「実はさ、冒険者部作ることにしたんだよね」
「青春だね」
「設立するのは来年度からで、まだなんの申請も出てないだけどさ」
現代文のグループワーク中に凛月はそんなことを言ってきた。
さて、目的はなんだ?結局俺が冒険者ということは伝えられていないし、俺に何を求めているんだ?
「何かしらの実績があれば、申請も通りやすいと思うんだよ。秀羽は4組の青葉さんと仲良いでしょ?秀羽の方から冒険者部に入るよう勧めてくれない?」
「伝えとく」
「ありがとう!」
確かに素人が何人いても不安しかないが、二ツ星の青葉さんがいるとなれば、教師陣もそれなりに安心できるだろう。
というか、部活って言ったら人数が必要になるだろうけど、そんなに冒険者志望がいるのか?
「人いるの?」
「おう、俺以外に5人も一緒に冒険者を目指す同士が集まったんだよ」
確かに6人もいれば、部の設立に人数的な問題は無いだろう。
戦力についてもそれほど人数がいれば、1年のバイトで買える安いカードでも立ち回れるだろう。
そちらの面でも不安は少ない。
「1組の東雲って人も冒険者らしいし、その人も誘えば9人になるな」
颯太にも声をかけるつもりなのか。そっちも後で伝えといてあげよう。
ただ気になることがあるとすれば、
「一人増えてない?」
「秀羽も入るだろ?」
「入らないよ?」
「え?」
「え?」
部活とか人が集まるものは苦手なのでできれば入りたくない。
大人数は過去を思い出すし、遅い人に足並み揃えるのも嫌だ。
「そんなこと言わずにさぁ」
嫌なものは嫌なので、俺は頑なにその誘いを拒み続けた。
学校から帰り、家で荷物をまとめてから、Fランク迷宮へと向かう。
近所のものは周回しすぎて、ノイローゼになりそうなので、最近はいくつかの迷宮をローテーションしている。
さて、俺はいつも通り水虎と一反木綿を召喚し、一反木綿の背に乗り込む。
水虎に眷属を召喚させ、人海戦術で攻略する。
道中現れるFランクモンスター達は河童に蹂躙されていく。
武力の面では十分と言えるが、防衛が万全という訳では無い。
先日、グレムリンが河童の隙間を潜り抜けて、命と引き換えに俺の携帯を壊してきた。
カードのバリアのおかげで俺の体に傷はつかないが、それ以外には攻撃が有効だ。
携帯に限らず、衣服などもそうだ。冒険者向けに売られている耐久性の高い服を着ていても、高ランクモンスター相手に全裸になることもあるらしい。
それはさておき、主を倒し終え、宝箱を開ける。
中に入っていたのはミドルポーション。
瞬時に怪我を治せるが、希少価値が低く、市場価値10万円のハズレの部類だ。
顕明連以降、アタリと言える魔道具が一つもでない。
運を使い果たしてしまったのだろうか。そのせいで、収入はほぼ踏破報酬のみである。
それでも数をこなし、イレギュラーエンカウントの魔石も含めて、貯蓄は500万円にまで昇った。これの使い道は決めている。
レンタル中の2枚の買い取りだ。この2ヶ月ほどで彼らとの連携が上達してきて、これを手放すのは惜しい。
けれども、水虎は市場価格は1000万円ほどであり、一反木綿もそれには届かないとはいえ、安い買い物ではない。
買取できる程の金が貯まるまでは、貯蓄を続けることになる。
このまま行けば、夏休みまでには貯まる予定だ。
今、いくら考えたところで取らぬ狸の皮算用だ。さっさと移動して、次の迷宮を攻略しよう。
翌朝、この1週間で集めた魔石を換金すべく、ギルドへ向かっていた。
入口まではたどり着いたが、中から言い争いが聞こえ、少し覗いてその場で身を隠した。
言い争いをしていたのは浅黄さんと赤塚さんの2人だ。
聞き耳を立てれば、その言い争いの内容は俺のことだった。
さて、俺はどちらの肩を持つ?
浅黄さんを選べば、現状維持ができるだろう。
赤塚さんを選んだら、どうなる?
まずは浅黄さんからの支援は断ち切られるだろう。
その場合、レンタル中カードの返却もありえる。
一方で赤塚さんに貸しができる。俺の意思に反した決断をするわけであり、多少の融通は効いてくれるだろう。
この2点だな。
どちらを選んでも一長一短だ。どちらが今後の活動に有益か?
いや、違うな。どちらを選んでも前には進まない。
俺は最大の利益を得る。よってこの機会を逃すわけにはいかない。
ここで四ツ星を、赤塚剣一を俺の手中に収める。そのためには策が必要だ。
四ツ星冒険者の彼はそれにふさわしいカードを持っているはずだ。迷宮の中での戦闘では勝ち目は薄い。
逆に迷宮の外で戦闘に持ち込めば、確実に勝てる。
ただし、目撃者の1人でもいれば、俺は正式に犯罪者となる。そうなれば今後の活動に支障をきたす。リスクが高いな。
ひとまず街の中を歩き回り、人気のない場所を探す。
深夜になればさらに人気がなくなるだろうが、それでは足りない。
できれば何らかの人避けを仕掛けたい。
叫ばれたり、電話を使われたりするわけにもいかない。
山奥の電波が届かない場所まで誘導する?現実味が無さすぎるか。
ホームセンターまで行き、暗器に使えそうなものをいくつか買う。
また、以前に浅黄さんの勧めてくれた便利グッズたちも人間相手には効力は大きいため、買い足しておく。
カード類を買うか?ダメだ。他のギルドに行っている間にほとぼりが冷めれば、用意は無駄になる。
残された時間は不鮮明だ。迅速な行動が望まれる。早急に用意できるものは何か。
俺は携帯を取り出し、電話をかける。
「もしもし青葉さん少しいい?」
『急にどうしたの?なんかピンチ?』
「いいや、チャンス」
【Tips】
筋骨隆々な四つ星冒険者の男性。浅黄鏡介や青葉玉音の元チームメイト。
地域のボランティアやギルドの依頼で小さい子供向けの冒険者教室(交通安全教室みたいなもの)などをよくしている。
そのおかげでご近所で有名となり、手の内がかなり露見している。