異常者の俺でも冒険者になれば王様になれますか?   作:端午

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第17話 徒労

 階段を下る。

 

 すると眼前には森が広がっている。何の変哲もない森だ。これでは敵を特定できないな。

 

「リリ、なにかある?」

「真っ直ぐ進んだ先に何かがいます」

 

 天耳通により敵の居場所を特定する。

 

 水虎の眷属が先陣を切るが、何も起きない。

 

「敵が遠ざかっていきます」

「追いつきゃいいってことか?」

「様子を見よう」

 

 そのまま進んでいく。

 

 気がつけばそこは森ではなくなっていた。よく知っている。家の近所の通りだ。

 

「すみません。敵を見失いました」

「大丈夫、気にしないで」

 

 敵を見失った。

 

 つまり、ここには俺たち以外はいない。

 これは本物ではなく、迷宮の中に作り出された幻影か。

 

 これが第1フェーズだとすれば、何らかのトリガーで、次のフェーズへと進む。

 

 トリガーはなんだ?俺の知る場所を模しているからには、敵であるイレギュラーエンカウントの縁だけでなく、俺の縁も関与する場所にトリガーがあるはずだ。

 

 日の傾きからして昼頃、帰宅や登校の線はないな。

 だとすれば、行き先は三箇所に絞られる。

 

 内容の薄い自分の人生が利点となる珍しいケースだ。

 

「どこへ向かっているのですか?そちらには自宅も学校もないですよね?」

「まずは近所の公園」

 

 俺に縁のある場所。

 

 現在では家と学校ぐらいであり、それが否定されたとなれば、残るは過去と未来。

 

 過去では、アンゴルモアの時に目的を定めた公園、トラウマができた中学校。

 

 未来では、これから驚異になる可能性が高いBランク迷宮。

 その三箇所を近い順に巡っていく。

 

 ん?待てよ。何故リリは自宅と学校の位置を知っているんだ?

 この街が幻覚だとしたら、まさかリリたちも幻覚なのか?

 

「君は何者?」

「所謂呪いのカードです。呪いと言っても、マスターを通して外のことを見ることができるくらいですけれど」

 

 呪いのカード。持っているだけでマスターに害があると言われるもの。

 

 しかし、いつ敵が干渉してくるかわからない以上、今はその件については対処はできない。

 

「信じていいんだね」

「はい。信じてください」

 

 

 

 そのまま進み、たどり着いた公園には1人の女性がいた。理解した。

 

 これは俺の理想の世界だ。

 

 全てを守ることはできないから、数を減らしてたった一人を全てに変えた世界。

 この世界なら俺はすべてを守ることができる。

 

 ただ、そんな合理性だけでできたものを望むわけなどない。

 

 魅力的な花畑を見せて寄り道させる。

 

 敵の正体は「赤ずきん」だ。

 だとすれば、第1フェーズでは寄り道をやめる、理想の世界を否定することがトリガーとなる。

 

 迷いなく女性の首を切り落とす。

 

 すると周囲は再び森へと姿を戻した。

 

 しかし、先程までと違い、目の前には一軒の家がある。

 

 

 「赤ずきん」の第2フェーズでは2つの選択肢がある。

 

 家の中で眠る狼の腹を裂けば、被害者を腹の中から出すことができ、その後目覚めた狼と戦闘になる。

 

 眠る狼を殺せば、狼よりも弱い猟師との戦闘になる。

 

 

 俺は家の中に入る。家の中央では腹を大きく膨らませた5m程の背丈の人型の狼が寝ている。

 

 狼の腹を裂く。

 

 腹の中から出てきた手を掴む。それは簡単に引き出された。手首より先はない。

 

 腹の中を覗きみれば、肉片となり混ざりあった数人がいた。

 

 彼らは第1フェーズを突破出来なかった者たち。花畑に囚われたまま、食い殺されたのだ。

 

 肉片を掻き出し、第2フェーズでの被害者を探す。そちらの場合は童話通り丸呑みされているはずだ。

 

 時間をかけて肉片を掻き出していく。

 

 けれども、全ての肉片を掻き出せば、もうそこには何も残っていなかった。

 

「戦闘準備をして」

「はい!」

「おう!」

 

