「では、小テストを返却します」
この一言でクラスの一部の緊張が高まる。
きっとテスト勉強してなかったんだろうな。
こうなる未来など見えていただろうに何をしているのか。
彼らとは逆の者もいる。
「秀羽は、自信あるのか?」
「まあ、一応」
「強気だなぁ」
凛月は自信ありげな様子だ。
冒険者登録に向けバイトしまくっているらしいが、勉学も怠らないとはまるで学生の鑑だな。
「返す前に言っておくと、学年の平均は38点、このクラスの平均は34点だ。お前ら危機感もてよ」
平均点低いな。100点満点とは思えない。これは問題が悪いだろ。
作成者のお前こそ危機感をもてよ。クラスの意見も俺と同じようで、騒がしくなってくる。
「静かに!平均は低いが、このクラスには満点取ってる人もいる。お前らももっと頑張れ」
なんて暴論だ。けれども話を長引かせても何にもならないので、ざわつきつつも返却に移った。
「秀羽は何点だった?」
「満点」
「まじかよ。俺数学苦手なんだよね。勉強教えてくんない?」
「いいよ」
凛月はいずれ冒険者になる。今のうちからコネでも作っておくべきだ。
さて、彼はどの程度か……え?8点?さっきの自信ありげな雰囲気はなんだったんだよ。
……これは本格的にやらないといけない。
「いつ、空いてる?」
「木曜の放課後とかどう?」
「うん、それで」
まずは、中学レベルから問題集を作り、どの程度までできるか把握しよう。
それから解けない箇所や苦手な箇所を重点的にやっていくことにしよう。
国語、数学、英語、理科、社会。
それは彼が自信がないと言う教科であり、それは所謂主要五科目である。
ほかの教科は大丈夫なのか?怪しいものだ。
それにしても暗記教科はどう教えればいいんだ?頻出問題をまとめて、単語帳でもつくらせればいいのか?
頻出問題と言っても、定期テストの過去問なんて持ってないし、帰りに本屋で一般の問題集を漁ってみるか。
ついでに全教科教えることにしよう。今日の迷宮攻略はなしにして、資料を作ろう。
「この貸しは高くつくよ」
「お、おう」
学校帰りに近所のリサイクルショップに寄る。
ここなら全ての本の封が切られている。
リサイクルショップには悪いが少しばかり立ち読みさせてもらう。
問題集に目を通していると背後から声をかけられた。
「あれ?比嘉くんだ。迷宮に潜りすぎて、テストの点数悪かった感じ?」
「友達に教えるんだよ」
「へー、じゃあ私にも教えてくんない?」
声の主は青葉さんだった。
ここに現れた時点で察せられたが、彼女も成績が良くなかったようだ。
後で資料をコピーして、渡してやるとしよう。
「問題集作るから、後で渡すね」
「ありがとー、てか比嘉くんも家こっちの方なんだね。あ、でも中学違うよね?」
「家が学区の境目だから」
正確には学区の境目ギリギリの彼女とは違う方。
距離で言えばそっちの中学の方が近いし、幼い頃は避難所なんかもそっちだった。
今や、学校なんか頼りにならず、緊急時はギルドに行くので関係ないけれども。
「それと、今度一緒に迷宮行かない?戦術?とか教えて欲しいんだけど」
「わかった。いつ空いてる?」
「今週末はどう?」
「それでいこう」
横のつながりは重要になるはずだ。乗り気ではなくとも、大事にしなければならない。
教導するなら、Fランク迷宮がいいな。
こちらの方で教えることも資料にまとめた方がわかりやすいか。
勉強の方と一緒に今日中に仕上げることにしよう。
時間は限られている。俺は問題集をめくる手を早める。
結構な数があるな。この量を読み切るには1時間はかかりそうだ。
「問題集を解かずにめくって何がしたいの?……あー、暗記するとか言いそう」
「……言うよ」
「流石異常者」
それはもうただの悪口だろ。事実なので否定しづらいし。
「それじゃ、週末にね!」
「詳細は後で連絡する」
「はーい!」
適当な問題集を買って去っていった。さて、集中して読むとし──。
「やっぱ秀羽だ!その制服は同じ学校!」
「ホントだ」
今度は颯太がやってきた。まさか同じ学校とは思わなかった。偶然なこともあるものだな。
「お前も迷宮潜りすぎたんだな」
「違うよ」
俺はどんだけ異常者だと思われているんだ。
というか、その言い方的に彼も点数が良くないのか。
「頻出問題まとめるから、後で渡すね」
「まじ?ありがてぇ」
問題集へと視線を戻す。数学は読み終えたが、ほかの教科はこれからだ。気が遠くなる。
「そうだ!頼みたいことがあるんだけどさ」
「なにかな?」
「お前の身のこなしやばいからさ、ちょっと俺にもそういうの教えてくんない?」
俺の身のこなしは人形によるものが大きい。
だが、言えるわけもないし、適当な武道でも教えるとしよう。
「中学時代に陸上やってて、体力には自信があったんだけど、それだけじゃどうにもなんなくてさぁ」
「それなら装備化持ちのモンスター買ったら?」
「おう、金貯めて買う予定」
自分で戦うなら、装備化で自身を強化するのがセオリーだ。
それだけでかなりの差ができる。俺はリリのアイデンティティのためにやらないけども。
「資料にまとめて今度渡すね」
「ありがとう!」
彼はそう言って去っていった。何も買わなかったな。
まさか俺の資料に任せる気なのか?ならば念入りに作らなくては。
……1人ずつなら問題なく話せる。3人も教える相手がいるなら、勉強会でも開いてまとめて教えるのが早いだろう。
大人数は苦手だが、3人くらいなら……なんとかなるか?
ダメかもしれないけれど、少しづつ慣れて言えばいいだろう。
家に帰り、自室の勉強机で資料をまとめる。
机の引き出しに入れた殺生石のせいで時より気分が悪くなるがそれを眠気覚ましにして、作業を続ける。
殺生石のカード化を優先すべきか?王子の魔石代は貯蓄に回してあるが、その使い道は悩ましい。
さらに貯めて、怪我を治すか、Dランクカードを買い足すか、一反木綿と水虎の買取もしたい。
とりあえずはまだ、貯蓄しておこう。
まとめていた武道の資料については、水虎にも共有しよう。
彼はうちのエースだからな。武器を持ってくれないのは残念だが、素手でできる武術も多くある。
いや、颯太は武器を持つだろうから、別個で作った方が良いかな。
資料ができ上がる頃には朝日が射してきていた。
【Tips】│東雲颯太《しののめ そうた》
体育会系の元気な男子。作中では数少ない常識人になる予定。
小さい頃の夢は戦隊ヒーロー。