに挑んだのですか」
社交辞令を済ませ、本題へと移行した。どうにかして彼の真意を聞き出したい。彼は続けて言う
「前回は偶然でも、今回は意図的に挑んだ。イレギュラーエンカウントの脅威は知っているはずなのに、なぜ貴方がそんなことをするのですか」
「人助けです」
偶然気づいてしまったから、助けに行った。
そういう意味では、今回も前回と同じく偶然と言えるだろう。
「貴方は他人のために自身の身を顧みないとそういうのですか」
「いいえ、他人は守る、自身も守る。俺は手の届く全てを守ります」
「それは何故ですか」
「僕は欲張りなので」
彼の顔からは笑みがこぼれる。
グッドコミュニケーションを取れたようだ。
そして、彼の真意も見えてきた。なぜなら俺はそれを知っているからだ。
「では、ここら辺で失礼します」
「大した用もなくお呼び立てしてすみません」
「いえいえ、気にしないでください」
知っているからこそ、俺は彼の期待には答えられない。
けれども、今それが露見すれば、支援を断ち切られかねない。
偽らなければ、隠し通さなければ、英雄であらねばならない。
【Tips】サファイアの指輪
幸せの王子のドロップ品。サファイアとルビーと金箔で飾られた指輪。成金みたいで好まない人も多い見た目をしている。
使用者の負傷に応じて味方の使用する魔道具の効果を増幅させる。負傷の具合にもよるが、低位の魔道具で高位のそれよりも大きい効果を出すこともある。
また、真の効果は、魔道具の効果の増幅でなく、魔道具の本質を引き出すこととも言われている。
ちなみにアンデッドに装備させると、もとから死んでいるため、一切の負傷判定が得られない。