 そろそろ狼が目覚める。

 

 イレギュラーエンカウントは足を踏み入れれば、敵を倒すまで帰還はできない。

 生存者がいなかった以上、無駄な戦いとなってしまった。

 やはり、俺は運がないようだ。

 

 俺たちは狼から距離を取り、臨戦態勢に入った。

 

 目覚めた狼は立ち上がり、遠吠えを上げる。

 すると狼の腹の傷はみるみるうちに塞がっていく。

 

 そんな隙を見逃す訳もなく、俺は狼の足の健を切断する。

 その場に倒れる狼を河童達が覆うように襲いかかる。

 

 ジタバタと足掻く狼により1体、1体と河童が倒されていく。

 

 けれども、狼も無傷で対抗出来るわけはない。

 

 

 

 30体の河童が倒されたあたりで狼は光となって散っていった。

 

 生存者はいなかった。今回も無駄足となってしまった。

 

 ゴールデンウィークで普段よりも時間のあるため、俺は遠出してイレギュラーエンカウントの疑いがある迷宮を巡っていた。

 

 7箇所を巡り、実際に遭遇したのは今の狼を含めて2箇所。

 その2箇所に限らず、7箇所全てで生存者は発見できなかった。

 

 このゴールデンウィークは無駄になったのだ。

 

 正確には、成果としてイレギュラーエンカウントの魔石が2つ手に入り、これで騎士にやられた怪我が治せるようになった。

 しかし、怪我はこのまま放っておいても問題ない。

 それよりも戦力の補強に使いたい。

 

 今日はゴールデンウィーク最終日。明日は学校が控えているので、移動時間を考慮し、明るいうちから帰路に着く。

 

 もうずっと休みでいいのに。

 

 そう思いながら迷宮から出ると、目の前に人がいた。

 

 お互いに驚き距離をとる。

 

 相手は見た事のある人物、四ツ星冒険者赤塚剣一。

 

 彼がここに来る理由など限られている。

 

「……?確かお前は鏡介が贔屓にしてる子だよな?ここで何をしていた?」

「救助です」

「なるほどな。俺はギルドから依頼を受けてイレギュラーエンカウントの討伐に来た」

 

 やはりそうか。依頼の報酬が貰えないだろうが、迷宮攻略は早い者勝ちなので俺の気にするところではない。

 

「そうですか。僕は失礼しますね」

「待て。お前は救助と言ったよな?つまりはここにイレギュラーエンカウントがいると知った上で来たわけだ」

「……」

「誰の手引きだ?と言っても大方鏡介だろうな……」

「自分の意思です」

「……はっきり言うぞ?お前は馬鹿だ。冒険者になって数ヶ月のやつが何してんだよ。迷宮に危険は付き物だが、イレギュラーエンカウントはレベルが違う。アイツらの相手は俺たちプロに任せておけ」

「……」

「わかったな?」

「はい。では、失礼します」

「絶対わかってないだろお前ェ!」

 

 会話を無理やり終わらせ、その場を後にする。

 そろそろ行かないと、新幹線の時間に間に合わない。

 

 後ろから引き留めようとする手を回避して走り出す。

 

「待て!おい!」

 

 走ったこともあり、新幹線の時間には余裕を持って間に合った。

 




【Tips】赤ずきん
 赤ずきんの第1フェーズでは、マスターの思い描く理想の世界の幻想を見ることになる。 その幻想を否定することで第2フェーズに移行する。
 一定時間が経過するまでにその幻想を否定できなかった場合、狼により食い殺されてしまう。

 第2フェーズは一定時間寝ている狼への対応で分岐する。
 この時間内では狼の腹の中から、第2フェーズで狼に敗れた過去の被害者を助けることができる。また、狼を殺した場合腹の中の被害者たちも死ぬ。

 狼を生かした場合
 目覚めた狼と戦闘になる。助け出した被害者を守りながら戦うことになり、全力を出せないマスターが多い。

 狼を殺した場合
 どこからともなくやってきた狩人と戦うことになる。被害者を見殺しにしたことをネチネチと責め立ててくる。また、戦闘中は被害者の幻覚が見える。心が折れて戦闘を放棄してしまうマスターもいる。
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