他の場所よりも開けたそこにはモンスターはいなく、かわりに次の階層へと繋がる階段がある。
俺たちは腰を下ろし、しばし休憩をとり始めた。
「少しお話を伺ってもよろしいですか?」
「うん、いいよ」
「では、マスターはなぜ危険を犯してまで、迷宮攻略なんてするのですか?」
妖狐が尋ねてくる。これが先ほど言っていた『話』とやらだろう。
この『話』は妖狐にとってどれだけの意味を持つのだろうか。
俺に対して問う最初の質問、きっと重要なものに違いない。
「力が欲しいんだ」
「力?」
「この世全ては無理だとしても、それでも手の届く全てを思い通りにできるような強大な力。それが欲しいんだ」
「それは何故」
「僕は欲張りだからだよ」
俺が迷宮に挑む理由。それは簡単なことだった。
欲張りだから、人並み以上を求めてしまう。
それを実現するための力を求めてしまう。
ただそれだけ。
「決めました。貴方を主として正式に認めましょう。貴方とならば、私の宿願も果たせるはずです」
急になにか言い出した。お前は何者だよ。
それに主として認めるも何も、俺に逆らえないだろ。
Dランクとはいえ、この臆病な運動音痴となら俺はいい勝負ができるはずだ。
ただ、そんなことより聞くべきことは──
「君の宿願ってなに?」
「それは秘密です。貴方は知らないままで良いのですよ」
ダメか。人には話させたくせに。
ただ、前の言葉からして、その願いは俺の願いに相乗りするはず。
ならば、野心の効果もプラスの方向に作用するだろう。
俺の考えをよそに妖狐は続ける。
「マスター、私は貴方に忠誠を誓います。その代わりに名付けては貰えませんか」
名付け。それをすれば、カードは初期化できなくなり、また、ロストしても同種族同性のカードを用いて復活させることができる。
名付けをすることは何ら問題ない。ただ、そんな急に言われても困る。
名前……ようこ、あやかし、きつね、あぶらあげ……ダメだ。
オリジナリティ溢れるものを考えるのは諦めて、テレビで見た芸能人の名前から取っておこう。
「うん。君の名前は『リリ』だ」
「ありがとうございます。マスターのお名前も教えていただけますか」
「僕は比嘉秀羽」
「はい、シュウ。よろしくお願いします」
顔を合わせて数時間、俺たちはやっと自己紹介を終えた。
「ところで、この階段下に繋がってますけれど、このまま攻略を続けるおつもりですか?」
「うん、今日でこの迷宮を踏破する」
リリの顔が少し引き攣る。
だが実現可能な提案のはずだ。迷宮は階層を下るほどモンスターが強くなるらしいが、この迷宮は5層しかなく、変化は微々たるものであろう。
先程のような失態がなければ多少の余裕もあるはずだ。
「1戦目のようなのと、2戦目のようなの。どちらがいい?」
1戦目では俺が前衛を務め、彼女は後方から援護をした。
それに対し、2戦目では俺が彼女を抱えて敵の中を駆け回った。
「あの大立ち回りを見ると、抱えられた方が安全な気がしますね。2戦目の方でお願いします。」
その選択は敵との距離が近づくものの、俺がそばで守ることができる分安全と言えるだろう。
故に、その返答は予想通りであり、俺は荷物の中から抱っこ紐を取りだし装備した。
これが俺の考えてきた最善の臆病、運動音痴対策であった。
「うわ、マジですか」
リリには不評だが、実用性を重視したものであり、嫌なら代替案を提案して欲しいものだ。
案は無いようなのでそのまま、2階層へと突入していく。
階段を降りた先は、代わり映えのしない遺跡である。
この迷宮は全5階層遺跡型であり、これといった問題も対策もない。
事前に調べた情報と同じで安心する。そして、安全地帯を出る前に試しておく。
出でよ。ワイルドウルフ。
【種族】ワイルドウルフ
【戦闘力】15
【先天スキル】
・野生の勘:敵の急所への命中率にプラス補正。
【後天スキル】
・奇襲:相手に気づかれていない攻撃にプラス補正。
「ワォン」
問題なく召喚することができた。
目の前に現れたワイルドウルフは、リリを一瞥したあと、こちらに軽く吠えてきた。彼なりの挨拶だろう。
「マスター、やはりこの装備は辞めましょう。今、絶対舐められてしまいましたよ」
「ワゥ?」
確かにこの装備では舐められるだろう。
しかし、臆病で運動音痴な時点で舐められることは避けられない。
実用性で考えこのままにするべきだろう。
リリの提案を却下し、迷宮の奥へと進む。
次の戦闘は頭数が増えたことで、1階層の時よりも戦闘の効率が上がる。しかし、
「ワゥゥ?」
「はぁぁ?私の援護がなければ貴方ロストしてましよねぇ?」
この獣たちは仲が悪すぎる。
俺(リリを抱えている)に向けて飛びかかったゴブリンを、ワイルドウルフが横から突き飛ばした。
そして狙いがワイルドウルフに移った所をリリが仕留めたのだ。
その間、俺はゴブリンは見えていたし、ワイルドウルフもまた見えていたので、回避行動はとらなかった。
狙って連携させたつもりだったのだが……。
そもそもワイルドウルフは敵と同じFランクであり、1体1で戦えば、仮に倒せたとしても瀕死になってしまう。
リリも1人では戦力にならない。
故に連携して戦うよう仕組んではいるのだが、どうにもそれが気に入らないようだ。どうしたものか。
「シュウ、私はこの狼よりも敵を倒しましたよ!リストラしましょう!」
「ワォン!」
どうにもできなかった。
その調子のまま、2階層を越え3階層の安全地帯まで到達した俺たちは休息をとっていた。
とりあえず、2体の頭を撫でておく。
それにしても、なんでこんなに競い合っているんだよ。
ただ、リリの私怨をよそにしても、他のカードの性能は見ておきたい。
しかし、要求を鵜呑みにすれば、増長させてしまうかもしれない。
気が進まないが、しかたない……。
これはダメだ。タイムパフォーマンスもコストパフォーマンスも酷すぎる。楽な道なんてないのか。
俺は今、スケルトンとゾンビを連れて、4階層へと到達した。
アンデッドが多いこの迷宮は攻略しやすい一方で、手に入るカードもまたアンデッドばかり。
知能の低い彼らはどうしても被弾が多くなってしまう。
ここまでで数枚手に入ったが、3階層攻略でどれも怪我を負ってしまった。
これでは今日の攻略には使い物にならないだろう。
最短コースを進んだ事で、戦闘自体は少なかったがそれでも被弾は前2つの階層よりも多い。判断を誤ったようだ。
やむを得ず、俺の持つ中では優秀な2体を再び呼び出す。仲良くしてくれると良いのだが、
「頭は冷えた?」
「私はずぅっと冷静でしたよ。この狼と違いまして」
「ワゥワァウ!!」
ダメか。どうしよう。ワイルドウルフの方は別にいい。
問題はリリの方だ。こいつはそのうち流れ弾をわざと当てかねない。そんな気がする。はぁ……。
【Tips】舞台設定
時代は物語開始時点で2018年3月。(原作でマロが冒険者になったのが2019年)
場所は都会とも田舎とも言えない中途半端に栄えた街で、首都圏のどこかくらいの大雑把さで書いてます。